コストパフォーマンスで語れること、語れないこと

昨日のブログでも言及した「日本人の英語力」と「学校英語の成果」に関して。「英語教師が集中的にトレーニングしたらTOEICのスコアが650点から850点へと1年足らずで向上した」という事例は、学校英語はEnglish for general purposeという観点では成果を上げているといえるのではないか、という見方をどうとらえるか。
そのような学習者にとっては成果があったといえるかもしれない。しかし、そのような学習者がどれだけの割合いるのか、が問題であろう。決して過半数とはいえないことは、TOEICの平均スコアやITP-TOEFLのスコアが示している。私も受験した2005年1月実施のTOEIC第112回公開テストでは、スコア区分745点以上の受験者はおおよそ15%、645点以上で見るとおおよそ30%である。
これまでの英語教師は、「旧来型の学校英語で成果を達成した学習者の比率を増やすべく、語彙、文法、精読など英語に関する知識と基礎技能の定着に更なるエネルギーを傾注してきた」といえるのだろう。仮に、旧来型の成功体験者が上位25%だったとしよう。そのうち、5%が帰国子女や留学経験者で学校英語の成果とは無関係とすると20%程度の学習者が「英語が使える予備軍」となる。
もっと多くの生徒が英語ができるように、例えば上位25%ができることを50%にまで拡大するために「音読」「過去の大学入試問題を基礎資料とした単語・熟語・構文の暗記」「短文の和文英訳」「出題パターンの決まった条件反射的文法問題の演習」「和文英訳を援用した精読」「長文の読解」「自由英作文」などを学習者に一律に課し、テストし、できないものには、できるまで反復を求めたりしてきた、ということだろう。私のこれまでの指導経験でも、大学入試で英語を生かして進学した生徒の中には、留学経験無しでも、英検準1級、TOEIC730、TOEFL520程度に達した生徒がいる。ただし「学校英語の成果」として語れるのは本当に上位の生徒ということができるだろう。帰国子女がさらに、例外的であるというのは、私の勤務した私立の中高一貫校などでは、高校段階ですでに、TOEICで860-940点くらいの生徒がかなりの数(決して全てではないが)授業を受けているわけである。
これに対して、SELHiなど新たなスキームでは、上位25%を授業の中心に位置づけ、取り込み、それを生かしながら、「授業で英語を使う活動の比率を増やす」ことで、「英語を使う実感」と「英語が使えるようになりそうという自信」を残り25%に持たせて、「授業で要求される活動の準備のために、これまで教師がトップダウンで教えてきた内容を自ら学ばざる得ない状況を作り出し」その結果、「知識と運用の連関を促し」あわよくば「自立した学習者であり、英語運用者」を養成していこうということなのだろう。人為的に英語を使う環境を整備し、その必然性を突きつけなければ、運用力は向上せず、自信を得ることができない、という点で、SELHiに指定されたということは、学生に対してさらなる肯定的なSelf-esteemを与える契機となっているのだろう。そう考えると、学校全体ではなく特定の科とかコースのみがSELHi対象として指定され研究をしている実態は再考の要があるといわざるを得ない。
また、特化した生徒を対象とした成果の検証も、ライティング指導を強化することが学習者にとってのモニター機能を果たすことで英語力全体の向上に寄与していると推測されるが、TOEFL-ITPやTOEIC-Bridgeではライティングを含まないため、テストで測定している技能がマッチしていない。いくら相関がある、と過去のサンプルに基づいたデータを示されても、当該生徒のデータを検証するには不十分である。
いくつか事例を抜き出しておく。
・札幌国際情報高等学校(国際文化科77名)
高校3年7月 TOEFL-ITP 平均点420点
・立命館宇治高等学校(イマージョンのコース、30名未満)
高校1年12月(留学前)TOEFL 平均点428点
高校2年12月(留学後)TOEFL 平均点494点
高校3年10月(イマージョン後)平均点513点
・千葉県立成田国際高等学校 (70名)   
高校3年段階 TOEIC 730点以上 5名(7.1%)
・目白学園女子高等学校  (66名) 
英検準1級合格者    3名(5%)
TOEIC Bridge  平均点144点

ちなみに、TOEIC Bridge の高校生平均点は119.8点、国際・英語科の平均点125.9点、英検2級取得者の平均スコアは154.3点である。TOEICの公開テストでの高校生累計での平均点は、501点.英語圏での6ヶ月以上の生活経験をもつ高校生での平均は653点である。
TOEIC運営委員会の提供するこれらのデータは、一般的に「意欲が高い」か「必要に迫られている」学習者を代表していると推測される。
傾注された労力・時間を考え合わせたときに、本当に成果が上がっているといえるのだろうか。