国公立大の個別試験(前期日程)が始まり、「ライティング」関連の出題でSNSも賑わっているようです。
今年度からは純粋に「学習指導要領新課程一期生」の受験する個別試験ですので、科目の区分としては、「コミュニケーション英語」と「英語表現」に対応するものと考えるのが適切なのでしょうが、巷では「英作文」「自由英作文」という括りで語られているようです。私は解答の様式が「ライティング」なので、以下「ライティング」として述べていきます。用語に関しては、お読みの方が適宜、ご自分の都合のいいように変換して下さい。
「呟き」の方でも持論を述べていましたので、いくつかをこちらでも。
まずは、「パラグラフ・ライティング」の定石を踏まえた指導を求めるもの。
入試のお題作文で「結論」は繰り返さなくて良い、などという指導者がいるようなのですが、「結論とはどんなものか?」を理解した上で指導して欲しいものです。 結んで開いて、その手はどこへ? - 英語教育の明日はどっちだ! (@tmrowing) http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120705
次に、分量と形式・構成のトレードオフを考えるもの。
高校以上の段階でのライティングでは分量を増やせば、採点により時間がかかるというジレンマに。書かせる分量を抑えつつ、完成する英文のつながりまとまり を保証するには、序論&結論を与えて本論を書かせる、序論&本論を与えて結論を書かせる、本論&結論を与えて序論を書かせるというのが次善策。
その具体的な指導手順を示している数少ない概説書がこちら。高校編は私が担当しています。
『パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために』
大井恭子編著パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)
- 作者: 田畑光義,松井孝志,大井恭子
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 2008/08/20
- メディア: 単行本
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特に着目して欲しいのは、後者で示した『…指導入門』でのシラバスの元になる私自身の授業・課題での指導例です。
巷でよく言われる「テーマ別に意見を書かせる」ことからは始めませんし、「トピックセンテンスを書く」ことからも始めていません。
過去ログでも書いたことですが、
とかく、大学入試の「自由英作文」対策では、意見文・説得文の過去問添削作業に終始しがちだ、という実感があったからこそ、『パラグラフ・ライティング指導入門』では、かなり力を入れて、
• 「ナラティブ;語り文」が小学生の絵日記レベルから脱するには時間がかかるからこそ、シラバスの初めに扱う。
• 定義する、描写する、事実を書く、グラフを書く、といった「説明文」は、和文英訳の形式を利用してでもしっかりと練習しておく必要がある。
ということが分かるように指導例を配置していましたが、まだまだ、このような指導法や指導の観点は広まっていないのが現状です。「テクストタイプ」に着目し、さらには指導過程にも配慮・留意して、入試の「英作文・ライティング」の対策をしている教室の方が少数派でしょう。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/comment/20130401
ということを意識して、テクストタイプで言えば、narrative →[A]→ descriptive/expository →[B]→ argumentative という流れでシラバスを組み、それぞれのマージする、「汽水域」のような、[A] ではobituaryを、[B] では、グラフ・図表を描写・記述してからの意見陳述を入れています。
「パラグラフ・ライティング」の定石にしても、序論&結論を与えておいて、生徒には本論のみを書かせる、序論&本論を与えて結論を書かせる、本論&結論を与えて序論を書かせる、という段階を踏んで、テーマを発展させています。当然、完成した英文は序論から結論まで再読や音読、筆写(視写)などを課して、「つながり」と「まとまり」のある「より良い英文」がどのようなものであるかを理解・受容する機会は作ります。
「つながり」と「まとまり」を保証するに必要な分量を確保しつつ、実際に生徒に書かせる分量にはある程度の制約を加え、なおかつ、与えられた英文によって、補充すべき英文の語彙や表現の選択や構文・文体への配慮も加えることが出来る、という「美味しいとこ取り」のシラバス、指導手順なのですが、
- 実際の授業の中での教師・生徒のやりとり、生徒間のやりとりを経て完成形へと近づく。
- ただお題を与えるのではなく、必ず「資料」や「読解・聴解素材」を元にテーマ関連語彙を共有する。
