ようやく

倫太郎さんの「英語教育にもの申す」と並んで、私が教育というものの意味を考えさせられるブログに、前田康裕氏の「授業研究空間」がある。前田氏は熊本で小学校国語の少人数専科の先生をしている方。メディアやITの活用など先進の取り組みだけでなく、牽引者としても著名で、英語活動の取り組みはNHKでも取り上げられた。理論と実践のバランスの良さが傑出している。実践の中でも、とりわけ今年の小学校4年生の実践が興味深い。最近では「新聞記者になろう」「伝え合うこと」というシリーズがいい。いい、というと他の学年でも優れた授業をして、生徒一人一人の成長を導き、支え、促している前田氏に失礼だが、言葉の発達段階を鑑みたときに、この4年生でもの凄く大きな成長が見られるのだ。この実践から、数々の英語のライティング授業でのヒントをいただいた。
高1進学クラスは、復習の音読から。教科書本文のサマリーと原文を比較して、残存傾向を見る作業。その中で、どの内容が、どの表現に置き換えられているか?パラフレーズされた表現に焦点を当てる。といっても、

  • I was too busy working to go to school.

を、

  • He did not have time to go to school.

に変えているくらいのパラフレーズなので、焦点といってもそれなり、それなり。
最終的に、summaryという語の意味を考えてもらう。

  • 小学校3年生の弟・妹がいると仮定して、「ねえ、『要約』ってどういう意味?」って聞かれたらなんて答えるか?

「要」は?「かなめ」。「かなめ」って?「一番大切なこと」。「こと」かな?とやりとり。当然、日本語でのやりとりですよ。「約」はどういう字?「約束の約」。約束の「約」と要約の「約」って同じ意味?と問うて考えてもらい、それぞれ広辞苑と漢字林の説明を引用。次は、英語のSummaryと同義語・類義語を問う。現在の学習英和辞典は類義語欄などが充実していないので、和英辞典で「要約」を引くことからスタート。「あかさたな、はまや、やいゆえよ、って『ようやく』、『要約』にたどり着いてないと遅すぎるよ。」などとせかしていたら、本当に『ようやく』に印つけている生徒がいて注意。まあ、日本語の副詞は活用のない自立語なので現代語では限りなく見た目は名詞ですから。先ほどの「当然」も副詞ですね。
あらためて気づいたが、『グランドセンチュリー和英』ではsummary以外の収録語がdigestなのだなあ。
今回は、digest / outline / sketch / overviewを調べさせ、語義を考えさせる。やはり、こういう作業のときは高校段階では電子辞書が4人に1台くらいあったほうがいいなぁと思う。今度、教室に自分の全部持っていこうか。
その後、themeへ。「話題」と「主題」の違いを説明し、サマリーの際、「主題」をはずしてはいけないが、「主題」だけ述べたのでは不十分ということを指摘して一段落。教科書は新しいパートの導入。範読に続いて、引用符のチェック。最後のターンは長ゼリフで、本来地の文で説明すべきことをセリフに語らせているパートなので、誰から誰への発言なのか、その発言の意図・狙い、感情について表の形で整理するよう指示。個人ベースでフレーズ読み。フレーズ訳を参考に、語義、チャンクの確認。内容理解の発問と答えを簡単に行い、午後のオーラルに繋げる。
午後のオーラルは、スピーチの続き。
マッピングに関して、『国語教室のマッピング』からの資料、前田先生のブログからの資料を配布し解説。
物語文・エピソードの定型ということで、story grammarの導入。なぜ、5W1Hではスピーチに繋げにくいのかを考えさせながら、実例を挙げて6項目を解説。「書き手」の視点と「読み手」の視点を並行して育てていく、という2学期の英語 I、オーラルそれぞれの大きな狙いを理解してもらう。うむ、今回はナラトロジー概論ですな。次回は、替え歌お披露目。

高3の担任の先生から、マーク模試の問題をいただく。第3問は今春の形式に完全に揃えたのだなぁ。発話の意図というよりは、文脈でその表現が持つ意味を考える問題、議論での司会者のつもりで内容を要約する問題。「新傾向問題」対策に躍起になるよりも、まずは英語が読めることの方が先。今日の高1のような授業で基礎は充分に養われているわけです。受験生は時間が無くて焦るかも知れないが、年末に向けて、これから先たくさん教材が出るでしょう。今のところは、学研から7月に出た『はじめからわかる英語 2 意味類推・ビジュアル読解・長文読解』(鬼塚幹彦著)あたりがこの手の問題を詳しく扱っている参考書か。表紙の絵が「はじめちゃん」なのですぐに分かると思います。
『新英語教育』10月号(三友社出版)を読む。特集は「共に生きる学力」。
黒丸栄子氏の「今、高校生の学力は」(pp.16-17)は重要な指摘を含んでいる。高校の英語教師が「今」考えておくべき提言といってもよい。黒丸氏は2003年の生徒の書いた英語表現と1973年の生徒が書いたものとを実例で比較しながら述べている。「何が素晴らしい表現力を生み出すのか」から抜粋。

  • 英語の自己表現の場合は何といっても、どんな英文教材に触れてきたかということになると思います。その点で言えば、我が校では最近の生徒たちよりも以前の生徒たちの方が良い教材に触れていたと思います。
  • 見開き2ページでも良い教材はあるとは思うのですが、なかなか高校生にとってやりがいのある文は見つけにくいのです。B群の英文を書いた生徒たちは現在の生徒たちより偏差値が低いと言われていたが、あの頃使っていた教科書の方が内容が充実していて読み応えがあった。生徒たちは語彙の多さや文の長さに辟易していたかもしれないが、ハードルが高い方が苦しみながらも成長するものではないでしょうか。B群の自己表現には、その結果が表れていると思う。

なぜ、こんなに重要な内容に見開き2ページしか与えていないのか?!その前の阿原氏は3ページ。その後の奥西氏は3ページ。新英研の会員ではない私が新英研や『新英語教育』に期待するのは、黒丸氏のような実践とそこからの問題提起である。pp. 45-46の「支部・サークルの活動から」にも、神奈川支部の報告で黒丸氏の実践が紹介されているのでそちらも是非。
中秋の名月だったのだが、久々に芋焼酎を飲んだら、睡魔に負けてしまった。残念。
本日のBGM: ドリーミング・デイ(Niagara Triangle /山下達郎・伊藤銀次・大瀧詠一)