2022年1月13日
於:文部科学省記者クラブ
「入試改革を考える会」(代表: 大内裕和/中京大学教授) が以下の論点について記者会見を行いました。
1. 大学入学共通テスト実施直前の 1月11日付けの文科省通知について
2. 大学入学共通テストへの新教科「情報」の導入について
3. 都立高校入試への」英語スピーキングテストの導入について
詳しくは、以下の動画をご覧下さい。
youtu.be
私、松井は、「入試改革を考える会」のメンバーの一人として、英語講師の立場から、上記の3. を担当しましたので、その資料をこちらに再掲します。
この機会に、より広く、この問題を知っていただき、より多くの方に議論していただきたいと思っています。
「都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会」のキャンペーンに賛同します
2022年1月13日
入試改革を考える会 松井孝志 (英語講師)
※上記キャンペーンサイト
上記キャンペーンで指摘されている問題点。
・公平な採点はできるのか
・評価の信頼性への疑問
・授業と英語教育への波及の問題
・個人情報漏洩(ろうえい)の危険性
・入試配点上のバランス
・家庭の経済格差が学力格差を生む
これらを踏まえて、現時点までに分かっている問題点、今後検証考慮すべきことを以下に示す。
1. 当該試験自体の「スピーキング能力」測定に関わる妥当性
→プレテストで示された問題サンプルが「スピーキング」のどのような力をどのように測っているのか、テストとして妥当であるか、という点で疑問がある。ルーブリックで示されている「技能」を課されたタスクが適切に測っているかの第三者の検証が必要である。
令和3年度プレテスト動画
www.youtube.com令和3年度プレテストのスクリプト
https://www.tokyo-portal-edu.metro.tokyo.lg.jp/pdf/speaking_script03.pdf
実施・運用においての問題点/疑問点
→ 「不受検者」の取り扱いで「学力検査の得点から仮のスピーキングテストスコアを算出し、総合点に加算する」とあるが、筆記とリスニングからスピーキング能力が算出できるのなら、そもそも実施する必要はない。段階評価をスコア換算するというのは「アセスメント」の発想であって、選抜のための仕組みとしては機能しない。
段階評価をするA とB の境界線は実質なんらかのタスクの成否に基づく以上、得点/スコアがついているはずで、それが例えば1 点の差だったとしても、段階評価になってしまうとそれが「4 点」の差となって現れることになる。
内申点への外付け加算に関しては、「英語」のもつ重みが
分割前期では約183/1020 約17.94%
分割後期では約170/1020 約16.7%
であり何らかの意図で換算の係数を変えて前期後期を変えていたはずなのにスピーキングを外付けにすることできわめて分かりにくいものになっている。特に前期であれば、換算後の内申点で英国数理社各教科の換算点がそれぞれ約23 点なのに対して、外付けのスピーキングテストが20 点となる。英語という1 教科に限っても、「平常の取り組み」の成果が23 点で、事業者によるテストの結果が20 点となる。これは国語、数学など他教科とのバランスを著しく欠き、「調査書点」というものの存在意義を損なうだけでなく、英語という教科だけに限っても平常の指導の重み/意義が極めて薄いものとなる危険性を持つものである。
2. 信頼性/公平性
都議会レベルでも、疑義が呈されているが都の見解は回答とはなっていない。
2021年第2回定例会に提出された文書質問とその回答(2021.07.01)
www.jcptogidan.gr.jp
提出者 星見てい子 質問事項一 東京都中学校英語スピーキングテスト事業について
事業を請け負う「学力評価研究機構」の実態が不明。
都の回答は「運営体制、問題作成、採点業務等については、テストの公正・公平な運営上の機密事項に当たるため、公表することはできません。」というもの。
採点をフィリピン側のどこが請け負うのか? →情報は不開示
誰が採点するのか? →現地での調査はコロナ禍にあって不十分
受験生8万人の分配は?ミスの検証は?ミスがあったときの対応は?→不明/不開示
都からの回答
「組織名と経営形態、雇用人数については、テストの公正・公平な運営上の機密事項に当たるため、公表できません。採点は、スピーキングテスト採点に習熟した常勤の専任スタッフが、フィリピンで行います。専任スタッフは、高度な英語力を有しており、TESOL 等英語指導の専門的な知識を身に付けていることを示す国際的な資格を取得しています。加えて、採点業務に関する研修を受講し、修了テストに合格した場合のみ、採点業務に従事することとしています。」
この採点の体制が明らかにならないと、公平性、公正性の点でゴーサインは出せないだろう。約8 万人の音声解答に対して誰がどのように信頼性のある評価を下し、その評価が正確で適切であるかを誰がどのようにチェックするのかは明らかにされるべき内容/情報である。
英語スピーキングテストに詳しい京都工芸繊維大学の羽藤由美教授は「民間だからいけないとは言えないが、業者の仕事内容を都教委がチェックする必要がある」と指摘。「解答の一部を都教委が採点して業者の採点と一致するかを点検したり、ダミーの解答を紛れ込ませて採点の質を確認したりするなどの方法が考えられる。入試という重大な局面だけに、採点などを業者に丸投げしたのでは、受験生や保護者が納得しないだろう」と話している。
www.tokyo-np.co.jp
東京新聞2019年11月19日 02時00分
スコア以外の何が受験者と中学校にレポートされるのか?
