ライティング授業に関わる変数は何か?

今年の夏は、英語関係、英語教育関係の仕事を選ばずに依頼されたものをこなす意気込みでやってきたのだが、結構しんどい。
この後、直近としては文科省後援・ELEC協議会の教員対象の夏期講習会。(8月8日)
「高校ライティング授業のマネジメント」というタイトルを思いつくまでは順調だったのだが、実際にコンテンツを整理する段になって、そのマネジメントに苦労した。受講者が実際に生徒役になって英語を書く作業はほとんど無いと思うが、「モデル文選別と整理」「相互批評」「採点評価」「添削と添削例の提示」「データの蓄積」「テクストタイプ別課題選別と作成」「ディレクション、プロンプト、トリガーの書き方」などからワークショップ形式で活動してもらう予定。このような「実作」を踏まえた上で理論編・概論編として、シラバスデザインとタスクデザインの原理原則、授業企画運営の現実と現状打破を考えます。SELHiなどいくつか、ネット上で公開されている実在の高校の「シラバス」をまな板の上の鯉とするので、もし自分の高校が取り上げられているような場合にはご容赦を。
今回、1学期期末考査の採点を少しビデオ収録した。1学期はnarrative passageからdescriptive passageへの橋渡し。1学期中間は、まとまった量のライティング1題が20点の配点、1学期期末は2題で40点。80語程度という指定に100語近く書いてくる者もいる。夏休みには「表現ノート」の課題を経て、2学期からはdescriptive/ persuasive passageへ。2学期中間では、日本的事物の紹介とことわざの説明の2題で50−60点の配点、2学期期末は高等教育や自立に関わる意見文2題で80点の配点。最後は、80-150語で2題となるので、生徒は解答にあたっては1題にせいぜい20分少々しかかけられないだろう。
どの回も採点評価は一人で行う。全体印象評価で行っているので、Pre-gradingの作業は最近では1枚 (80 words程度) 1分半程度でこなしている。ESL Writing Profileなどのように観点別・項目別評価を整備して、点数化する評価は、高校の定期考査の場合にはなじまないだろう。項目数はどのくらいまでが許容範囲なのか、得点幅はどのくらいまでが許容範囲なのか、はライティング評価論からの信頼性や妥当性よりも、各評価者が何人の生徒をどのくらいの期間で評価するのかに大きく依存しているということを強く主張したい。どんなに美しいスキームで評価の枠組みをたてたところで一人一人の教師がやりくりできない、長続きしないのであれば、その評価の枠組みは役にたたないのである。クライテリオンが流行るというのは、結局、そういうことなのだろう。
私の場合、評価済みの全ての答案をコピーしているが、無作為抽出で、4分の一程度は評価する前にも答案をコピーしておく。これは、intra-rater reliabilityの検証のため。自分の評価の基準にぶれがないか、時々時間をおいて再度評価を行っている。
ここまで見てきただけでも、

  • 授業者(評価者)の数
  • 担当する生徒数
  • 生徒の学年・学習歴
  • シラバスにおける課題の位置づけ
  • 教科書・教材の既習事項との関連
  • 前提となる言語材料
  • 課題の種類(テクストタイプ・分量)
  • 採点評価に当てることのできる時間
  • 全体印象評価・観点別評価
  • 点数化・序列化
  • それ以外の言語・記号によるフィードバック
  • 書き直し・清書課題の有無

などが変数として考えられる。これらの折り合いをどのようにつけて1年間の授業を構築するのか、そして各時間はどのように構成するのかを考えなければ、実際のライティングの授業運営はうまくいかない。異なる学校環境、生徒環境にいる先生方に対して、最大公約数的なtoolを提供するのではなく、とにかく、徹頭徹尾、具体的な事例をもとにワークショップを行い、そこで得た知見を、自分の学校環境でのシラバスデザイン、タスクデザインに活かす方向で進められれば、と思っている。