「学校英語」の可能性

相変わらず、いわゆる「学校英語」への風当たりは強い。文科省、地方自治体を主導とする教員研修も加速している。残念ながら、今のままの官制教員研修を続けていたところで、「なぜ、生徒の英語力はきちんと伸びていかないのか?」には答えられないだろう。中学校では私立と公立とではカリキュラムなど学習環境に大きな差があり「中学英語」とひとくくりにはできないはずだし、高校では職業科や英語科など学校の課程そのものの差により、英語以外の変数が多く一概に「高校英語」というラベルを貼られることに教員は抵抗を感じるだろう。
私自身は北海道の公立小中高の出身で、塾や予備校、英会話学校などで英語を学んだ経験が全くない。その分自分の扱う教材には相当に気を遣った。学校の授業だけで英語ができるようになったとは全く思っていないが、自分で主体的に教材をこなしていく基礎力は学校の授業だけで養って、鍛えてくれたと思う(どのような教材を使ったかはまた別の機会に紹介したいと思う)。
清泉女子大学の石田雅近教授を中心とするメンバーが、教員の英語力と研修に関わる調査を発表している。そこでは、中高の英語教員で実用英語検定準1級保持者の、TOEFL,TOEICの点数の平均値などが公開されている。その中のある数値を紹介しよう。主として担当する学年(中学)、科目(高校)別の平均値である。

TOEICのスコア

  1. 中1 775.33
  2. 中2 755.77
  3. 中3 790.56
  4. 英 I 809.29
  5. 英 II 835.00
  6. OC  834.69
  7. R  828.50
  8. W  858.50

この表を見て一番感じたのは、中1からきちんと英語を学べば、高校卒業までリーディングやライティングを修める中で、英語力は伸びていくことがよくわかるなあ、ということであった。「おいおい、これは教師のTOEICスコアであって、生徒がこのように伸びるわけではないだろ」と批判を受けるかもしれないが、この数値からはいろいろなことが読み取れるのではないだろうか?
担当科目が違うということは、扱う言語材料と技能が異なるわけである。中1の教科書を使って教えるよりも、中3の教科書を使って教えることの方が高い英語力を要求される、英語 I と同じ言語材料を扱うにもかかわらず、OCを教える方が高い英語力を要求される。リーディングよりもライティングの方が高い英語力を要求されると読み替えることはできないだろうか?言語材料と技能の組み合わせだけでも英語力の差を生み出すことが可能なわけである。だとすれば、それぞれの「科目」を生徒が「きちんと」学びさえすれば、それに応じた英語力が育成されてしかるべきであろう。
今は、教師の英語力を問題にして、研修を義務づけている。次は、指導技術・指導力であろう。では、その次は?生徒の達成度、定着度を問題にする動きが必ず出てくるはずである。英国のinspectionと同じく、これまで以上のペーパーワークが増え、教師は授業に精力を傾けられなくなるとしたら、「学校英語」の成果は上がるだろうか?このまま、教育者としての英語教師が授業を担当し続けることは可能なのだろうか?英語教育のアウトソーシング化は何も「首都大学東京」だけの問題ではない。