何度でも…。

連日の猛暑。
流石に「何℃でも」という勇気はありません。

夏期課外講座の前半が終了。
ついうっかりすると、こんなところにも「前半戦」などと「戦いの比喩」を持ち出しそうになる自分に気づきます。自分がそのことばを使う使わない、というだけでなく、自覚があるかが大事。

戦いの比喩といえば、「受験は団体戦」などという紋切り型のことばが受験雑誌やwebで使われていたりします。初耳ですか?某予備校のキャッチコピーなのか、校是なのか、「日々是決戦」なんていうのもありましたよね?
これって、自分たちの団体が勝者になることを想定するのは結構なのですが、いったい敗者として誰を想定しているのでしょう?まさか、志望校群とか入試制度ではないだろうと思うのです。せいぜいが「他の団体」、殆どの場合は「他校」でしょう?ときに「同じ学校の他のクラス」だったりすると緊張しますね。では、「勝者」は何を勝ち取って、「敗者」の手には何が残るのでしょう?
勝者は「第一志望校への合格と入学の喜び」で、敗者は「第二志望以下の学校への合格と不本意入学」?敗者は、「悔しさと捲土重来」?

「学び」はどこに行ったのでしょう?

そういう「学びを語る戦いの比喩」からできるだけ距離を置いて教師をやりたいと思って今日に至ります。個人的にはまだ「連帯」の方が希望を感じます。日本の風土ではとかく「連帯責任」などという形容に使われるので、好感度が低いことばになっているようで可愛そうな気もしますけど。

私の座右の銘は、

  • 群れるな、連なれ

です。今の季節なら「夏なれど蒸れるな」でしょうか。

そんな夏期課外講座の振り返りをば。

高1は、中学校の復習に相当する、入門期からの学び直しの一区切り。
所謂「後置修飾」の全体像を見渡せる丘、のようなところに連れて行きました。
こちらのファイルなどをご覧下さい。

名詞句の限定表現 得手不得手 再々修正版.pdf 直

虫の目から鳥の目、ですね。
当然、中学2年くらいまでの教科書の「素材文」では、モノローグが少なく、テクストタイプもナラティブが多いので、「コト」の説明が少なく、「モノ」も「人」も単純な修飾構造での名詞句が殆どですから、この素材文を活用して、「既に読んでいて意味のわかる、構造のわかる『文』から、名詞句の限定表現を括りだす」という活動もしています。

  • I like the musician (the) best.

という「文」から、

  • the musician I like (the) best

という「名詞句」を括りだす、という類いです。

名詞句の中に、<主述関係>、<主語と自動詞><他動詞と目的語>の関係が潜んでいるものも、ある程度の数の実例に触れた頃を見計らって、まず日本語の例から確認・整理しています。

過去ログだと、

Beware of English teachers
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140510

「もどき」と「ごっこ」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140516

で詳しく書いていますし、今年度でも、高1の1学期の授業で扱った言語材料で言えば、

「目的語感覚を養う」
2016「目的語」感覚を養う.pdf 直

で取り上げています。
ということで、今回の例で言えば、「山火事」と forest fire、「火消し」とfire fighterなどをそう言う目で眺めることが求められていますし、それを踏まえた上で、-ingや-ed/enの所謂「分詞」としての形容詞的用法を見比べて行くことが求められています。

  • (?)モノなら-ing形、人なら-ed/en形

とか、

  • (?)生き生きとしていれば –ing形

などという過度の単純化はしていません。

生徒には、

この 1 -11の分類だと、名詞と名詞の意味と私たちの世界の見方に依存した「力技」の2、多様な意味の関係を表わす前置詞で、3〜5に入らないものを集めたゴミ箱のような6が難しい。そして中でも、所謂「不定詞」の11が一番難しいと思うので、実感が持てる例を中心に丁寧に仲間をつくっていくこと。

と言っています。裏返せば、それ以外は「高1のこの時点なら、わかっていないとダメ」ということなのですが、そういうことを言うと、「みちこさん」にダメ出しされちゃうのでね。

所謂「不定詞」も、前置詞 to の原義を引き合いに出して、「未来志向」とか「前望的」などと言われることが多いのですが、それも「判断するひとつの物差し」に過ぎません。
ということを弁えておくために、

  • the first man to walk on the moon

  • the first man to walk on Mars

という例とをわざわざ入れてあります。

もっとも、「目的地」は未来志向で、「到着点」は結果志向、という説明で前置詞 to の原義を説明したつもりの人とは距離を置いておこうと思っていますけど。

英語を教えている人であれば、過去ログの、

不定詞と動名詞
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050213

分詞は難しい
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060111

the day to remember him by
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130616

あたりも併せて読んでおくといいのではないかと思います。釈迦に何とやらで、申し訳なく思う一方で、本当にこの辺りの理解が覚束ない人が教壇に立っているのも現実なので。

もう少し詳しく考えるのなら、

Limiting vs. Restrictive
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20111009

英文法指導で心がけていること
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20111006

さらには、

大津由紀雄編著
学習英文法を見直したい

学習英文法を見直したい

学習英文法を見直したい

  • 作者: 大津由紀雄,亘理陽一,安井稔,江利川春雄,斎藤兆史,松井孝志,鳥飼玖美子,日向清人,久保野雅史,末岡敏明,岡田伸夫,柳瀬陽介,田地野彰,山岡大基,高見健一,真野泰,福地肇,馬場彰,大名力
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2012/07/21
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の「第7章」と表紙のカバーをよくお読み下さいますよう、重ねてお願いしておきます。


というわけで、高1の夏に中2の検定教科書の素材文を扱っているわけですが、「意味が乗るように音読する」というのは難しいことを実感しています。さらには、「英語を英語のまま理解する」というのも大変なことなんです。

素材文を理解する段階では、チャンク毎に意味を処理していきます。
まずは、

緑本12.pdf 直

の「チャンク改行」のハンドアウトで、解説も聞いて、書き込みをして、わかったつもりになっている素材文も、「A4版段落ベタ打ち」で何の書き込みもないまっさらな英文でも自力で読めるのか、ということを確認してもらっています。

自力で read and look up → うまくできないところの音源を確認(精聴) → 英文を見ながら口パクで音源に重ね読み → 英文を見ながらのなんちゃってシャドウイング → 英文を見ずにシャドウイング → うまくできないところの音源を確認 (精聴)

と再び(三度?)「音源の確認」に戻ってきた時に、「自分が上手く音読やシャドウイングができない原因は、本当に音声化にあるのか?」というところを明らかにしないとダメでしょう。(そのために、ひと昔、ふた昔前の中1&中2の検定教科書から素材文を採っている『緑本』を使っているのですけどね。)

これも、繰り返しているうちに、スラスラできるようになるわけですが、その一方で、チャンク毎の処理をただ先へ先へと進むだけではなく、意味を中心として構造を跨いでつなぎ直せるか、という部分にも取り組んでいます。

チャンク切り出しrobert.pdf 直

で、意味のつなぎ直しでチャンク切り出しが変えられるか、そして、それに音声だけで対応できるか、という「対面リピート」もやっています。やることはいたって単純。

ペアで対面し、片方が紙を相手に向けて持つ。
相手は英語を読み上げて、もう片方はそれを耳で聞いて、聞き終わったら、リピートする。
Aの文で、1→1 のリピートがスラスラできれば、Bの文へ。
Aの文の1が上手くいかなければ、2,3,4をそれぞれやってから、再度1へ戻って、できたらBへ。

これだけです。私の仕事は、チャンクの切り出しを変えたこのワークシートを作ること。これは高3の生徒でもちょっと難しい作業です。
この素材文は、旧旧課程の中2の検定教科書ですが、この対面リピートはなかなかにchallengingです。生徒の習熟度の差が顕になりますので、高校生を教えていらっしゃる方で、指導力以上に生徒との信頼関係に自信のある方はお試しあれ。

