「スピーチ&レシテーション」

今は亡き『現代英語教育』1995年10月号(研究社)が、標題の特集であった。高2のスピーチ/プレゼンテーションを控えて、今、手元に置いて読み返している。もう10年が経とうとしていることに少しびっくりした。
特集の扉ページにはこうある。
「対話文の練習だけでは英語を話す訓練としては十分ではありません。今月の特集は、そういう観点から、スピーチという活動を見直し、『まなぶ』と『まねぶ』の接点をも模索します。」
この当時の編集長は津田正さん(現在は『英語青年』を担当されていると思う)だ。執筆陣は、順に、近江誠、田邉祐司、松本茂、靜哲人、山本文雄、若林俊輔(敬称略)。最後の若林氏の論考には付録として、キングのI Have a Dreamの全文が掲載されている。(その結果、計9ページ分が若林氏に当てられていることになる。)
結びの近くで、若林氏はこう書いている。
「このI have a Dreamは非常に手軽に英語教育の場に導入されるようになった。もちろん、そのことが悪いと言うつもりはない。しかし、私が耳にするところでは、なぜこのキングの演説が英語教育に導入されるようになったかというと、それは『感動的』であるから、ということらしい。確かに感動的である。が、これがなにゆえに感動的であるかについては、それは単に『感動的』、あるいは『レトリック』の見事さ、あるいは黒人奴隷の辿った歴史を裏に置いての『感動』といったことであるようだ。
しかし、英語のスピーチというものは、そういった『センチメンタリズム』の世界ではない。キングは単なるセンチメンタリストではないのである。現実を踏まえた、確固たる信念に基づいてこの演説を生み出した。」(上掲誌、pp.30-31)
重い言葉だ。教科書の素材文のテーマに迫る、といつもしたり顔で周囲に説いて回っている自分が恥ずかしくなる。
思いつきの「アイデア」程度の実践ではとても太刀打ち出来ない、現実の重さを今一度認識させてくれる特集記事である。
大修館の『英語教育』で今、9ページ分の重みに耐えうる記事がどれだけあるだろうか?