特集の美学・実学

昨日は、某社の編集会議。腹立たしいことの多い会議だった。K先生に助けて頂き一定の収拾は見たが、予断は許さないという感じ。
九州イベントから帰ってすぐ、英授研のレジュメのたたき台を作ってあったので、ダブルK先生、U先生の三人からコメントをお願いした。実例をもとに20分でというのが結構厳しいなぁ。大会要綱に書くことは参考として読んでもらって、なんとかやりくりを考えよう。今回、リスニング指導の傾向・流行を探ろうと、『SELHiはこんな授業をしている 英語教育別冊』(大修館書店)を読んだ。リスニングに特化した指導はほとんどなく、スピーキングテストの開発や、普段から音読指導を徹底しているところが目立った。ただ、読んでいるうちにどうしても、「ライティング関連」の記事に目がいってしまう。
この手の実践報告の読みどころは、それぞれの学校の最終コラムである。

  • こうして生徒は圧倒的とも言える英語量に接したと自負している。それがいわゆる英語力伸張にどう寄与したのかを純粋にはかる方法はないかもしれないが、言語習得の本質をなす「量」から来る「慣れ」が今後の生徒たちの英語力にどのような影響を与えるのか、追跡調査を試みたいと考えている。(高知西高校)
  • 「30構文」については、構文演習(例題暗唱、和文英訳など)など単文での指導を多く試みたが、なかなか定着が図れなかった。取り組みとしてはむしろ、自由英作文の中でいくつかの構文を指定したり、構文をもとに英作文を発展させたりする指導の方が効果的かと思われる。(富山南高校)
  • なお残る課題の一つは「英語の正確さ」である。(中略)もう一つの課題は、書くスピードのアップである。一つのessayを2〜3時間かけて書くだけでなく、30分くらいの制限時間を設けて、速く考えをまとめて速く書く訓練も取り入れていく計画である。精読と速読に対応するwriting編である。(横浜商業高校)

高知西は「和訳先渡し」の本家ともいうべき高校。本家がまだ追跡待ちなのに、今も多くの高校が本家に追従しているのか?
富山南は以前のブログでも紹介したように、独自のライティング評価基準を作成している。文構造の習熟、文レベルの正確さといった根本的な課題に取り組む際に必ず、「『自由』英作文」という枠組みを見直さざるを得なくなるだろう。検定教科書は私も参加した某T社のものを使っているようだが、私の執筆した課は飛ばされていた。とほほ…。
横浜商業は「Y校」でおなじみ、神奈川の名門である。国際学科が一クラスあり、ここがSELHiとなっている。成果の検証にGTECを用いており、writingの平均が123/160 というのはかなりの達成度と思われる。ただし、ここでの「精読と速読に対応するwriting」というのは早計であろう。速読では、skimming/ scanningや小見出しをつけるなどtop-down的アプローチが可能であるのに対して、writingはいかにidea generation / developmentの精度を高めたところで、一語一語、一文一文書いて、全体に仕上げていかなければならないのである。Outlineがsummaryではないということの認識が高まることを望むものである。
今回のこの特集ではライティングの指導実践例で、SELHi校の中でもかねてから高い評価をしている香住丘高校が取り上げられていないことが残念である。SELHi指定が終わってからも、その成果を継承・発展すべく意欲的な取り組みをしている高校である。とりわけ、Can-do gradeと statementはともすれば、ACTFL型のproficiency scaleの焼き直しに陥りがちな日本の評価の枠組みにおいてエポックなものであろう。
さてさて、本来文科省がするべきとりまとめをこのような雑誌が行っていることをどう評価するか文科省の方にもじっくり聞いてみたいものである。

特集といえば、福岡からの新幹線の復路で仕事の合間に読んでいたのが、『戦後日本の「考える人」100人100冊』(考える人2006年夏号、新潮社)
この雑誌も創刊4周年。早いものである。英語に関連した英文学・英語学・英語教育学でどんな人が取り上げられているか注目して読んでみたのだが、以下のような人物しか見あたらなかった。

  • 金関寿夫(アメリカ文学者・翻訳家)
  • 小野二郎(英文学者・編集者)
  • 福田恆存(評論家・劇作家)

この特集の100人を選ぶのが45人の有識者なのだが、そこには英語の世界の人は一人もいなかった。
100人のうち、私のセレクションと重なるのは、以下の10名。

  • 植草甚一 / 内田百? / 岡本太郎 / 串田孫一 / 都留重人 / 鶴見良行 / 遠山啓 / 花森安治 / 野口晴哉 / 柳宗悦

打率1割ということか。
橋本治の書いた中村歌右衛門のコラムはなかなかよかったと思う。付録的扱いの井上章一X坪内祐三の対談は蛇足。養老孟司X内田樹の「ユダヤ人、言葉の定義、日本人をめぐって」のおもしろさに遠く及ばない。連載の大貫妙子「私の暮らし方」は立ち位置が見えやすくなってきたか。守宮(やもり)の話から原発に及ぶ。結びの急転直下「だから、そういうことなのだと思う」はかなり強烈な印象。
この特集号、巻頭、巻末などいたるところで入るユニクロの広告が目障り。広告代理店上がりという言い方は失礼だろうが、クリエイティブディレクターがブランディングによって「価値観」とか「人生観」までデザインしていると思うのは思い上がりだろう。