名詞句の限定表現がある程度自信を持って扱えるようになると、「意味順」が一層生きてきます。そのために、高校入学時に、「名詞は四角化で視覚化」を唱えながら、来る日も来る日も来る日も…「四角化ドリル」をしているわけです。その肝心要の「四角化ドリル」が分からないと、今日のエントリーの内容や、ファイルの内容もよく分からないかも知れませんが、そもそも授業って、その授業を受けていない人にはよく分からないものですからね。

「四角化ドリル」の昨年度のバージョンはこちらにあります。ファイルは全てダウンロード可、パスワードなしです。二次使用は注意書きにあることを守っていただければ、あとはご自由に。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150503

それ以前のバージョンの方に、それぞれのドリル設計の意図や背景などを記しています。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130428

今年度のバージョンは、11月の全英連でまとめて発表(&解説)の予定です。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Yesterday Once More (Aimee Mann)

辞書を使いこなすには?

tmrowing2016-08-01

8月になりました。
前回のエントリーで「学級文庫」から書籍等を一部紹介したのですが、辞書の写真についてのお尋ねが幾つかありましたので、その部分を補足しておきます。

スマホやタブレットなどで見ている方は、画像ファイルが開けるPCモードで見る方が操作がしやすいのですが、タッチスクリーンで拡大しやすいようにダウンロード可能なリンクもつけていますので、そちらをご利用下さい。

[file:tmrowing:辞書.jpg]
f:id:tmrowing:20200310194738j:plain

上段左から、
1. Cambridge Academic Content Dictionary (2008年)
これは、定義が秀逸な一冊です。アプリ辞書も販売されていますので、説明は不要かとも思いますが、幾つか例をあげておきます。それぞれ何の定義か考えてみて下さい。

  • (of a person) truthful or able to be trusted; not likely to steal, cheat, or lie, or (of actions, speech, or appearance) showing these qualities
  • a person in an aircraft whose job is to serve passengers and to make sure they obey safety rules
  • an African wild animal that looks like a horse but has black and white or brown and white lines on its body
  • a building, room, or organization that has a collection especially of books, music, and information that can be accessed by computer for people to read, use, or borrow
  • an accepted principle or instruction that states the way things are or should be done, and tells you what you are allowed or are not allowed to do

2. Longman Wordwise Dictionary (2001年)
Longmanの学習用英英辞典のエッセンシャル版と言えるものです。表紙にはNEWとありますが、2001年の版。収録語数を35000語まで絞り込んでいるところが初級者向け英英ならでは。でも、それでも、学習者が自分で調べたいと思うお目当ての語、一つに対して、当面不要な語が34999語あるということは指導者も弁えておいた方がいい。


3. 田崎清忠編著 『アメリカ日常語辞典』(講談社、1994年)
もともとは自分が使っていたもの。「講談社版」とありますが、このタイトルでの他社版はあるのかしら?
『英語会話―アメリカの生活とことば (日本放送出版協会、1967年)』との対比なのかな?

※20161011追記
恐らく、研究社版の『田崎のアメリカンライフ辞典』(1983年) が元版だと思います。表紙の写真はこちら。
[file:tmrowing:田崎1983 & 1967.jpg]
f:id:tmrowing:20200310194806j:plain

4. 『英語基本語彙辞事典 3000語の背景』(中教出版、1983年)
語研の主要メンバーによる編著ですかね。「基本の2000語、3000語くらい、一つ一つ丁寧に教えてあげなさい」とは、恩師の若林先生のことば。今読むと、物足りない、食い足りない部分が多々ありますが、中高生で、ことばに興味関心が強い人にはこういうものもありかと。昔は、小川芳男・前田健三『英単語物語  その誕生と生いたち』(有精堂、1980年) などの「読み物」でも良いものがあったんですけどね…。


5. 『ヴィスタ英和辞典』(三省堂、1997年)
若林俊輔門下による、初学者への配慮のなされた英和辞典。改訂はされていません。でも、訳語そのものの吟味、用例での日本語訳表示の工夫など、これにとって代わるものがないので、依然としてこれを置いています。数年前の生徒の一人は、再帰代名詞を調べた際に気に入って、自分で買っていました。


その、『ヴィスタ』から少し離れた右にある小さな判型のものは、

6. Webster's Essential Mini Dictionary (2011年)
これこそ、アプリ版が望まれる優れた辞書。中身は、概ねCambridge Essential と同じですが、一部定義や用例が異なっています。米語対応ということなのでしょう。CEFRに準じた表記も、語義ごとになされています。これは、Cambridge English Profileという巨大なプロジェクトを手がけているケンブリッジ系ならでは。老眼の私の目にはこのminiの判型・サイズは厳しいので、学級文庫に置いています。


中段左から、
7. BBC English Dictionary (1990)
COBUILDとのコラボ。BBCの放送で使われた言語資料から、(当時としては)巨大なコーパスを構築して、定義や用例に活かした、画期的、意欲的な辞書。百科事典的項目は国が変わっていたりするので、今の時代に合わないものも出てきているけれども、やはりあると便利。個人的には、検定教科書のTM執筆で20代の終わりから約10年、最も使った辞書の一冊。


8. 『ワードパワー英英和辞典』(Z会出版、2002年)
オリジナルの Wordpowerの初版に対応しています。
英語のエントリーに対して、英語による定義文と用例があるのが一般的な英英辞典ですが、その定義文の和訳と訳語、用例の和訳を載せているので『英英和』です。定義文の和訳があるのがウリ。というか、定義文の和訳がないとこの辞書は存在価値がない。かつては『ウエブスター英英和』が左右対称二段組で定義文も含めた英英和を出していましたが、それを「学習用辞典」でやったところがエポック。ただし、当時の編集部に、辞書作りのノウハウがなかったのか、レイアウトやフォント、色使い、文字とスペースのバランスなど最低最悪の見た目で、引くたびにストレスがたまる。数年前までは、クラスで一人にこれを1年間渡して、「ミス or ミスター・ワードパワー」の称号を与え、授業中に折りに触れ読み上げてもらっていました。ここを足場にして、他の英英辞典の定義との読み比べに入るわけです。


9. Cambridge Learner's Dictionary (小学館、2004年)
こちらも英英和。でも、英語の定義のあと、ちょこっと訳語が載っているだけ。「学習用英英辞典」でそれをやっている、というところが持ち味。活用ハンドブックを投野先生が書いていたように記憶しています。


10. 『ショーター英英辞典』(旺文社、1982年)
流石は菅沼先生の編んだ辞書、『元祖学習用英英和』という評価は『令文社学習英語辞典』に譲るとしても、基本の1万5千語に簡潔な定義と、要所要所で、ローマ字による訳語を当てているところが類書との違い。表紙の鮮やかさも好みです。
ハンディな判型と薄さなので、個人的に、未だに普段使いしています。

11. 『新英英大辞典』(開拓社、1941年)

『ホーンビーの英英』とか、『ISED』の略称で御馴染でしょう。世界のESL/EFL用の学習用英英辞書の先駆。曙。これがなければ、OALDはないのだから。古いけど、随所に上手い定義があるので手放せません。

12. Oxford Elementary Learner's Dictionary (1994年)
見ての通り、旧版です。基本語の扱いを確認するために置いています。その語の、その語義はこの初学者用辞書に載っているか?というチェックの仕方ですね。今は、オンラインで使えるEVPがあり、text inspectorがあるので、この辞書の出番は減り、14. に軍配があがりますかね。

