♪制服の胸のボタンを、下級生たちに…♪

昨年度の卒業式は大雪に見舞われましたが、今年の卒業式は放射冷却の影響か、凍てつく寒い朝でした。
無事に卒業生を送り出し、早めの帰宅。翌日から在校生は学年末試験です。

国公立前期試験の結果発表もまだ先ですが、「ライティング」系の出題をいくつか眺めての感想をば。

入試だけではありませんが、日本のライティング試験の「お題」設定って、本当に「書くこと」が分かっている人の声に耳を傾けて改善すべき時期だとあらためて感じています。

過去ログを再読されたし。

Solo, duo or trio?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140929

問題に関しては、新聞社の提供している国公立大入試情報などを御覧ください。

神戸大は「一体何だったんだ昨年度は!」というライティングのお題になりました。
で、この問題文にある「バンドワゴン効果」の定義の英文内容はこれで適切ですか?
あと、解答で想定されるパターンは
・10代>大人
・10代<大人
・どちらとも言えない
の3つがあるはずなのですが、恐らく予備校等の解答例では上2つしか上がっていないのでは。

http://mainichi.jp/ch160190036i/%E7%A7%81%E5%A4%A7%E3%83%BB%E5%9B%BD%E5%85%AC%E7%AB%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A62%E6%AC%A1%E8%A9%A6%E9%A8%93+%E5%85%A5%E8%A9%A6%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%A8%E8%A7%A3%E7%AD%94

いつもいつもいつも思うことなのですが、所謂「自由英作文」で意見を述べさせることに対する「願い」を見直す時期に来ているのでは? 60語程度の語数制限をつけて「意見とその理由を2つ」書かせたって、一つ一つの理由づけは不十分で論理は深まらず、何も「支持」出来ないだろうと思うのです。

もし60語程度の英語で書かせたいのなら、

10代>大人
10代<大人
どちらとも言えない

という紋切り型の文を「和文英訳」三題で与えるので十分だと思います。

本当に「英文ライティング」「英作文」の力も含めて英語力を診たいのであれば、政治や経済、消費行動関連の英文資料を読ませて、その本文中にある事例とパラレルな「バンドワゴン効果」の個人的なエピソードを80語程度で書かせる。その後に、この神戸大のようなお題で持論とそのサポートを150語から200語くらいで書かせれば高等教育に耐えうる英語力は測れるのではないでしょうか?

当然、限られた時間での受験ですから、受験生の労力に見合う配点設定は要再考でしょう。英文資料のコピペ、引き写しにならないように解答に制限を設けるとすると、英文資料の読解→ライティングで「慶應大・経済」型に、リスニング→ライティングで「東外大」型に落ち着くのかな、というのが私の感想(「願い」?)です。

神戸大の「ライティング」に関して、河合塾の解答速報から気になるところを。

http://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/17/kb1-11c.pdf

「バンドワゴン効果」とは,複数の選択肢があるときに,注意深く考えることなく付和雷同で1つの選択肢を選んでしまう傾向について述べた言葉で,マーケティングなどで用いられる用語の1つ

そうなの?

思いつくまま、webで得られる情報を。

What is the 'Bandwagon Effect'
http://www.investopedia.com/terms/b/bandwagon-effect.asp

Riding the Bandwagon Effect | Psychology Today
https://www.psychologytoday.com/blog/media-spotlight/201512/riding-the-bandwagon-effect

次の記事でも、最初の一文の定義が不十分だからこそ、その次の実例の一段落が必要で、This is … なのですよ。

Bandwagon Effect Definition & Example | Investing Answers:
http://www.investinganswers.com/financial-dictionary/stock-market/bandwagon-effect-6144#.WLIpFiaVVic.twitter

この「具体的なエピソード」を想定する、という観点では、意外な方が神戸大・ライティング出題を的中させていた、と言えるでしょうか?

https://twitter.com/mappy_pipipi/status/831270656603885569

不十分な分量と雑なお題で「自由英作文」を課すくらいなら、3択の和文英訳を、と書いた6年ほど前の過去ログがこちらになります。再読されたし。

To whom it may concern
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20101222

2007年にも神戸大の出題を取り上げて「和文英訳三題」を提唱していたことに気が付きました。これも何かの縁でしょうから、神戸大さん、来年の出題はそうしてみませんか?

そうだ、J・Jといえば植草甚一がいたじゃないか!
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20070728

東大と阪大のライティング出題での「お題設定」にも悩みました。

http://mainichi.jp/ch160190036i/%E7%A7%81%E5%A4%A7%E3%83%BB%E5%9B%BD%E5%85%AC%E7%AB%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A62%E6%AC%A1%E8%A9%A6%E9%A8%93+%E5%85%A5%E8%A9%A6%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%A8%E8%A7%A3%E7%AD%94


東大の2(B)の出題ではJunの祖父のファーストネームがなぜMarleyなのか?

阪大のIIIでは、特に英語が嫌いで勉強したくない「中2」の子に、英語でアドバイスをして読めるのだろうか?

どちらも素朴な疑問ですが、「シナリオベース」のように、場面や状況、人間関係の設定をするときに、「もっともらしい」設定をすることによって、更なる疑問が生じてくるケースがあるのです。

「外部試験」に切り替える(?)までの、わずか数年の間にもまだまだ「入試問題」には改善点があることがわかってもらえるでしょうか?

昨年度、話題となった金沢大、一橋大は、今年は「物語」や「描写」ではなくなりました。
でも、風景、人物の描写であれ、グラフ図表の説明であれ、事実や現象、しくみを的確に述べる練習は高校段階でもっとしておくべきだとずっと思っています。別に東大や一橋大や広島大の入試ライティングで出題されなくても、です。

そして、ライティングを身につける基本段階から、「ナラティブ」をきちんと位置づけることが望ましいとも思っています。

英語での発話で、過去の事実・行動を表す過去形を的確に使えるか、というのは初級から中級へのハードルと言えるだろうからです。

その際に、主語や目的語の名詞句の可算不可算が的確に使えるか、というのは見過ごされがちだけれど、同等、またはそれ以上に重要な英語力の指標の一つと捉えています。

可算名詞ということは知っていても、当事者同士の前提や文脈で、限定詞を適切に選択できるか、となると、怪しい人が多くなるのでは?
特に無冠詞複数形の「実感」に課題を残している人が多そうです。

例えばこの映画のタイトルがカタカナになると…。

http://www.imdb.com/title/tt0099348/

新し目の映画だと、こちらのタイトル。 the Trump (トランプ家;トランプ夫妻)と同じ解釈はしないでしょう?

http://www.imdb.com/title/tt3923750/

こちらはCOCAの "a meeting with members" での検索例ですけれど、ここでの "members" は一見、ただの無冠詞複数形ですが、全て後置修飾で制限がついていることに注意が必要です。memberという語が、そもそも所属先を必要とする語ですから、全く制限のない一般論を述べているわけではありません。


画像はこちらから。↓アイコンをクリックするとダウンローでできます。
member.jpeg 直

同じくCOCAの検索例から、"a meeting with reporters" のもの。先程のmembersと少々異なり、言って見れば「不特定多数いる」のが前提のreportersだとこうなります。日本の「記者クラブ」のように、取材できるジャーナリストに所属の制約があるところは別の世界の話ですけど。


画像はこちらから。
reporter.jpeg 直

ディベートやディスカッションをする前に、自己表現を求める前に、「事実や出来事を的確に述べる」際の留意点、トラブルスポットにもう少し光を当てる必要がある、というのが四半世紀英文ライティング、英作文を主として担当してきての「願い」です。

本日のBGM: 卒業(斉藤由貴)