広島に行こうかとも思っていたのだが、妻が出かける日なので、娘と留守番。
今年の気になる出題シリーズ(?)の続きを。
東京慈恵医大でのイディオムの出題。
「失礼とは存じますが、スミス博士、私はあなたのご提案は受け入れられません。」
- With all due respect, Dr Smith, I cannot accept your proposal.
で、dueを答えさせる問題。書き出しの文字dは与えられている設問です。
このイディオムに見覚えがありませんか?
入試頻出?TOEICで出た?確かに、よく目にし、耳にする表現かも知れません。私は『ロイヤル英和』(旺文社、1990年)の校閲で教師になってから初めて見ました。
ちなみに、COCAによれば、
- with all due respect 701ヒット
- with all respect 89ヒット
- with due respect 46ヒット
- with the greatest respect 12ヒット
ということですから、セットフレーズとしては、この形がby far the most commonなのでしょう。ただ、私がここで「見覚え」と言っているのは、入試の既出とか頻出とかそういうことではないのです。
この表現は「Oxford大コーパスで選ぶ、最も気に障る英語表現」のランキングに入っていましたよね、ということです。
とある英語学習サイトで、この記事そのものをタスクにしているところがありますので、ご参考までに。
(http://www.newsflashenglish.com/050109irritatingphrases2.html)
手元に今、イディオム辞典がほとんどないので、少々古いのですが、Oxford Dictionary of English Idioms (1993) から定義を。
- respectfully; not insolently, nor dismissing another’s authority, opinion, knowledge, experience etc
となっています。形容詞のコロケーションとしては、『ロイヤル英和』同様、all, due, the greatestを示していますが、センテンスの用例では、with respectとwith all respectの例しか示していません。
NODE(初版)では、成句でwith respectまたはwith all due respectとして次のように定義し、用例をあげています。
- used as a polite formula preceding, and intended to mitigate the effect of, an expression of disagreement or criticism: with all due respect, Father, I think you’ve got to be more broad-minded these days.
おもしろいのは、Webでサクサク引けるようになったMacmillanの新しい辞書(http://www.macmillandictionary.com/)。
with all (due) respect or with the greatest respect で引くと、
- used for showing that you are about to disagree with someone or criticize them in a polite way: With all due respect, I think you’re missing the point.
という定義と用例なのですが、これが、with (all) due respectで引くと、
- used when you are going to disagree with someone or criticize someone, in order to sound more polite: With due respect, is that question relevant?
となっていて、定義文が微妙に違っています。
とまれ、今回の出題の可否・是非以上に、受験生の正答率が知りたいものです。
ライティングの観点から言うと、今年の国公立大入試では後述する参考書や受験雑誌などで力説されているほど「意見論述」や「事物説明・詳述」などの「自由英作文」の出題は多くありません。依然として和文英訳の形式が主です。そのようなトレンドに背を向けるかのようで、私がいいなあ、と思う出題は、
- 千葉大の前期、教育学部の中学校教員養成課程・英語専攻での出題。昨年に続き設問のバランスがとても良いです。英語を書かせるばっかりじゃないかって?だから英語力がわかるんじゃないですか!
- 東大・後期。課題文をただ読むだけでなく、1英文につき、80-100語での論述が2題、計4題で、総計320-400語の英文を書かせるという要求です。
巷の受験指導のように「20分で、中学生レベルの英語で書く」、ということを求めるのではなく、こういう出題に対して、きちんとした解説を加えて、「より良い英語で書く」ことを高校の英語授業で指導したらどうかと思うのですね。
一橋大・前期の出題は今年も3つのお題から一つを選ぶものでしたが、そのうちの一つ。
- Japan is a rich country.
というトピックに関して、大手予備校の示す解答例を読んで頭を抱えました。どの例かは調べてもらえばわかると思いますが、これはライティングのトピックなのであって、このお題を選んだ受験生が、I don’t think that Japan is a rich country. などと書き始めてしまってはダメでしょう?あくまでもトピックでの “rich” の論証責任を果たすことを求められていると考えるのが建前であって、 勝手に ”Is Japan a rich country?” などとするのは反則ではないかと思っています。全英連の作文コンテストでも、「題を変えないこと」というのが明記されるようになって久しいと思うのですが、この部分はどの程度、予備校の指導で徹底されているのでしょうか?
私はかねてより予備校や参考書などの示す解答例や模擬試験の模範解答の「論理性」を批評していますが、揚げ足をとるとか、悪口を言うことを目的としているわけではありません。英語の「ライティング指導」が日本の高校段階、しかも授業の中にしっかりと根付き、定着するにはcritical thinkingの指導が欠かせない、と思ってやっています。
高校の授業で「ライティング」を適切に扱うことと大学側が解答例としての英語を示すこと、これしか改善の方策はないと考えています。ということで、大学入試の英作文関連で最近出たと思しき参考書3冊を精査したので、一応、書名も上げておきます。
- 関正生『世界一わかりやすい英作文の授業』(中経出版、2008年)
- 原田健作『自由英作文が面白いほど書けるスペシャルレクチャー』(中経出版、2008年)
- 河村一誠『もっと減点されない英作文 実戦後略編』(学研、2008年)
一般論として、和文英訳対策も含めて一冊をやるなら、『大矢本』が、「自由英作文」というよりはエッセイに重点を置きたいのならGTEC Writing Training(ベネッセ)の方が英語力増強に確実に繋がるとだけ指摘しておきます。
大学入試のいわゆる「自由英作文」指導のためにも研鑽をしようという若手英語教師の方は、手前味噌ですが『パラグラフ・ライティング指導入門』(大修館、2008年)の第4章と資料編の大学入試の部分をまずはお読み下さい。「読まなくても良いから5冊買って下さい」とは言いません。是非とも、お読み下さい。
日本人・日本文化独特の発想を英語でどう捌くか、というのであれば、
- 山岸勝榮『英語になりにくい日本語をこう訳す 日本語的発想・英語的発想』(研究社、1998年)
が英語教師必読でしょう。Things Japaneseに関しては通訳ガイドの(資格を持っている)方のご意見もお聞きしたいと思いますので情報をお待ちしております。
そうそう、先日の九州大の英英要約問題ですが、進学校の先生から情報が寄せられ、意外にも「S1でも十分合格ではないか」とのことでした。受験指導は悩ましいですね。
情報は引き続きお待ちしております。
本日のBGM: それが本当なら(真心ブラザーズ)