13. MacMillan Essential Dictionary (2003年)
今では紙辞書からの撤退を表明しているマクミランからの極めて優れた学習用英英辞典。この親版にあたる『マクミラン英英』は私が密林のレビューで絶賛していますので参考にして下さい。2004年には日本独自の『ワークブック』(小室夕里著)まで出ていたんですよ。こちらも教室では今でも使っていますけど…。


14. COBUILD Primary Learner's Dictionary (2014年)
初学者用英英辞典のお手本のような辞書。CEFRで対応すると、A1からB1までを念頭に置いています。日本の中高生の大多数はこれ(と、6. の "mini") で十分でしょ。用例も簡にして要、生き生きしていて、COBUILDの親版よりもいいのではないかと思うほど。これがでたばかりの頃、他教科の同僚に見せたら、ご自分のお子さんのために速攻で買われていました。


そして、下段左へ、
15. Chambers Universal Learners' Dictionary (1980年)
学習用英英辞典の先駆的存在。OALDが合わない、LDOCEでは物足りない、という人に人気だったのかな?定義・用例とも随分とお世話になりました。そう言えば、かつて薬袋義郎先生が研究社から出していた『薬袋式英単語暗記法』(2004年) の例文は全て、このChambers Universal Learners' から採っていましたよね。

※20161011追記:薬袋 (2004) の表紙画像はこちら。
[file:tmrowing:薬袋2004.jpg]
f:id:tmrowing:20200310194840j:plain

16. Chambers Student Learners' Dictionary (2009年)
そして、現代のChambersの学習用英英辞典。「CLILに最適!」と言う謳い文句に唆されて。世界各地の「英語で」いろいろな教科を学ぶ授業を受けている中高生向きなんでしょうね。ひょっとすると既に絶版かも。


17. COBUILD School Dictionary (2008年)
こちらも英語圏の学校や、「英語で」いろいろな教科を学ぶ中高生向け。過去ログにも記したけれど、spelling beeの競技方法が載っていたりします。http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110113


18. コウビルド米語版英英和辞典 (2008年)
advanced版の英英和。定義文の和訳はありません。紙辞書は既に絶版だろうけれど、kindle版と、物書堂のアプリ辞書があります。(物書堂のアプリ辞書なら、『ウイズダム英和和英』『ランダムハウス』で相互にジャンプで乗り入れ可能です。)


19. Merriam-Webster's Essential Learner's English Dictionary (2010年)
米語版の学習用英英では出色。定義文が簡潔で的確なものが多い。B1より上の中級を目指す学習者ならマストバイでしょう。難点は、fontのサイズが小さくて、老眼の目にはつらいことと、判型のせいでPBで分厚いので、背割れしやすいこと。アプリ辞書も出ていますので、そちらをオススメします。


20. Longman Essential Activator (2006年)
第2版のPB。背割れにご用心。先に背表紙にテープを貼っておくのもいいかも。ライティングで重宝する類語辞典。学習用頁も有益。至れり尽くせりだと思います。Activatorにはポケット版もあり、収録語彙が絞り込まれているので、若い方にオススメします。


21. Longman Lexicon of Contemporary English (1982年)
LDOCEからの流れで出てきた「シソーラス」+「Duden」的学習辞書。古いというのは簡単だけれど、代替するものがないのでね。家にも、もう1冊あります。当然絶版ですが、現役で活躍中です。


以上、辞書解説でした。
ここで、前回のエントリーを再読すると、面白いのでは?

電子辞書だと、簡便なものが1冊、類語辞典的なものが1冊入っていれば良い方ですが、その定義や用例で腑に落ちる、実感が持てることは稀なのです。こちらの教室には英英辞典だけで複数冊、しかもレベルの異なるものが用意されていますので、その定義や用例を読み比べることで語義の理解も深まり、定義文に用いられるお定まりの表現形式にも慣れることで、一定の文法力も養うことが可能となります。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160730

本日のBGM: I may know the word (from the album "Paradise is there") / Natalie Merchant

「祈るなら、胸の中の自由さに」

連日35度を超えようかという暑さです。
職場の健康診断も終わったので、昨日は、焼き肉を堪能してきました。

英気を養って、本日は勤務校のイベントで「体験入学」。
中学生とその保護者、一部引率の中学校の先生が300名弱参加します。
進学クラスでは「模擬授業」を行う傍ら、進学相談や教材展示なども行っています。

今年の模擬授業は「数学」でしたので、私は英語の教材展示で、「学級文庫」から一部運び出して並べていました。
「呟き」でも連投していましたが、こちらでもご紹介。


教科書&副教材.jpg 直


辞書.jpg 直


なぜなに系.jpg 直


なぜなに系その2&中見系.jpg 直


中見系その2.jpg 直


百科事典系読み比べ.jpg 直


how things work系読み比べ.jpg 直


読み比べ&メディアミックス.jpg 直


英語ネイティブ子供用.jpg 直

何組かの参加者から、教材の意図とか、授業での使われ方などの質問も受け、誠意を持って回答させていただきました。特に、英英辞典をなぜこんなたくさん置いているのか?という質問が複数あったので、

電子辞書だと、簡便なものが1冊、類語辞典的なものが1冊入っていれば良い方ですが、その定義や用例で腑に落ちる、実感が持てることは稀なのです。こちらの教室には英英辞典だけで複数冊、しかもレベルの異なるものが用意されていますので、その定義や用例を読み比べることで語義の理解も深まり、定義文に用いられるお定まりの表現形式にも慣れることで、一定の文法力も養うことが可能となります。

という説明をしています。
例えば、次の定義文を読み比べて見て下さい。だいたいの意味がわかればいい、というレベルと、確かに○○とは違うってことがよく分かる、というレベルには相当な差があることがわかります。何の定義かはわかりますよね?

1. a small tool for cutting with two sharp parts that are joined together
(COBUILD Primary Learner’s Dictionary)

2. a tool for cutting paper, hair, etc. that you hold in your hand and that has two blades
(Webster’s Essential Mini Dictionary)

3. an instrument used for cutting. They have two blades which open and close, cutting as they come together
(ISED)

4. a tool for cutting paper, cloth etc, made of two sharp blades fastened together in the middle, with holes for your finger and thumb
(LDOCE)

5. a tool used for cutting paper, cloth, etc., that has two blades joined together in the middle so that the sharp edges slide against each other
(M-W’s Essential Learner’s Dictionary)


6. a tool for cutting paper, consisting of two blades joined in a cross that you open and shut like jaws
(MacMillan English Dictionary)

7. a small cutting tool with two sharp blades that are screwed together. You use them for cutting things such as paper and cloth.
(COBUILD Advanced Dictionary of American English)

8. a cutting device consisting of two blades, each with a ring-shaped handle, which are joined in the middle so that their sharp edges move against each other, used esp. for cutting paper or cloth
(Cambridge Academic Content Dictionary)


9. an instrument used for cutting cloth, paper and other material, consisting of two blades laid on top of the other and fastened in the middle so as to allow them to be opened and closed by a thumb and finger inserted through rings on the end of their handles
(Oxford Dictionary of English)

物語系のGRだけではなく、百科事典や図解、Q&As本が多いことに興味を示して質問してくれた方が何人もいて、こういう人に入学して貰えるとホントに有難いんだけどねぇ…、という切実な思いを持ちました。
ということで、「ナイモノネダリ」とか「ゲンジツバナレ」をことばにするには、この手の本で。


if本 Q&As本.jpg 直


Ask Away!.jpg 直


親子Q&A1.jpg 直


親子Q&A2.jpg 直

次回は8月の後半に開催ですかね。ご縁があったらよろしくお願いします。

本日のBGM: beatitude (single version from the album『諮らずも朝夕45年』) / The Moonriders

むしのめととりのめ

所謂「夏休み」中の課外講座は一コマ90分。
高3は、「四角化ドリル」上級生版の取り組みがお粗末だったのでダメ出しして、次回の冒頭で確認をする予定なのですが、どうなることやら。ここまでの3ヶ月で達成できなかったものが、1週間でできるものなの?まあ、普通に考えたらムリですけどね?私から見れば「教材」、彼らから見れば「学習材」を消化吸収して「自分のもの」にしないのに、何かが積み上がるとは思えません。

