Reality bites.

答案を全て搬入し、成績処理も一段落。後は答案返却後の微調整のみ。
書店を覗いてから帰宅。
『英語青年』1月号(研究社出版)の連載「リノベーションブルース」(佐藤良明)は高校教師も必読。

  • 彼らは常に正論を書くように鍛えられてきたのであった。並んだ、並んだ、important.

として示される東大の学生の英文をもとに、佐藤は更に続ける。

  • 日本の学校英語には、戦前の『英語青年』の和文英訳問題の、あの道徳的な内容が伝統としていまも息づいているんだろうか。
  • 英語以前に、「自分の意見」というものが見つけられない学生がいることも知らされた。正論はそんなにいくつもないとしたら、それも道理ではある。

佐藤がいうように、これらが東大の学生に共通する英語力の欠陥だとすれば、まず、学生の入り口となる東大の入試問題で、紋切り型の文章で答えるような出題を無くすべきだろう。いくら英語で書かせるとはいえ、解答の語数が70語,80語では、「アクチュアルな経験の世界」を生き生きと描く成熟したnarrative passageなど書けやしないだろう。東大の教師陣が、東大の学生に持っている幻想を打ち砕くことから始めていただきたい。
和文英訳だって一向に構わないのである。手始めに一題、和文英訳の形式を利用して、「紋切り型の、画一的な一般論に過ぎない、ぼやっとした真理みたいな内容の文章」をクラス全体で完成させ得た後で、「では、あなたにとってリアリティのある意見とは何?」と問いかければ済むことである。東大から、外に目を向けて見るべし。全国各地、ちょっと気の利いた高校の英語教師は、そんな試みをもう始めていますよ、佐藤先生!
翻って、自分の授業。期末テストの答案を全てコピーし記録を取る。高3ライティングは、選択問題で、異なる立場を選ぶ設問には全てのパターンの解答例をつけた。活用して欲しい。高2の表現力問題は、生徒の解答の中から良いものを抽出し、コピーをつける予定。

The Atlantic Monthlyの12月号は、”The 100 most influential Americans of all time”という特集。
専門家の選ぶ「詩人の部」は、

  • Walt Whitman
  • T.S. Eliot
  • William Carlos Williams
  • Wallace Stevens
  • Sylvia Plath

の5人。選者は、雑誌Poetry の編集者 Christian Wiman。
Wallace Stevensに関する記述を抜粋。

  • As poetry retreated into the academy, Stevens emerged as the dominant figure of the twentieth century. His influence is at once very deep and very narrow. Scholars and poets know his work inside out, but many educated people haven’t even heard of him. The poems are dense, highly wrought, and full of otherworldly beauty --- a necessary corrective to the Williams-esque plain style. But his work also has a hothouse, overintelectualized quality, which has endeared it to the academy and which contemporary poets would do well to purge. (p.75)

こう言ってもらえると、なんだか、ほっとするものです。今度から胸を張って、「Stevensはよくわかりません」と言えるように準備しておこう。
そうそう、『英語青年』の特集は「インドの英語小説」です。特別記事が「サミュエル・ベケット生誕100年」
ベケットといえば、白水社から別役実の「いじめ」の本が最近(?)新書で出ていたはずだ。もともとは岩波で80年代の終わりに出たもの。私が教師になりたての頃だ。「局所的リアリズム」だっただろうか、別役の造語だろうが、「いじめ」に限らず、教育の問題を考えるときに重要な視点・発想だと今でも思う。
テレビのG+で、「吉右衛門、小学校に行く」というような短い特集があった。吉右衛門は総入れ歯になったのか、滑舌に切れがなかった、というのは私から見た物言いで、実際には、老いに相応しい話し方を身に付けつつあるということか。

  • 瞬時に届く言葉がすべてであるような世に、ゆっくりと届く言葉はしばしばうっちゃらかしにされます。しかし、一人一人にとっての言葉の実際は逆で、そのままうっちゃらかしにされるのはおおく瞬時に届く言葉であり、後にのこるのはむしろずっと遅れてゆっくりと届く言葉です。(「鳶の羽、『魔の山』、欅の木」、p. 153,長田弘『知恵の悲しみの時代』、みすず書房)

本日のBGM: 夜は言葉(友部正人)