本日は卒業式。
3月だというのにまさかの雪。しかも大雪。さらには最低気温が氷点下。
前日から降ってはいたのですが、明けた当日朝からまた降雪でかなりの積雪&気温が低く橋や山間部などでは凍結による事故や渋滞も。
スクールバスも30分近く遅れるなどヤキモキしましたが、卒業式は予定通り挙行。教室に帰って、一人ひとりへの卒業証書の授与も滞りなく終了。保護者の皆さんにもご挨拶。主任からも一言をいただき、最後は黒板の前で記念写真。
クラスからは大きな花束をいただきました。ありがとうございます。
この後、前期試験の合否発表が控えていますし、後期試験や3月入試に臨むものもいますので、心身の健康を第一に。
大きな節目を超えた感慨に浸る余裕もなく、明日からは高1、高2の学年末試験がスタート。
現在作問祭りの小休止です。
前回のエントリーで、国公立入試・前期の出題から、気になった出題を取り上げていましたが、京都大の「積ん読」での解答欄のスペースで情報をお寄せいただきました。多謝深謝。
それぞれ、解答用紙の行数が7行あるそうです。(2016-京大解答用紙英作文.pdf )
7行x 2 =14行。1行に平均8語とすると、7行で50語強は書けるスペースが与えられているということですね。結構、書かないとダメなんだなぁ…。
前回、かなりの分量をとって疑義を呈した、神戸大の、例の「地図」の問題。
予備校等で公開されている解答例がなかなかに面白いので、比較検討してみました。
各予備校の公式サイトは無料でアクセスできると思いますから、詳細は皆さんの方でご覧いただくとして、(1) の対話完成から「解答に求められる要素・条件」を検討してみましょう。
まず、最初の空欄、(A) に入るべき情報は、そのアイデア・提案に対して、「そもそも論」でのダメ出しがでるような内容でなければならないでしょう。
その決め手となる「文脈」は、
- we do not have the right stuff
ですね。ここでの the right stuff というのは、「コンパスとかライターなどの『道具』」ではありません。
- the necessary qualities for a given task or job (ODE)
- Becky’s got the right stuff (=qualities that make her able to deal with difficulties) to become a good doctor. (LAAD)
- the qualities needed to do or be something, especially something that most people would find difficult (Cambridge English Dictionary)
言ってみれば、この文脈では、「(こうして今、道に迷っていることでわかるように)私たちは適性がないんだから」という自覚を述べているところではないでしょうか。乱暴に解釈すれば「方向音痴」とでもなりましょうか。
とすれば、この最初の (A) には、
「いや、来た道を振り出しまで戻ってやり直そうよ」とか「大きな通りに出るまで真っすぐ進むのはどう?」などという、現在の状況を弁えない身の程知らずな提案が考えられるでしょう。
「おいおい、それができるくらいなら、今、道に迷っていないんだよ!」というツッコミがはいるところです。ここがよく練られていないと、最後の (D) で、「やっぱり引き返そうよ」などという極めて愚かな提案を、相手に受け入れさせることになり、プロットも対話も破綻します。
次の (B) での提案は、更に強い「否定」、瞬殺での「却下」を受けています。上述の「方向感覚」「カン」「観察力」「推理力」などといったものの有無、というレベルを超えて「考えとも呼べないくらいお粗末な考え」や「より生命の危険にさらされる可能性のある提案」が示されるというのが私の読みでした。
例えば、
- 「たき火をして烽火を上げて誰かが気がつくことを期待する」→「山火事でもっと大きな災害になる可能性があるので却下」
という流れは、遭難者の行動としてありそうな気もしますが、「地図や携帯など(そもそも、山に行く人なら身につけるであろう装備)を持っていない二人」なので、火を熾せる道具を携帯している、というのはあくまでも希望的観測でしょうね。
道具がなくても達成可能な課題としては、「山は見えるのだから、高い方へ高い方へと山に登って、見晴らしの良いところまで行って、要所までのルートを確認する」というのが考えられなくもないのですが、そもそも “no trail” のエリアにいる彼らが山まで登って大きな道路や川や線路、さらには遥か遠くのはずの "Mountain Hut" が見えたとして、その見晴らしのいい場所(山腹?山頂?)から、道路や川や線路までの下山ルートは存在するのか、地図を見る限りでは難しそうです。(そもそも、この丸腰とも言える二人はなぜ "Mountain Hut" に行こうとしていたんでしょうか?山には登らず、お土産だけ買うとか?)