高1版とは違い、名詞句の限定表現のレベルも上がっていますから、惰性では乗り切れません。
例えば「名詞+前置詞+関係代名詞+(足跡)」のパターンでは、

1. 自分で自分を評価する度合い
the degree to which you value yourself
2. 彼女の歓迎での熱狂ぶり
the enthusiasm with which she was welcomed
3. アルコールが行動に及ぼす影響の度合い
the extent to which alcohol influences behavior
4. 60歳での定年退職制度     
the system under which workers retire at age 60
5. 食品の安全で守るべき原則   
the principle according to which food must be safe
6. 第二言語学習に伴う苦労
the difficulty with which you learn a second language

という表現を扱っていますが、この前提として、

  • to … degree [extent]
  • with … difficulty [enthusiasm]
  • under the system
  • according to the principle

といった、<前置詞+名詞=副詞句>の理解と定着が求められています。

また、「同格のthat」を取る or 取らない、で済まされがちな「…という名詞」も、that S+V で言えないなら、どう言えばいいのか、まで身につけていなければ何にもなりません。名詞の分類、頼れる仲間を集めての一致団結が必要です。

1. 幽霊は存在するという考え
the belief that ghosts exist
2. 彼女は裏表がない人だという私の印象
my impression that she is honest
3. パスワードが正しくないというエラーメッセージ
an error message saying that the password is incorrect
4. 客室乗務員として働いていた彼女の経験
her experience of working as a flight attendant

高1では「A of B でBのA」で済んでいたものが、その後、<a lot of +名詞>を経て、 < a sheet of paper>などの助数詞系の名詞をクリアーした先で、迷い所・悩み処・躓き所と出会うことになります。それこそが、<of の細道>ですから。これは、そっくりこちらにあげておきます。なぜ、この15個なのか、きちんとやればわかります。

1. 全くのお金の無駄 a complete waste of money
2. 環境の破壊 the destruction of the environment
3. 愛する人を失うこと the loss of a loved one
4. 原田知世への彼の深い愛 his deep love of Tomoyo Harada
5. あなたの思い出 a memory of you
6. 外国の慣習を私たちが知らないこと our ignorance of foreign customs
7. ヒトクローンの誕生 the birth of a human clone
8. 文明の栄枯盛衰 the rise and fall of civilizations
9. インターネットの急速な発達 the rapid growth of the Internet
10. 民族の移動 the movement of races
11. 男女の平等 the equality of men and women
12. 東西文化の融合 the mixture of Eastern and Western cultures
13. 何時間にも及ぶ議論 hours and hours of debate
14. 七日分の食料と水 seven days’ worth of food and water
15. 一年分の給料 a year’s worth of your salary

そして、名詞の無いところに名詞を作りだすことの出来る what の有難みを感じる最終セット。
<ワニの口>がモノや人に言及することもあるので注意が必要ですが、その場合でも「そのコトガラ性」のようなものを感じることが大切です。
この最終セットの最初に、比較検討する例として、なぜ以下の表現が並んでいるのか、今一度噛みしめるべきでしょう。

例1:his word(s) / his remark / his statement / his utterance
例2:his warning to us / things he has told us not to do
例3:what he did not say

「彼の意見」という時に、 “his opinion” という表現を用いた場合と、 “what he has to say” を用いた場合とで何が違うのか?何が変わるのか?ということを考える材料として、

3. あなたが考えてきたこと
what you have had in mind
4. 以前はそこにあったもの
what used to be there
5. 変わらずに残っているもの    
what remains unchanged

の3例をわざわざ配置している訳ですから。それを踏まえた上で、以下の実例を生き直すことです。

6. 生きる上での信条 what you live by
7. 正しいと思うこと what you think is right
8. あなたの個性 what makes you different from others
9. 地元の市場にあるもの what you will find at the local market
14. 昔の政治家の姿 who politicians used to be
15. こうであって欲しいと彼らの思う龍馬像 who they want Ryoma to be
16. もののしくみ how things work (= the way things work)
18. その他何でも whatever you name it
19. 一瞬とも思えた短い経過時間で in what seemed like an instant

意味順を活かすのは、結局、四角化ドリルと助動詞の番付表なんですよ。



高2はコマ数そのものが少ないのですが、『コーパス口頭英作文』の暗誦が基本です。
それと並行して、学級文庫の活用を求めています。
GRなど様々な物語系なら20冊、英語ネイティブの子供用事典・図解系なら5冊、英語ネイティブ用のQ&As系なら2冊という目安を与えています。
物語系は、私のシラバスで定番の「名作読み比べ」でもいいと言ってあります。
以下、カテゴリーごとの表紙の抜粋。

読み物1.jpeg 直
読み比べ1.jpeg 直
読み比べ2.jpeg 直
オリバー!.jpeg 直
how things work.jpeg 直
事典&図解.jpeg 直
事典2.jpeg 直
See Inside1.jpeg 直
See Inside2.jpeg 直
Q&A.jpeg 直
Q&A子供用1.jpeg 直
Q&A子供用2.jpeg 直


高1は、まだまだ中学での積み残しの解消に時間が掛かっています。
所謂「不定詞」と「分詞」の形容詞的用法を経て、漸く、関係詞へ。英語教師になってから約30年、関係詞の指導で「二文連結」というのをしたことがありません。一貫して、所謂「接触節」から指導しています。

基本は、既に理解している文から名詞句を括りだすドリルです。「長崎玄弥」方式ですね。自分自身が高校生の時に長崎氏の著作から教わったことを、その効果を教室で確認しながら練ってきた指導手順と言えるでしょうか。

この辺までくると、生徒も自分の足跡を少し振り返ったり、先を見通しておいた方がいいでしょう、ということで、虫の目から鳥の目へ、というハンドアウトを作ってみました。
でも、これ、高2、高3の生徒もちゃんと確認しておくべき項目ですよ。

名詞句の限定表現 得手不得手.pdf 直
この修正版がこちら。どこが変わったかは、見比べて下さい。
名詞句の限定表現 得手不得手 再修正版.pdf 直

過去ログでも何度か言及していますけれど、語研にしろ、英授研にしろ、ELEC同友会にしろ、中学校段階での「授業研究」を取り扱う場合に、「名詞の後置修飾」っていうのは「花形」のように頻繁に取り上げられます。金谷憲先生のグループの尽力で、最近でこそ、「導入」の時期と「定着」の時期のズレ、時間差というものが認識されるようになってきたかと思うのですが、「名詞の後置修飾」にどのようなパターンがあって、それらは「前置修飾」とはどう違うのか?そして、「後置修飾のそれぞれの持ち味・効き目・有難み」とは何か?いう点に関しては高校入学以前に、明示的に教わる機会は少ないように思っています。でも、それらがよく分かっていないことには、それぞれの表現の生息域を実感することが難しいと思うのです。

上述の分類と用例、そして得手不得手の表は網羅的ではありませんが、ガイドライン、道先案内くらいにはなるのではないかと思います。

1年生のこの時期では、a swimming poolとか、 sleeping tabletsなどの <動名詞の前置修飾>は敢えて外しています。現在分詞の前置修飾との比較は夏休み後半か、二学期に別個取り上げる予定でいますので安心して下さい。いや、覚悟しておいて下さいかな?

