だってなんだか、だってだってなんだもん!

如月といえばハニー。
ロジック不要、不問の魅力があれば Life is good. それはもう、申し分ないものですが、一般人にはそうも言っていられない様々な事情があります。

「『都立高校入試スピーキング試験』の導入問題」です。
記事第一弾はこちら

tmrowing.hatenablog.com

本日は前回の「都立高校入試スピーキング試験」の第二弾の記事で指摘した「開示請求」に関連して補足をば。

tmrowing.hatenablog.com

「学力検査」の枠組みでの開示請求は手順と開示情報の範囲・内容が示されています。

以下は「令和4年度入試」。つまり今春の入試に関わるものです。

www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp
令和4年度東京都立高等学校入学者選抜においては、学力検査や面接・作文などの得点及び学力検査の答案の開示を請求することができます。
開示を請求したい場合は、以下のとおり手続を行ってください。
開示を請求できる内容
1 学力検査等得点表(学力検査の得点及び面接、作文、実技検査等の得点)
2 学力検査における答案の写し
※ 推薦に基づく選抜では、答案の写しを開示請求することはできません。学力検査等得点表のみ開示ができます。

ここで重要なのは、「スピーキングテスト」の成績が合否に反映されるのは「学力検査」を行う入試区分だということ。そして、スピーキングテストは「学力検査」ではないので、「答案」に当たる音声データとその採点評価の「写し」はこの請求の対象とはなっていないということです。

ですから、「スコアに納得が行かない」「あの問題は絶対に設問の要求も満たしていて、Can-do statements にも合致しているはず」という疑義が生じ、それが合否を左右したのではないか、と疑わしい場合にも、「学力検査」の情報開示の対象とはならないわけです。

今回予定されている「選抜」の枠組みでは、「調査書点」に外付けでスピーキングテストのグレード(ランク)を評価するだけです。高校側はそのグレードを20点満点の数値に換算します。

スピーキングテストの受験者には、このグレードとそのグレードを判定するための「スコア」、そして極めておおまかな「出来不出来」をテンプレートのパッチワークで示した「個人宛のフィードバック」の記述文が示されます。

スピーキングテストの設問は全部で大きく分けて4つのパートに分けられています。

Part A音読
Part B Q&A
Part C 描写・説明
Part D 意見・コメント

それぞれの設問の採点基準での満点を足していくと

Part A 音声3x2=6
Part B A3+Q1 = 4
Part C 音声3+達成度1+言語使用4=8
Part D 音声3+達成度1+言語使用4=8

となります。
各設問に与えられた満点を得たとしても、その合計は26にしかならない計算です。
それを「IRT処理」なるものを経て、上限が100のスコアで評価している、というのが彼らの流儀です。

例えば、こんな形で、上限が100、下限が0のレベル分けがなされます。

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ここで気をつけることは、「100点満点」と素点で単純に考えてはいけないということです。
スコアの上限が100というだけで、「単純に20点刻み」のランク分けではありません。
Aの区分は21点分の幅があるのに対して、BからDの区分は15点分、Eの区分は35点分の幅を持っているということで、素人にも玄人にも分かりにくいものになっています。
そして最終的に入試の合否に反映されるのは、A〜Fのグレードなのです。
A=20, B=16 以下、4点刻みで、Fはゼロとなります。
受験生にとって大きな意味を持つのは、スコアでは80点と79点の差が1ポイントだったのに、ランク換算された後の「得点」では4点差になる、またスコアで64点の受験生と、35点の受験生では29ポイントの差があるにも関わらず、ランク換算された後の「得点」では4点差になる、というところでしょう。

では、どうすれば、自分のスピーキングテストでのそれぞれの設問の出来具合を知ることができるのか?
「調査書開示請求」をしただけでは、前回の「第二弾」の記事で書いたように、グレードが分かるだけですから、その情報は既に受験者本人は知っているわけです。
問題は、そのグレードの中身、根拠はどうすれば分かるのか、です。

今回、この事業を請け負っているのはベネッセですから、ベネッセの金の卵を産む鵞鳥、GTECのスコアを横目で見てみると、

https://www.benesse.co.jp/gtec/select.html
f:id:tmrowing:20220205111338p:plain

となっていて、中学卒業程度の英語力を測定するとされるCoreのスコア上限は「四技能」合わせて840点となっています。これを単純に技能数の4で割った210が各技能の上限スコアとなっています。
(因に、大学入試での「民間四技能試験」導入を決める段階の2015年では、Coreの試験にはスピーキングはなかったんですよ。そして、その頃のGTECでは技能ごとに上限スコアは違っていたのです!)

