I will.

前回のエントリーで広島の「達セミ」の振り返りを書きました。
その後、「呟き」の方で、若干反響がありました。
私が講座の中で発した、

  • 適切に使われている英語を目の前にして、その都度しみじみしなさい。

という一節が何か響いた模様。生徒に語ってあげて下さい。

さて、
その達セミの翌日の月曜日になりますが、早稲田大学まで日帰りで行ってきました。お目当ては、こちら。

2014/07/28 @早稲田大学 大隈記念講堂小講堂
第1回 早稲田大学ライティング・フォーラム
「ライティングに息を吹き込む ー学生を惹き付ける課題づくりー」
講師:ポール・ケイ・マツダ先生

早稲田大学関係者以外にも開かれていたので、この機会に、生ポール先生を、ということで、遙々新幹線で。
講演は日本語で行われました。パワポのスライドを見ながら、ポール先生がフロアに振る課題を考えたり、答えたりしながらの約2時間。

講演の内容を逐一整理してまとめたりはしません。
以下、印象的だった部分を抜き出し、私の振り返りコメントを。自分のことばでまとめながらメモを取っているので、ポール先生の「オリジナルのことば」そのものとは必ずしも一致しませんので、ご理解を。

「ライティング」課題の課題とは?
→クラス内という閉じた社会で、教師から与えられた「社会から切り離されたタスク」として書く、という活動となっていること。
・題・最終形態・長さ
・書く理由付け、必然性
・ 具体的な読み手
について、書き手として考える方略を学ぶ機会を与えない。

・言語能力を測定する手段としてだけ存在する
・書く動機を奪う
・教室で・ライティングの課題で身につけた「学習」の、他へのトランスファー (転移) が起こりにくい
・学習者が既に持っている語用論的能力、母語の知識が活かせない

ということで、序盤で早くも結論がでていました。
「動機付け問題」と「読者問題」にどう対応するか?

読者問題
先生・学生での知識のレベルでの逆転現象が起こる
・本来は、「それを知らない人」に対して「知っている人」が書く
・教室内ライティングでは、学生は、「それに関して、自分よりも知っている教師に向けて書く
・誰のために書くのか?という擬似的な場面設定・状況設定を施したとしても、「聡い学生」は、実際に読むのは「先生」である、ということをわきまえて書く

これは、大学生のライティング授業では顕著で、深刻な問題かも知れません。高校現場では、まだまだまだまだ、その段階での悩みを共有できる人は少ないでしょう。

動機付け問題
何のために書くのか?
・コミュニケーション vs. デモンストレーション
・採点基準を満たすためのゲーム

学生の書く作文が常に「教師の求める」作文の基準を満たすとは限らない。でも、「自分が求めているものとまるで違う作文」を見ることによって、意識していなかった「自分の理想の作文」が見えてくる。
ただし、「教師が求める理想のテキスト像」を学生からのライティングに求めるのは危険。

「評価ができる・評価のしやすい作文課題」しか課されなくなることによる問題
・現実性
・独自性
・書く喜び
・伝えようとする意欲
・評価者を超えた読み手の設定
のない作文が次々と教師のもとに集まる…。
これでは教師にとっても読むことが苦痛となる。
では、どうすれば?

このあたりでポール先生は、フロアに問題提起をして、実践知を共有しようという雰囲気だったように感じたのだけれど、フロアからはあまり反応はありませんでした。

で、ポール先生からの「講義」は、

コンテクストの中に落とし込む〜社会文化理論の目でライティングを見る

というもの。私にとっても、懐かしい名前、書籍が出てきました。

・より大きなアクティビティー・システムの中で、それぞれが関連を持って行われる
(Russell、1995、1999)
・ライティングを使って意味のあるアクティビティーに没頭することで、その副産物として発達する (Vygotsky 1978)
・正統的周辺参加
(Lave&Wenger 1991 ※写真 2014-07-29 6 19 30.jpg 直)
・母語話者であっても同じ
Casanave (2002)

実際の課題やシラバスを考える上での次の「助言」は心強かったです。

現実性のあるコンテクストを呼び起こす〜必ずしも "in the real world" tasksでなくてもよい。
・書き手(書き言葉を使うコミュニティの一員としての書き手の立場)
・社会的現実(共有されたリアリティ)
・読み手(書かれた文章を読ませるべき相手)
・ジャンル(社会的に共有されている言語リソース)→ ルールに依存しない

ここで、思い出したのが、Kathleen Graves, 1999, Designing Language Courses, Heinle & Heinle のシラバスデザインの考え方でした。

Designing Language Courses Text (240 pp) (Teachersource)

Designing Language Courses Text (240 pp) (Teachersource)

Gravesは、tasks/activities のcontinuumを次のように、示していました。

pedagogical ← real world → in the real world

この、一番左が、教室で作られた課題、一番右が、実生活での運用、真ん中の部分が、現実性を想起させる課題と捉えることができるでしょう。(「東京の教育21」のプレゼンで、このcontinuumを使って説明したのですが、予想通りこの区分で質問が出たのを覚えています。)