本日はこの辺で。

本日のBGM: 境/界/線 (堂島孝平)

21世紀の、ライティングを教えよう。

今年度はカレンダーの関係で一足先に夏休みになりましたが、夏バテ気味で更新も滞っていました。

期末試験の出来があまり良くなかったので、夏期課外講座も悩み処です。

教科書の選定も自分の担当の「コミュニケーション英語 I 」は何とか済ませましたが、次年度に向けた「改訂版」が幾つもでているので一冊読むだけでも大変。というのも、教科書会社と現場教員の間の数々の「不祥事」の影響で、見本本は各校一冊しか送付、配布されないからです。さらには、「改訂しない教科書」は送られてこないのです。これって、英語科教員だけで十人くらいいる学校は大丈夫なんだろうか、と心配になります。

現任校では「学校設定科目」を設置している関係で、開講していない「英語表現」は別に選定する必要はないのですが、読み比べ。現行本では、啓林館のVision Questが異様な採択率でしたので、今回の改訂版に際しての私の不安、危惧は「VQ横並び」だったのですが、複数社で見事的中、という感じです。今回の新刊(予定)の見本本で、いいずな書店の “be” が検定を通っています。さらには、啓林館の “Vision Quest” のシリーズ(?)で、一番易しいという謳い文句で “Core” というのが検定を通っています。数件出版でも “Dual Scope” が出ました。VQの現行版が通っているのだから、もう教科書検定では、政治的なことに触れない限りは何でも有りなのでしょう。

呟きの方では連投していましたので、そちらを探してお読み下さい。

http://twilog.org/tmrowing/month-1607/3

  • 学習指導要領で「英語表現」の項目をまともに読んでいて、どうしてこんな教科書が作れるのか?

と思うのは、私が歳を取って、流行に乗れなくなったからなのでしょう。
旧指導要領での「オーラルコミュニケーション」「ライティング」という二つの科目で検定教科書を書いてきた人間としては、この二つの科目の墓標に手向ける花を用意しておかねば、という心境になります。

今年度私が担任をしている高校1年生も、初めての「模擬試験」を受験しています。これもベネッセの「商品」なのですよね。以前は、高1、高2は英語を易しいものに書き換えるライターがいないのか、英語のつながりとまとまりのクオリティにばらつきがありすぎて、なんとかして欲しい、と思っていましたが、今年度早々の高3の模試の設問でも酷いのがありましたので、そろそろ利用する模試を変える時期、というか「模試」そのものの利用を再考する時期にきているんじゃないかとも思います。

高1でも1回の受験料で3000円以上かかる訳です。
こちらをご覧下さい。

Charile’s.jpg 直
how things work.jpeg 直
Maths.jpeg 直
Q&A animals.jpeg 直
Q&A general.jpeg 直
Q&A your body.jpeg 直
Q&As.jpeg 直
Qs children ask.jpeg 直
Science.jpeg 直
事典類.jpeg 直

現在、学級文庫に、この類いの「英語ネイティブのおこちゃま用図鑑・百科事典」を入れているのですが、これは私が英米だけでなく、世界中の「密林市場」を探して、コンディションの良いものを買いそろえているものです。中古で1冊1500円くらい。一回模試を受けなければ、一人当たり、この類いの本が2冊、学級文庫に増える計算です。「なんだかなぁ」というエイブンや作問をもとに「点数」や「偏差値」が返ってくる模試を受けるよりも、多種多様な英語本が豊富に揃った教室で、週に2時間とか、ひたすら読む授業をつくる方が余程英語力伸長に寄与するのでは、と思っています。

さて、
先週末は遥々横浜まで、TEAP関連で「アカデミックライティング指導入門」のようなセミナーに参加してきました。
※以下、リンクをクリックするとpdfファイルが開きますのでご注意。

指導者向けアカデミックライティングセミナー及びスキルアップ講座
https://www.eiken.or.jp/teap/info/2016/pdf/TEAPWritingSeminar2016.pdf

今後、北海道と東京の会場でも開催される模様。

ネタバレになるので8月末まで詳細を書くのは控えておきますが、資料ダウンロードはできますので、事前に少しは学んでいた方が良いように思います。

TEAPライティングテスト・指導者用手引 (この中に、更にリンクがあります)
https://www.eiken.or.jp/teap/construct/writing_handbook2.html

因に、第2部の少人数制ワークショップは、ほぼ英語で進行しました。この後の会場がどうなるかはわかりませんが、情報提供まで。

改めて思ったのが、次に示すような本は高校現場で殆ど活かされていないのだなぁ、ということ。

外部試験の independent & integrated tasks の対策だけでなく、template に依存せず、つながりとまとまりを作るヒントが満載の教則本。

TOEFL TEST対策iBTライティング
四軒家 忍 著

TOEFL TEST対策iBTライティング

TOEFL TEST対策iBTライティング


「パラグラフ・ライティング」をどのように授業に取り入れていくか、という指導者向けの概説書。

パラグラフ・ライティング指導入門
大井恭子 編著

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)


実際に「アカデミック・ライティング」を必要とする人への日本語で書かれた入門書。

英語論文・レポートの書き方
上村妙子・大井恭子 著

英語論文・レポートの書き方

英語論文・レポートの書き方

既に、良書が流通しているのに、その良さどころか、存在にさえ気づかずに通り過ぎている「異邦人」が多いのであれば、多くの学校で「英語表現」の教科書採択が、あのような 惨状 状況になるのも無理からぬことです。

そして、いつも同じ話。

より良い英語で、より良い教材
より良い教材で、より良い指導

本日はこの辺りで。

本日のBGM: おなじ話 ( ハンバート ハンバート “FOLK” より)

”as part of the whole design”

過去ログでは2つに分かれていましたが、現任校の生徒に配布する資料を作成する都合で、一つにまとめましたので、こちらにもアップしておきます。

「出藍の誉れ」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060216
”Voices beyond the border”
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120317

90年代と00年代の生徒による授業評価です。
人はこの手の「自己評価」で、敢えてマイナス点を付け、自分の努力や、費やした時間を否定しようとはしない生き物なので、「話し半分」どころか、1/3くらいに割り引いた方が健康的だと思うので、微妙に3〜4人分くらいを鏤めておきました。

旧態然とした「文法訳読」が諸悪の根元と思っている方達には、どのような授業なのかイメージしにくいかも知れませんが、とことん言葉を読み、自分で考え、筆者と対話しようと志向する授業だと思ってくれると喜びます。

<Reading comprehension(内容の理解)>
1.文の仕組み・構造の読み取りに関して

・1年間近くやったことで、それまでは一度戻ってうんうんと分析してから理解していたものの多くが一回読んだだけで分かるようになった (パターンに慣れたのか)。またそれまでは全く理解できなかった文の目を付ける場所が分かるようになって、うんうんと分析すれば理解できるようになった。
・ これは得意な方だったので、よりスムーズに、より注意深く、より丁寧にやるよう心がけるようになった。対比などには必ずマークを付ける。
・ 英文をただ機械的に読むのではなく、主題は何なのか、筆者の主張、立場はどこなのかを意識的に読むようになった。そのために例と主題文との区別、名詞・名詞句のチェック、関係詞などがたくさん含まれた文での中心となる動詞のチェックを心がけた。あと、完了形などの時制のチェックに厳しくなった。
・予習段階で文の中のS+Vをなるべく近づけて書くように心がけた。初見で読む時もSVの関係が分かるようになったので良かった。

