Writing Teachers A Go Go!

  • 原語ですらすら読めるなら、翻訳を介する必要はない。翻訳はしょせん原語に通じていない人間向きの補助手段なのだ。ときおり、事もなげにそう言い切る人に出会って、こちらはいささかたじろいでしまう。一見もっともな意見だ。しかし実際には、そう断言できるほどの高度にして多様な外国語読解力を身につけている人間が、世の中にどれほどいるだろう。世界文学を遍歴する楽しみなど、翻訳の助けを借りなければ味わうことは不可能である。(野崎歓、「翻訳、このたえざる跳躍」、『翻訳家の仕事』岩波文庫2006年収録)

この本そのものが、翻訳に関しての論考集であるから読解力が問題になるわけだが、「通訳」ということを含めれば、外国語に常につきまとう問題である。
『考える人』2007年秋号(新潮社)の、第六回小林秀雄賞決定発表の特集で、内田樹氏がローレンス・トーブ氏と対談している (pp. 138- 148) 。通訳は中原聡子氏、と記されているのだが、対談を誌面に起こすときにはさらに編集されるのが常なので、「構成・編集部」という部分に「翻訳の仕事」は任されてくるのだろう。

ライティング指導、高校生の英語学習に関連して徒然に。
GTECに関連した話題が、ネット上でも飛び交うようになってきた。受験者30万人ともなれば、大規模テストであり、一大市場でもある。
ところがである。
このGTECの準拠問題集のようなものを欲しがる人がいるのだ。勘弁して欲しい。教師は、次の斎藤栄二氏の言葉を噛み締めて欲しい。(http://tb.sanseido.co.jp/english/newcrown/pdf/ten009/ten09_06.pdf
GTECの話に戻ろう。
主として高校生の普段の授業の成果をできる限り(擬似的にではあるが)コミュニケーション能力を推測しうる形式で図ろうというのがこのテストの狙いなのだ。それを入試や英検よろしく、類題・予想問題対策に現を抜かしているのでは本末転倒だろう。まるで、毎月TOEICを受験しては、反省したりやる気をかき立てたりするものの、TOEIC対策教材でしか英語の学習やトレーニングをしていない社会人・大学生のようである。英語そのものを使わず、学ばないから英語力がつかないのである。先日、このブログでも紹介した香住丘がなぜTOEICの平均点で700点近くをマークできるのかをよく考えて欲しい。過去問対策至上主義から一日も早く脱却することだ!
國弘正雄氏はかつてよく「あるがままの英語」「斬れば血の出る英語」といっていた。その視点というか皮膚感覚を最近頓に実感する。

『蛍雪時代』(旺文社)で、代々木ゼミナールの水野卓氏が英語の入試対策講座を連載しているのだが、今月(11月)号は「自由英作文」に特化した講座。要約を出す大学は少ない、なぜなら難しいから。今の主流は意見などを論ずる自由英作文、という趣旨だが、もう少し分析をしっかりした方がよい。意見文は全出題のおおよそ半分くらいの割合である。この講座では問題演習も2,3題解説してしまえば終わってしまう分量なので、消化不良感が大きい。

  • 100語という指定にどう対応するか、で「1文は約15語」「6文で90語、7文で105語」というようにまず文数を決めて書き出す。「テーマと展開」という流れのカタチを押さえてしまえば、あとはその6文(7文)の「和文英訳」なのだ。できるだけシンプルに書くのだからとにかく節の数を減らし句を活用する。

というアプローチには正直困ったものだ。文の数を決めるまでは良いだろう。ただ、句を活用して節を減らす、というのは歓迎できない。むしろ、時制を固定し、事実と意見を峻別して明確な意味と論理を節で表せることこそ、「ヨコ糸」の生命線ではないのか?ちなみに私は、「文頭で分詞構文を不用意に用いてはならない」と指導している。では、「不用意」ではなく、「用意された段階」とは?と生徒が食いついてきて初めて、レディネスが整うのである。『表現ノート』などで文頭の分詞構文を執拗に追わせればよいではないか?実際の用例を丁寧に分析して、自分で使いこなせる生徒には使用を勧めればよい。コーパスからのKWICなどが出せるのであれば、そのコピーを渡すのでも良い。私も、Unable to 原形とかUnlikeではそうしている。
この講座の過去問は、岐阜大の「小学校英語導入に関する意見」を扱った流れで神戸大の下線部英訳&賛否を扱っていた。最後に解答例が出ていたのだが、立場は1つしか示されていない。この解答例だけでも、賛成・反対・保留(あるいは部分的・条件付き賛成)のような英文を示しておくことで、「テーマ語彙」のリスト作成、「頭出しチャンク」の整理など、「過去問を解いたことでどんなライティング力が身につくのか」という見通しを学習者に与えるきっかけになるのだが。この点で、同じ入試対策をするなら、神戸文章氏が学研から出している参考書の解答例の方がよほど適切で効果的だろう。
直前だけ過去問対策をして、「ライティング」をやったつもりになっている意識を変えなければ、高校のライティング授業は変わらない。GWTの活用法について先日福岡で話をしたときにも、N先生から「返却された答案をもとに教師が解説できるともの凄く伸びる。」という発言があり、「ライティング」について教師が学んでおくことが極めて重要であるとあらためて感じた。年間を通して発達段階をモニターできるのがライティング指導の持つ強みである。入試実績を高めたい、という学校のニーズは私にもよく分かる。ただ、リーディングやリスニングでは、どのくらいの英語力をどの時期までに身につければよいのかが、これから学ぶ生徒にもわかりにくい。いきおい、「平均偏差値60」とか「早慶上智レベル」といった漠然とした降水確率のような数値を持ち出したり、実態のないラベルのみを見せて安心させたりすることになりがち。でも、ライティングの授業をしっかりやっておけば、少なくとも「偏差値60の生徒の作品例がこの4つ」、「早慶上智の合格者の5月のライティングがこれ、そして12月がこちら」というような動機付けをすることが可能である。昨年の博多イベントでは東大合格者のライティング履歴を見せたが、1学期はじめと2学期おわりでは生徒の取り組みそのものが変わり、プロダクトも大いに変わるのだ。ライティング指導を変えることによって生徒は「気づき」、「成長」する。そして、アルバムのようにその足跡が残っていく。Why don’t you try?
神奈川イベントが終了して、先生方からメールが届き始める。ビデオメッセージという制約があり、隔靴掻痒もあろうが、メールをいただければできる限り対応したいと思う。夏のELEC研修会以降も何人かの先生とはメールで情報交換をさせてもらっている。ワークシートやハンドアウトなども実際に添付で送ったり、ダウンロードサイトなどをお教えしている。このブログで紹介した書籍を実際に読まれて行動に移された方もいる。双方向、とまではいかないが、こういった繋がりができるのは単純に嬉しいことである。
高1、高2ともオーラルの試験が完成。今回も、巡回時に生で読み上げます。
明日は早朝から本業へ。いよいよフェザーリングとスタ練の導入です。
本日のBGM: Cross my fingers (John Hiatt)