「欧米かっ!」

『子ども英語』10月号(アルク)の特集が「ハロウィーンを深めるお助けアイディア」。
私は児童英語教育・小学校英語活動に一定の理解を示してきたつもりであったが、不勉強だったことを痛感。反省すると共に、ことここに来て、完全に頭に来た。「ハロウィーンを深め」てどうしようというのだ?ハロウィーンを深く理解したら英語ができるようになるのか?コミュニケーションが円滑に進むのか?この雑誌は昨年も同じような企画をしているようだ。
この雑誌の「教材のトピック年間スケジュール」(p.33)で10月はHappy Halloween!と決まっているのだった。12月はクリスマスで予想がつくでしょう、では年が明けて3月は?Easterですよ、Easter。英語を学ぶこととHalloweenやEasterとChristmasと、どんな密接な関係あるというのだろう?Halloweenなど、それこそ、その土地(アイルランドや米国)に行った時期に必要なら体験すればいいことではないのか?10月は子どもたちの学習意欲が停滞するので、Halloweenがなければ授業や英語活動が成立しないのか?では、イベントのない他の月はどうするのだ?イベントに頼ったシラバスは早晩破綻する。イベントはコンスタントがあって初めて機能するのであるから。
特集の中身を紹介しておく。クイズがある。「ハロウィーンの本場での常識から、『へえ!』と思うような豆知識までを、YES/ Noクイズの形式で7つ紹介します。子どもと一緒に考えてみましょう。」とあり、注として、

  • 文中の英語は、子どもたちに話して聞かせることを前提に書かれています。

とある。
いいですか、「前提」ですよ「前提」。ということは、ここで示されている英文を母親や教師が読み聞かせると、子どもは理解できるということ?
さあ、お子さんをお持ちの方、小学校の教員の方、みんなで読み聞かせして子どもの喜ぶ顔を見てみましょう!

Q1. Did Halloween begin in the United States?

  • A1. Halloween is a borrowed tradition. It comes from a mixture of ancient traditions that began in Northern Europe, Scotland, and Ireland. *1 Causing mischief on Halloween is an old custom, too. Those traditions traveled to the U.S. and became a harvest celebration. More recently, Halloween has traveled to Japan, where the costumes and candy are especially enjoyed. The colors and customs of Halloween in Japan mostly come from the U.S. *2 Ever notice how Japanese pumpkins are green, but Halloween pumpkins are orange? This is a simple but *3 telling example of borrowed culture.
  • (語注)*1 causing mischief: いたずらをすること *2 Ever notice = Do you ever notice *3 telling: おのずと表す (同書、p.10より抜粋)


いちおう、どのくらいの語彙レベルかを確認するために、朝尾孝次郎先生のサイトでJACET8000のレベルチェック!

  • Halloween_0 is a borrowed_2 tradition_2. It comes from a mixture_3 of ancient_2 traditions_2 that began in Northern_2 Europe, Scotland, and Ireland_0. *1 Causing mischief_8 on Halloween_0 is an old custom_2, too. Those traditions_2 traveled to the U.S_0. and became a harvest_5 celebration_3. More recently, Halloween_0 has traveled to Japan, where the costumes_5 and candy_8 are especially enjoyed. The colors and customs_2 of Halloween_0 in Japan mostly_2 come from the U.S_0. *2 Ever notice how Japanese pumpkins_0 are green, but Halloween_0 pumpkins_0 are orange_2? This is a simple but *3 telling example of borrowed_2 culture.

どうでしょう。0と見えるのは、otherで、レベル8以上の語彙、または英語にもともとない語彙(借入語など)。この英文がすらすら読み聞かせられるお母さんは立派だと思う。ただ、子どもに目を転ずると、小学校低学年くらいで、この英文を聞いて内容が分かるのであれば、中学高校の英語の授業で苦労しないだろう。関係代名詞の制限用法、関係副詞の非制限用法なども盛り込まれ、語彙・構文ともに子ども向けに加工したという印象がないのは、「自然な英語を聞かせるべし」とでもいうような理念が働いているのだろうか?一般人向けの英語雑誌『English ZONE』(中経出版)などが、語彙を制限して注を用いる基準を明示しているのとは対照的である。
というような指導技術や教材作成に関わる話をする以前に問題視すべきは、この文章の内容そのものは正しいのか、ということ。「正しさ」を問題にしているのは、「文化・慣習の実態を正しく反映・記述しているのか」ということを教える側が考えているのだろうか、という問いかけ(挑発?)でもある。

  • Halloween has traveled to Japan, where the costumes and candy are especially enjoyed.

