Who is your English teacher?は○? Who teaches you English?はX?

朝は5時前から机に向かうものの、仕事は遅々として進まず。本業でいつも起きている時間なので、目覚ましなしで起きられるのはいいのだが、こうideaが冴えないと、天候とは裏腹に心は暗い。8時少し前に起き抜けの妻に暖かいカフェラテを作ってもらい小休止。
気分転換にと、テストあけ高2の10月の歌を考え…考えあぐねて、泥沼。今回は「杉原千畝」の話を読むので、それに絡んだテーマ設定でひねり出す。「戦争と平和」というベタなテーマで行くか、「生命の重さ」という倫理面に切り込むか、それとも主題自体は戦争や平和、人権などとは別なものを持ってきて、何かを見いださせるか?何とかなることを信じてインスピレーションを待つ。途中でBBCのオンデマンドを流していたのだが、Billy Braggの曲を隣の部屋で耳にした妻が「この人誰?」と珍しく反応していた。期間限定でこちらで見られます。(→ http://www.bbc.co.uk/electricproms/video/index.shtml?msc=nb&msf=ram&msm=billybragg&mst=Billy%20Bragg%20and%20Seth%20Lakeman)最後のA New Englandは懐かしさで涙が出そうになった。

午後からは語学教育研究所(語研)の全国大会でお茶の水女子大へ。到着したときは会員総会の最中。今年度はパーマー賞、市河賞、伊藤健三賞の三賞とも受賞者なしとのこと。
第一日目はビデオを用いた授業研究がメイン。授業者は東京学芸大附属世田谷中学の小菅敦子先生。パーマー賞受賞者(現在では選考委員長)であり、語研の看板とも言える方である。
中学校一年の27回目の授業。一般動詞の導入から2回目。教材は、田尻悟郎先生の作ったTalk and Talkを改編して使用していた。
Do you like sushi? / Yes, I do. / Do you eat it every day? / No, I don’t. I sometimes eat it.
というキーダイアログをもとに、異なる場面(動作動詞)を繰り返し練習。 流石パーマー賞受賞者と思わせる指導技術の確かさであった。
私のした質問は1点。
今回の授業で、生徒が使用する英語表現では、一人称と二人称だけで、しかもYes/No疑問文とその答えとなる肯定文、否定文なのだが、生徒の答えを引き出す過程で、

  • Everybody likes sushi. Right?
  • Who likes soccer?

という表現を教師が使っていたことに関して、「三人称の使用、疑問詞の使用に何か意図があるのであれば、教えて欲しい」、というものである。

  • 基礎英語でもこのあたりは既にでているし、未習事項でもこの後で生徒に使えるようになって欲しい項目や、生徒が類推して意味を理解できるものは小出しにして用いている。ただし、教師が使ったからといって、生徒にその未習の文法項目の識別や発話での使用を要求することは絶対ない。

とのことだった。
私は何も批判がましく言ったわけではなく、入門期の指導で教師が用いる英語はどこまでコントロールすれば良いのかを知りたかったのだ。時間がなく、議論する余地もなかったのだが、「納得できない方は、納得できないでしょうが…」というような対応にはやや疑問を持った。
音声重視の入門期では、教師の発話をどれだけ生徒が上手くリピートできるかが重要である。かつて、某英語学校のCMでも教師の発話の一言一句をそのままオウム返しにする愚をデフォルメしていたが、聞いている生徒は良く聞いているのであり、それは英語力の高さとは必ずしも相関していないように感じている。
今回の授業で、Do you like …? という教師の質問に対して、いきなりI like …. で答えようとした生徒に対して、「まず、Yes/Noを言ってから」と注意を与え、Yes, I do.などと発話を促したのだが、その後、”Then, ….”というガイダンスで、後続の文を言わせていた。このthenを何人かの生徒は、その後のペアワークで入れているのだ。(Do you listen to it every day?/ No, I don’t. Then, I sometimes listen to it.)
これほど、教師の発話に敏感に反応する生徒もいる。そういう意識で今回のpracticeを見ると、男子生徒にサッカーの質問が当てられ、Yesの答えが出ず、さらに女子生徒が指名され、Yesの答えが出てこなかったところで、Who likes soccer? という問いかけがなされている。ここでのlikesのsには本当に狙いがあったのだろうか?既習のWhoという語さえ分かれば良いということなのか? Everybody likes sushi? では最初、私は「小菅先生ともあろう人がeverybodyを複数扱い?」と一瞬思ったくらい、音声上likesの語末の /s/ はsushiの語頭 の/s/ と同化していた。三人称を用いることに意味があったのだろうか?ここでは、All of you like sushi. / You all like sushi. などではいけなかったのだろうか?しつこく、一人称・二人称での練習をして、personal involvementを図ったのだったら、何も無理に三人称を仕込む必要はなかったのではないかしら?というのが率直な疑問。ことほど左様に入門期の指導は高校英語教師から見ると、正直よく分からないのである。
文字指導に関しては、三省堂クラウンの伝統、楷書→行書→草書という3つの字体を指導しているとのこと。書体に関しては次の指導手順が参考になろうかと思う。

  • 初学者に最初から草体 (Cursive Style) を用いることは無理であり、敢えて草体を用いると、生徒は曲がりくねった、たどたどしい文字を書き記す結果、遂にはその悪いくせがいつまでも取れない様なことになる。Alphabetは簡単ではあるが、印刷体と草体とを同時に用いることは、初学者にとって大変な重荷となり、印刷体と草体とを混同して、いつまでも印刷体も草体も満足に書けないという様な結果となる。(中略)学級の全生徒が印刷体に習熟した頃に、草体に移ることが最良の方策であろう。
  • 従って第一学年の第一学期は印刷体を用い第二学期又は第三学期に於いて草体を用いるが良いと思われる。尚印刷体から草体に移行する中間に於いて、Slant Scriptと呼ばれるStyleを用いるのが便利である。これはイタリック体(Italics)に似た書体で次のようなものである。(字体省略)
  • 第一学年習字指導の実際
  • i. 印刷体(Printing Style)
  • 印刷体を始めて教える際に注意すべき事は、
  • 1. 文字の大小、高低
  • 2. 筆順
  • 以上の二点に特に留意して、正しい知識を教えるようにすること。従って、Printing Styleを教える時も、Cursive Styleの場合と同様に三線又は四線を引いて明瞭に文字(letter)の大小、高低を印象づけることが必要である。(中略)大文字も小文字も同じ事であるが、三本線を用いるがよい。中央の線は真中より少し上に引くこと、今基線を a とし上部の線を b 中央の線を m とするならば、a-m, b-m間の距離の比は、bm/am = 4/5位が丁度適当である。(中略)小文字、b,d,f,h,k,l,t のtop及び i, j のdotは上部の線につける。g, p, q, y の四文字は基線の下にわずかに出る。この基線の下に出る長さは、丁度top lineとmiddle lineとの距離と同じくらいである。(「英習字」篠田治夫、『新英語教育講座第三巻』研究社)

昭和23年に出された市河三喜編集主幹のシリーズものの1冊。漢字表記は現代的にあらためて引用した。(松本鐘一氏による「英語の綴字」も収められており中高教員が覚えておくべき「知識」が整理されている。)
ここで用いられている、Slant Scriptがクラウンでいう「行書」と見て良いだろう。50年以上も前に、このように確かな手順が示されているのだ。日本の英語教育の伝統に学ぶべきことはまだまだ多い。そんな思いを胸に明日も語研大会へ!
本日のBGM: The Great Puzzle (Jules Shear)