これでいいのか大学入試「ライティング問題」その後

朝から本業。今日は暑かった。午前の部早々、1Xで「沈」。水も温かく、風も波もなかったので、「沈からの回復練習」をさせました。バックステーのない規格艇は落ち着いてやれば、必ず一人で回復できるので、初心者のうちに覚えさせておくに超したことはありません。なんてこといってたら、午後にも沈。そんなにこの練習が好きなのかね?
明日は私が学校の健康診断で湖まで送れないので、学校でエルゴです。
昨年の4月に『英語青年』で大学入試のライティング問題について私見を述べた。大学人にどの程度その声が届いただろうか?今年度の入試問題から、気になる出題を思いつくまま拾い出してみる。

1. Write an essay in English describing a setback, disappointment, or occasion of failure that you have experienced. How did you deal with the situation, and what did you learn from it?(旭川医大・07年/後期)
2. あなたが今までにもらったプレゼントの中で最も印象に残るものについて、120〜140語の英語で書け。(茨城大・教育・07年/前期)
3. これまであなたが出会った中で最も印象的な先生について、理由をあげながら、120語程度の英語で書きなさい。(静岡大学・07年/前期)
4. Who do you think best represents modern Japanese culture? Look at the list of people below, and choose one. Then, write a short essay explaining who that person is and why you have chosen him or her. Give clear reasons for your choice.

  • (a) a Japanese writer of your choice
  • (b) a Japanese politician of your choice
  • ( c) a Japanese sportsman/ woman of your choice
  • (d) a Japanese actor or musician of your choice
  • (e) a Japanese businessman of your choice
  • (f) a Japanese scientist of your choice(小樽商大・07年/前期)

5. 日本の伝統行事を一つ選び、外国人に説明する形で100語程度の英語で書け。(愛知教育大・英語専修・07年/前期)
6. 以下の文章を読んで、設問に答えなさい。
野菜をゆでるときには水から入れるのか、沸騰してから入れるのか…。原則は、地面よりした、つまり土の中にできる野菜は水から、地面より上にできる野菜は湯から、と覚えよう。/土の中にできる野菜は根菜といってかたいものが多い。たとえば、大根、にんじん、かぶ、ごぼう、芋類など。水からゆっくりとゆでると柔らかくなり、甘みも出る。/反対に地面から上にできる野菜は青い野菜や葉物が多い。たとえばほうれん草や小松菜、キャベツ、白菜、さやいんげん、さやえんどう、枝豆、オクラ、ブロッコリーなど。/どれも早く火が通る食材。ゆですぎるとビタミンが失われ、歯ごたえがなくなり、色も悪くなる。湯に入れて芯の部分が少し柔らかくなればいい。(渡辺香春『調理以前の料理の常識』(2004)より)

  • 設問 この文章には野菜のゆで方についての原則と、2種類のゆで方が示されている。2種類のゆで方を、(1) , (2) それぞれに、1つの野菜を例にとり、どのような理由で、どのようにゆでるべきか、原則に言及しながら、英語でわかりやすく説明しなさい。(お茶の水女子大・07年/前期)

7. 次の文章を英訳しなさい。
紀元前8000年には地球の人口は、東京の人口の3分の2ほどだったと推計されております。紀元1年には、2億人ほどになりますが、その間の人口増加率は年0.04%で、ほとんどゼロに近い。本当に人口が増え始めたのは17世紀くらいで、農業の発達と、死亡率の低下によるものです。人口問題というと古くからの問題というように受け取られるかもしれませんが、爆発的に増えてきたのは比較的最近の現象だということをまず認識して欲しいのです。(小川直宏「人口面からから見た地球温暖化対策」(1999年)を一部改変)(奈良女子大・文・07年/前期)

ここにはいちいちあげないが、今年気になるというか、うんざりしたのが「小学校からの英語教育導入」に関わる出題。専門家の間でも定見のない問題を解かされる受験生も良い迷惑だと思う。資料も不十分で、言語材料の準備もできていない受験生に紋切り型の意見を求めるくらいなら、和文英訳を課した方が余程いいと思うのだが。
1.の旭医大は、20行ほどの解答スペースがあるので、150語から180語程度の英語が要求されていると思われる。テーマ設定での Triggerにあたる、”(to) describe”という動詞を意識することが良いライティングの条件。Guiding questionsの2つでproductをしっかりコントロールするねらいが見て取れる。
2.の茨城大はありきたりなテーマ設定ながら、解答分量の上限下限を共に設定し、なおかつ200語以上与えていないのがよい。(解答字数に関しての論考は『英語青年』2006年4月号参照)3.の静岡大の出題も同様。
4.の小樽商大は、テーマ設定の具体化が細かい点が特徴。ここでもtriggerは ”(to) explain who that person is and why you have chosen him or her” であることに注意。理由を挙げることは求められているが、その前に「描写・説明」が適切になされなければならないのである。
5.Descriptionといえば定番は「日本の事物(Things Japanese)」の描写・説明。分量もとりあえず、100語は与えられている。
6.かねてより「注目せよ」と指摘していたお茶大。もう、自信たっぷりな出題です。「『自由英作文』とかいって紋切り型の意見なんか書かせない」という姿勢の表れでしょうか。特定の語彙は要約の際に使わずに済ませることができるけれど、回避ストラテジーを発揮させすぎると解答不能になるので、英語力が極めてよくわかる出題。日本語を利用すればこんな出題で英語力を見ることが可能になるのだから、他大学ももっと見習うべき。
7.「和文英訳御三家」登場!よく見ると、和文英訳の課題文が、限りなくお茶大化しているような…。和文のテクストは明らかにdescriptionを求めていることに、過去問対策に躍起になっている教師が気づくかどうか。

昨年度、あれだけ斬新な「要約」の出題をした、東北大と九州大が、ともに要約によるwritingの出題を見合わせた模様。採点の苦労が、とかいう理由で連続出題を止めたのだったら猛省を促したい。書き出しの英文(または結論の英文)は与えてしまうとか、productをコントロールする方法はいくらでもあるだろう。心が弱いなぁ。要約らしい要約の出題は、東大の「要約もどき」、以外には東京外語大くらいしかなくなってしまった。外語の出題、もうご覧になりましたか?ここ何年かこの要約スタイルを踏襲しています。でも、3大予備校のwebsiteでの入試問題アーカイブにはお茶大も奈良女子大も、東京外語大も載っていないのですね。高校の授業でも活用できる、いい出題をしている大学があることを、進学校の先生に限らず、一般の人にももっと知ってもらいたいものである。
ライティングの授業を担当される方へ。「自己表現」とか「発信型ライティング」などといって、「紋切り型の意見文」ばかり書かせていると、入試にも通用しませんよ。

本日のBGM: You don’t know what I’m like (Travis)