空の上はいつも青空(当たり前)

ようやく発表されました。

2016年3月23日付け
中教審 教育課程部会 外国語ワーキンググループ(第6回) 配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/058/siryo/1367581.htm

沢山ありますので、一点に絞って言及します。

資料3-2 平成27年度 英語力調査結果(高校3年生)の速報(概要)(PDF:2912KB)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/058/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/03/23/1367581_2.pdf

その、「書くこと」「ライティング」に限っての考察です。

昨年度の「高3英語力調査」に関しては、うんざりするくらいこのブログで追いかけて来ました。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150326
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150528
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150602
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150620
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20151117

その後、発表された政策提言で、これらの記事で指摘していた危惧が現実のものとなりそうな「悪寒」がしたので、急いで書いたエントリーがこちら。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160313

新聞やTVなど既存のメディアは、どこも、誰も「テストそのもの」がどういうものだったか確かめて論評してくれませんから。別にCIAとかFBIとか、そういう捜査をしろと要求しているわけではないのです。ただ単に、

  • 「フィージビリティ調査」のフィージビリティは誰が検証しているのですか?

ということを問い続け、一つ一つ調べているだけです。
ホントに、私しか気にしている人はいないの?というくらい。

そして、今年度の調査結果。

27年度_目的・対象.png 直

概要と目的は、恐らく昨年度と同様です。たぶん、きっと。

でもね、こちらの「3. 調査の特徴」で示されている、「設計」のところには、

(CEFRの) A1 〜 B2 までを測定できるように設計。

27年度特徴 設計はA1?.png 直

とあるんですね。
26年度の、設計から実施までの間の文言は、「A2〜B2」だったんですよ。それが結果を発表する報告書段階で、誰かの手によって、A1〜 と下方修正されてしまっているのです。誰も気にしていないでしょうけれど。

昨年度の「高3英語力調査」

26年度調査設計.png 直

「大学入試改革」での議論で、この「調査結果」が取り沙汰されていますが、そこでは、A2〜B2の英語力を測定できるように設計して実施したはずのテスト結果があまりにも酷かったためか、「最初から受験者層としては、A1〜B1を想定して作っていたんですよ」とでもいうかのようなプレゼンで使われているのです。


書くA1-B1.png 直

そのような「ごまかし」「まやかし」を経て、「うやむや」な「経年変化」を評価している訳です。

「テスト結果分析」の総論がこちら。

依然として課題?.png 直

依然として「書くこと」は槍玉に挙げられています。

そして、お得意の誘導。
コロンブス vs. たまご
ですね。


因果関係?.png 直

「書くこと」の指導が適切に行われていないから「書けない」のではないのですか?
では、調べなければならないのは、技能統合の前に、そもそも「書くこと」単独の技能はどうなっているのか?発達段階は?ということでしょう?

そして「スコア分布」。
全体はこちら。


経年変化一覧.png 直

昨年の夏、英授研の全国大会で、東外大の根岸先生とお話しした時に、「でもね、松井さん。これでもできないとなると大変だよ。」といわれていたライティングの結果がこれ。

いやー、この分布を見ると、お寒い限りで、返すことばもありません。
「等化」するから、経年変化を比較することは可能なのだそうです。


何と何を等化?.png 直

でも、よ〜く見てみると、昨年度ライティングで得点が5点未満だった人が29973人だったのに、今年度は14303人に減っています。受験者は激減、半減ですよ。0点だった人も20059人から、14303人に。え、今同じ数字が出てきましたね?14303。今年度は得点が5点未満1点以上のゾーンに誰もいないということですか?
昨年度は9914人がこのゾーンにいたんです。今年度は無得点も激減し、この最低得点域にも人がいなくなったということですね。

昨年度、私は「テスト設計に問題があったのではないか?」とくり返し指摘してきました。
でも、経年変化ができるように同じ問題でテストした結果、このような劇的な変化があったということは、「新指導要領」の教育成果が出たということなのでしょうか?