- テクストタイプごとのアイデアジェネレーションをクラスで共有しドラフトを書く。
- ドラフトの段階では教師によるフィードバックを与えると共に、ドラフトの中からテクストタイプごとに求められる重要な定型表現(とその誤用)を教師が拾い出して整理し、リバイズする前にクラスへ提示する。
- 30人強のクラスの中から、5〜6作品を選び、フィードバックを与え、アイデアジェネレーションの段階まで戻っての見直し・考え直しと部分的な書き直しとを考えられるようにハンドアウトを作成し配布する。その際、優秀なものを一つ必ず選んでおき、クラス全体で「どこがどのように良いのか」を確認する。
- 語彙や主題への収束がある程度の幅に収まるような教師のお膳立てを活かして、リバイズの原稿を生徒間で相互FBし、最終の書き直しへと進む。
というプロセスを重視したアプローチでフィードバックをしてきたからこそ見える地平を示しています。(詳しくは同書、または同書の元になっている私の授業の記録でもあるこのブログの、2005年度&2006年度の高2&高3実践例をお読み下さい。2004年度はライティングという科目を担当していませんでしたので、高3はプレゼン&ディスカッションでした。)
今年の入試問題 (国公立大学前期日程) でも、きちんと「ライティング」に取り組んできた者が報われるような出題がいくつか見られましたし、「授業ではあれだけやったのに、一体何の役に立ったんだか…」というような出題も見られました。問題は、「英語力の有無で弁別できる出題か否か」というところでしょうね。
以下は、あくまでも「出題」に関する印象批評です。
自分のところの生徒が受験していたら悩むだろうなぁ、という「悩み処」には言及・指摘をしていますが、解法の伝授ではありませんし、模範解答も示しませんので誤解無きよう。
SNSでも大きな波紋を生んだのは、何といっても京都大。定番の和文英訳の他に、対話文という縛り・条件設定があるとは言え、和文英訳ではない「内容を受験生が考えた上で英語で書く」という設問がありました。
「積ん読」という言葉をめぐる次の会話を読んで,空欄 (1)(2) に入る適当な応答を,解答欄におさまるように英語で書きなさい。(25点)
Dolly: I see that you have so many books! You must be an avid reader.
Ken: Well, actually, I haven't read them. They are piling up in my room and just collecting dust. This is called tsundoku.
Dolly: Really? I've never heard of tsundoku. Can you tell me more about it?
Ken: ( 1 )
Dolly: I can understand. What are your thoughts on tsundoku?
Ken: ( 2 )
「はてなダイアリー」では下線が出せないので、空所でご容赦を。
「積ん読(つんどく)」にまつわるDolly とKenの対話で、KenがDollyに「積ん読とはなにか?」「それをどう思うか?」を述べるものです。
漫才に見られる「ボケとツッコミ」を入れる or 入れないが得点に反映されるのかは分かりませんが、
- Can you tell me more about it?
に続いては、ただ定義を書くのではなく、その前では十分に述べられていない情報を盛り込み、「積む」「読む」さらには「〜しておく」という日本語の表現を、ある程度客観的・一般的に書くことが求められるでしょう。その意味では、ちょっと要求水準が高いかもしれません。以前の東大の出題に近いものがありましたね。
『パラグラフ・ライティング指導入門』で言えば、pp. 169-180での「2-5. 日本語の慣用句、ことわざを英語で説明しよう」で詳述されている、
a. 文字通りの意味
b. 具体的な使用場面
c. その場面での意味・教訓
という手順が活かせるでしょう。解答用紙のスペースとの戦いが気になるところです。
それに対して、
- What are your thoughts on tsundoku?
では、「積ん読」に対して肯定的な個人の意見・感想を書けば良いでしょう。
単にお題に答える「ライティング」ではなく、turn takingのある対話を作るという設定ですから、「話しことば」により近いものを求めているのでしょうか?英文が与えられてはいるものの、Dollyの方が英語の習熟度が高い、より英語ネイティブに近い存在、でKenの方が日本人学生・生徒という設定とも考えられなくはないですから、Kenが話す英語がある程度拙くても、意味が適切に伝えられるものであれば許容されるのではないでしょうか?
