「『文修飾副詞』の問題点」の指摘の問題点

『文修飾副詞』の語法に関しては、hopefully, thankfullyの用法が取り上げられ、容認度をめぐっての議論やインフォーマントのコメント、近年ではコーパスを利用した分析など広く世に知られている。ところが、それ以外の文修飾副詞の用法はあまり注目されず、旧態然とした指導が続いているのではないだろうか?
早稲田大・一文・03年での出題には少なからず驚いた。以下に、冒頭の段落を示す。
Since the late 1960s, there has been a revolution in how we think about human groups. Although the idea of "cultures" remained the dominant approach in anthropology for many decades, the limitations of such an approach have gradually become apparent. There is now plentiful evidence that the fundamental assumptions underlying it are quite wrong. Typically, human "cultures" do not have sharp boundaries and are not usually the same all through. Specifically, primitive societies are not timeless, but dynamic and constantly changing, although not necessarily quickly or in any particular direction.

最終文冒頭が空欄になっており文修飾副詞としての specificallyを選択させる出題である。
受験生で、specifically の文修飾副詞としての用法に習熟している者がどれほどいるかは定かではない。
いわゆる受験用の単語集で、このspecificallyの用法を取り上げているのは『ターゲット1900』(旺文社)のみであったが、それでも訳語を示しているだけで、用例がないので、解答に寄与しているかは不明である。
辞書ではどう扱われているか見てみよう。
電子辞書にも多く収録されており、高校現場ではもっとも使用頻度が高いと思われる『ジーニアス英和』(第3版;大修館)では副詞の項目に
1. 明確に、はっきりと、
2. 特に、とりわけ、
3. もっと正確に言えば、すなわち
とだけあり、用例は与えられていない。(この辞書の最大の弱点はこのような派生副詞の扱いであることにもっと世間は注目するべきである。最新の『プラクティカルジーニアス』でも用例はない。)
『グランドセンチュリー英和』(第2版;三省堂)では
副詞の項目に
1. 明確に(言えば)、すなわち
2. 特に、とりわけ
と語義の第一位に、この用法を滑り込ませている。残念ながら2.には用例があるが、1.にはない。
『ウィズダム英和』(三省堂)では、3.[文修飾]として、
明確に言うと、具体的には
と訳語をあげ、
We, or more specifically my father, developed the car. 「我々、もっと具体的に言えば父がこの車を開発した」と用例をあげている。
『ユースプログレッシブ』(小学館)では、3つめの語義として、この文修飾の用法に完全文の例文をあげているのだが、先行文脈がないため、談話に於けるこの語の正確な働きがつかめないのが心残りである。(しかしながらこの辞書はBNCを独自に活用しており、親辞書の『プログレッシブ』にはない小回りの良さが魅力である。)
MEDでは、語義の2番目の項目で、
・in an exact and detailed wayの下位項目として、
・used for describing something in a more exact wayという語義をあげ
We've been married now for over thirty years, specifically since 1972.
という用例をあげている。
COBUILD(3rd) では
You use specifically to add something more precise or exact to what you have already said.と説明し、用例として、
Death frightens me, specifically my own death.
brain cells, or more specifically, neurons.  をあげている。
OALD(6th)では、
Used when you want to add more detailed and exact information: The newspaper, or more specifically the editor, was taken to court for publishing the photograph.
という説明である。

手元の用例から類例をあげる。
For example, left-handers more frequently process language in both hemispheres and process spatial information in both hemispheres than do right-handers. Specifically, language is mediated in the left hemisphere in 90 percent of right-handers and 70 percent of left-handers.

例をあげると、左利きの人は、言語と空間情報を左右両方の脳で処理する頻度が、右利きの人よりも高いのです。もっと正確に言うと、左脳の仲介によってなされる言語処理は右利きの人が90%であるのに対して、左利きの人では70%なのです。

今回の早稲田大学の出題において、どの程度の正答率だったのか興味深いところである。

追記 (2009年11月4日)
このエントリーを読まれたsaさんから、上記 "Specifically" の誤りの指摘があり、正答は "Further" である、との情報を得て原文を確認したところ、確かにFurtherとなっていました。ここに謹んで誤りをお詫びするとともに、今後の自戒のためにも、上記エントリーをそのまま残すことにいたします。
なお、原文は、2009年11月現在、こちらで見ることが出来るようです。
http://books.google.co.jp/books?id=G73f6pKxa70C&pg=PA63&lpg=PA63&dq=%22remained+the+dominant+approach+in+anthropology%22&source=bl&ots=Y-ME71Os2r&sig=iQl6n2boAqhKmNAaL8lnfAUyI00&hl=ja&ei=n1TxStTNGpLy6gP8x429Bg&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=2&ved=0CAsQ6AEwAQ#v=onepage&q=%22remained%20the%20dominant%20approach%20in%20anthropology%22&f=false