聞くは一時の恥

私もよく訪れるブログ「 アーリーバードの収穫 」の最近のエントリーで、次のような表現がどの程度容認されるものか、に関する興味深い考察がなされていたので、ご紹介。
併せて私の考えも記しておきます。

  • *a three-hours-and-a-half flight

http://isyoichi.seesaa.net/article/390285363.html

生徒への直接の指導という部分では、自分の中でも答えが出ているわけではありません。
私自身のライティング時における対処法というような落としどころで捉えて頂ければと思います。

そもそも、この表現は、私のところに(も)このブログ主からメールでお尋ねがあったものでした。幾分月日が経ちましたので、以下、当時の私の回答に加筆修正して記しておきます。

私の立場は、このブログ主のスタンスとは少々異なり、

「修飾」というものをどう捉えるか、そして「数」と「測定量」と「名詞の単複」をどう捉えるか、という大きな意識の中で、この表現を位置付けられるか

というものです。

まず、テクニカルライティングやマニュアルライティングで言われる、

  • 修飾語と被修飾語との関係で、「数と測定単位」は「測定される量」を修飾しない

という原則を確認しておきます。以下、『NASAに学ぶ英語論文・レポートの書き方』 (片岡英樹訳・解説、共立出版、2012年; pp. 58-59) より。

悪い例1 推奨しない例(意味が曖昧になる例)
3° angle of attack (攻撃の3°の角度(?))
→3° (数と測定単位) が angle of attack (迎え角、測定される量) を修飾しているので、原則に反している。

良い例1 推奨例 (前置詞を使って「数と測定単位」と「測定される量」をわける)
angle of attack of 3° (迎え角3度)

悪い例2推奨しない例 (原則に反している例)
15 000-ft altitude (15000フィートの高度)
→15 000-ft (数と測定単位) が altitude (測定される量) を修飾しているので原則に反している。
良い例2 推奨例 (前置詞を使って「数と測定単位」と「測定される量」をわける)
altitude of 15 000 ft

このような原則に基づき、上掲書 (p.58) では、

複合修飾語が一般的な数を有する場合は、ハイフンがつく。
three-degree-of-freedom simulator (3度の自由度のシミュレーター)
0.3-meter tunnel (0.3メートルのトンネル)

という事例をあげています。

ということで、「測定する量」として用いられる、被修飾語である名詞 (上の例ですと、simulator, tunnel) の意味が誤解されないような「意識」がハイフンを付けさせているのだと思います。
規範的には、「測定する量」として用いられる名詞の「数」に焦点が当たるように、修飾語のまとまりをハイフンで繋いで「境界」を設定し、「測定単位」はその境界の中に閉じこめているのだ、と私は捉えています。

一方で、その「測定する量」の方を分けて書こうと思った時に、名詞 of 名詞 (of 名詞)、という前置詞of での名詞の連結を避けようという意識が働くことも多く、かといって、他の適切な前置詞を選択することも即座には思いつかない、というような「事情」もあるのでは、と思っています。
そのような意識が話者にどの程度働いたかによって、揺れが出てくると考えています。

規範的な用例は、市川繁治郎 『数と量』 (研究社、1967年) の p.96に載っていますので、お手元にある方はご確認ください。

焦点となっている、

A three-hours-and-a-half flight from Narita will bring you to Beijing.

では、なぜ複数になっているのか? ”and-a-halfなどの追加分がある” ことが作用しているのか?ということは、単に「言葉をきちんと身につけていない愚か者の誤用」とか「ゴミクズ」などと切り捨てるのではなく、どのような意識が働いているのか、ということを少し推測して見たいと思います。こういう時には、普段から間違えてばかりのL2学習者、L2話者の方が有利かもしれませんから。

実例を「見る」「読む」、そして自分で何か数量を表現する時の心理を辿り直す限りでは、話し言葉、書き言葉での話者の意識に揺れがでてきたものではないかと思っています。
「規範的」というものが完全に固定していて、絶対的なものであれば簡単ですが、実際には一筋縄ではいかないように思います。

