『説明文理解の心理学』

本業が開幕で大忙し、土日は朝5時起きで出かけて夜8時半まで。疲れました。
さて私の最近のライティングの講演・ワークショップではかならずテクストタイプの話をするのだが、なかなかフロアーに理解されていないように思われる。表題の書籍は、岸学著、北大路書房刊(2004年)。小学校国語科教育での説明文指導に関わる基礎理論としての認知心理学・教育心理学の知見を示したものである。
一般的な英語教師との接点をどう作るかという意味で、日本語でこの分野を詳述している書籍を探していたところたまたま見つけたので、どの程度この分野での定評があるのかは不明。ただ、英語教育に於ける「リーディング」についての様々な研究でも十分に説明されていないテクストタイプについての問題点・留意点が、この本によって少し見えてくるのではないだろうか?
ここで取り上げられている大まかなポイントをあげる。

  • 国語教育で、読解におけるテクストタイプがどのように扱われているか
  • bottom-upとtop-downの処理がどのように行われている(と理解されている)のか
  • 文章構造の理解はどのように発達するのか
  • 説明的文章を書かせる表現指導における留意点

それぞれが簡潔に示されているのも有り難い。
「伝達する知識」という観点での説明文の文章に関しては、

  • 宣言的説明文
  • 手続き的説明文

とを対比して文章の特徴、児童の発達段階を論じている。宣言的知識と手続き的知識、という理論的枠組みは今や英語教育界でも周知のものであるだろうが、この枠組みを説明文のテクストタイプに当てはめて論じているあたりが、現在のL2での読解研究とスタンスがやや異なる点なのではないか、という印象を受けた。
文章構造に関しても連接(文間論理関係、論理構造)と配列(段落間構造)が教科書の中でどのように扱われているかを示した上で、児童の発達段階を論じており、中学高校の英語教師にとっても生徒が小学校段階で日本語のどのような文章を読み、教えられてきたを理解する手がかりとなるだろう。とりわけ、小学校3年生で説明的文章のパターンはおおむね出尽くしているという指摘。にもかかわわらず、3年生から6年生までそのパターンは余り変わらず、読みの教材として示される説明文の4割以上は、前後の文との内容のつながりのみで結びついている文章という指摘は注目して良いだろう。
まず、「読み」の段階での発達段階をきちんと理解していなければ、「書く」活動を真に理解することは難しい。
外国語教育に於ける読解指導研究では、以下の重要な指摘があるにも関わらず、相変わらず低次レベルの処理を効果的に鍛える教材・シラバス・指導法が確立されていない。

  1. 高次レベルの言語処理ストラテジーは重要であるが、読解力そのものを決定する主な要因でないこと
  2. 学習者が読解の最中に使用している高次および低次レベルの読解ストラテジーは相互作用していること、さらに、
  3. 特に言語処理というプロセスにおけるつまずきが深刻な、読解力の低い学習者の場合は、文字、音韻、語彙、文構造認識を含む低次レベルの言語処理が土下記能力を高めるために不可欠であるという点である。(高梨・卯城『英語リーディング事典』研究社、pp. 12-13)
  • 卯城(1995)では、絵などを用いたトップ・ダウン的な活動で英文の理解が深まっても、困難語句への理解が必ずしも増していないことを明らかにしている。教師は一般的に、学習者が用いている英文の概要を理解すれば、そこに含まれている語彙や構文をある程度克服したと考える。しかし、実際には、その困難語句などの情報が埋められないまま、前後の情報だけで英文の全体的なイメージをつかんでいる場合があることが窺える。(『英語リーディング事典』、p.56)

低次レベル処理の更なる研究のためには、表題の書籍で示されているような母語である日本語・国語での読解指導と発達段階の研究から学ぶことも不可欠に思える。英語教育界を担う若い人たち、頑張って下さい。
帰宅して、『なぜ「英語」が問題なのか?』中村敬(三元社)を再読。大学の英語科教育法などで必ず取り上げてほしいテーマである。今、pp.156-167,での「書名の意味論」について考えている。これは、高等学校用の英語の検定教科書72種類につけられた英語の名前・書名の分析から英語教育を論じるもの。書名の原文に近い日本語訳、書名の意味するところを「翻案」したものを全教科書に対して示しているところが秀逸。二三例をあげると、

  • Birdland 文英堂 「鳥の国」?(鳥の国の鳥のようにピーチク・パーチク英語で話してみよう)
  • Mainstream  増進堂 「中心」 「英語をやれば差別されません」
  • Polestar 数研出版 「北極星」「人生の目標に英語で到達しよう」「英語は人生の目標を明らかにしてくれる」

ここで取り上げられているのは1999年当時の高校用教科書。その後改訂を経てどうなったか、教科教育法のレポートなどでも使えるのではないだろうか?
数年後に迫るといわれる小学校英語必修化。教科化されなかったとしても、教材は必要です。その時のテキストにはいったいどんなタイトルがついているのでしょうか?