以下、当時のものを示します。
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2015/03/25/1356122_04.pdf
f:id:tmrowing:20220205111419p:plain

上限が210であれ、170であれ、100であれ、どのような処理過程を経て、そのスコアとなっているのかが「ブラックボックス」です。
冒頭でハニーの話をした意図が分かってもらえるでしょうか?

私が「返却される個人票に記されるスコアとそのスコアが設問の出来具合をどう反映しているのかが伺える情報が記されているか」にこだわるのは、「個人票が本人に返却されている以上、開示請求をして明らかにできる情報は既に本人が持っていますよ」と言わせずに、もしもの時にその中身を明らかにできる「策」を講じる必要があるからです。

「向こう側」としては「そのスコアが個々の設問の出来具合にどう基づくのか」は商品価値の根幹ですから、恐らく明らかにはしたくないのだろうとは思います。

今回の大枠の設計では、「調査書点で反映する。しかも外付けで。」ということに大きな意味があるのだろうとも思います。
「向こう側」としては「調査書点」の各教科分は「通知表」という形で既に本人は知らせているので、それ以上に知らせることはない、という理屈なのではないかと。

「調査書点」には5段階と観点別評価とが使われ、推薦に基づく入試などでは都立高校側が「5段階」と「観点別」のどちらを使うのかを決めていますが、そのそれぞれの情報は既に「通知表」で生徒個人に知らせてある、という理屈です。その5段階の評価と一緒に示される「観点別評価」の根拠まで詳細に知らされることは通例ないのではないかと思います。

「私の美術が4で、保健体育が3だったのはどうしてか?」というのは観点別評価のABCのつき方から推測しかできませんが、それでも一応示しているという理屈でしょう。この先の「中身」で「なぜ観点別でBやCだったのか?」という根拠までは開示させることは難しいのではないかと考えています(先行事例や裁判での判例までは調べていません)。

スピーキングテストもこれと同様に、「スコアとランク表示、さらにはレポートの記述文で出来具合は個人に知らせているので、調査書の5段階と観点別評価を知らせているのと同じ」ということで済ませようとしているのだというのが現時点での私の推測です。

ただ、今回、とある筋からプレテストの「個人票」を見せていただく機会を得ましたが、肝心な個々の設問(上述の26点分)でのパフォーマンスの評価は示されてはいません。これは、GTECのCoreや高校生用の上位版などでも同じかと思います。

一方、大学生や社会人向けのGTEC (いや、あるんですって。ベルリッツもベネッセ傘下なんですから)の個人票は、もう少し分析的な評価のレポートをしてくれています。
こちらにサンプルがありますので、お目通しを。

www.benesse.co.jp

大学生、社会人向けの個人票では、それぞれの設問での観点別評価が得点で表されていることがわかります。少しだけ分析的で、自分の出来を推測できるようにはなっています。

では、なぜ、同じ企業体が行う「言語テスト」であるにもかかわらず、この「都立高入試スピーキングテスト」では、設問ごとの分析的な振り返りが敢えてできないような仕組みとなっているのでしょうか?

まだまだ、分からないことだらけです。
今月から来月にかけては都議会の文教委員会が開かれます。公的な場でのやりとりと情報の公開を求めていくことが必要だと思います。

最近は更新されていない、羽藤由美先生のブログのタイトルが「確信的に躍らされるにしても…」というものでした。

yumihato.wordpress.com

羽藤先生はソーシャルメディアでも、この「都立高入試スピーキングテスト」について、比較的早い段階からいくつかコメントをされていました。今、この段階での問題の解決されなさ過ぎな状況にはなんとおっしゃるでしょうか?

私は既に、都立高教員でもなく、受験生の親でもありませんが、今回の「都立高入試スピーキングテスト」の枠組みのようなお粗末なリズムでは、とても踊れないし、踊りたくありません。

本日のBGM: 踊り子 (Vaundy)