We Want Action

怒濤の1学期も校務終了。1学期だけで、学年会議を26回もやっているのだ。「どんだけ〜っ!!」。
明日より夏期休業。夏期休業といっても「正課」の授業を行わない期間というだけで、また朝から出校です。いよいよ「本業」の夏!夏の成果を検証するために、明日はエルゴの測定です。

今日は同僚から、高3の夏期講習での指導内容に関して質問を受けたというか、助言を求められた。

  • ディクテーションの素材文の難易度と効果的な指導法
  • リーディングでの素材文の難易度と効果的な指導法

ディクトグロスの活用やラストセンテンス・ディクテーションなどいくつか、思いつくところを述べ、過去ログ(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20070710)の「直前演習用読解練習」を紹介しておいた。夏期講習では受験のための演習をしつつ、英語の基礎力も固める、というねらいがあるので、聴解・読解だけに2時間も割けないという事情があるようだ。他に紹介したのは、次のようなもの。

  • センターの文整序・段落整序問題のような短めで、ディスコースのはっきりしている初見の文章を用いて、一文ずつのストリップ(短冊)を作成し、一人に一文渡し、グループで復元する。文の数が少ないときは、班での対抗戦として時間を制限する。食い違いが出たら、なぜその順序なのか、という理由付けを考えさせる。つなぎ語、指示語などのcohesionを確認するためにオリジナルと比較させ、気がついたところを共有。最後は必ず音読で終える。

これは、私自身が8月の学習合宿で行おうと思っていたもの。一年生と二年生が一緒のコマを担当するので、入試の過去問をそれとは気づかせずに扱っておこうと考えていたものだ。さらには、「地道にマジメに英語教育」の中の英語教育論で展開されていた「読み」に関するシリーズを紹介して参考にしてもらった。

現任校では、教員の研修というものは整備されていないので、教師が教科指導の腕を上げようと思った時に、その思いを具現化する手だてが希薄である。ただ、主任はオリジナルの教科書作成やシラバス構築に意欲を見せているので、風が吹く予感があるのが救い。
研修といえば、東京都の悉皆研修の批判を過日述べた(過去ログ→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060908 )のだが、今回、埼玉県の情報を入手したので、紹介したいと思う。

  • Day 1: 基調講演「英語教育の課題:認知科学から見た英語教育」大津由起雄氏
  • Days 2 - 6: ELEC英語研修所のnative speaker instructorsによる研修。 Orientation / Warm-up / Discussion / Speaking / Listening / Video / Reading / Role Playing / Discussion / Debate / Story Telling and Writing / Symposium / Presentation (ELEC)
  • Day 7: 力のつく指導方法について専門家(青野保氏;蓮田市教育委員会)の講義/参加者各自による模擬授業/グループ討議
  • Day 8: 評価のあり方について専門家(松浦伸和氏;広島大)の講義/同じ教材から評価問題の実作演習/意見交換
  • Day 9: 英語の力がつく指導案作成について(埼玉県指導主事)/教科書を活用し15分の指導案作成(4技能)/発表
  • Day 10: 研究発表(代表者)/授業参観/研究協議

という感じです。昨年紹介した東京の研修よりは中身が濃い気がするのは気のせい?ELEC協議会は教育委員会からの依頼を受けたときは、英語のnative instructorsを派遣し、文科省後援の教員研修会では主として全国から日本人の先生を講師として招いているのが不思議と言えば不思議。(私も、去年に続き、この夏担当しますが…。)
この情報を寄せてくれた方にいくつか質問させてもらったので、その回答を、

Q1. 研修が免除となる英語力の基準または資格について
→ A1. 基本的に英語力に伴う免除はないと思います。それに先立つ調査もありませんでしたし、そういう理由で「免除された」という方も聞いたことがありません。例外としてあげられているのは、

  1. 平成10年度以降、文科省等の指導者講座を受講した者
  2. 平成10年度以降、文科省等の海外研修に参加した者
  3. 臨時的に任用された者

だけとなっています。
Q2. 研修後の英語力アップを評価する方法・受験する試験
→ A2. これも、特に聞いていません。10回の研修の中にもそれに当たる予定はありません。
Q3. 英語ネイティブ講師の派遣元・企業
→ A3. 研修の手引きによると、財団法人 英語教育協議会 / ELEC英語研修所となっています。ELECの企業研修セクションがやるのだと思います。当然、ELEC同友会の夏季研修会とは違うでしょうから。
Q4. 大学・高校から派遣される講師の陣容
→ A4. 今、わかっているのは、青野保先生(蓮田市教育委員会)、松浦伸和先生(広島大)くらいです。というか、この2人だけかなぁと思います。

ということでした。貴重な情報を提供してくれたのは anfieldroad さん。お忙しいところ無理を言って済みませんでした。深謝。

悉皆研修も今年度で一応終了とのこと。それぞれの地方自治体・教育庁・教育委員会で企画立案から運営実施まで、相当な苦労があったとは思うのだが、少なくとも研修をしたという事実だけを残すのではなく、「日本の英語教師はこのように研鑽に励んでいるのです、このような英語力・指導力があるので、安心して授業にとり組んで下さい」、という肯定的・積極的な評価を世間にアピールすることにも労力を使って欲しい。英語教師一人一人が、自分の現場で研鑽を積むことで状況を改善していくことが前提だというのはわかるのだが、今年の3月に公開された

のような資料も、大メディアでは一部しか報じられないために、「世間」との温度差は一向に縮まらない。
これによると、

  • 調査に協力した英語教員17,627人のうち、英検準1級以上、またはTOEFL(トーフル)のPBT550点以上、CBT213点以上、TOEIC(トーイック)730点以上のスコアを取得している者は、8,539人(48.4パーセント)。

とあり、この「48.4%」だけが一人歩きするわけだ。資料にはちゃんとこうあるのに、

  • なお、外部試験の受験経験のある者のうちでは、74.2パーセントが英検準1級以上(TOEFL(トーフル)等を含む)を取得している。

この数字をどう見ますか?単純に計算すると外部試験の受験経験がある教員は、約11508人となる。この数を調査数から引くと、6119人。約34.7%の教員は受験経験がないのだから、これをどう解釈するかを併せて報じてくれないとフェアーじゃないでしょ。(同様の指摘は過去ログ参照→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050805)34.7%の中には、多忙で受験機会を捻出できなかった人もいるでしょうに。ちなみにこの調査では生徒の英語力を数値化する際に、

  • 英検準2級以上を有する生徒の人数(A), 英検準2級以上は取得していないが、相当の英語力を有すると思われる生徒の人数(B),(A)と(B)の合計

という集計をしている。これと同じ発想を教員に当てはめようとは思わなかったのだろうか?
外部試験の受験を義務づけている府県がある一方で、昨年紹介した東京都、今回の埼玉県ともに研修後の外部試験受験がない。この二都県はどうやって「世間」や財界からの要求・批判に応えるつもりなのか?

  • そういう数値には表れないけれども、重要な資質や技術を英語教員は求められているのです。

というつもりだとすれば、天晴れである。
現場も行政ももっと生産的、建設的、かつ健康的な出口を求めた方がいい。

本日のBGM: 夏休みの宿題(杉 真理)