副詞的目的格

I have many more books than she has.
という英文でのmany をmuchにするのは誤りである。比較級の程度を強調するmuchの用法からの類推で誤る人がいるのだが、大学入試の語法問題でも出題されるので、高校までの学習を「きちんと」行っていれば問題ない項目であろう。
先日、TOEIC Test プラスマガジンというTOEIC対策の雑誌を見ていたら、「文法の疑問に答える」という趣旨の連載(The Grammar Doctor)があり、そこでは、このように可算名詞の修飾語句として使われる manyは「名詞」であり、 some, no と置き換えられる、「副詞的目的格」なので注意しよう、という説明を与えていた。使われていた例文は、After the break, many more tunes are coming up.
この例文でmanyが果たしている機能がsome/any/no/ a lot/ と語を置き換えても変わらない、というのは正しい。
しかしながら、ここでのmanyの品詞は「名詞」で「副詞的目的格」として働いているというのは正しいだろうか?
次の例文を見て欲しい。この文脈でのevenはmanyと置き換えてもほぼ同じ意味となる。
もし、上述のmanyを「名詞」であるとするのであれば、
If sales keep falling, we'll have to lay off even more people.
Rising unemployment led to even more social problems.
ここでの evenの品詞も「名詞」というのだろうか?
「副詞的目的格」というのは、本来副詞が果たすべき機能を持つ名詞、代名詞、または対句となる名詞句のことで、ME以降、与格と対格の区別がなくなったことによってできた総称的用法であって、その中身はかなり多様である。(『英文法解説』(江川泰一郎著)では『副詞的対格』としている。)
He was seven months older than Denis.
Two minutes later he was fast asleep.
Anthony was sitting a good way from Denis and Father Tom.
Let's go some places.
The hey fever had worried him a good deal all night.
We painted the door a different color.
(以上例文は『格と人称』(宮部菊男著;研究社)より)
のように、品詞でいえば副詞を持たない名詞(句)が副詞として使われているのであって、「副詞」には「副詞的目的格」という名称は不適切であろう。上述の雑誌で副詞的目的格の類例としてあげられている、
If you chose to buy this type of car, you need much more money.でのmuchの品詞はやはり、『副詞』と解するのが妥当ではないだろうか。本来、比較級の強調で用いられるべきfar, even, muchなどの副詞のうち、後続する可算名詞の影響を受けて、muchを容認しないために、manyが副詞として用いられていると考えるのが副詞的目的格と考えるよりも混乱が少ないのではないだろうか。much, farやevenまで名詞として扱うのは不自然な気がする。