という文を良く吟味すべし。日本にハロウィーンを祝う慣習が「根付いた」とはどこにも書いていないのだ。この英文を読んで、「日本人は浅はかな民族だ」となぜ思わないのだろう。慣習であるといわれる米国でさえ、この日は祝日になっていないのだから、文化的宗教的になんの関わりもない日本でこの慣習が根付くことはあり得ない。根付いていると感じているのであれば、それは錯覚である。日本に暮らす子どもがハロウィーンのことなんてわからなくたっていっこうに構わないのである。Guy Fawkes Day だって同じ。まあ、英語を教えるというのであれば、Trick or treat. と子どもに言わせて、日本人が苦手とする子音連続を練習させる意義はあるだろう。でもそんなものだ。
「キリスト教文化は英語に深くとけ込んでいるので、英語学習者がその文化を理解することは重要である」、という意見には耳を貸そう。でも、重要であることと必須であることとは違う。キリスト教では今日9月14日は「聖ノトブルガ」の日、また「十字架称賛」のお祝いをする日なのだが、皆さんの周りのクリスチャンはどうしていますか?ひとそれぞれでしょう。大小様々あるそれら全ての記念日に対応する心の準備はありますか?キリスト教文化とひとくちに言ったって、様々であり、必ずしも英語圏の文化とイコールではないのである。なぜ、この時期にハロウィーンだけ大々的に?子どもが喜ぶから?ハリポタが流行って、魔女のイメージが使いやすいから?
ちなみにハロウィーンがあるとされる10月31日はローマ歴に基づくキリスト教文化のカレンダーでは「聖ウォルフガング司教」の日です。
私は、遊べる文化慣習だけ、儲けられる文化慣習だけを移入し普及させようという志の低い企てに荷担するつもりはない。児童英語教育・小学校英語活動(に関わる人たち)は「ことばの教育・ことばの活動」という原点をしっかりと認識すべし。
怒りに我を忘れて、今日の授業内容を記すのを忘れるところだった。
本日は高3ライティングのみの日。片方のクラスは、昨年度コンテストの最優秀作品と第二位の作品をディクテーションして、分析。
ワークシートでシラブルを確認した後で、昨年の3年生の作品を鑑賞。「これ、xxさんのだ」「○○先輩の」などと盛り上がっている。英語俳句コンテストというイベントを、descriptive passageとidea generationを学ぶシラバスに織り込んで授業を組み立てている所がミソ。(ということを披露していること自体、手前味噌だとわかってはいるが、もともと、私が英語俳句を授業で始めたときには、このコンテスト自体がなかったのだから…)
もう片方のクラスは、実作へ。今日は秋の季語を紹介。日本語として理解不能な語句・事物を確認。「中秋の名月」「野分け」「雁(かり)」「鵙(もず)」「曼珠沙華」などは分からない生徒がけっこういます。英語の方を読んでイメージできるものはそちらを手助けに、それでも不明なものは親、祖父母に質問してくることにしておいた。季語のリストから「月見」をとりあげ、moon viewingなどとそのまま使う必要はないことを確認。その場で私の作った例を示し、各自の工夫にゆだねられていることを理解させた。

  • A hint of autumn;
  • you can easily find it
  • in your hamburger

「ほほーっ」というような声も上がり、一読で何を詠んだ句であるか理解できたようだ。

サザエさん一家でもない限り、お団子を供えてススキを飾り、家族で月を愛でるような経験はないのだろうか?ちなみに、今年の中秋の名月は10月6日。満月ではないようです。
来週は祝日と学校行事の連続で前半は高3ライティングの授業なし。寂しい…。

追記: 関連記事が→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050406 にあります。