声に出さなくても素晴らしいことば

声に出して読みたい、という軽薄な流行とは無関係に、手元にある「名句・名言」を扱う書籍を紹介。当然ながらCDなどはついていません。

岩田一男『英語・一日一言』(祥伝社、1970年)
祥伝社の新書NON Bookのシリーズ。縦書き右開き。副題が「知恵と感動のことば 365名句が語学力を倍増する」。哲学者、作家、政治家、学者、芸術家、探検家などのことばを、生誕、死没などの日にちなんで365句紹介するもの。35年前の出版だが、未だに版を重ねている。

長崎玄弥『長崎玄弥の英語千夜一夜』(DHC、1997年)
365日それぞれにちなんだエピソードが紹介されている点では、岩田氏のものと似てはいるが、そのエピソードも日本を含む古今東西にまたがり、紹介される英文は名句・名文だけではなく、イディオム、ことわざ、単語など、統一性はない。雑学を仕入れる情報の本という位置づけか。感動感銘とは無縁であるのでそのつもりで。

加島祥造『ハートで読む英語の名言』上・下(平凡社、1996年)
大修館書店から出ていた『英語の中の常識』上・下(1986,87年)を再編集・改訂したもの。新書変形版。出典や索引(これは下巻の巻末にある)がしっかりしているのは、加島氏ならではか。凡庸な句、あざとさの見える句には手厳しい批評を下すのも痛快である。

加島祥造『英語名言集』(岩波ジュニア新書、1993年)
名句名言というより、著者の出会った、なくしたくないことばを丁寧に広げていった見本帖という印象。白楽天のアーサー・ウェイリー訳を紹介する, pp152-153での告白、「すこし恥ずかしいが打ち明けると、私は漢詩のよさやおもしろさを、英訳によって知ったのだった」には、既にタオイスト加島氏の姿が見える。大人も読むべき子どもの本の一つ。

名句名言とは性格を異にするが、故事成句、ことわざの類では
篠田武清『英語の諺・古言の研究』(新改訂版、篠崎書林、1970年)
が面白い。出典の研究に重宝するだけでなく、英語の諺に対応する、日本語のことわざも索引にあり、教養に資する一冊。参考書と言うよりは専門書(ハードカバー)であり、同じ1970年刊ではあるものの上述の岩田氏のものとは違い、今は絶版である。

教科書に良質のフィクションが減っている今、フィクションとノンフィクションをつなぐことばとして、名句名言、ことわざを再評価しては如何か。