この項目は、私の高3生のライティング指導では、次のように処理しています。「診断テスト100」のうちの1題で扱っています。

バスはどのくらいで出ますか。
How soon will the bus leave?
※ soon は基準からの経過時間。「今からどのくらいの経過時間で」ということ。
cf. 「どのくらいの間隔でバスは出ますか。」「15分に一本です。」なら、「頻度」ということだから、
How often do the buses leave [run]?
--- They leave every fifteen minutes. 
   ※ every は単数扱い、だが、ここでは15分が一つのユニットとなるので、fifteen minutes と複数。
--- They run at fifteen-minute intervals.
   ※「〜間隔で」の intervals は「反復・繰返し」という文脈なので複数。前置詞は at が標準的。
   ※その「〜」の部分に、形容詞として用いる単位 (この場合は「分」) の表記は 
a.  15-minute intervalsとハイフン付きで単数、
b.  15-minutes intervals とハイフン付きなのに複数、
c.  15 minutes intervals とハイフン無しの複数でアポストロフィ無し
   と実例にも揺れがある。b. は実際に理系の学術論文でも時折見られるのだが、外国語として英語を使う立場からは、a. を選んでおくのが安全策と思われる。
※同様の表記の揺れは、定型と思しき次の例でも見られる。
    「歩いて5分 (の距離)」
→ a five-minute walk; five minutes’ walk / a five minutes walk; a five-minutes walk  

実際に、ハイフンなしで複数名詞にアポストロフィを付ける形は広く用いられているので、その用法からの「惰性」で、複数形を用いている、というのが第一段階。で、その際に「規範意識」が働き、「数と単位」を、「測定する量」から分けなければ、と修正を計ろうとハイフンを付ける人が「少数」いるのかな、というのが現時点での私の捉え方です。

単位となる名詞の単数複数に関して思い出したのが、宮田幸一でした。
『教壇の英文法・改訂第3版』 (研究社、1973年) 「61. foot」 (pp. 140-141) では、1954年6月号の『英語教育』での、身長を表す言い方への Q&Aで、単位についての言及があります。

これは身長をあらわす場合の言い方なのですが、身長をあらわす場合には、six foot threeとか、five foot ten というように、footという形を用いる習慣になっています。
footといっても、これは単数形ではなく、単数形と同じ形の複数形なのです。つまり、長さの単位をあらわすfootという名詞には、feetという複数形のほかに、footという複数形があって、身長をあらわす場合に five foot tenというような形式で用いられるのです。
なお、inchまでつけていう場合には、feetを用いて、six feet three inches のように言うのが普通です。
むかしは、身長だけでなく、一般に長さをあらわす場合に、広く用いられていましたが、今では身長以外にはfeetを用いるのが普通になっています。
なお、むかしは長さの単位をあらわす fathom (ひろ)、mile などの語も、単数形と同じ形が複数をあらわすために用いられていました。

とあります。初版の記述ではなかった、「inchまでつけて言う場合」という件に、英語母語話者の意識を覗いた思いがします。宮田の言う「むかしは」という部分の真偽に関しては、古英語など歴史的な変遷では、私の専門ではありませんのでこれ以上の深入りは致しません。ちなみに、初版では、この項の回答は、Jespersen の Essentials of English Grammar の説明 (§20. 4) に基づく、と記されています。 (初版第一刷, p. 457)

もし「名詞の数」と「測定量」との間で話者の意識が揺れるとすれば、名詞の左側 (前) に語句が付加される場合でもあり得るのではないか、と感じています。
以下、思いつきで、 “around * hours flight” をグーグル検索した結果です。

約 2,880,000 件

  • Flight Instructor Rating | Asian Academy of Aeronautics

... can study for these exams at home using course books and software (provided 
by AAA). The final part of earning the licence is a skills test of around 2 hours 
flight time which tests your ability in both navigation and general aircraft handling.

