実りの秋、未だ遠し…。

今日は実力テストで授業は無し。こういうときこそ、研修せねば!
ということで、研修の話。
夏休みは各種研修会、研究会が盛りだくさんだったと思うのだが、とある方から、東京の悉皆研修の内容を漏れ聞いたので紹介ならびに「批評」を。東京都では、「授業力向上課」というセクションがこの悉皆研修を統括しているようです。

  • 先週、「英語を使える日本人育成戦略」の一環の「英語教員集中研修」を受けました。(正確には「受けさせられ」ました、ですが。)今年の東京都は…

<第1部>英語運用能力向上研修
1日目〜4日目の午前のプログラム:TOEFL550点, TOEIC730点以上(5年以内)、英検準1級以上(取得年の制限なし) をもっているとこれは免除される。今回(後期)参加者の高校約60名中免除は約15名。中学約70名中免除約5名。(他に、文科省の定める特別選考の講師などを務めた者は免除、という規定があるとのこと)

  • interacという会社が研修を実施。15〜20名/グループ。
  • 各技能に付いて、生徒側としての実習と、教える側としての留意点
  • presentation実習

<第2部>英語指導技術向上研修
4日目午後〜5日目:引き続きグループことに行われ、interacの講師が進行/アドバイス役を務めた。

  • 20〜25分間の模擬授業。使用言語=英語。教材=各自の2学期最初の授業教材。+5分程度の質疑。
  • ただひたすら模擬授業をやるだけで、その後建設的な議論に発展することはありま せんでした。また、模擬授業で教員が話している英語そのものが、生徒から見たらおそらく難しくて理解できないのではないかと思うことが多々有りました。英語で授業全部を行うという前提が非現実的であること(特にOC以外の科目では)、 模擬授業の科目がバラバラであること(OC,英語1/2、reading, writing)、生徒のレベルがバラバラであること(都立トップ校から定時制まで)等の理由により、議論のしようがなかった気もします。
  • 中学/高校教員間情報交換。(45分程度)話し合いは英語で。4名/グループ(中高2名ずつ)。これはなかなか興味深かったです。
  • たとえば、高校側(たまたま2人ともいわゆる「進学校」の教員でした):入学してくる生徒の学力が年々落ちていると感じている。高校入学寺には、生徒は英語は簡単だと思っているが(中学のときはそんなに勉強しなくてもできた)高校に入ってそのギャップに驚き、英語が苦手になることも多い。
  • 中学側:時間数が足りない。(その先生の)授業は1時間の授業内に、ビンゴ、歌、宿題、クイズ、教科書、と盛りだくさんの内容である。教科書は会話文ばかりで読む絶対量が足りない。宿題は毎時間かなり出している。辞書を使う生徒はまずいない。小学校で少しでも英語を教えてくれると(アルファベットも書けない子供がいる)中学校でもっといろいろできる。
  • 英語しか話してはいけなかったこと、中学の先生2人しか話を聞けなかったこと、時間が限られていたこと等制約が多かったのですが、この時間は有益でした。
  • 感想としては、第2部は指導技術向上なのですから、仮に模擬授業は英語で行っても、その後の討議は日本語で、きちんとお互いの意見交換を行ったほうが意味の有るものになったのではないかと思います。また、予め科目や生徒のレベルをいくつか決めておいて、それに対してどういう授業を英語で行うか、等とした方が意見交換もしやすかったと思います。それぞれの学校の生徒対象の模擬授業では、その学校の生徒のことが分からないので、意見の言いようが無いと感じました。同様に、中学/高校教員の交流も英語でやる必然性はなかったと思います。

