田鍋薫著、渓水社2000年刊。現在絶版である。副題は『談話の結束性と読解』。文レベルの読解のプロセスからきちんとbottom-upの方法論を吟味した上で、文レベルを超えた読みに求められる情報構造の理解、談話文法の視点を訴え、文法的結束性、語彙的結束性を説き起こしている。今流行のスキーマ活性化、top-down処理重視の読解指導とは対照的である。この書籍とよく似たタイトルの『英文読解のプロセスと指導』(天満美智子著、大修館書店)の方は大修館のシリーズものに含まれていることも手伝ってか、多くの英語教師に読まれているようだが、この田鍋氏の著作はほとんど知られていないのが極めて残念である。とりわけ高校教師としては、田鍋氏のアプローチの方がはるかに得るところが大きい。
「日本人が英語を習得する場合は、ヨーロッパの学習者が他のもう一つのヨーロッパの言語を習得するのとは異なったプロセスをたどることになるので、欧米産の教授法をまねるだけでは効果は望めない。」
「運用による定着は、よいねらいであるが、ある文型・文法事項を導入した後、急いで生徒同士に対話練習をさせると、生徒の対話の内容がコミュニケーションになっていないだけでなく、ねらいの指導事項が正しく理解されず、定着していないことがある。」
この言葉をかみしめた上で、while-readingでいったいどのような読みが行われていると推測できるのか、に思いをめぐらせて欲しいと思う。適切なbottom-upのプロセスを改善しない限り、和訳を先に渡したところで、根本的な読みの改善とはならない。