今年度の問題を見てみましょう。

問題のスペック・構成を先に示しておきます。
これが今年度。


27年度スペック一覧.png 直

こちらが昨年度です。


26年度スペック.png 直

ライティングの問題構成は、変わらず大問2題。
どうして、ライティングだけ、このように、大問だけで構成されているんでしょうね?
スピーキングで「音読」が課されているのと同様に、なぜ小問を導入して、A1〜A2層を拾い上げられる設計にしないのでしょう?
あ、そうか。26年度と比較できないとダメだから、同じにしないといけませんね。

でも、今年度の大問2題、出題の順番が昨年度と変わっていますね。
お題作文が先、聞き取り要約が後。

昨年の調査結果報告書が正式に出たのは、年度を超えた5月末だったんですけど、その時にこんなことを言っている人がいました。


スライド048.png 直

私ですね。
次の資料の中にあります。

第8回山口県英語教育フォーラム投影資料
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/files/2015_YEF_matsui_presentation%E5%85%AC%E9%96%8B%E7%89%88.pdf


今年の結果も、トータルの得点分布しか示されていないので、現時点では即断できませんが、聞き取り要約の得点は依然として低かったのではないかと推測します。

というのも、「聞き取り」単独の、リスニングの試験で課される「聞き取り」の認知負荷よりも、「聞き取り要約」で課される「聞き取り」の認知負荷の方が高いからです。

今年度のリスニング問題のうち、まとまったモノローグの聞き取りがこちらです。


リスニングB2想定.png 直

スクリプトの英文はこうなっています。

Although the human population on Earth's increasing, the number of languages spoken is decreasing. One language disappears every two weeks. Sometimes even natural disasters cause language loss. For example, in Pakistan, an Asian country, the world's entire population of Domaki language speakers lived in Shishkat, a remote mountain village by a river. In 2010, land fell from a nearby mountain and blocked the river. This caused a flood that destroyed the village. All the village people were forced to move to whatever housing was available. With the few remaining Domaki speakers living separately, their language is likely to die out.

101語の英文を聞く訳ですが、設問は印刷されていて、そのステムにも聞き取りのヒントとなる語彙が提示されていて、さらに選択肢も印刷されていますから、キーワードを保持しやすい出題になっています。

対して、「聞き取り要約」では、ノーヒントです。


聞き取り要約 B2以下?.png 直

こちらが、スクリプトです。

Many farms just sell one thing. But have you ever heard of a pizza farm? A pizza farm is a farm that grows everything that is needed to make pizzas, such as tomatoes and onions. Pizza farms also make cheese. It is easy and useful to be able to quickly buy everything that you need to make a pizza in one place.

But do you know an interesting thing about pizza farms? Pizza farms are in the shape of a pizza! If you look down on a pizza farm from a plane, you will see that the farm does not have four straight sides like a box, but is round like a pizza. And each field on the farm has only three sides, almost like a triangle. Each field is like a piece of the pizza. Something different grows in each field. Yes, it's amazing! Pizza farms are in the form of a pizza!

背景資料となる読解の英文も、絵も写真もありません。しかも154語。聞き取り要約の方が英文が長いのに、ヒントはない。

なぜ?

いや、確かに、長ければ長いほど難しくなるとは一概に言えません。それは分かっています。
Text Inspector で使用語彙のCEFR対応を調べてみました。

リスニング101語_1.png 直
聞き取り要約_1.png 直

「聞き取り要約」の英文の方が、語彙は易しいことがわかりました。

ただ、この聞き取り要約の英文。読み難いんです。

このブログで以前取り上げたことのある某教材の「エイブン」に近い、嫌な感じというのでしょうか。一読了解とならないように感じました。

Pizza farms が話題として取り上げられていることはわかると思いますが、「では、pizza farms ってどんなfarmなの?」と求められた時に、この解答例のように答えられる生徒は少ないと思います。

だって、普通、farmって聞いたら、こういうの想像しますよ?