東京都は他にも、「大学進学対策」と称して、予備校から優秀とされている講師を招いて指導力を高める研修をしている。(興味のある方はどうぞ→http://www.kyoiku-kensyu.metro.tokyo.jp/training/other/data/4301.pdf
教科によって、SKYWといろいろなところから講師を招いているようだが、英語については今年はYゼミの講師の模様。以下、単なる印象批評を。
免除規定の、TOEFL550, TOEIC730という数値、英検準1級というのは、「英語が使える…」で文科省が示した数値の引き写しだろう。「授業力向上課」に問い合わせたところ、「研修終了後に、TOEFL, TOEICなどを受験させて成果を検証することは一切行っていない。また、その成果を公表するということもしていない。あくまでも研修を行うということです。」という回答。ということは、5カ年計画で、研修を行っても、この数値や資格で推測される「英語力」を持つ英語教員の実態を東京都では把握していないということになる。なんのための研修なのだ?既成事実作りか?
一方で「英語運用力」を値踏みされ、もう一方で予備校講師のような「受験指導のテクニック」を要求され、しかも「授業は英語で行うべし」と過度の要求を突きつけられるのでは、教員はたまったものではないだろう。
教師としての英語力を養成するのに何が必要なのか、短期の研修で、その時だけ英語に浸らせたところでどれほどの効果があるというのか。あくまでも私の知る範囲ではあるが、東京都立高校の英語教師には優秀な方が多い。問題は教師の英語力ではないのではないか。ご自身はいくら英語ができても、授業の中でteacher talkをコントロールしたり recast (reformulation) ができる教師は本当にごくわずかであろう。指導技術を活かせる英語力こそが求められているのではないのか?とすれば、一般社会人や中高教員など大人を主として担当するネイティブスピーカーの講師や、児童英語を主として担当するネイティブスピーカーの講師について学ぶことにそれほどの効果はないだろう。日本の教科書でどう教えるのか?という部分から目を背けてはならない。今回の東京の研修を請け負ったinteracの講師は、検定教科書を用いて、高校生に授業をしたことがあるのだろうか?ご存じの方は情報をお寄せ下さい。
今回悉皆研修の情報を寄せてくれた方も言うように、教員はそれぞれの学校の生徒に合わせて授業を組み立てる必要がある。もし、次のような視点が盛り込まれている悉皆研修だったら、私も参加してみたいと思う。
大学の先生や有識者から学ぶ学習編

  • SLAやL2リーディング研究の専門家による、英文和訳の効用。
  • 「国際ビジネス」の最前線にいる英語使用者による、中高生時代の英語学習内省記録。
  • 聾唖者やLDの英語学習者の学習ストラテジー

現場教師から学ぶ学習編

  • 教育困難校といわれている高校の生徒一人一人が教室英語を使えるまでにどのくらいの時間とエネルギーがかかるか、というアクションリサーチの報告。
  • 進学校と言われている高校で、1年生から3年生までずっと「文法」をやっているのに、accuracyが身に付いていない状況を打破するall (in) Englishでの授業実践記録と3年間のシラバス公開。

実習編

  • 中1から高3まで、発達段階に合わせた、ほめ言葉によるフィードバックの練習。ライティング指導におけるコメントの練習。
  • teacher talkのスキルを磨くために、あるトピックに関して、NGワードを指定した上での「2分間チャット」をペアで行い、周りでダメ出しする。
  • 英語による言語活動から、日本語による言語材料に関する解説にどのように自然に移行するか、さらにはそのあと、どのようにして英語での授業にスムーズに移行するか、という micro-teaching。
  • 同じ教材の同じ範囲を用いて、グループを構成する各教員がそれぞれ、独自の教案を立て、micro-teachingを行うが、進学校の教員は教育困難校の生徒を対象として教案を、教育困難校の教員は進学校の生徒を対象として教案を書き、お互いにアドバイスし合うことにより、自分の職場での実践を客観視する契機を持つ。その後、自分の使っている教科書で、進学校の教員はクラスのslow learnersに配慮した教案を、教育困難校の教員は、クラスの(いないかもしれないのだが)fast learnersに配慮した指導案を作成し、合評会を行う。
  • 教員同士での英語劇。Poetry reading。

余興編

  • 英語カラオケ大会。

どうだろうか?英授研や語研、ELEC協議会、ELEC同友会、達セミなどなど、現場教師による研究会の方が、よほどこれらのニーズを満たしてくれるような気がする。いくら成果が上がっても、決して数値化することのできない領域というものは存在するのだし、得てしてそういう部分こそ、本当に教師が腕を磨かなければならないのであるから、研修成果を公表しないことは見識の一つではある。現に、今あげた現場教師主導の研修会では成果の公表などしていないのだから。「研修食わず嫌い」の教員も研修に駆り出すことに意味がある、という有識者もいるが、研修の内容を語学学校などに丸投げしているのでは、「授業力向上課」の企画力が鍛えられることはないし、教員の「授業力」も伸びていかないだろう。だからといって、「研修企画向上課」などを新たに作るのはやめてくださいね。