<指示語の内容把握>

・ それまでの学習でitを「それ」と訳して過ぎていたのが誤読の源であるとしみじみ実感。すべてしつこく明確にしてゆくようにしたら、いろんなものが見えて くるようになって驚いた。そのうち頭で明確にしなくても目の裏側あたりで明確に出来るようになるといいなと思う。精進。
・ まだまだ間違えるけれども、間違えやすいことに気づいたから注意して見られるようになった。
・ itは単に単語や文の一部だけではなく、それまでの内容を指し示す場合があるので、itの内容理解に努めた。単語や部分で指示できる場合は、線で結び合わせた。逆に、それをしないと、まだ次の内容がわからなくなる。
・ 単なる名詞句を当てはめる作業ではなく、その名詞につくべき限定内容までも考えられるよう心がけた。これは未だうまくできないが、これからも続けていきたいと思う。Thisなどで文章を指す時に、どこまでが範囲なのかをよく考えるようになった。

<文の中の並列構造・共通関係・パラレリズム>

・ それまでのほほんと読んでいたけど、こことここがつながって対比されてという分析ができると、文字に頼りすぎず誤読が減った。先生のいう次の推測というのができるようになりつつあって、そうすると具体的にというか、頭の中のまとまりが、とてもよくなる。
・ 素早く気づいて、素早くマークすればよい。頭の中で整理しながら読む。
・ andの持つ意味 (前後は並列か?) などや、both …and …, 比較級 (more, less, much more, no less than) などの確認。asの用法に注意。
・andは常にチェックして、その並列されている部分の前後にも意識するにした。"A and B which ..."という時に、whichの先行詞がB単独なのか、A, B両方なのかを、2つの語句がどういう点で共通なのか考えながら判断できるようになった。

<情報構造>

・前提と焦点というのが、これまで雑然としていた文に一つの共通点を与えた。
・主題をつかんで、先を予想しながら読み、要らないものは削除。

2.センテンスの中の語句の意味の理解

・私はボキャブラリィが少ないと痛感した。語句が、5行中に2つくらい分からなくてもどうにかなるかもしれないけれど、3つ分からなくて、し かも大切なところが分からないともうアウトだと思った。そういう訳で精進を続けて (ピー単のお世話になったり) 少しずつそういう悔しさも減ってきた。あとはシリウスもやって、イディオムも見て目の裏側あたりで理解できるよう精進したいです。
・一単語に一つの意味は禁物。先生の繰り広げる1つの単語やその仲間の単語が持つイメージやニュアンスを吸収整理することでうまく読めるようになってくる。
・授業での先生の単語の類語や、単語の英語での説明で、その語句が持つイメージを捉えようとした。
・文章の流れの中で、ある一つの概念がどのように言い換えられているかをチェックすることで、その語句の持つ意味の幅がわかるようになった。具体的な名詞が出てきた時に、それが何の例なのか、サポートなのかを考えるようにしたのはとても理解を助けたと思う。

3.語句の表している意味内容そのものの理解

・これが先生に教わって得した点だと思う。分かっているつもりで分かっていないというのが分かっていなかった。つまりそれはどういうことなの か、と言葉を置きかえて、具体例を出して、図にしてみて、そうするうちに、英語と日本語って全く別の言語なんだなと思えてきた。ネイティブの発想という言 葉が、とてもあっ!というかお得でした。日本人同士でも言葉に対する価値付けは微妙に違うし、まして英語などは。
・日本語訳してみても全く意味が分からない文はどうすればいいのか?自分で「…ってことは〜ってこと。ってことは…」をすればいい。
・英語というよりも、その英文の内容自体に対する基本知識が必要だった。先生のつっこみが激しかったので、この授業では一番この点で鍛え上げられたと思う。授業後の復習では、この点を重視して読み直したつもり。それでも分からなくなった時には先生に質問した。
・とくに、動詞、形容詞から生まれた名詞の意味をよく考えるようにした。日本語訳する際に、主述にまでおこして書くという姿勢がだんだんと身についてきていると思う。あとは、単語が単なる事実を表す語か、または評価を表す語か、ということを考えるようになった。

4.筆者の意図・焦点

・<文の中の並列構造・共通関係・パラレリズム>ができると分かるようになるのだと思います。
・プラス、マイナスの現れる語句には印をつける。major, main, leadingなど最上級格のことばにも印。
・単語そのものの意味から読み取るプラス、マイナスの評価と、その英文でその単語が持つプラスマイナスには、記号を付けておいた。否定の接頭辞や、should、比較級のチェック。A rather than Bで、Aを選択し、Bを却下していることを初めて知った。
・insteadやrather thanなど、一方を却下する言い方を学び、文章の中で実際に触れることで、筆者の焦点の明確な理解が出来るようになった。過去形で事実を述べている文章では、特に現在形が出てきた時に、そこにある筆者の意図を考えるようになった。単なる一般論としてのまとめなのか、今までは〜だったけど、という「ここか らが本題」という目印なのか。

5.主題の発見・把握

・パラグラフリーディングを教わった時に、一文目、二文目に主題がくるとか、最後の段落を読め、とか言われてうまくいかない場面が多々あったけれど、ああ英語ってきちんとしているようで柔らかな部分もあるんだと思う授業でした。何が言いたいのかは、きちんと読んでゆけば分かるんだなと思った。 その発見のしかたも知ることができたし、主題が分かっていると誤読が減る。あとは主題の内容を理解できる単語力と…思考力?が不可欠だと思います。
・全部完璧に読まなくても主題の把握が可能な事に気づけば気も楽になった。筆者の意図、焦点の把握で必要なことに注意すれば分かる。
・地の文で疑問文があった場合には、その答えに当たる部分を探すことで主題を発見した。
・先ず何度も出てくる語をチェックするようにした。これで大まかなテーマをつかめた。あとは名詞句としてまとめられている部分を意識するようになった。名詞句をしっかりつかむことはテーマの正確な理解に欠かせないと思う。否定が出てきたあとは必ず肯定を探すことを心がけるようになった。

6.段落構成・ロジックパターン

・これは未だによくわかっていない。パターンがあるのは分かるけど、全部読んでから、これは主題、これは具体化、また主題、まとめと分けたりしている。凄く遅いと思う。
・「次は例!」など、よっぽど簡単なことしかわからない。特に限られた時間内では難しいので、まだ復習の時とかに見ている。
・最初の段落に筆者の主張が明らかになっていれば、その後は例や裏付けかな〜?と思いながら読み、最初に明らかになっていなかったり、問題提起がされていれば、文中の例から筆者の立場をさぐりつつ、最後に主張が書かれているだろうなと期待しながら読んだ。あんまり、そううまくはいかなかったけれど。
・最終段落は全体のまとめの場合と、そうでない場合があることを知って、要約する際にただつなぎ合わせるだけ、(段落ごとの topic sentenceを)という作業をしなくなった。

7.筆者の心的態度を表す語句

・これがすぐ分かるようになると誤読が減るしスピードも上がる。持ち歩くブリーフケースには絶対入れるべきだと思いました。
・ 面白いように見落としてしまう助動詞表現。分かっているのについ流し読みしてしまう。常に頭の隅に置いて読まなければならない。
・ shouldやmayなどの助動詞から言い切りの形なのか、あいまいなのかを判断。要約の時はその判断が大切だった。また可能性を含んでいるのか、いないのかも重要で、canやno、否定の意味を表す語には敏感になった。
・文修飾の副詞や助動詞をよく見るようになった。助動詞wouldなどは筆者が断定を避けている→しっかりしたsourceがないのでは?というふうに考えるようになった。筆者の心情と、事実とを混同しないように読む姿勢が身についた。

