出藍の誉れ

昨年の3月26日付けで『英語が出来るとはどういうことをいうのだろうか?』という根元(源)的な問を立てていたことに気づいた。とかく「英語が出来ない教師が教えているから生徒も英語が出来るようにならない」と批判を受けやすい英語教師だが、自分のことについて語るのは難しいので、これまでの教え子で「英語が出来るようになったな」という生徒について書いてみたい。これまでで私が教えてきて一番出来る部類に入る、と思われる1998年に卒業させた生徒が授業の自己評価をしたものを抜粋する。
<Reading comprehension(内容の理解)>
1.文の仕組み・構造の読み取りに関して

  • 予習段階で文の中のS+Vをなるべく近づけて書くように心がけた。初見で読む時もSVの関係が分かるようになったので良かった。

<指示語の内容把握>

  • 単なる名詞句を当てはめる作業ではなく、その名詞につくべき限定内容までも考えられるよう心がけた。これは未だうまくできないが、これからも続けていきたいと思う。Thisなどで文章を指す時に、どこまでが範囲なのかをよく考えるようになった。

<文の中の並列構造・共通関係・パラレリズム>

  • andは常にチェックして、その並列されている部分の前後にも意識するにした。"A and B which ..."という時に、whichの先行詞がB単独なのか、A,B両方なのかを、2つの語句がどういう点で共通なのか考えながら判断できるようになった。

2.センテンスの中の語句の意味の理解

  • 文章の流れの中で、ある一つの概念がどのように言い換えられているかをチェックすることで、その語句の持つ意味の幅がわかるようになった。具体的な名詞が出てきた時に、それが何の例なのか、サポートなのかを考えるようにしたのはとても理解を助けたと思う。

3.語句の表している意味内容そのものの理解

  • とくに、動詞、形容詞から生まれた名詞の意味をよく考えるようにした。日本語訳する際に、主述にまでおこして書くという姿勢がだんだんと身についてきていると思う。あとは、単語が単なる事実を表す語か、または評価を表す語か、ということを考えるようになった。

4.筆者の意図・焦点

  • insteadやrather thanなど、一方を却下する言い方を学び、文章の中で実際に触れることで、筆者の焦点の明確な理解が出来るようになった。過去形で事実を述べている文章では、特に現在形が出てきた時に、そこにある筆者の意図を考えるようになった。単なる一般論としてのまとめなのか、今までは〜だったけど、という「ここからが本題」という目印なのか。

5.主題の発見・把握

  • 先ず何度も出てくる語をチェックするようにした。これで大まかなテーマをつかめた。あとは名詞句としてまとめられている部分を意識するようになった。名詞句をしっかりつかむことはテーマの正確な理解に欠かせないと思う。否定が出てきたあとは必ず肯定を探すことを心がけるようになった。

6.段落構成・ロジックパターン

  • 最終段落は全体のまとめの場合と、そうでない場合があることを知って、要約する際にただつなぎ合わせるだけ、(段落ごとの topic sentenceを)という作業をしなくなった。

7.筆者の心的態度を表す語句

  • 文修飾の副詞や助動詞をよく見るようになった。助動詞wouldなどは筆者が断定を避けている→しっかりしたsourceがないのでは?というふうに考えるようになった。筆者の心情と、事実とを混同しないように読む姿勢が身についた。

<上記を踏まえた上で、もう一度初めからやり直すとしたらどうするか?改善点・変更や修正の必要な点を述べよ>

  • 語彙がないせいで読めないことが多すぎるので、良く扱われるテーマに出てくると思われる語は、予め学んでおくべきだと思った。英語だけでなく幅広い知識と教養を身につけなければ英文読解は出来ないと思うので、英語以外(理科・国語)の学習もおろそかにしない。予習が不十分だったと思う。必ず一度は辞書無しで目を通し、分からなければ何度も読んで「分からない点」を具体化する作業がもっと必要だった。

<問題の演習よりも読解そのものに重点を置く方針について>

  • 穴埋めなどは読解がしっかりできていれば自ずと分かるし、T/F問題は内容まで考えなくても形だけで答えが出てしまう場合もあるので、そういう演習をやるよりは読解を固める方が大切なので良いと思う。
  • 難しくても良問が多いテキストの方がいいので、今回のテキストはとても良かったと思う。ジャンルが明示されていたり、アドバイスがあったりして、自学自習もとてもやりやすかった。

<後輩へのアドバイス>

  • とにかく予習して下さい。文全体の意味が分からなくても、SVくらいは予想をつけておくこと。あとは辞書を使わずに一度は目を通すことが大切です。分からない点は具体化しておくことも忘れないで下さい。先生の説明を聞けば理解できるのは当然なので、その後で自力で見直し、身についているかを確かめることも大切です。

さて、読んでみてどう感じたでしょうか?この生徒はTOEICなどの「実用的」といわれる試験のスコアは800点程度であったが、論理や言葉の感覚も含めた総合力という点では、今教えている帰国子女でTOEIC900を超える生徒達よりも数段英語が出来たなぁ、と実感する。
この時の授業は完全に大学入試の読解問題を素材にしたテキストを中心にしたものであった。こまかい下線部和訳ではなく、とにかく、「どういうことなのかわかるように説明しろ」という授業で、解説はほとんど日本語だが、英語の定義、パラフレーズ、サマリーをふんだんに提供していたため、いちいち板書している暇はなく、機関銃のように私が喋りまくるというもの。生徒は私の口から次々と出てくる「英語」を書き取らねばならず、集中力を切らすことは許されなかったというマッチョなスタイルであったが、生徒は本当に多くのことを「身につけて」くれたと思う。「英語で授業をしないから生徒の英語が伸びない」と断定するのは難しいのである。