→都は、「テスト終了後には、スコアや到達度、学習アドバイスが記載された結果帳票を受験した生徒一人一人に返却し、結果を全て開示。また、生徒が採点結果の妥当性を確認できるよう、採点基準や複数の解答例を公表」としている。
一方、高等学校側に伝わるのはグレードとスコアだけで、スピーキングのどのような力があるのか、どのようなタスクはこなせて、どのようなタスクで躓いているのか、どのようなタスクは「白紙」なのかは不明。
これは、他の学力検査項目と著しく釣り合いが取れていない。現行の一次/分割前期であれば、英作文(ライティング)で16点分の採点基準が「各高校の裁量」に任されている。丸投げされた各高校は、詳細な採点基準を都教委に報告することにはなるが、ある程度の学力をもった受験生が集まる高校側には、受験生(入学候補者)の英語力の「プロファイル」が残ることにもなる。今回のスピーキングテストでは、高校側はブラックボックスを通過したスコアをもらうだけで、入学後の指導に活かせるメリットはほとんどない。
3. 「スピーキングテストの受検料負担と都の予算」に関して
→ 都と事業者(現在はベネッセ)による共同事業であり、都内の公立中在籍者に関しては都からの予算で受験料を負担していることになる。(ただし、その場合の予算計上の具体的な資料は都のサイトにも、教育庁のページにも見つからない。2019年当時の都議会での動議で出された資料では、「スピーキングテストを中止し1 億5 千700 万を削減するように」という内容であったが、これは、実際の入試に
反映される8万人規模の事業の予算なのか、プレテストの予算なのかがよく分からない。)当然、私立、国立の中学に在籍しているものが都立高を受験しようと思えば、受験料を個人負担して受験することになるので、「無料」ではない。他道府県から転居等で都立高を受験するものでも同じ問題が生じる。
4. 「受検のしやすさ,地域による格差」に関して
→本番のスピーキングテストの受験会場は外部会場を設けるとされているのに対して、プレテストの段階では会場に中学校を使用しているので、実際の試験会場がどこなのか、そこまでのアクセス、交通機関等の利用も含めて、現時点で何のシミュレーションもなされていない。また「テスト当日には事業者がスタッフを派遣し、準備・監督、資材の梱包等を行います。」という見解が都から示されているが、過去の事業案が示していた「全会場において授業日に実施」とあるのはプレテストのことであり、公立中学校の授業日に、「試験監督」を外部の「事業者」が行うというのは良識を疑うものである。
板橋区立板橋三中公式サイトより
https://www.ita.ed.jp/weblog/index.php?id=1320127&type=2&category_id=7956&date=20211016&optiondate=202110
https://www.ita.ed.jp/weblog/index.php?id=1320132&type=1&column_id=107693&category_id=6459
5. 個人情報漏洩の危険性ついて
→ プレテストの受験のため、ウェブ上で生徒情報を登録する際、生徒の顔写真をアップロードすることを求められたという。来年度以降、公立中学校に通う生徒と都立入試受検予定者すべての名前と顔写真の情報、テスト結果という「個人情報」が一私企業に渡るということを当該の受験生や保護者だけでなく、都民は受け入れているのか?
今回はベネッセとその関連事業体が請け負っているが、ベネッセの個人情報漏洩が問題となったことは記憶に新しい。また関連事業体である「学力評価研究機構」の実態に関しては不透明な部分が多く、大量の個人データを本当に安全に適切に管理できるという根拠を示す必要があろう。
6. 「格差」の問題
→ 現行の入試でさえ、その対応/対策は盛んであり、塾に通える家庭の子と通えない家庭の子の間では格差が生じている。懸案のスピーキングテストは「タブレットを操作して録音する」という形式のテストであり、普段より、タブレット操作に慣れている生徒、塾に通ったり、e-learning で試験を模した教材を購入し対策をしている生徒に有利となることは十分に考えられる。
都は、「試験問題を作成する団体が,そのための教材出版や受検指導を行うことの利益相反がないように毎年チェックをする」といっている。事業体とその関連企業の利益相反がないことはもちろんだが、一度試験が行われれば、その対策商品が作られ、市場ができることは明らかである。既に、「スピーキングテスト対策」を謡った商品も作られており、格差の助長は「不安」「懸念」ではなく実害である。
7.大学入試での「英語民間試験」利用とは異なり試験は1種類で,種類間の比較の必要はないことに関して
→ 裏返せば一社独占の事業であることが問題。5 年ごとに事業締結を見直すようだが、その途中で、大きな事故や問題が生じた場合に事業を取り消せば済む、というわけにはいかない。また、もし新しい事業体と契約して事業を続けるとした場合に、その新しい事業体が作る試験と、現行の試験との整合性はどうとるのか?
以下、参考資料
「民間資格・検定試験を活用した東京都中学校英語スピーキングテスト(仮称)」事業
令和元年度における実施協定の締結及びプレテストの実施について(2019年10月31日 教育庁)予算に関して明記されているもの
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/02/14/documents/12_04.pdf
東京都スピーキングテストポータルサイト
www.tokyo-portal-edu.metro.tokyo.lg.jp
スピーキングテスト事業案概要 (2021年9月24日 教育庁)
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2021/files/release20210924_03/bessi.pdf
都議会でのやり取り
令和2年3月13日 付託議案など
会の代表、大内裕和から次のようなお願いもあります。
「入試改革を考える会」はオンライン署名「都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求めます!」の賛同団体となることを表明しました。これから「入試改革を考える会」としてこの署名に全力で協力します。皆さん、この署名を一人でも多くの周囲の皆さんに拡散してください。どうぞよろしくお願いいたします。
以上、記者会見関連の情報をまとめました。
※追記:その後分かったこと、更なる疑問点などを後日の別記事でまとめています。是非併せてお読みください。