<上記を踏まえた上でもう一度初めからやり直すとしたらどうするか?改善点・変更修正の必要な点を述べよ>

・もっと早く先生の言ってたことの重要性が分かっていたらよかったと思う。でもそういうものを理解するにはそれなりに時間がかかるし、結局なるようにしかならないのだと思います。なるようになりました。とりあえず今分かっているぶんに力を注ぐしかないのでしょう。そのうち、あっこんなの知ってればなあというのが出てくるかもしれないけどそれはそこまでの失敗のおかげで整理がついた喜びというのがあるんだろうと思います。今できることをやります。
・ がんがんマークしながら読む。難しいところで足止めを食らっていないで読む。常に主題のことを考えながら、離れないように読む。英語だからってびびらない で、書いている人は人間なんだから、次に何が来るかなど機転を利かせて読む。筆者の意図を暗示している語には要注意。
・ 予習の段階での疑問点を紙に書くかして、授業ではその点を中心に解説を聞くべきだったと今さら思った。もっと名詞の四角化で視覚化や、動詞にはとじかっこをつけたりすることを徹底していれば文の構造理解がもっとできたと思う。
・ 英文を一つの大きな流れとして読み取るのが甘かったと思う。断片的に意味を理解するのではダメ。その内容が英文の中でどのような効果を持っているのかを考えたい。
・ 現在完了形、過去完了形、進行形の表現を未だに読み流してしまっている。
・語彙がないせいで読めないことが多すぎるので、良く扱われるテーマに出てくると思われる語は、予め学んでおくべきだと思った。英語だけでなく幅広い知識と教養を身につけなければ英文読解は出来ないと思うので、英語以外(理科・国語)の学習もおろそかにしない。予習が不十分だったと思う。必ず一度は辞書無しで目を通し、分からなければ何度も読んで「分からない点」を具体化する作業がもっと必要だった。

<問題の演習よりも読解そのものに重点を置く方針について>

・ 英語を理解したいという欲求が高まった。そういう気持ちは勉強する時にとても有効に働くし、英語を少し面白いと思うだけでも有益です。それにやっぱり読解ができれば演習もできるはずなんだろうと思うし。逆はどうなのか分からないので、きっと良かったんだと思います。
・ はじめのはじめはパニックを起こしかける生徒も多いと思うけれど、のど元過ぎれば熱さも忘れるし、良薬は口に苦しって感じでとてもいい! ということにだいぶ後になってから気づく。
・ 私はその方が好きだった。英語を読んでいる、というよりも日本語を読んでいる感覚で楽しむことができた。1学期に読解中心の授業を受けたことで、入試の問題を解いた時にそれまでより解けるようになった。演習問題をいかにして解くかではなくて、内容をいかに理解するかが、やっぱり入試でも大切なんだなと思った。
・穴埋めなどは読解がしっかりできていれば自ずと分かるし、T/F問題は内容まで考えなくても形だけで答えが出てしまう場合もあるので、そういう演習をやるよりは読解を固める方が大切なので良いと思う。
・難しくても良問が多いテキストの方がいいので、今回のテキストはとても良かったと思う。ジャンルが明示されていたり、アドバイスがあったりして、自学自習もとてもやりやすかった。

<テキスト・教材の選択 (レベル・内容・構成) について>

・ 比較のしようがないので何も言えません。でもしんどかった。負荷が大きければ大きいほど力がつくと先生が時々言っていましたけど、 (なんか筋肉的勉強法だと思っていました)、多分それは真理なのでしょう。他でいろいろ失敗したらよく分かるのかもしれません。
・ 適当である。レベルは低いのは困るけれど、高い分にはついていけばいいと思った。そう思うことが大事だと思う。内容は様々なジャンルのものが揃っていて飽きが来ない。

<後輩へのアドバイス>

・ 先生の言うことを理解しよっ、と一生懸命になれば、早いうちに、どうやれば英語がぼろぼろほぐれるのか分かるようになると思います。そうしたら後は精進あるのみだと思います。頑張って下さい。
・ この時間は英語オタクになりきって臨みましょう。オタクになってしまえば、なかなか楽しいものです。先生のおっしゃることは、はじめは、その多くが呪文のように聞こえることでしょうが、徐々に、徐々に、呪文は言葉として頭に入ってきて、しばらくすると「もしや、私も使えちゃうかも…?!」なんて思えます。そうしたら、本当に面白くなってくる。そして、そこに行くには、努力、予習、疑問、感動、不屈、授業中起きているための前日の睡眠時間が必須なのでした。
・ とにかく予習は怠らずに!最初はきついかもしれないけれど、人間やってできないことはない。英文を読むぞ!というのではなく、ただ文章を読む気持ちで取り組んだ方がよい。基本的なことに思えるかも知れないが、時制のチェックや関係詞がどこに係っているのか、助動詞・可能性などに敏感になるべし。主題が読み取れるようになると最高。たとえ分からなくて、くじけそうになっても、自分の納得のいくまで追求しましょう。先生がこわくても、バカだと思われても、どんどん質問しましょう。でも、一番大切なのは、この授業、テストに負けない強い精神力を持つことと、楽しむこと。この授業を選択して損はない!
・とにかく予習して下さい。文全体の意味が分からなくても、SVくらいは予想をつけておくこと。あとは辞書を使わずに一度は目を通すことが大切です。分からない点は具体化しておくことも忘れないで下さい。先生の説明を聞けば理解できるのは当然なので、その後で自力で見直し、身についているかを確かめることも大切です。

都立高校、都内私立高校から山口県の私学へと、月日以上に流れ流れてきた感はありますが、その時々の英語教育の流行とは距離を置いていたかなと思います。ただ「流れ」であるからには、通底するものが確かにあるだろう、という再再録でした。

本日のBGM: Gypsy (Suzanne Vega with Richard Thompson)

You are what you don’t write about.

週末には更新しようと思っていたのですが、先週の木曜日、金曜日と大雨の影響で二日続けて休校となり、授業が欠けた分の埋め合わせや、試験問題の作り直し等々、思うようにはならないものです。土曜日課外で、なんとか授業の方は軌道修正したものの、今度は月曜日から体調を崩し授業と期末試験の準備で手一杯でした。

現任校のカリキュラムでは、高3の学校設定科目「クリエイティブ英語」で、1学期はナラティブパッセージを書かせています。四半世紀使い回したネタも多いので、昔のファイルを眺めていたら、面白いものに再会。

前任校時代だから、10年ほど前でしょうか。科目「ライティング」での実践に基づく進学校教員を対象とした研修の質疑応答が出てきたのでご紹介しておきます。(先日、「呟き」で連投していたものと基本的に同じものですが、一部コメントを補足しています。)

Q1: 大変素晴らしい実践だと思いますが最小限の負担で最大限の効果を引き出す工夫について何かヒントがあれば教えてください。
A1: 何事も新たな取り組みをするときは、無駄があるものです。私は「最小努力、最大効果」ということを考えたことがないので、とにかく、生徒の能力と自分の実践を信じて、結果に隷属しない気概が大切なのではないでしょうか?

これは、質問者が望んだ回答にはなっていないのですが、私をよく知らない人には分かってもらえないところかもしれません。でも、まあ、普段の授業でも、クラス担任としての対応としても、基本はこんな感じです。

Q2: 普段の授業と実際の大学入試における採点基準について差は感じられるでしょうか?
A2: 東北大や阪大のように、大学が出題意図を公表しているところは稀ですので、大学でどのように採点されるかはあまり気にしておりません。あくまでも、自分のシラバスの中で、高校生がどこまで英語らしく書くことが出来るか、という点で評価しています。

ここでは「稀」と言っていますが、大学側の変化はこの10年で著しい進歩を見せていると思います。今は無き『英語青年』の特集 (2006年4月号) での私の主張の方向に少しずつ近づいているといえるでしょうか。
九州大学の「標準解答例」の配布。金沢大学の「正答例」の公開など、大学の公式見解が表明されているのは歓迎すべきことです。

「大学入試の自由英作文は減点法」等と言っている人が受験指導の界隈には未だにいるようなのですが、受験生や高校生が大学に情報を公開するよう求めればいいのに、といつも思います。

因みに、私の母校でもある東京外国語大学は、昨年度から、詳細な採点基準を公開しています。
問題の難易度や採点基準の中身はともかく、「公開する」という姿勢は良心的です。
(http://www.tufs.ac.jp/common/is/nyushi/kakomon/1-1zen-e.pdf)

Q3:添削の効果的なやり方は?あまり労力をかけずに大量のペーパーを処理するにはどうすればいいのか…。
A3: たくさん書かせなければ、添削の労力は減りますから、introductionの段落とconclusion段落の英語は既に与えdevelopmentの部分だけを英語で書かせるというように、量をコントロールすることと、idea generationの手法を工夫して、アイデアを出すときに語彙指導をしてしまうことだと思います。添削など、書かせた後に待っているであろう労力を、事前のステップに振り分けておく、と考えてみては?