  • Private Pilots Licence - Enniskillen Aviation Services

Finally you take a PPL Skill Test of around 2 hours flight time, which tests your 
ability in both navigation and general aircraft handling. All these hours will be 
flown under the direction of a Qualified Flying Instructor and in accordance with 
the ...

  • New Zealand Travel Guide : Getting to New Zealand, New Zealand ...

Getting Here. New Zealand is a three and a half hour flight from Eastern Australia
, a non-stop overnight flight from the United States, and around 10 hours flight 
from most places on the Pacific Rim, like Singapore, Hong Kong and Tokyo.

  • Etihad Airways to Launch Services to Yerevan - Etihad Cargo

16 Dec 2013 ... Armenia, which is around three hours flight time from Abu Dhabi, is an ideal 
destination for tourists seeking great culture and history alongside beautiful 
scenery and outdoor activities. New Yerevan schedule, effective 2 July ...

予想通り、ハイフンなしでflightsという複数形が使われています。このような感覚が一般人の間で見られるのであれば、その中から、ハイフンを付ける人が早晩現れてもおかしくないのかな、という感じです。

次に示すのは、”around-*-hour-flight” での検索です。

· shuttle buses - Agadir Travel Forum
forum.virtualtourist.com/Agadir-2120422-5.../shuttle-buses.html
It should be around an hour flight plus a transfer. Although I have been to 
Morocco plenty, your information is always up to date, which I don't have. So I 
usually defer to you, as your responses are always spot on and timely, ...
· Price Of Office 2013 Standard Edition
www.sasin.edu/cerebos/kritte.php?sell=4778&product...
With just beneath the menu is gone; it's much more performance degradation is 
over, it around a many-hour flight number, a geek? If you microsoft office 2013 
purchase online give to port forwarding, use today. Each represents your video 
clip.
· Kugel and Lau | Facebook
https://www.facebook.com/Kugellau
It was around 20 hour flight from Asia (with stopover in L.A.). It was a long trip. 
Despite this, the country is one of my favorites. It is because of the all year around 
sunshine, because of its laid back culture and the fast growing economy (
Panama ...
· Radio Prague - Czech Olympic Committee embroiled in political ...
www.radio.cz/.../czech-olympic-committee-embroiled-in-political-battle-human-rights-debate
2 days ago ... Czech sportsmen depart from Prague, photo: CTK The first contingent of Czechs 
with their eyes on Olympic medals or just personal bests headed out from Prague 
for the around five hour flight to Sochi, Russia, on Thursday ...

ハイフンなしでも、単位となる名詞 hour を単数で用いている例が見られます。

インターネットで広く見られる「非標準的な英語」と簡単に片付けられないのは、「実務英語」「技術英語」の教則本でも「ハイフンなし単数形での単位名詞」の例は見られるからです。
富井篤『 数量英語の書き方入門 』(日興企画、1997年、pp. 124-125) では、
「○○の間隔に」という項目で次の例をあげています。

  • It should be able to do its work at two week intervals.

限りなく話し言葉に近い表記 (ハイフンそのものを音声化していない) であると捉えるか、数量を表す句のかたまりが既に「形容詞」であると捉えられているのか、決め手はまだ見いだせていません。

富井は同書の、「…が○○の_ 」(pp.156-159)で、

1 数量語句+名詞
2 名詞+数量語句
3 名詞+ほかの語句+数量語句

という大分類をしたうえで、さらに1を、

i) 数値と単位の後に物理量がきて数量語句を形成する
ii) 数値と単位の間に物理量の形容詞形がきて数量語句を形成する
iii) 単位を表示することで物理量が明示されるので物理量を表示せずに数量語句を形成する

という3パターンに分類して、実例をあげています。

  • i) a 200-square-mile area land
  • ii) a 40-ft long cooling bed
  • iii) a 250-ft tower

