過去問演習の悲哀

教え子が某予備校主催の「一橋大模試」というのを受けてきたので、その出題と解答例・解説を読む。

  • English should be taught from the first year of elementary school in Japan.

というトピックに対して120-150語で論ずるもの。最近ありがちなトピック(02年愛媛大、群馬大、04年鹿児島大、福岡教育大、06年早稲田・国際教養など)だけに、この模試での成績が良くなり、判定が甘くなるのではないかと心配になる。本番で苦労しなくて済むよう頑張って欲しい。
さて、その予備校が示している解答例(ボールドは私。予備校側も決して「模範解答」とは言っていません。):

  • In my opinion, Japanese children do not need to learn English from such an early age. They need to master their own language first, and forcing them to study two languages at the same time would confuse them. Furthermore, this would give them less time to study subjects that are more useful to them, such as mathematics. It is often said that Japan needs to produce more fluent speakers of English since it is the international language of business and since our economic survival depends on trade with other countries. However, I disagree. Very few Japanese adults need to use English at work, which means that as students, they only study English in order to pass exams. To me, this is a terrible waste of time. (126 words)

模試の解答例だというのに、反対派の解答例しか提示していないので、「受験料を半分返してもらいなさい」と言っておいたのだが、この答案が、私のライティングのクラスで出て来たら、どう評価されるかだけ示しておきたい。先日のELEC同友会でも指摘したように、過去問演習の限界と解釈して頂いて結構である。

  • まず、 do not need と「不必要」というスタンスを出している。Such an early ageという主観的な表現は後での裏付け待ちとして目をつぶる。小学校入学と同時に外国語を学び始めている国もあるから、「そんなに早く」というのはつっこみどころ。First language firstという論理は結構だが、ではsecondはいつから?というのがissueなのだ。少なくとも、four skillsのうち、小学校入学以前に日本語のlisteningとspeakingにはかなり習熟しているだろうが、reading & writingは「小学校で学ぶ」必要があり、その学びと並行して新たな言語を学ぶことは母語学習の混乱を深める、とでも理由づけなければならないだろう。次のfurthermoreは何に何が添加されたのか、何の程度が増したのかが曖昧。「主要教科の学習時間が削減」というのが、マイナスの影響である、ということなのだから、まず、二つまとめて、”do more harm than good”とでも自分の主張に大きくラベルを貼ることが望ましい。「学校で主として学ぶ母語による読み書き学習」に悪影響があり、「母語によって学ばれるしかない主要教科の学習」に悪影響がある、という二段階なのでFurthermoreなのだ。ここで気になるのが、 more usefulという主観的形容。誰がその優劣を判断するのか?事実を中心として理由付けすべき所に新たな意見を持ち出すのは、日本の高校生のライティングでは典型。英語としては歓迎されない。予想される反論に対する再反論に I disagree.とやってしまうのは得策ではない。これは議論が平行線を辿るもとになる。ここでまた、そのdisagreeのサポートとなる事実を持ち出すために頭出しチャンクなどを使い、使用語数がかさむ。That is not the case here.とか That doesn't make much sense. とか、They fail to consider the fact ....など、あくまでもその陳述や論理の不備を指摘すること。「赤(=持論)上げないで、白(=世論)下げる」とでもいおうか。さらに、最後が全くいただけない。terribleという主観的形容もさることながら、ここでTo meを出してしまったらぶちこわし。「あなたが好きか嫌いか」を問うているのではないのだから。To most of the early graders, it would be a waste of time and energy. くらいで、まとめておいて、Consequently, I oppose the introduction of English education in the first year of elementary school in Japan. などと締めくくるのが望ましい。

ちなみに、ここでの私の指摘・記述は、あくまでも模試の解答例に対してのものであり、私自身の小学校英語に対する考えではないことをお断りしておく。
今日は朝5:30から本業だったのだが、7時過ぎに土砂降りにやられた。朝食を取った後、日本の某トップチームのコーチングスタッフと簡単な情報交換。その後、いったん自宅にもどり着替えて、参宮橋へ。
全英連東京大会分科会の打ち合わせ。使用機器の確認をして(今日行ったのは、ほとんどそれだけのためなんだけど…)帰宅。会場で筑波大附属駒場中高の久保野先生にお会いする。北海道から帰ってきたばかりで、この後、筑波大附属中学の研究会に出るとのこと。相変わらず超多忙だ。道すがら、四方山話。先日仕上げた原稿を褒めてもらう。やはり嬉しいものだ。ここ二、三年本当にお世話になりっぱなしで、何もお返しできていないのが心苦しい。印象に残ったのが次の言葉。

  • 今後は執筆活動とかやったら?ブログもタダで読ませてるし。

もともとteacher diaryのつもりで書き続けてきたのだが、アクセスのログを見ると、一日単位で過去ログを見ている方がいるので、それなりにまとまった内容で書籍化とかできないかと考えている。どこか、奇特な出版社、編集者の方がいましたら左のプロフィールの欄からメールをお願いします。
私がいつも見る英語教育関連のサイト、ブログは

  • 『地道にマジメに英語教育』
  • 『英語教育にもの申す』
  • 『英語教育の哲学的探究』

と限られているのだが、そのうちいつも勉強になるなぁ、と感心する『地道にマジメに英語教育』の山岡先生のサイトで、英語教育論が更新された。
http://hb8.seikyou.ne.jp/home/amtrs/learn_to_read.html
山岡氏、本領発揮!という感じ。この内容がサイトにアクセスするだけで読める、ということに感謝。

本日のBGM: There is a light that never goes out. (Morrissey Live at Earls Court)