そうそう、冒頭での Dolly の言った "an avid reader" での avid という語彙選択をちょっと考えていました。まさか、もともとの意味である、"to want to have (something)" に絡めて「積ん読」ではないよなぁ…。
ともかく、大きな変更と言えるでしょう。
東北大では、携帯の貸し借りから始まる対話を読み、「スマホの功罪」を巡っての二人の意見を分類し、問1での内容理解を問う設問。それに続いて、問2では「お題」に答える形で論述するargumentativeなテクストの中での理由付けを求めるという出題でした。
上述の『…指導入門』で示したプロセスで言えば、「序論を与えておき、本論での理由づけを書かせる」という指導が生きる出題です。
とは言え、テーマとしては目新しいものではありません。先日の私のエントリーでも岡山大の2012年の問題を取り上げていたくらいですから。
注目すべきは、問2の「お題」での制約です。
Do you believe smartphones help you save time or waste your time? Give at least two reasons not mentioned in the conversation.
対話をよく読み、「そこで発言されていない理由づけ」を考えて「どちらかの立場で意見を述べる」ものとなっています。内容理解を問う設問が問1として課されていることの意味がわかっていない受験生はいないと思いたいのですが…。
一方で、「ライティング力をつけてきたことが必ずしも報われない」「どちらかというと報われ難い」設問もあります。
誰もが注目する東大の出題を見てみましょう。
相変わらず不思議な出題です。
大問の2が「ライティング」系の設問。(A) はこのところお気に入りなのか、イラストや写真を与えて、自由に述べさせるもの。今年は、「画像について、あなたが思うことを述べよ。全体で60〜80語の英語で答えること。」という条件設定。昨年度、一橋大で出題された「モノクロで示された西洋絵画の描写」(過去ログ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150305 参照) のように単純 (であって平易ではない) な描写ではなく、「個人の感想、評価」を書けばいいので、その採点基準をどうしているのかは謎。
もし、画像について正確に英語で描写してから、「これは超つまんない画像ですね」って感想を書いても点数もらえるのか「?」です。
それに比べると、大問2の(B) の「お題」作文の方が与し易いでしょうか。動物生態学などのジャンルに分類されるであろう「解説文」を2段落分与えて、それに続く結論の段落を書くことで、所謂expositoryな文章を完成させるもの。この2段落分与えられた英文が、結論で書くべき英文のレベルを規定しますから、「中学レベルの英語で誤りなく書く」だけでは不十分ではないかと思います。
前述の京都大の「対話文」の登場人物設定と比較して考えると面白いですね。
次の文章を読んで,そこから導かれる結論を第三段落として書きなさい。
全体で50〜70語の英語で答えること。
In order to study animal intelligence, scientists offered animals a long stick to get food outside their reach. It was discovered that primates such as chimpanzees used the stick, but elephants didn't. An elephant can hold a stick with its trunk, but doesn't use it to get food. Thus it was concluded that elephants are not as smart as chimpanzees.
However, Kandula, a young elephant in the National Zoo in Washington, has recently challenged that belief. The elephant was given not just sticks but a big square box and some other objects, while some fruit was placed just out of reach above him. He ignored the sticks but, after a while, began kicking the box with his foot, until it was right underneath the fruit. He then stood on the box with his front legs, which enabled him to reach the food with his trunk.
単なる実験結果を述べるのではなく、その結果を受けた「考察」が求められているのだとは思うのですが、「仮説の提示」まで含めるかどうか悩む受験生もいたのではないでしょうか。
「困った時は主題に戻るのが一番」ということで、この文章の主題を第1段落で押さえておくのが先決かな。そこから、 stick とbox はanimal intelligenceを調べるための「何」として用意されたものか、を考えれば、
「ある道具を使ってある目的を遂行することができるかで知能の優劣が分かる」という過度の一般化は難しく、「道具」と「目的」と「動物(の機能)」とのマッチングによって「結果」が異なる可能性を考慮に入れなければならない。
というような内容でまとめることも可能でしょう。
狙いは面白かったのだけれども、設定にちょっとムリがあったかな?というのが神戸大。
神戸大は以前、素晴らしい出題をした後、期待を裏切るような出題形式・内容の変更をしたのですが、今年も変更としては大きなものになっています。今年の出題は、「新傾向」で戸惑うということとよりも、その出題・作問という観点で、大学側に訊きたいことが多々あります。「出題の意図」の公表では不十分で、やはりきちんとした「正答例」を公表することが、今回の出題を正当化するためにも望ましいと思いました。
大問の4が全文英語による指示となっています。
IV Follow the directions for (1) and (2) below. All answers must be written in English, (配点25点)
配点は五分の一。時間配分も五分の一で済めばいいのですけれど…。
問題はこんな状況設定です。
(1)
Situation: Two friends, Chris and Kim, find that they are lost after walking for a long time in a forest. They have no maps, no phones, and no clear memory of the point at which they lost their way.Directions: Complete the conversation below by filling in the blanks (A) to (D). The number of words used in each blank should be within the word limits indicated.