Pizza Farm with Nick Offerman
https://youtu.be/0weSjPKi4cs

このコメディ動画に関しては、こちらのTIMEの記事をどうぞ。
http://time.com/3957770/nick-offerman-pizza-farm/

今回の「聞き取り要約」でも、英文を改善するだけで、結果は変わっていたのではないかと思うのですね。

Pizza farms に関して、詳しく知っている人は少ないと思います。
ただ、テストを課されていないのなら、普通のひとは、ググるでしょう?
で、Wikiの記述なんかがヒットする。そんな感じですね。
その Wikiではこんな説明をしています。
先ほどの「聞き取り要約」の英文と読み比べて下さい。

A pizza farm is an educational visitor attraction consisting of a small farm on a circular region of land partitioned into plots shaped like pizza wedges. The farm's segments produce ingredients that can be used in pizza, such as wheat for the crust, tomatoes or herbs, pork for pepperoni, dairy cows for cheese, and even trees for pizza oven firewood. Certain farms may even have access to coal or natural gas deposits that can be used as alternative pizza oven heating fuels. Many of the newer pizza farms are experimenting with alternative energy, such as installing wind turbines in the fields, to be more green. According to a 2005 article in USA Today, there are several such farms in the United States.
https://en.wikipedia.org/wiki/Pizza_farm

そりゃ、Wikiですから、ソースの信憑性など(トマト系とかクリーム系じゃなく)には気をつけないといけませんが、英文としてはこちらの方が「わかるように」書いてくれています。問題は、語彙と構文のレベルがこれではちょっと高いということくらい。

そもそも、pizza を辞書で引けば、こういう記述があるわけです。

OALD

  • an Italian dish consisting of a flat round bread base with cheese, tomatoes, vegetables, meat, etc. on top

LDOCE

  • a food made of thin flat round bread, baked with tomato, cheese, and sometimes vegetables or meat on top:

CALD

  • a large circle of flat bread baked with cheese, tomatoes, and sometimes meat and vegetables spread on top

MED

  • a food that consists of flat round bread with tomato, cheese, vegetables, meat, etc. on it

WBD

  • a spicy Italian dish made by baking a large flat cake of bread dough covered with cheese, tomato sauce, herbs, and often with anchovies, bits of sausage, or the like.

本当に、「困った時のWBD」だな、と思いますね。
このような、pizzaの原材料となる「名詞」をキーワードとして、それがどのように farmとして栽培、飼育されているのか?がまず述べられないと、定義にも説明にもならないと思うのですね。 "amazing" って、pizza farm を説明するのに重要な情報ですかね?


この「高3英語力調査」のライティングだけは、採点でこんなシステムを使っています。


ライティング採点体制.png 直

恐らく、B社のやっているGETC for Studentsと同じレイターと契約しているのではないかと思うのですが、6万4千人以上が、何か書けたわけですから、それを米国に送って採点するのには、相当なお金がかかるだろうことは想像に難くありません。

そのお金を、優秀な英文ライターを確保する部分に、また、適切な問題を設計できる人材を確保する部分に投入してはどうなのでしょうか?

易しい語彙でも、充分に深い内容の英文は書けるはずです。それは何も、「ナラティブ」「物語文」に限らないと思うのです。

英語ネイティブの子供用の、このような事典類を、私は「学級文庫」に入れています。
「高校生対象の聞き取り要約」であれば、このくらいの英文で十分なのではないかと思うのです。



例えば、上記、2枚目の写真にある事典だと、energyであれば、次のような記述となっています。

Solar power farm
A solar power farm is a place that produces electric power instead of crops. In 1960 some scientists suggested that 5, 000 square miles (about 1, 300 square kilometers) of desert in the southwestern United States be covered with solar collectors. This power farm could generate enough electricity for the whole country. There are no plans right now to build such a large power farm. But a smaller one is now being built in California that will provide electricity for 2, 500 homes.

全国規模の英語力調査を、文科省主導で行っているにも関わらず、作問から評価までは民間企業に丸投げ、その結果を分析したといって、次の政策立案や提言に使う、というので、本当に大丈夫なのでしょうか?

こちらが、今回の「英語力調査」の「責任者」に当たる「有識者」の方たちです。


有識者とは誰のことか?.png 直

前回もそうでしたが、今回の調査結果も、今後色々なところで用いられていく(であろう)ことを考えたときに、「一体問題はどんなものであったのか?」を検証しないことは、それこそ大問題だと思うのです。
一次資料を精査することなしに、また「数値」だけが独り歩きしていくことを危惧します。

警鐘は、聞くべき者の耳には届かないのかもしれませんが、希望は捨てずに、私は私にできることを続けていくつもりです。

今日のタイトルのように。

本日のBGM: 探偵物語(大滝詠一 from “Debut Again”)