ここでは、名詞は単数で用いられ、ハイフンがついています。

大分類の2では、

数値と単位と物理量で数量語句を形成する
数値と単位と物理量の形容詞形で数量語句を形成する

と下位分類し、

  • i) an iron pipe about 1 in. in diameter; a film 10 in. in length
  • ii) a cut 0.005 to 0.002 in. wide; a bolt 3 in. long

の例を、また、大分類の3は、さらに3つの下位分類を設定し、

  • i) an oxygen orifice of 0.0595-in. diameter
  • ii) a rod having a diameter of 0.500 inch
  • iii) cables up to 8 ft in length

という例をあげています。

このエントリー冒頭で引いた、NASAのマニュアルで説かれる「原則」に近づいたように思います。富井が編者を務める、

  • 『技術英語前置詞活用辞典・増補改訂版』(三省堂、2004年)

では、「間隔」の表現例として、

  • at equal angular intervals of 90°

を示しています。
高校3年生の時に『工業英語』という雑誌を読んでいました。 (本当に読んでいただけで、身についていませんでしたが) 

その雑誌の特別号のような装丁の辞典

  • 岡地栄 『和英 てにをは 発想辞典』 (インタープレス、1975年)

というものをいまだに持っていますが、工業英語だと、<名詞+前置詞+名詞>で単位と測定量を引き離すことで、誤解のないように表現している例を観察できるように思います。

ブラウン管はネックを持たぬこと、またたとえ1,2インチの距離からでも落とさぬこと。
Do not pick up a cathode-ray tube by the neck, or let it fall, even a distance of 1 or 2 inches. (p. 52)

「数量」をどのように扱うか、という時に、キリのいい数ばかりではないのですから、一筋縄ではいかないのは容易に想像がつくでしょう。

先程引いた、市川には、
14. 大体の数を示す表現 (pp. 81 – 91)
で、名詞を修飾する以前の、英語話者の「数量表現」そのものの工夫が示されています。「端数」などの例として、

  • a year or so
  • a dozen or so villagers
  • another 30 or so songs

があります。
他にも、

  • It’s an hour’s journey, more or less.

  • give or take

さらには、「…強」「…以上」「…弱」「…足らず」
や「一日二日」「10ないし15」
の例などもあがっています。
これらをみると、名詞の「単・複」と「数」を意識せざるを得ない英語話者の苦労が偲ばれます。そして、これらの「数量を表す語句」が名詞を修飾するとき、彼らも、表すべき数量の内実、そして、測定量と名詞の関係が少し複雑になると表現が揺れてくるのではないでしょうか。数量は正確に表したい、でも「数量語句」としてまとめて表現したい、という思いと、測定量との切り離しは原理原則だし…という鬩ぎ合いによる、過剰修正で、複数形でハイフンをつける人がいても不思議ではないような、妙に同情の余地がある、いやむしろ親近感さえ湧くように思います。

情報の伝達速度が速くなったからといって、我々の脳内での処理の速度までが加速しているわけではないので、規範からはみ出てくる部分はあるだろうな、と見ています。はみ出す領域が大きくなれば、それが破格や変種・亜種から、正用法の仲間入りをする、ということにもなるのでしょう。

以上、とりとめもない話しになりましたが、私の現時点での考えを綴ってみた次第です。

本日のBGM:一回休み

20140307 追記

篠田義明 『数・数式・図形・記号の英語表現』(日興企画、1993年)
の「平面図形の面積の求め方」(pp.85-91) より、関連表現を補充しておく。

  • Find the area of a triangle with an altitude of 26 feet and a base of 17 feet.
  • Find the area of a rectangle 23 inches long and 16 inches wide.
  • Find the area of a trapezoid with bases of 42 inches and 34 inches and a height of 29 inches.
  • Find the total area of a rectangular solid 9 feet long, 6 feet wide, and 7 feet high.