Wait your turn.

「呟き」でも、連投しましたが、anfieldroad先生の特集企画 (http://d.hatena.ne.jp/anfieldroad/20140301/p1) の内容にも関連するので、こちらにまとめを。

今春の千葉県公立校入試の「作文」出題に関連して、「表現系」の「お題設定」で考えておかなければならないこと、さらには「今風」の英語教育で求められる「コミュニケーション」の実態などについて感じるままに。

問題は、こちらの東京新聞のサイトで読めるようです。(期間限定ではなく、アーカイブになっているのが東京新聞クオリティーですね)

http://t.co/luQeIDjjSf


  • 設定が凄い。

というのが第一印象で、すぐさま「呟き」ました。RTしてくれた方もいたようですが、が、私の問題意識はあまり共有されなかったように思ったので、連投となりました。
その時の呟きを再録。

奥で寝そべっているのは誰?サム?お父さんの名前は?なぜお父さんは無茶をしてるの?
和文英訳を排して、刺激を「絵」に換えたからといって、お題設定の問題が解決するわけではないという好例だと思う。

設定で、「ジャックと弟のサムと犬のロッキーのところに父が来る」というのに、明らかにサムは離れたところにいる。父は前が見えず顔も潰れんばかりの荷物を抱え、ジャックからは顔が良く見えない。ホースもない庭の真ん中でジャックはロッキーをどのように洗い流すつもりなのか。

折角、多様な解答(反応)が引き出せるはずの場面設定なのに、対話でしかも、20語という語数指定が残念な出題。何を制限しどこへ誘導したいのかがよくわからない。3語での呼びかけ(「助けて」または「手伝って」)に、一方的に20語で返すのは結構難しいと思います。

この手の「絵」に基づく出題は、「和文英訳」に比べて、「今風」の英語教育の世界では、より好ましい、より望ましいものとされているような印象を持っています。私の問題意識としては、「出題の仕方によっては、和文英訳の方が遥かに良質のライティングの力を見ることが可能」というものです。その思いが、次の呟きを生んでいます。

そして、多分、ほとんどの受験生は「絵」に対する反応はもちろんのこと、「場面」や「物語」を日本語で考えて、出題の条件にあてはまる、それらしい、もっと もらしい「内容」を思い浮かべ、それを表現できる手持ちの「英語」から形式を選んで答えているのではないかと思います。

私が「和文英訳を排したからといって、お題設定の問題が解決したわけではない」というのはそういうことです。
そうそう、出題側が用意したと思しき「正答」はこちら。
http://t.co/BAxwAKwC7F

一夜明けての振り返りがこちら。

この設定で、私が違和感を覚えたのはターンが1回しかないことでした。私の最初の反応は "Dad, this is Sam. Jack is reading a book over there!" で、次が "Put those boxes down!"というようなものです。これを足しても15語程度にしかなりません。

新課程となり、「英語は英語で」という声がどんどん強くなっているようですが、今回取り上げたような出題が、そういった「今風」の英語教育の追い風になるとは思えません。県教委は、このように絵を用いて、吹き出しに当てはまる「発話」、つまり対話の1ターンを「書かせる」ことが「好ましい・望ましい」、英語によるアウトプットを引き出す手法だと考えているのでしょうか?「ディスコース」などと難しいことを言うつもりはありません。ただ、英語の対話での自然なやり取りを考えた時に、"Help me." で話しかけられた応答として、次のターンで20語をまくしたてることが「自然」だとは思えないのです。結局は、対話においても「つながり」と「まとまり」の問題に帰って行くのですが、この設問で求められている「コミュニケーション能力」がどのようなものなのか、理解に苦しむところです。

同様に、理解に苦しむのが対話文完成問題。
千葉県の出題の最後の大問は「長い対話文の文補充完成」となっていますが、ここでの対話で日本人と思われるShotaのターンでの「発話」は総じて長いのですね。

http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/14/cba/cba1/cba-en/en_10.html

ドイツの校則については、世界の校則集などの本でもみてもらうとして、最後の3ターンあたりは、この二人がどのような呼吸・間で話しているのか、ちょっとよくわかりませんでした。
Shota はなぜ一気呵成に次のようにまくしたてるのか?

OK, I'll make you some snowballs. If you hold one, you'll know Japanese snowball fights are not dangerous.