Chris: I guess it's safe to say that we're lost. What should we do now?
Kim: ( A ) (10 to 20 words)
Chris: No. That's not going to work because we do not have the right stuff.
Kim: You're right. That's not a very good idea.
Chris: ( B ) (10 to 20 words)
Kim: What? Are you joking? That's really ( C )!! (1 word)
Chris: Well, how about ( D ) (10 to 20 words)
Kim I like the idea. Let's try that!!
(2)
Situation: The map below indicates where Chris and Kim are currently located. They started at the Camp Office and originally planned to go to the Mountain Hut, but they did not make it there.Directions: In 80 words or less, describe the route that you think they took to get to where they are now. In your description, include two occasions where they failed to follow a route that would have taken them to the Mountain Hut. (NOTE: The map does not show which way is north.)
(2)での重要な情報である地図は、本日のエントリーの冒頭に貼っておきました。
詳細はこちらなどから。
私は最初にこの問題を見た時、まず、(1)と(2) を概観して、(2) の地図を踏まえて、(1) では、所謂「仮定法」を用いて、「あそこで〜するべきだった」「あそこから〜に行くべきではなかった」と後悔を述べさせるものなのかな、と思ったのでした。でも、実際には指示にある通りの設問です。
(2) の地図を見てもらえば、「彼らの現在地」に続く可能性のある「徒歩可能な道」で、「目的地の Mountain Hutを通過しない道」はすぐに特定できると思います。
「Big Lakeに沿って、Tall Treeを右手に見て、線路を越え、古い橋を渡り…」、という部分を丁寧に英語で記述するのはまあ、「時系列に沿った説明」ということで、narrative & descriptiveのテクストを書かせる出題と考えれば妥当でしょう。
指示にある条件の「2ヶ所」ミスを述べるには、そもその最初のRoadを超えた後の選択ミスで1つ目,線路側へと右折してしまったところのミスで2つ目となるでしょう、まあ、時間との兼ね合いで、完成度は変わってくるでしょうが。
ただ、地図だけを見て考えると、なぜ線路を越え、橋を渡ったあと、大きな道に沿って進まず、「道なき道」をわざわざ進んだのかが謎。山道と旧道と新道とか未舗装路と舗装路とか区別があるならまだしも。縮尺なども書いていないのでどのくらいの距離を進んだのかも謎。
そもそも目的地のMountain Hutの周辺には山が描かれていないのに、二人が道なき道を丘や山の方に向かって進んでいるのも謎。「だって、富士見丘は富士山にはないでしょ?」と言われたらそれまでだけど。謎だらけで迷いそう。このno trail のエリアに、小川でも流れていたら、支流はより低地へと流れて本流へと合流するから、突破口になりそうなのになぁ…。
(1) の対話で気になるのは、10語から20語という設定で、句読点が空所の外にない部分。
2文以上に分けて書いてもいいわけです。
そう考えると、空所の ( C ) のKimのセリフ。この1語の発話のあと、なぜそれが ( C ) なのかの根拠を示さずに、Chrisは納得し、( D )で代替案を提示しているところは要注意。ここは情報の提示を二段階で行わないといけないのでしょう。
私の入手した資料では、このChrisの セリフの最後には句読点がないので、how about [d1]? での提案のあと、その理由・根拠を[d2]で補って「[d1]じゃないと[d2]だから、Kimが[C]と思うのも当然だよね」とでもいうような、対話のつながりを作る必要が出てきます。ここが難しいと思いました。
でも、「卓袱台返し」になりますが、「どこで道に迷ったか定かではない」という記憶の二人が、そもそも、橋(川)と線路を渡ったことやその順番を覚えているものなのでしょうか?
受験生やその保護者、指導者は大学側・作問チームに説明を求めていいレベルの出題である気がしますけど…。
本日はこの辺で。
本日のBGM: Teenage Wildlife (David Bowie)