これでいいのか、高校入試英語問題

昨日は英授研。
会場入りしてすぐにK先生から、「『英語青年』、書店で売り切れでさあ、まだ読んでないんだ。」と声をかけられる。K先生なら、大学入試批評に鋭くつっこんでもらえるかなと思っていたのだが、またの機会に。会員になったのと、K先生に誘われたのをいいことに、調子に乗って懇親会にもお邪魔した。関係諸氏、ご迷惑をおかけしました。
今回の講演(?)は、高橋一幸氏(神奈川大学)による「教科書検定を考える」。検定制度ではなく、教科書執筆編集に関わる視点・哲学などを熱く語るもの。付録に付いていた「平成18年度版中学英語教科書各地採択結果」を見たが、採択制度をなんとかしないと、著者の苦労が報われないだろうなぁ。著者をやっていれば、確かに採択が伸びれば嬉しい。会社もそうだろう。ただ、ある県では、どの地区も特定の一社の教科書しか使っていない。そして、そんな県が一つではないのだ。北からみていくと、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、福井県、愛知県、滋賀県、鳥取県、香川県。しかもその全てが、同じ出版社。営業部の壁面に区域が割られた日本地図があって、採択地域は赤で彩られ旗が立っていたりするのだろうか?
ある都道府県で、統一シラバス、統一評価基準を作成する必要上、その都道府県すべての公立中学校で同一の教材を使わなければいけない、などという理由があるのだとすれば私も我慢できるが、どうやらそうではなさそうだ。先日(3月17日)に報道された「特殊指定」廃止の方針を考えると、中学校の教科書採択には大きな不安を感ぜずにはいられない。(「特殊指定」廃止、に関しては→http://www.asahi.com/national/update/0316/TKY200603160359.html
英語教育に関して「世間」に知らしめていないことはまだまだ多い。
この時期、公立高校の入試も一段落だろう。
大学入試英語問題に関しては『英語青年』4月号で取り上げられているが、公立高校の入試問題というのは、最近きちんと批評されているのだろうか?高校でのライティングに関わる発表をする際に、「全国の公立高校入試を広く眺めると、既に多様なライティングの出題が取り入れられていることに気が付きますよ」という趣旨のことを述べているのだが、公立高校の先生は自分の地域の入試問題しか知らないことが多い。最近の東京都立高校のように、独自入試といって、公立高校が自分の高校の入試問題を自分の所で作っているところもある。限られた人的リソースの投入という制約を鑑みた時、健全に入試作問批評がなされる必要性は高いだろう。
ということで、名門、都立日比谷高校の18年度入試問題を取り上げる。高校批判が目的ではないので誤解なきよう。
出題方針・解答も含めて、http://hibiyaweb.web.infoseek.co.jp/annex/exam/H18/index.html からpdfファイルでダウンロードできます。(このサイトが同窓会関係のサイトであって公式サイトでないことにはちょっと驚いたが…。)
大問は3つ。1.はリスニングなので都立高校共通のはず。2.は対話文の長文に基づく出題。3.は物語文に基づく出題。
2.の対話文長文に関しては、独自入試を行っている都立高校に共通の枠組みらしく、とにかく長い対話を「読まされる」のだ。このブログでも、大学入試の事例として首都大学東京の出題を批判した(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060112)が、コミュニケーション志向を打ち出したいのであれば、リスニング問題こそ充実させるべきである。
高校入試の物語文は読み物として考えた場合には高校での速読用教材として重宝するのだが、この日比谷の出題はいただけない。約1000語の文章。
設問で最も感心しないのは、問2.
a.からf.までの6つの空所に、対話文を補充して、対話を完成させるもの。対話は連続している。しかも6つも。さらに、解答方法は、正しい組み合わせを選んで記号で答えるもの。(ここに転記するのも腹立たしいくらいの設問なので、是非実物を見て下さい。)知性とはおよそ無縁の認知負荷を要求する。しかも、その設問は問題の中程にあるため、この対話が全滅だった受験生は、そのあとに続く文章の読解に大きく支障を来すことになる。
問1.でもセリフが1カ所空所になっており、そこに4つの選択肢から1つ正しいセリフを選ぶ設問があるのだが、この問1と問2が同じ配点(4点)なのですよ。私なら問2を捨てるね。
問3.では、本文中の一文に下線を引き、物語とは別に、登場人物の日記を持ち出し、その日記の記述を完成させるもの。
問6.では、本文の内容と合う英文を5つのうち1つだけ選ぶもの。約1000語あって、そのうち真ん中でセリフが6つ抜けているんですよ。その文章をもう一度読み直して、一つ選ぶの?
問7.は本文の主題に関わるいわゆる「自由英作文」。30語以上で答えるもので、配点は12点。採点基準は例によって非公表。
この約1000語の物語文に、語句の注が21個です。指導要領では必修語は100となっているので、注をつける語の目安は検定教科書7社で3年間に一度も扱われていない語ということになるだろうが、もしそうだとすれば、はじめの40語、50語を読んでいてわからなかった語がある受験生には、文章の900語ほど先、一番最後についている注を見て、さらに本文にもどってという作業を課しているわけである。注をつけなければならないような長文を出したいなら、傍注(側注)にしたらいいだろうに。この注の実数の多さは、日比谷高校に限らず、独自入試を標榜している都立高校に共通する問題である。「未習語の割合は50語に1語なのだから、200語の文章で4語に注が付いているのと同じことでしょう」とか「確かに難しい語は入っていますが設問には直接関係ない語で、しかも注がついているんだから受験生は読めるでしょう」という理屈なのだろうか?
関係者の猛省を促したい。