そして、Ralfはなぜ、「雪玉」を手にする前に、Shotaの意図を「まるっとお見通しだい!」とばかりに、受け答えできるのでしょうか?

I see. Your snowballs usually don't have ice because it isn't so cold here, right?

そして、最後に表へと出て行くのです。

Yes. Let's go outside.

この二人が校舎内にいて、窓の外の雪を見ている場面を想像してください。日独雪合戦事情の差異を埋め、Ralfを納得させ、Shotaのわがままを聞いて雪合戦につきあってもらうには、

百聞はなんとやら、今から「千葉の雪」で雪玉を作るから、それを自分の手で確かめてから、やるやらないを決めてくれ。

とでもいうような流れになるのが自然だと思うのです。
で、Shotaだけ外に行く、雪玉握る、校舎内に戻る、Ralfに手渡す。

Shota: Here you are.
Ralf: Wow. You can easily break this. Not so hard as our snowballs!

で、めでたしめでたし。
というような「つながり」と「まとまり」で、二人のゴールに無事たどり着く、というのが私の言語感覚であり、対話感覚です。
「英語は英語で」の出題も結構です、そのような「アウトプット的」活動をゴールとして「英語は英語で」授業をするのも結構です、でも、その前提となる、コミュニケーション観や、言語観、そして言語教育観が貧弱では、本末転倒だと思うのです。
そうそう、もう一つ大事なことがありました。
注。
この対話文には4つの語注がついているのですが、そのうちの3つが、

  • outside
  • snowball fight
  • dangerous

となっています。対話のテーマとして不可欠な語句の最上位に位置する語句が、「未習語」扱いとなっているわけです。未習の語があっても、つながりとまとまりが保証されたテクストで、その語が繰り返されることで、文脈から「アタリ」をつけられるならまだいいでしょう。ところが、今回の対話文は所々が虫食い状態、それら空所補充の決め手となるべき手がかり足がかりにくる語句が、ことごとく「未習事項」というのでは皮肉にさえ思えてきます。
流石に、これが「曖昧耐性」とは言わないでしょう。

私が公立の教員をしていた十数年前と比べて入試の形式、内容は大きく変わってきています。ただ、その「変化」は必ずしも歓迎できるものばかりではありません。

私の英語教師としての四半世紀を振り返っても、日本の英語教育は常に「新しさ」を求めることに躍起になっていたように感じています。
20代では、授業でもテストでも「和訳」というものを求めたことがなく、パラフレーズや要約を課していました。30代では、読んだものをベースにしてのライティングを中心に授業をしていました。その20年近くの取り組みを「先進的」だと自負していましたが、今の学校で同じことを同じようにできるわけではありません。
ただ、「日本語が危うい」というのは切実に感じています。これは、ただ単に「言葉遣い」の問題ではありません。日本語であっても「概念」が把握できていない、「身体知」となっていないことばがあまりにも多いのです。20年ほど、コロケーションでの語彙指導で、「使える英語」の基礎を作ってきたけれど、現任校では、まずベースとなる「意味」「概念」をつかませるところでの苦労が尽きません。
今年の1年生が新課程一期生だからなのか、ずっと考えているのだけれど、「ことば」を「生きていない」と感じること頻り。
「テストで問わ...れることだけ覚える」ことを「学び」とは言わないと私は思っているので、授業でも、英語でわかるところだけを扱うとか、自分にわかる教材だけを使う、ということを潔しとしません。テストであっても、上っ面だけをなぞる設問で英問英答に答えられたからと言って、その英語が聞けた、読めたとは言えないことは、「ライティング」に直面するとよくわかるのです。私は比喩というか揶揄として、「英語は英語でが王道(=AAO)派」と言いますが、「自転車で坂道を懸命に漕いでいるけれどちっとも進まない」時に、「ぜったい地面に足をつかないぞ」と意地を張ることに、それほど意義を見出せません。「日本語の補助輪を借りてでも自分で自転車を漕ぐ」ことで何かを感じることを選択してもいいし、「そこは自転車を降りて、押して歩きましょうよ」と勧めることも選択できた方がいい。here & nowでの取捨選択の可能性が開かれていることが大事だと思います。以前のブログでも書きましたが、再度強調しておきます。

  • Whatever works.

本日のBGM: I love every little thing about you (Stevie Wonder)