読みの振幅

『英語青年』10月号発売。特集は「精読と英文学研究」。連載「英語・英文学・英語学教育を考える」は今回「大学入試の英文和訳をめぐって」というタイトルで、3人の執筆者。特集と連載とを併せ読むことで見えてくるものも多いだろうと思う。拙稿に関するご意見・ご批判を是非編集部まで。
「精読」「和訳」について考えていた時に自分の頭には、かつては高校でも用いられていた、学生社直読直解アトム英文双書とか、大学書林語学文庫などの、名作といわれる作品の対訳教材や注釈教材があった。読みの力をつけるのであれば、今、時流に乗っている「和訳先渡し『リーディング』」よりはよほど効果的だと信ずる。(金谷憲氏らが提唱しているのはあくまでも「和訳先渡し『高校英語』」であって、「リーディング力」のみに特化した指導法ではないことに気がつきさえすれば、この手法の活かし方が分かろうというものである。リーディングはリーディングできちんとやらなければならないのはもちろんである。)
今日買った『すばる』10月号(集英社)に大江健三郎の講演が収録されていた。(もともと、表紙にあった特集「短詩形文学の試み―キレと近代」がお目当てで買ってみたのだが、特集以外も読んでみるものですね。)
rereading「再読すること」に関して、翻訳と原文の読みを例にとった、具体的な手ほどきで、示唆に富む。 ごく一部だけ紹介。

  • 英語やフランス語の一つの言葉、一つの文節を、はっきり決まった日本語の言葉、文節に置き直すということは、ほんとうに難しいことです。一つの言葉を二つか三つに分けて、重ねて説明するとうまく行く場合は多いですが、それでは文体が成立しない。一つの言葉を短く一つに翻訳することが必要、しかし難しい。そこで、ここのところは自分の頭にはっきり入って来ないと思うと、そこをもう何度でも考え直してみるのがいい。それをするかしないかが、いわばほんとうに本を読む、読まないの重大な分かれ目になります。(同書、p.172)

この講演を読んでいて思い出したのが、以前読んだ、鶴見俊輔との対談。

  • 有名な女性キャスターが、私はアメリカのさる大学に行って、一週間にこれこれの数の本を読まされたと書く。それが内容からいって信じがたい冊数なので、僕はどういうふうに読むのか、それがどうしても知りたくて、今度プリンストンに行った時に、そういう勉強をするクラスに出してもらったのです。そこで見ていると、彼らのうち、三、四冊ほど読むやつはいます。棒読みするわけですが、ほかの五、六冊はだいたい当たりをつけて、流し読みをするようでした。本の後のインデクス、内容の主題や人名の項目から読んでいるように思うのです。それでもやはり、棒読みの方法を習っている。僕は、こういう訓練を受けなかったと思います。いまでもいろいろな本を読みますけれども、揺すぶり読みをしていると思うのです。(「揺すぶり読みの力」『鶴見俊輔対談集未来におきたいものは』(晶文社)より)

今日は、高校2年の「英詩と過ごす夏2006」プロジェクトのビデオ収録順を決めた。生徒が書いた「暗誦に取り組んでみての感想・発見など」から一部抜粋。

  • 一行が短くて、暗誦しているとリズムに乗って読めるので、読んでいるうちに楽しくなった。
  • 何度も読んでいくうちにどんどんこの詩が好きになってきました。この詩に出会って、普段あまり気にしないことに目を向けると心に余裕が出てくるのだと感じました。
  • 思ってた以上に大変だった。最初はただの英文として無理に覚えようとしたが、意味を一文一文考え、情景を脳裏に思い浮かべながら行うとそれまでの半分ほどの時間で頭に入れることが出来、大変嬉しかった。普段の英文を読むのとは全く別の味わいがあり、なかなか面白い経験をした。
  • 詩は声に出して読むと、とても読みやすい事が分かった。リズムがあって、歌のようだった。詩の意味を理解するのは難しかったけど、覚えていくうちに少しずつ分かってきたと思う。
  • 詩の際に使用される表現は普段取り組んでいる英語の表現とは異なって、非常にユーモアを含んでいるように感じた。ただ暗誦するだけでなく、常に日本語訳を照らし合わせながら読んでいくことによって、より早く、より楽しく学べた。
  • 細かいところまで、しっかりと覚えるためには何回も読まなくてはならず、思っていたより大変だった。教科書の文章などとは違って、リズムがあり、深い意味や作者の思いが込められている文なんだと感じた。
  • 夏休みは忙しくって詩に真剣に取り組む時間があまり無いと思ったので、夏休みになったらすぐ詩を選んで、それを毎日電車の中で暗誦したり、心の中で日本語に訳したりして覚えていきました。最初は分かんなかった所が、毎日繰り返し暗誦していると、ある日ふっと意味が分かったりして、毎日やっていれば、分かるようになるものだな、と思いました。あと、速いスピードで暗誦するよりも、slowの方が難しいということが分かりました。緊張しても速くならずに暗誦できたらいいなと思いました。
  • 詩をちゃんと訳すのが難しかったです。けど、訳す前に暗誦するより、訳した後に暗誦した方が、詩がすらすら出てくると思いました。
  • 英語だけを覚えようとしても絶対無理で、知らない単語もあったが、調べて日本語訳がわかるようになったら、一気に英詩も覚えられた。
  • この詩に隠された背景や思いを調べて、ぜひ覚えたいと思いました。実際とても奥深く、短い中に彼女の切ない思いが込められていて素晴らしいと思います。また偶数行は韻を踏んでいて、結構テンポが良い詩です。

最後に、課題を示した当初、あまり前向きでなかったある男子生徒のものを、
「なぜこの詩を選んだか?」

  • 何気ない日常の1コマが描写された詩で、自分がこの夏過ごしたのんびりした日常に似ていたから。題名にも興味を持った。

「暗誦に取り組んでみての感想・発見など」

  • 詩はあまり自分に身近なものではないと思っていたが、身近なところにあり、詩の感じ方が変わった。

さて、この生徒が選んだ詩はなんだったでしょうか?