しかも、山まで移動する間にも時間は過ぎて行きますから、早めに動かないと、「見晴らし」を得ようにも、日が暮れて見えにくい、または、下山の途中で日が暮れて更なる遭難、もあり得ます。
私が考えた解答例をこちらに書いておきます。
満点は貰えずとも、A-Dで対話が成立する程度まで矛盾を極力減らしたつもりです。
神戸大学さん、これだと何点くらいになりますかね?
A
We crossed a railroad and a river, so let’s go in a direction till we get to either of them. (20 words)
B
Why don’t we come down lower and lower until we get to the river? There we can swim across. (19 words)
C
dangerous または risky
D
(how about) coming down and down to make a turn at the river? We will sure find a bridge somewhere along it. (20 words)
「ライティング系」の出題って、まだまだ可能性も改善点もたくさんあるんだなぁ、って改めて実感します。
さて、
前回取り上げていない大学から、興味深い出題を。
長らく「ライティング」を出題し続けてきた一橋大が思い切った出題をしています。
「三題からの選択」という形式は同じですが、今年は「写真」「絵・イラスト」を3つ与え、そのうち一つを選んで書く、というもの。
お題の指示に注目・要注意です。
Choose one picture. Write 100 to 130 words of English about this picture. Indicate the number of the picture that you have chosen. Correctly indicate the number of words you have written at the end of the composition.
となっています。指示は、 “to write about this picture” です。
昨年度の「ルノワール」のお題はどうだったかというと、
- Write a description of this picture.
でした。ということは、今年のお題は「描写」に限定されない、ということでしょう。昨年度の出題に苦言を呈したように、「モノクロ」の写真で「素材感」「質感」を捉えるのはなかなかに難しいのです。再読に値するエントリーですので、特に冒頭のモノクロの画像とエントリー中のリンクからDL可能なカラーの画像との比較をして欲しいと思います。
What will become of us?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150305
また、”Tell a story about/based on this picture” でもありませんから、かなり自由度が高く、その分、「何を書いたら、100語から130語でつながりとまとまりのある英文になるのか」、ちょっと悩むでしょうか。
短絡的に、
- 「東大型」へと接近したので、「よし、創作だ!」
というのもあまり賢明ではないように思います。「写真」や「絵」の中から、「テーマ」や「主題」「モチイフ」を拾い出せれば、今までの出題と同様の、「テーマ作文」や「意見論述」へと引き寄せることだって可能でしょう。そのような資質 (the right stuff) を備えていることを見せる格好の機会かもしれません。
絵や写真をもとにした出題というのは、「和文英訳」に対する批判を躱す狙い、目論み、欲目があるのかもしれませんが、アイデアジェネレーションの段階は日本語で思考していたら、大した意味を持ちませんね。
注目の出題が金沢大。何と、全問が英問英答です。思い切りました。
そのうち、大問のIIIがイラストを元にしたライティング。
III
Write a story in English about the picture below in 80-120 words. The story should be creative and include all the following points:
・ Who the people are, and their thoughts and feelings (who are the characters and what are they thinking and feeling?)
・ The current situation (what is happening in the picture?)
・ The past events (what happened before the event in the picture?)
・ The future outcome (what will happen after the event in the picture?)
