Still Crazy After All These Years

学生時代から好きだったミュージシャンにSteve Goodmanがいる。正確にはいた、というべきかもしれない。米国はシカゴを拠点として、カントリーの部類に入る良質の音楽を作り続けていた。大リーグのシカゴ・カブスの狂信的なファンとしても知られ、地元で愛される存在でもあった。
日本でも、井上一馬氏の翻訳などで人気を博したBob Greeneのコラム集『チーズバーガーズ (Cheeseburgers The best of Bob Greene)』(1985年;翻訳は集英社か文芸春秋社?))には、A Dying Cub Fan's Last Requestという、Goodmanの白血病闘病生活の終章を暗示するかのような、このタイトル曲にまつわる作品が収められている。
この曲はライブ版であった"Affordable Art"(1983)に収録されていて、大学の2年生だった私は、当時読んでいた『ナショナル・ランプーン』に載っていた広告を見て、すぐさま輸入レコード店(パイドパイパーハウス?)に買いに走った。
Bob Greeneは近年、女性がらみのスキャンダルの末、シカゴ・トリビューンを辞し、彼のコラムを少なくとも日本で目にすることはなくなっているが、DJが構成を考えて曲をかけ続けるかのごとく配列されたコラムの読ませ方に、私も80年代の一時期嵌ったことがあった。この A Dying Cub Fan's Last Requestという、野球&人情ネタで「ほろっと」涙を誘い、次の作品Louisville Sluggerという野球のバットにまつわる郷愁ものになだれ込むあたりが、一番好きだったところでもあった。(もっとも井上一馬氏による翻訳では、日本で知名度の低いGoodmanにまつわる話はカットされ『ルイビルスラッガー』のみが翻訳されていた。)
今では、コラムニストBob Greeneの評価は一転して低いものになってしまったが、Goodmanの楽曲は色褪せることはない。この曲は、アメリカ人にとっての野球が文化であること、そして地域に密着したプロスポーツであることを教えてくれるものでもあった。
Do they still play the blues in Chicago
When baseball season rolls around?
When the snow melts away, do the Cubbies still play
In their ivy-covered burial ground?
When I was a boy they were my pride and joy.
But now they only bring fatigue
To the home of the brave, the land of the free
And the doormat of the National League.
このように、この曲が作られた80年代前半、ナ・リーグでも下位を低迷しており40年近く優勝から見放されているシカゴ・カブスを愛憎たっぷりに歌い上げるGoodmanはライブでは、こうアドリブを利かせる。
...but the last time that Cubs won a National League pennant was the year we dropped the bomb on Japan.
そして、会場を埋めるファンの大爆笑と喝采。
純粋にファンだった私は、このフレーズが出てきた一瞬、本当に言葉を失った。人種偏見・民族偏見に関わる汚いジョークには慣れていたつもりだったが、さすがにその直後の拍手喝采は堪えた。自分の英語に対するスタンス、距離感のようなものを強く意識するきっかけの一つとも言える経験である。
Steve Goodmanはその翌年の1984年9月20日に白血病で亡くなっている。その4日後、カブスはナ・リーグ東地区で優勝しプレーオフに進出した。
現在、Steve Goodmanの楽曲は "No Big Surprise --- the Steve Goodman anthology"(Red Pajama 1994)で聴くことができる。あれから、20年。レコードとCDの違いこそあれ、彼の歌声、ギターに魅せられたままである自分がいる。