”I shall look on yours.”

季節の変わり目とはいえ、重なる訃報には心が痛む。
26日、現役作家の小島信夫氏が亡くなった。91歳。今年3月の保坂和志氏との対談を見に行けなかったことが悔やまれる(その時の様子の一部は茂木健一郎氏の「クオリア日記」に→ http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2006/03/post_0d59.html)。再読することが何よりの供養と言えるだろうか。メディアの扱いが小さすぎるように感じられた。
26日、元プロレスラーの大木金太郎氏が亡くなった。77歳。晩年は車いすの生活だったとのこと。唯一の被爆国でありながら、国内の試合で繰り出される技に「原爆」○○、とつけてしまうセンスはプロレスならではだ、とあらためて思った。
中間考査の採点にとりかかるがはかどらず。高3ライティングの表面は終了。高2は模範解答を脇に、答案を一通り眺める。前半で正解を得ていない者は後半厳しいなぁ…。
夕飯前に、図書館、書店を巡る。書店では晶文社のサロイヤン『人間喜劇』(翻訳:小島信夫)が話題の書のコーナーにあり少々驚く。作家のコーナーには、『残光』しかなかった。
テニスンによる古典を、作家の原田宗典氏が翻訳しているのを発見。(岩波書店→ https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0221580/top.html)何故、今テニスン?原田宗典を長らく読んできた私でさえ、「売れるのか?」と思ってしまった。まさしく余計なお世話というものだ。
帰宅後、『イノック・アーデン』を探すが、書棚になし。学生社直読直解アトム英文双書で読み返す。註解は石井正之助氏。実際は、散文に書き換えているのも石井氏と思われる。物語文受難の時代に、イノック受難のこの物語詩を読ませている高校英語教師はどのくらいいるのだろうか?大学入試センター試験の英語の大問6は物語や私的な随想が出題されることが多いのだが、予想問題と称して「砂を噛むよな味気ない」英語の文章を読むよりは、本物に近い物語を読んだ方がまだましだと思うのだが…。
読後の達成感、高揚感を与えるような教材はないのだろうか。私も高2の授業では、音読、パラフレーズや要約、ライティングを課して、「自分の中に、英語が引っかかり、最後に英語が残る」授業を心がけてはいるのだが、どこの誰が書いたか分からない、顔の見えない、声の聞こえてこない(音声CDがついていないという意味ではないですよ)英文をいくら読ませても無駄なのではないかと思うようになってきた。解決の妙案は思いつかないが、端緒として、

  • もっと続きを読みたい、この次の作品を読みたいと思わせる文章を集める
  • 文章全体の長さにかかわらず、「はっとして、心が動かされ、忘れられなくなる一節」を含む文章を集める

という二つの方向性を考えている。後者が私の授業での歌や投げ込み教材と言えるだろうか。
英語教育界を牽引する大学の英語の先生方の多くがTOEIC, TOEFL対策としてのリーディング教材には辟易しているのではないだろうか?であれば、日本の英語教育の伝統に倣い、古典に光を当て、大学に入学する前の段階の教材を変えてみては?現代の高校生が読むべき韻文・散文のアンソロジーを作っておくというのはどうだろう。検定教科書の「リーディング」もいっそのこと3部冊にして、物語文・説明解説文・論説文とするのだ。イメージとしては筑摩書房の「高ため三部作」のようなものを英語で。(http://www.chikumashobo.co.jp/cgi-bin/books_search.cgi?mode=det&keyword=4-480-91709-8
3巻セットで購入し、どの1冊をやっても「リーディング」を履修したことになるようにしておけば後々蒸し返されないだろう。マーケットニーズが心配なら、シニア向けの「英語文章読本」としても刊行すればよい。
「英詩を扱うなど、今の学生では無理」「最近の学生は、小説をまともによんだことがない」「大学生は語彙力が落ち、まともに論文が読めない。すくなくとも高校で4000-5000語は身につけてきて欲しい」という大学の先生方、思い切って高校の「読み物」教科書を作ってみませんか。検定教科書である必要はありませんし、出版社が渋るというのなら、出版社を作ってしまえばいいじゃないですか。

本日の失われたBGM: I shall be released. (The Milltown Brothers)