「用事のないところには行くな」

愛車の6か月点検。気になる箇所をいくつか上げ、重点的に見てもらう。
2時間ほど足がないので、歩いて近くの床屋へ。すっかり寝てしまった。
中間試験問題も考えなければならないのだが、『考える人』(2008年秋号;新潮社)を買ってしまったので、そちらで頭はいっぱい。
今年の小林秀雄賞の発表が気になるものの、真っ先に内田樹と井上雄彦との対談。何度も読み返す。内田氏のことばで印象に残ったのは、次の一節。

  • 一番最初に雄叫びや鳥船をするのは、まず自分が今、ここにいて稽古していることの必然性、宿命性を断定しろ、ということなんだと思います。自分は今こんなところで稽古していていいんだろうか、もっと別のところで別のことをしているべきなんじゃないか、そんなことを考えながら稽古しても、まったく意味がない。稽古の時には、今まさにこの時、この場所で、この人と稽古をするために生まれてきたんだというくらいに宿命性を断定しないといけない。(p.128)

もう一つ、

  • 他で習うことも帰着するところはまったく同じですから、ちゃんとした先生について、ひとつの武道をきちんと修めておけば、それだけで十分だと思います。たいせつなことはどの武道でも同じように言及されますから、「なるほど、こういう言い方をするのか」という発見はありますけど。(p.130)

井上氏の発言では、『スラムダンク』の絵が急激に上手くなった話しからの流れで出てきたこの一言。

  • 最初のうちは人間を描くのが精一杯で、その隙間に背景がある、みたいな描き方なんです。でもある時から、空間の中に人がいるように描けるようになる。何か、その世界を含めて描きたいというか…。そういうときにうまくなるような気がします。(p.129)

『バガボンド』連載再開とのこと。
内田氏といえば、折に触れ、村上春樹に言及し、日本の文壇で冷遇されてきた村上春樹がノーベル賞を受賞することで、日本の文壇がいかに世界からとり残されているかに気づいて欲しい、というような発言をしているが、一方ではこれだけ漫画好きで、井上雄彦信奉者を公言しているのだから、ノーベル賞などの「お墨付き」がなくとも、既に新たな世界標準を自らが作り出している漫画やアニメそのものの価値を語ることにもっとエネルギーを割いてみてはどうかと思った次第。

さて、
某局で「読字障害」の特集を見る。少々期待はずれ。米国では10人に1人、日本では20人に1人と単純な割合での比較をしていては「現場」が抱えている問題の肝が見えないのではないか。
日本で広まっているいわゆる活動としての「フォニクス」でも、書字規則としてのフォニクスでも、音韻に馴染むためのphonemic awarenessでも、それだけをやっていれば全て解決するというほどことは単純ではあるまい。唯一絶対の方法などあり得ないし、それを説く指導者には気をつけた方が良い。フォニクスのルールを覚えたら原則的な綴り字の語は初見でも許容できるレベルで音声化できる、と説く指導者は、学習者が初見というか初聞の語をどれだけリピートできるかという、語学教育の水源地にもう一度戻ってみてはどうだろうか?英語の発音は音声だけでも十分に難しいのだから。発音出来るようになった音、その音を含む語を軸足として、自分の立ち位置を確認し、英語ということばの世界での自分の居場所を確保してあげる、そのために使われるフォニクスであれば私は大賛成である。過去ログでも書いた(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060816)のだが、ハイルマンのことばを再度引く。

  • もう一つ大切な点は、初期の読み方指導において、子供を1つの学習法に片寄らせてはならないということです。たとえその学習法がどんなに本質的なものであっても、この原則には変わりがありません。(A.W.ハイルマン/松香洋子監訳『フォニックス指導の実際』(玉川大学出版部、1981年、前書き)

『新英語教育』(三友社)の11月号を書店で立ち読み。
特集は語彙指導。おかじゅんが何か書いているかなと期待したが出ていなかった。萩原一郎先生が参考文献であげていた政村秀實氏の『図解英語基本語義辞典』(桐原書店、1989年)が絶版であることを知る。とても残念。同著者の最近の『イメージ活用英和辞典』(小学館、2008年)、『英語語義イメージ辞典』(大修館書店、2002年)を持っている人は、「イメージ」と謳っているのになぜ、この2冊の辞典には「絵」「図解」がないのか、と思わないだろうか。『図解…』と併せて読むことで、この2冊もより活きてくると信ずる。基本語彙といえば、中教出版の『英語基本語彙辞事典』(1983年)も絶版になって久しい。基本図書と言えるこのような本は、個人で所蔵するのは無理でも、高校であれば英語科の書架には揃えておいて欲しいものだ。山口市内にお住まいの英語教師の方で、勤務校にそういった図書がなく、見ておきたいとか調べてみたいという方がいましたら私までご連絡を。
本日のBGM: Here and Now (Georgie Fame and Alan Price)