”Speak more slowly.” ”Listen faster!”

久々の平常授業。
LHRは修学旅行の事前指導。
高1は教科書を語順どおり直読直解しながら音読で頭の働かせ方を徹底。新出語句では時間が取られるが、概ね良好と言える。助動詞の番付表と不規則動詞の活用での各自の課題が見えてきたのではないか。
高2は2コマの日。ひたすらセンター型の音源の徹底活用。各形式が一通り終了したことになる。
昨日のエントリーで、基本的な手順を書いたが、第3問、第4問などと長くなるととたんにお手上げになる者がいる。長いといっても、第4問Aでせいぜい30秒、第4問Bでも1分少々なのであるが。
シャドウイングやセンテンスレペティションで、リテンション(保持)をせっかく鍛えたのに、長い文のディクテーションになると忘れないうちに書いてしまわなければ、などといって一字一句全て書こうとして、後から後から入ってくる情報に埋もれてしまう。大学入試レベルの「作られた」音源では、スピードが速いから聞こえないのではないのです。聴いた情報を処理しきれないうちに次の情報が入ってくるから、残らないのですよ。
今日のタイトルは、日本人の英会話下手、リスニング下手を笑うジョークの一節。
でも、笑ってばかりはいられない。
ただ、スピードが速いと思っている生徒の多くは、勘違いをしている。1分間に160語のスピードで読まれるといっても、それは平均スピードなのである。長崎玄弥氏は「波」といっていたが、メリハリが必ずある。ただし、そのメリハリは話し手と聴き手のゴールがどこにあるのかで決まってくる。

  • 時折言われるが、内容語・機能語という区別をするのは役立つだろう、しかし常に内容語はゆっくり、機能語が早く読まれるわけではない。せいぜい言えるのは、新情報は旧情報よりゆっくり(長めに)、強く、高く読まれることが多い、ということくらいだろう。並列、繰り返し、対比・対照、省略を踏まえて、ポーズや卓立が生まれてくるような例文を読み、聴くことが有効ではあることは知っていて損はないかも知れない。
  • つなぎ語、ディスコースマーカー、サインポストに注意して内容を予測しましょう。などということもよくいわれる。これも盲信は禁物。譲歩・逆接と一口に云うが、But / however / neverthelessなど等位接続詞系はそのつなぎ語が聞こえた時点で反応すればいいのだが、 even if / although / even thoughではその後に続く従属節を聴き取りさらに、その従属節の終わりをつかまえた上で、その後に対照的な内容で主節でが続く、という聞き方ができなければならない。このような論理を追う頭の働かせ方ができていない者に、ディスコースマーカーは使いこなせない。(詳しくは『東大特講リスニング』(ベネッセ)の「ポイント特講」を参照されたし。)

なんのことはない、このように1st listeningで意味・論理展開を追いかけ、2nd listeningで表現を聞きとる段階を踏まえた書き取りこそが、grammar dictation (dictogloss) だったのではないか。
次に考えるのは、書き取る際のスピードである。
ディクテーションの際にも、チャンク(コロケーション)で聞きとるのは有効であって、音韻処理ができたが綴り字があいまいな場合は、単語は飛び飛びでもいいので、頭文字の数文字だけでもアルファベットを書いておくように指導している。

  • a wave of sound と聞こえたら、 a w・・・ of s・・・
  • avoid conflict と聞こえたら、a・・・ con ・・・
  • a persuasive argument と聞こえたら、 a p・・・ ar・・・

などと書いておくわけである。
短文ならある程度聴き取りのできる者には、意味をメモするように言っている。上記の例であれば、

  • 波 of 音
  • 争いを避ける → 避・争
  • 説得力ある議論 →説・論

などと出てくれば最高である。ディクテーションとは、聞き終わった時に書き終わっていることを求める活動ではない、聞き終わった時に、音韻処理と意味処理の両方がクリアーできました、ということを示せればいいのであるから、2回目の聴き取り以降に音と綴り字を結びつける時に、この意味のメモが訳に立つ。漢字や記号は情報量が多いので、メモに適しているのだが、普段から慣れていないと、英語モードの頭に切り換えられなくなる。(漢字や記号の活用は田尻悟郎氏の実践に詳しい。)
このようなシャトルランと匍匐前進の繰り返しを普段の練習で積み重ねて、地道に、まとまった英文の音読をすること。しかも、発音に意味を乗せる音読を目指すことで、長めのモノローグでも、音の波に乗ることができ、山と谷、メリとハリが掴めてくるのだと信ずる。いくら個々の音をカナ表記で練習して、連続する音同士の音変化を、やれリダクションだハクション大魔王だ、やれリエゾンだリア・ディゾンだなどととりたてて騒いで(?)練習したところで、どの語(音の固まり)も同じように強く読んでいたのでは聴き取りに役立つことは少ない。これには、指導者が普段、どのような音声モデルを与えているかが大きいかも知れない。
指導する側で、基本的な音声学の知識が覚束ないので不安、という人は、何も留学したり英会話学校などに高い月謝を払うことはない。首都圏にお住まいの方であれば、英語教育系の学会でそのような知見を得たり、実際の訓練をしたりできる場を提供してくれる。年内の開催では、
12月20日(土)英授研関東支部149回例会
で、茨城大学名誉教授の長澤邦紘先生が「教師のための発音クリニック」第二弾のワークショップを、

  • リズム・イントネーションを中心に

と題して行う予定である。私は本業の合宿があり参加できないのだが、そうでなければ、山口から自腹を切ってでも駆けつけ受けたいクリニックである。詳しくは英授研ウェブサイトへ(→ http://eijuken.at.infoseek.co.jp/east.html
また、長い目で自分の音声だけでなく、指導方法までブラッシュアップしたいという向きには、

の門を叩かれることをお薦めする。

本日7限後は自分のクラスの授業担当者会議。詳しくは明かせません。
寮の当番を終え、9時過ぎに帰宅。『七瀬ふたたび』を見損なったことに気づく。妻に尋ねると、

  • 「つづく」、だったよ。

というおきまりの応答に続いて、あらあすじを。

明日は、時間割を上と下に思いきりずらしてもらって、地元の国立大学附属中学校の研究発表に途中から参加します。

本日のBGM: A wave is rolling (The Innocence Mission)