You are what you write.

『15』中嶋洋一・幸若晴子・大津由紀雄・柳瀬陽介・佐藤礼恵、ベネッセコーポレーション
『STOP!日本語的発想 英語で書くコツ教えます』大井恭子・伊藤文彦、桐原書店

新刊を紹介。手放しで誉めるわけではないが、どちらも良い本です。
『15』は中嶋洋一氏の今までの中学生英詩指導の集大成。私も高2で「英詩のある授業」の実践をしているし、多くの中学・高等学校で卒業文集指導・実践が行われていると思われるが、この単行本のように「かたち」になれば教師冥利に尽きるだけでなく、収録された作品を書いた生徒(当時)も感慨深いだろう。今回の単行本化で最も感銘を受けたのは、「訳詩」を担当した詩人の幸若氏のことばづかい。呼吸が感じられるいい言葉でした。要所で記される著者それぞれのコラム、対談も英語教育プロパーの雑誌などで語られるよりも「声」が生きているように感じられた。私は先日の英授研の会場展示でこの本を購入したのだが、知人にも薦めている。できるだけ多くの人に目を通して欲しい本である。中学校の英語教育における1つの到達点がここに示されている。(著者のひとりでもある柳瀬氏のサイトで本書が紹介されているのでご参考までに→http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review2006.html#060410
ただ、英語教師がこれに触発されて「自分の授業でも同様の実践をしよう」という時には注意が必要であるように感じる。(ここからの記述はあくまでも、いわゆる「追試」をしようという時の注意点であって、本書の価値に言及するものではないので誤解無きよう願います。)
「なぜ詩なのか?」「なぜ、国語の時間ではなく英語の時間に詩を書かせるのか?」「読み手はいつ、どこでこれらの作品を共有するのか?」「指導のプロセスは?」「ことばは育っているか?」などといった課題設定の必然性を自分の英語授業の底流に位置づけておかなければ失敗するだろう。逆に、そういった問題意識を備えた教師が、この『15』での「ことば」にさらに教室で命を吹き込めるのであれば、その「追試」はとても意義深い実践になることだろうと思う。英語教育は「ことば」の教育である。そこまではいい。しかしはじめに「感動」ありきではまずいだろう。「感動」はあくまでも真摯な授業実践の付録・ご褒美であることを肝に銘じておきたい。詩人荒川洋治が言うように、詩人にとって「読者がいたら、こまる」という感性(『詩とことば』岩波書店、pp.135-137)もあり得るのだ、ということを少なくとも指導者は知っておくべきだろう。教師としての自分の中で、表現活動の位置づけがはっきりしない人には、まずは大村はまの著作を、そして少し古い本だが、青木 幹勇(1986年)『第三の書く—読むために書く、書くために読む』(国土社教育選書)を読むことを薦めます。「私は英語教師であって、国語教師ではない!」という輩には、Sam SwopeのI Am A Pencil: A Teacher, His Kids, And Their World Of Storiesでもオススメしておきましょう。
『英語で書くコツ…』の方は、原則として文レベルでの自然な発話を支える英語の根本的なルール(=文法)を書くというモードで練習することで身につけていこうという問題集というか書き込みノートである。同著者による『「英語モード」でライティング』(講談社インターナショナル)の姉妹編とでもいえる位置づけ。見た目は「和文英訳」なのだが、かつての松本亨氏の『英作全集』のように、英語らしい文を身につけるミニマムエッセンシャルズが示されている。大人の再入門にもピッタリだが、中学校3年生から高校1年生くらいでここまでやっておいてくれると、高校での科目としての「ライティング」は本来のライティング指導ができるのではないか。高2,高3でも、つまらない「ライティング」の検定教科書を使って、欺瞞的な指導をするくらいなら、この本をテキストに使って半年くらいでしっかり基礎基本をおさらいしてくれた方が生徒は助かるだろう。こちらはテキストであり、問題集であり、ノートであるから、著者の意図を踏まえてどんどん使い倒すことで、アラも見えてくるだろう。その際には出版社に注文をつけて、よりよいものへと育てていけばよい。
個人的に、一部のページでは「なるほど、あのメールはそういうことだったのね…」という記述もあり、楽しめました。