(Illustration by Ivan Lapper in Robert O'Neill, lnteraction. p. 23, Longman [1976])
イラストは、比較的若い女性と思しき長髪の人物が手前に、比較的年配の男性と思しき人物が奥に、テーブルを約90度で囲む位置で座っています。テーブルの上にはコーヒーカップが二客。男性と思しき人物は右手でカップの取っ手に指をかけています。中身がどうなっているかは私が手に入れた資料ではよくわかりません。男性(と思しき人物)は女性(と思しき人物)を見て口を開いていますが、何か厳しいことばを投げ掛けているのか、それともコーヒーが熱くて「ヒーッ!」と悲鳴を上げているところなのかは分かりません。女性(と思しき人物は)は男性(と思しき人物)には目線を合わせずに別な方向に顔を向け、口を閉じたままで、表情は冴えない感じがします。
Storytelling ですから、基本的に「ナラティブ」の英文の書き方が求められています。
『パラグラフ・ライティング指導入門』で言えば、
2-2 「語り文」を書くライティング (pp. 149-155)
が活かせるところです。
この拙稿で参考にしたのは、
- Heaton, J. B. (1997). Beginning composition through pictures. Longman
- Gary Larson. (1984). Far Side Gallery. Andrews MaCmeel Publishing
でしたが、その解答例を覚えるよりも、様々なナラティブ素材文で、Story Grammarの各観点を確認することの方が有益でしょう。後者の「語り文」では、一コマの漫画を素材として、その前後も含めた「語り」を完成させる課題となっています。こちらに「お題」の一コマがありますので参考までに。二次使用はご自身の責任でお願いします。(Oh, Henry.jpg )
私が使っていたStory Grammar の観点は、次の6つですが、もっと適切な分類もあると思いますので、教室の指導での使い勝手、個人で取り組む際の汎用性を考慮して適宜取り入れて下さい。
Settings
Initiating event
Internal response
Attempt
Consequence
Reaction
5W1Hよりも少しは「運動性能」が感じられる、「姿勢」の見えるidea generationの手法へと前進できると思います。私がこの手法を明示的に使うようになったのは、田鍋薫『英文読解のプロセスの指導』(渓水社、2000年)で紹介されていた、”A well-formed story” を構成する6つのカテゴリー(出典は、Sten and Glenn. 1977. An analysis of story comprehension in elementary school children)を読んでからですから、かれこれ15年ですね。
その他、「絵や写真の創造的な活用」ができるようになる教材としては、過去ログでも取り上げ、twitterでも何回か言及している、
The Mind’s Eye: Using Pictures Creatively in Language Learning. 1980. Cambridge University Press
が最適だと思います。当然の如く、絶版です。
編著者は、Alan Maley, Alan Duff and Francoise Grellet
Alan Maleyは私の世代にはお馴染というか、かなりお世話になった指導者でしょう。まだまだ現役で、昨年の4月、ELT Journal Debate 2015 at IATEFL、Richard Smith vs. Anthony Greenでは、会場から発言もしていましたよね。過去ログでは、昨年の山口県英語教育フォーラムの資料で紹介していました。
Expressly, exclusively or excessively?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20151117
以下再録。
https://iatefl.britishcouncil.org/files/eltj-debate-2015-background-slideppt/download?token=TCTDcGA-
"Language testing does more harm than good."
To propose the motion: Richard Smith (University of Warwick, UK)
To oppose: Anthony Green (University of Bedfordshire, UK)
Chair: Graham Hall (ELT Journal)
ELT Journal のスピンオフ企画というには相当に大きな意味を持つ「ディベート」です。
このリンク先の頁(https://iatefl.britishcouncil.org/2015/session/eltj-signature-event)
に、再生可能な動画が公開されています。
司会が話し始める3:58位まで無音ですがご容赦下さい。
面白い企画なのに日本では殆ど評判を聞かなかったディベートです。
Richard のスタンスは effectiveであろうとする前に、appropriateであれ、というようなものだから、かみ合い難いディベートにはなりますね。
途中のフロアの声が聞き難いところがありますが、
http://reflectiveteachingreflectivelearning.com/2015/04/13/iatefl-elt-journal-debate-language-testing-does-more-harm-than-good/
でフォローして下さい。
Alan MaleyやJeremy Harmerもフロアで熱弁を奮っていますが、最後の発言者 Leni Dam に注目を。
このディベート、日本の英語教育界では殆ど取り上げられていないのが本当に不思議です。日本の英語教育、とりわけ高校段階だと、トーナメント形式の大会で繰り広げられる「競技ディベート」しか普及していないということの裏返しなんでしょうか?ディベートのできる人、ディベートをやらせたい人がたくさんいるだろうに、ねえ?
金沢大の出題の出典に思いがけず、古い書籍を見つけ、嬉しくなり、つい余計なことまで書いてしまいました。
本日はこの辺で。
本日のBGM: Stories don’t end (Dawes)