王冠!

  • 英語を学習するのに種々様々の効果的な方法がとられてきています。しかし、ちょっと骨のある複雑な英文を理解するとなると、なかなかいい方法が見あたらないようです。英文の途中から、また文尾からひねり回したり、自分の知っている単語の意味を無理に文のcontextにこじつけたり、英文を忘れて日本語の発想で勝手な論理を作ったりすることが少なくありません。こういった失敗を犯さないために、正しい英語の理解はどうやったら得られるでしょうか。/それは、英語を、語られ書かれている順序にしたがって理解していくことです。すなわち、英文を英文特有の組み立て方のままで理解していくことです。英文の構成は、もちろん、日本語のそれとは異なりますが、英語を聞いたり読んだりするときは、英語の組み立てのままで自分の頭にはいるように、頭の働き方の転換ができ、またそれに慣れるようにするべきです。それができてから日本語にするくふうをすればよいのです。

ある、学習参考書の「はしがき」より抜粋した。次のような英文が練習問題として使われている。

  • When we look back in later life and think of those dry, dull lessons we had to learn, then only can we understand how each task, which once had seemed so trivial and meaningless, had its own share in opening our minds, in training our memory, in fitting us for the great struggle of life which lay before us. (Exercise 5)

どんな風に解説されているのかというと、

  • When we look back 「われわれが振り返ってみるとき」look back 「回顧する」例:If you look back, you will realize what great changes the War has brought about.(振り返ってみると、戦争がいかに大きな変革をもたらしたかがわかるであろう)
  • in later life「後年になって」例:In early days the conscience has in most people an acuteness, which in later life is lost.(たいていの人は若いときには良心は鋭敏であるが、それが年齢が進むと失われてしまう)
  • and think of 「そして〜について考える(とき)」何について考えるか。
  • those dry, 「それらの無味乾燥な」dryの次にcommaがあるからといって切ってはいけない。1つにはdryが形容詞であるし、thoseは指示形容詞として次に名詞(複数形の)を従えることが予想されるからである。
  • dull lessons「(それらの無味乾燥な)興味のない学科(について考えるとき)」なお、that [those] で限定された名詞には、よく関係代名詞whichがつく。たとえwhichが略されていてもあるものと予想して読んでよい場合が多い。例:Hers was one of those dreary situations which words could not mend. (彼女の境遇はことばでは直しきれないわびしい境遇でした)
  • we had to learn「われわれが学ばなければならなかった(ところの学科)」lessonsとweの間に関係代名詞が略されていることを見抜くべきである。(以下略)

という具合に、見開き2ページに渡ってどのように「語句/意味のまとまり」と「つながり」を処理するのかを説いている参考書である。今時の「センスグループ」「チャンク」「スラッシュ」でのリーディングとは異なり、読んでいく中で、ここで切るのがよいのか否かを考えながら読み進めるのであるから、なかなか進まない。今時の「長文読解」と比してあまりにも短い英文と思うかも知れないが、このExerciseの後にさらに2ページ分、数題のDrillsが続いており、練習の分量は豊富である。著者はこう述べている。

  • 文の区切り方が完全にわかれば、文の意味はもうほとんどわかっているわけです。それで初めのうちは、この区切り方がわからないことは当然でしょうから、このExerciseでは、ところによっては、この区切りがはっきりしないままに、試みに区切って、それでどういう結果になるかを示したり、またそれではいけない理由を示したりしてみました。

「直読直解」というのはたやすいが、そこでの頭の働かせ方を明示しようとしている点で、スラッシュを既に入れてある参考書や、単なる「イメージ」頼みの最近の参考書・教材とは一線を画するのではないかと思う。
『新クラウン英文解釈』(河村重治郎、吉川美夫、吉川道夫共著、1969年、三省堂)
著者はすごい顔ぶれである。38年前の本であり、現在は当然のことながら絶版である。出典としてはG.S. Fraser, L. Carroll, L. Hearn, S. Maugham, H. Macpherson, J. Ruskin, R.L. Stevenson, J. Huxley, J. Bender, C.C. Everett, A. Schweitzer, Sir Matthew Hale, W. Irvingなどが示されており、名作選といった趣もある。見開き2ページ完結の構成で、ここまでよくまとまっているものは珍しいと思う。知名度の低い参考書だが、英語科の書庫などに眠っているかも知れないので、覗いてみては?
本日のBGM: Your Guess Is As Good As Mine (Ron Sexsmith & Don Kerr)