そして、講演のクライマックス。
「書き手として書く必然性を作る」というテーマで、学習者を「書き手」として巻き込む・惹き込む課題設定の練習。

ありがちな「お題」を、トピック、読み手、テクスト、ジャンルのリフレクションと選択を勘案して、書き換えてみる。

というもの。数分与えられての、私の回答

早稲田大学創立130年記念として、早稲田の学生が尊敬する人物のランキングを発表することになりました。あなたが最も尊敬する人を一人あげて、あなた以外の学生にも「なるほど」と思えるような理由を述べてください。存命者でも故人でも構いません。政治家、科学者、芸術家、スポーツ選手などの著名人でも、先生や家族や友人などの身近な人でも構いませんが、大隈先生は除きます。あなたたち一人一人の文章はネット上で公開され、投票によってランキングが決まります。

ポール先生の提示した「仕掛け」の例

・クラス全体で「私の偉人伝」を作る
・一人1〜2頁を担当
・完成したら製本して他のクラス、先生、保護者にも配布
直接の読み手以外の読み手を意識することも大切→現実性とlearning transferに寄与する。

タスク、シラバスを作る際の考え方は、至極真っ当。

年齢・習得レベルが低い学習者には、タスクをシンプルに作る
・書き手の役割、ジャンル、目的、読み手を「教師」が指定する → 「判断」の部分で学習者のリソースを割かない
・「身近」な設定
・例は1つだと、それに引きずられるので、必ず2つ以上見せて、いいところ悪いところを取り上げ、なぜそうなのか解説する。同じコンテクストで、異なるタイプのライティングの例をあげる。

年齢が上、習得レベルの高い学習者にはタスクの難易度を上げる
・自分で選ばせる、ジャンルを選択させる
・抽象的な概念や新しい読み手の導入
・ジャンルの例を自分で探し、分析できるように指導→「とんでも例」が出てきたときがチャンス。「とんでも例」を叩き台に、なぜ「とんでも」なのか、を考える機会を与える

で、最後は、質疑応答のフェイズ。印象に残ったポール先生の回答から、「質問」は何だったか、推測してみて下さい。

習熟度が低くても、学生が今現在のライティング力でできることをさせる。教師は、それを少しでもよくするフィードバックを与える。

「要約」は難しい
対応策・改善策は→原文をもとに、ディスカッション→そこでの口頭でのやり取りをもとに、学習者が言えたことをwrite it downさせる。

私が感じていたのは、「教師の側のジレンマ」とでもいうもの。

提示する例に求められる資質・要素
モデル (模範) の扱い
教師の理想の作文と学生に要求するレベル

この辺りは、過日、静岡での、浦野研先生の話とも密接に関連していて、私の中での大きな課題となっているのでした。
高校生が使えるレベルだと、巷の「作文」「ライティング」教材の「モデル文」や「解答例」があまりにも酷いのです。

いま私が生徒からのアウトプットに求めるのは、言うなれば、

  • 英検3級なら3級レベルの英語でいいから、さっと書き始められて、書き続けられること。
  • 英検2級レベルの英語を目の前にしたときに、背伸びしたり、ジャンプしたりして、「言いたいけれど言えない」もどかしさを感じること。そして、「酸っぱい葡萄」ではなく、いつか使ってみたいと思うこと。
  • 自分が英検2級のレベルの英語はすっかり身につけた、と思った頃に、「あの日の自分に言えなかったことが、いまの自分にはきっと言える」と、過去のタスク、またはそれとパラレルなタスクに再度取り組むこと。

でしょうか。

ポール先生の講演を聞いて、1997年に、自らが問いかけていた問いを問い直す意欲が湧いたというか、覚悟ができました。過去ログでも取り上げたことがありますが、再録します。

「高校ライティング指導改善にあたっての9項目の提案」(ELEC同友会英語教育学会ライティング研究部会によるもの)

1. Stimulus (刺激)
• 学習者を引き込む仕掛け作り
• writingを必要とする状況設定とinputを与えること

2. Motivation (動機付けとその維持)
• 活動に personalization / personal involvementの視点を取り入れ、 学習者の成功体験を活かす...

3. Preparation (準備)
• 目標設定、語彙指導、段階的なタスク設定、「学習法」の指導 learning learning) までを含む

4. Assistance (補助支援)
• 具体的な書く手順を示す、モデルを与えるなど、書く活動の「プロセス」に配慮した指導

5. Working (実践)
• 付随的ライティング活動も含めて、「書くこと」によって「書けるようになる」実践

6. Variety (多様性)
• 和文英訳と自由英作文の二者択一ではなく、多様な活動・タスクを与える

7. Feedback (反応・還元)
• 誤りの訂正から、より適切な表現へと導くreformulationへ
• peer responseも含めた学習者のreflectionを促す手法の導入

8. Extension (繋がり・発展)
• task-sequence、技能統合・技能間連関、科目間連携という3つの繋がりを視野に入れた指導

9. Evaluation (評価)
• 教室内評価の工夫。パフォーマンスの評価だけでなく、成長の評価も考慮する

この「提案」も、もう17歳。自分一人でできることを細々と続けてきました。これからの、2年か、5年かはわかりませんが、高校教師でいる間に、指導要領の改訂や、外部試験の導入とは関係なく、目の前の学習者と取り組んで行こうと思います。

高校現場でしっかりと革新的な教育を実践されている先生がいらっしゃると実感できたことは大きな収穫でした。

という、FBでのポール先生のコメントが、自分の背中を押してくれたかのようです。本当に有り難うございました。

本日のBGM: It's Only Natural (Crowded House)