『けれど答えは得られぬまま朝焼けは終る』

  • 『やめてしまえ!英語教育』

私が英語教師を志す契機となった雑誌の特集号はこのタイトルでした。1982年4月号。書店で手に取ったのは高校3年の3月。大学入学が決まり、自分が入学する予定の大学の教授がこの雑誌の編集主幹でした。普通、英語教育系の雑誌で年度最初の特集でこんなネガティブなテーマを設定しないものですよね?今でも、その時の鮮烈な印象を持ち続けています。英語教師として、24年目を迎えたわけですが、私の基本的なスタンスのもっと奥というか、根っこには、「英語大好き」「英語教育命!」などというものではなく、いつでもこの「やめてしまえ!英語教育」という声が響いています。
何故こんなエピソードで始まったのかと言えば、『英語教育』 (大修館) の2009年5月号の特集・座談会を読んでため息しか出てこなかったからです。
なんですかこの内輪受け、楽屋落ち、馴れ合いの茶飲み談義は!
誰も切り込まない、誰も傷つかない。
こんなGoody goodyな議論は御上の広報である『初等教育資料』で下々に知らせてくれれば十分です。いくら座談会の収録が3月10日だからって、大学教授となって文科省を後にするからといったって、新指導要領を作った側の菅正隆氏を司会に据えちゃダメでしょう。編集部が司会をしないのなら、斬る気なら斬れる人を据えるべきですよ。
裏話を期待しているわけではないのです。
指導要領もいろんな力の綱引き、それこそスカラーから出来上がっているわけですから、作った当事者には「こうしたかったんだけれど、ここが入れられなかった」とか「ここは出来損ないだから現場にしわ寄せが行っちゃってゴメン」とかいう慚愧とか後悔とかがあるはずなのに、そんなものは全部チャラで、新指導要領をどのように活かすか、という話に終始。
座談会では高校の指導要領に随分触れているのだけれど、中教審の審議段階で松本茂氏と山岡憲史氏の議論が平行線になっているところを浮かび上がらせ、その噛み合わなさにつっこむ、などという視点も発言も全くなし。
菅氏は、先週の英授研と同様に、「コミュニケーション英語I」では指定された文法事項を全て扱うことになるので英語が苦手な生徒には大変なんだ、という趣旨の発言をしているのですが、現行課程と比して、新課程での必修単位は3または2に減じているという自己矛盾にも誰もつっこまない。その一方で、中学で1単位増えたことに対して、現場の教員の責任は重いなどと曰う。
一番気持ち悪かったのは、

  • 全員「そうそう、まさしくそう!」

という "ハゲ同" のノリ。勘弁して欲しいと思いました。
この人たちは、松永さんの指導主事兼任高校教諭 (といっても、この立場になったら指導主事を離れる時に、教頭職以上でしか現場には戻らないのが普通だけれど) 以外はみ〜んな大学の先生になっちゃってるわけです。
彼らの、現場での、臨床の知の方が進んでいたから、優れていたからこそ、大学へとその活動の場を移しその経験を一般化するとか普遍化するなどといったことに意味・意義があったかと思うのです。
田尻氏の発言を一つ引きます。

  • 小学校はまだ専門的に教えられる先生がいなくてすごく大変だから、いかに中学、高校の先生方が協力して小学校の先生たちをヘルプしていくかが大切ですが、そのためには、もう一度、中高の見直しをしなきゃいけない。今のままで中高の英語教員を小学校に送っても絶対だめだと思います。(p.17)

もっともらしくて反論がしにくい発言ですが、ちょっと待って下さい。小学校で専門的に英語を教えられる人材がいないのは、中高の英語教師の責任ですか?教員養成の制度を云々するなら、それこそ文科省や大学の先生の責務ではないでしょうか?だったら、こんな座談会をしていないで、小学校英語専科教員養成にもっと力を入れるべき、ということになりませんか?
今回の座談会では、逆風にさらされている「英語教育界」と、学校英語の成果を意地でも認めたくないかのように構築される「世間」「世論」との温度差は一向に埋まらない。発言者同士のバランスをとっている場合じゃないでしょう。英語教育の内輪だけの閉じたコミュニケーションではなく、もっと社会的に影響力のある人を交えて、ガチンコで議論して、英語教育側の論理が破綻する畏れを抱えながら、時には論破されることも覚悟して、本当の問題、課題とその対処を報じる場を作らないと意味がないのです。
そういう意味での「社会性」のある人を同じ土俵に引き出したり、そういう人と同じ土俵に登ったりできる人材を育ててこられなかった英語教育界の罪は重いと言わざるを得ません。

そんな憤懣やるかたない河のほとりで振り返る今日の授業。
高3の入試対策の「英語 II」は、先週の「基本動詞の熟語」に続いて「時制」の問題演習。
5分で約20題。参考書の該当箇所を確認して自己採点。その後、各例文の音読2回でチャンクを確認。Read & Look upを5回。最後は音読して裏面にFlip & Write。karishimaさんのいう「パラパラ」ですね。机間巡視の際に気のついた発音・アクセントを板書し全体で発音し確認・徹底。最後は、各自のノート整理で終了。
高2は『やればできる英文法』で「不定詞」の導入。
私の入室が4分遅れたので、スモールトークで、「遅刻して済みません」の英訳から。

  • I'm sorry I'm late.

はすらすらと出てくる。be動詞に着目させ、これが動詞arriveだと、

  • I'm sorry I arrived late.

と過去形になってしまうので、be動詞の持ち味、便利さを説明。
続いて、「お待たせして済みません」をどういえばいいか?基本動詞の語法の概論は昨日までに終わっていたので、

  • 一定の期間、ある状態を持続する・させる動詞は?

と問いかけ、keepを得る。語順と形合わせで、

  • keep you waiting

まではスラスラと。そこから、“I’m sorry.” とどう繋げるかを考えさせ、『グラセン和英』。

  • I’m sorry I’ve kept you waiting.

を板書し、入試頻出の不定詞の完了形、

  • I’m sorry to have kept you waiting.

との対比で時制のズレを形でどう示すかを解説したり、という授業です。
不定詞の名詞用法で、

  • To talk to my boyfriend is a lot of fun.

を疑問文に直せ、で英語がそれほど得意ではない生徒でも、

  • Is to talk to your boyfriend a lot of fun?

とmyをyourに口頭で置き換えるくらいは瞬時にできるようになりました。
この疑問文だと名詞の固まりを捕まえにくいので、

  • It is a lot of fun to talk to my boyfriend.

のような形式主語の文の利点を、

  • Is it a lot of fun to talk to your boyfriend?

と疑問文にすることで確認。「情報構造」などとラベルを貼るだけでも、対話練習や自由会話をするだけでも「しくみ」が腑に落ちないことにはintakeしないでしょう?
高1は初授業が学力テストでした。習熟度も様々です。
明日からいよいよ平常授業の始まり。

夜寝る前に、某局で松任谷由実を見る。
この局でも新譜タイアップか。印象に残ったのは鳥山雄司のギター。フレーズの端々、エフェクターを通した音色の端々に70年代の終わり頃の作品、たとえば『悲しいほどお天気』の頃の香りがした。

本日のBGM: さまよいの果て波は寄せる (松任谷由実)