True Tales of American Life

ポール・オースターがNational Public Radioの企画で始めたリスナーからの実話朗読を編んだもの。1999年-2001年の企画で、私の手元にある英国版ペーパーバックは2001年刊。私自身さすがに、放送そのものを聞いたことはないので、この企画の反響のすごさというのはわからないが、本自体は非常に面白く読み通せるものであった。ごく普通の平凡なアメリカ人が、どのような英語を書くのか?というライティング教師の好奇心から、一時期この本をよく教材作成のヒントとして利用していたし、高校3年生には一読を勧めていた。
ポール・オースターといえば、日本では柴田元幸氏の翻訳でおなじみだが、いくらポール・オースターの関わる企画とはいえ「さすがに市井のアメリカ人の声を集めたものを柴田氏が翻訳することはないだろうな」と思っていた。
ところがである。今年になって翻訳書が出たのである(新潮社より)。更に驚いたことに、180編から18編を選んで、ポール・オースター本人が朗読したものをCDブックで発売する(アルク社より)というのである。CDブックには英語の原文も収録されているという。今日現在、詳細に翻訳を読み比べてはいないが、気になることを2つ。
ひとつは、翻訳の文体の問題。
翻訳の難しさは、原文の理解・解釈・咀嚼はもちろんだが、作者・著者の「声」や「顔」、「身体」を文字だけを頼りに再現することにあると感じている。その意味で、今回のような、特定の作者で文体とか呼吸が定まっている文章ではなく、匿名性の高い作者の文章を翻訳すること、しかも180人もの声を「卒業記念文集」よろしく個性的に翻訳するのは至難の業なのではないだろうかということ。
もうひとつは、翻訳の邦題『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』である。
オリジナルの米版のタイトルは、"I Thought My Father Was God, and Other True Tales from NPR's National Story Project"である。今日のブログの標題にあげた英国版のタイトルは「英国人から見た米国人像」を映し出すには的確だと思われるが、なにゆえ日本人読者を対象とした翻訳で「ナショナル」を強調したのだろうか?
私のような疑問を持つ人だけでなく、柴田氏のファンは、8月28日に開催されるトークイベントに出かけてみてはいかがだろうか?東京は立川駅近くの書店で行われる。
( http://www.orionshobo.com/topics/shibata/shibata.htm )