現行の『英語表現』の教科書を見ていて痛感しますが、短く書かせるのは大変なんです。50語程度で、「つながり」と「まとまり」がある英文を書くのは至難の業。そのことをまず指導者が体感、体現しないとダメでしょう。のり代とか踊り場とか、ある程度のムダを許容する「分量」が必要だからこそ、『パラグラフ・ライティング指導入門』では、テクストタイプごとに段階的な指導手順を示していた訳です。

  • 全体を通してみると80語とか、150語とか、300語といった分量になる「英文」だけれども、書かなきゃいけないのは、この部分の50語とか、80語でいいですよ。

という課題設定と、ネタをテクストタイプごとに用意しておくのが「ライティングの教師」の仕事だと思います。

Q4: 要約させる時に指導すると良い点があったら教えていただけるでしょうか?
A4: 類義語での語句レベルのパラフレーズの指導を通して「語義」の正しい理解を常に意識させることが大切かと思います。日本語を活用しても良いので、上位語・下位語の概念や、反意語を援用した語義の理解(例えば、innocent = 無垢な、という訳語は既に「汚れていない」という否定を利用した語義の記述となっていますから、wicked = 邪悪なという語義も、その反対概念のpure を想起すれば「汚れていない」の否定はimpure「汚れている」というように、その語が持っている個性を際立たせる効果があります。

この「反意語を援用した語義の理解」は、私の授業の基本線でもあるので、過去ログでたびたび出てきていることでしょう。

Q5: 高3でリーディングの授業と連携したりすることはありますか?(理社へかける時間を増やすべきではという考えもあるが、英語の授業数がたくさんあり、その使い方で意見が分かれているもので…)。
A5: 現任校では担当教師裁量に任されているので、互いに何をやっているかは情報交換します。リーディング教科書の英文のテキストファイルはコピーしておき、コンコーダンスソフトにかけて、特定の表現を検索できるようには準備します。リーディング教科書のテクストタイプだけでも1年間分は必ず確認して欲しいものです。次には、トピックを共有することが考えられます。さらには、和訳先渡しやTM先渡しで、なぜ筆者はここでこの表現を用いたのか、など、とことん「ことば」にこだわった授業展開も可能です。私のクラスでは、ライティングの授業でトピックや主題に関連した英文資料を相当な量読ませますので、現在は直接的な「リーディング」の科目との連携はありません。

今は、「コミュニケーション英語」っていう科目があるから、技能統合とか連関などと騒がなくてもよい時代なんですよね? え? 次期指導要領の改訂で「英語コミュニケーション」になるの? なんで?

Q6: 私も教科書の各レッスンの要約を生徒にさせていますが、いきなり何の手がかりも無いと厳しいようです。そこで、私は要約をある程度教員が作って、生徒は空所をうめるというスタイルにしています。先生は高1から生徒に要約をすべて教員の補助なしで書かせていらっしゃるのですか?
A6(前半): 高2の授業では1学期中間までに私の作った内容理解のQを利用した要約作りから始めます。1学期期末は今度は生徒がグループで質問の方を作り、クラスで答えを考えます。2学期中間までは語句や文レベルでのパラフレーズ、語義のきちんとした理解、類義語と上位語の概念を学び、最終的に要約を各自で作る前段として、2学期はグループで要約作り、という進め方です。題材やテクストタイプが変われば難易度も変わるので、既習の手法を常に確認できるようにしています。2学期期末では、設定したキーワードからだけでreproduceできることを「理想的」な目標としています。

要約の段階的指導も、過去ログで触れているはずですし、これまでに声がかかった「お座敷」で、何度も披露していると思います。


ということで、10年以上前の実践に基づく発表の質疑応答とその補足でした。

  • では、今はどうしているのか?

ということで、高3の学校設定科目の期末試験問題をこちらに。基本的にやっていることは同じなんです。

16CR_ENG3_1TE.pdf 直

今回の1問目の「帽子売りと猿」はサービス問題。
この「お題」で既に平常の授業で各自に書かせています。そのドラフトを元にして、時系列で書くための「肝」へのFBは与えているのです。

帽子売りと猿のフィードバック.pdf 直

ここで分類整理した上で提示した全ての例文が、生徒のドラフトを私が修正して、このお話に基づくように再構成した表現集となっているわけです。
それでも、自分でイチから書くのは大変なんですよね。
ナラティブって難しいんですよ。
上記資料のダウンロードは自由ですが、二次使用はご遠慮願います。

本日は、この辺で。

本日のBGM: That’s where you’re wrong (Arctic Monkeys)

「なぜ、いま、若林俊輔なのか?」

tmrowing2016-06-18

ある日、職場から帰ると小包が届いていました。

若林俊輔 著(編集:小菅和也、小菅敦子、手島良、河村和也、若有保彦)
『英語は「教わったように教えるな」』(研究社、2016年6月20日発売)

研究社の津田正様よりご恵贈賜りました。

腰帯にはこのようなキャッチコピーが。

若林俊輔先生が生きていたら、
今の英語教育に
何を言っただろう?

はしがきに当たる部分で、編者の小菅敦子氏は次のように問いかけています。

  • 「なぜ、いま、若林俊輔なのか?」

この問いの持つ重みは、読者によって、大きく異なるだろうと思います。



読み始める前に決めていたことが一つ。

  • 決して、センチメンタルにならないこと。

一気呵成、という形容が相応しいくらいの勢いで読了。
今はまだ、「書評」という形では書けそうにありません。

著者の若林俊輔氏は2002年3月2日没。
私は東京外国語大学在学中 (1982年〜1986年) に若林氏の薫陶を受け、英語教師となりました。
この過去ログでも記していましたが、入学前にふとした偶然で若林氏と出会っています。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050805

雑誌『英語教育ジャーナル』(三省堂)の1982年4月号特集「やめてしまえ英語教育」の誌面ででした。


その後、教壇に立って30年、このブログを始めてから干支も一回りしようかというくらい月日が経ちましたが、自分の英語教師としての節目節目で、若林氏に教わったこと、若林氏のことばを思い起こしてきたといっていいでしょう。

とは言え、語研のメンバーとして若林氏の跡を継ぐでもなく、COFSで揉まれた直系の弟子筋でもなく、大学の英語科教育法の担当者として英語教師を育てているわけでもない私に、この本が贈られてきたことの意味を噛みしめています。


この度の新刊『英語は…』は、これまでに雑誌等で発表された記事、論文・論考を5人の編者がそれぞれの視座でまとめたものとなっています。

既に、和歌山大学の江利川春雄先生のブログで書影や目次が紹介されていますので、私は、年表との対比で、今回収録されたそれぞれの記事の時代区分というか、位置づけを見てみたいと思います。

[↓]アイコンをクリックするとpdfファイルが開きます。
若林各記事発表順.pdf 直

これを見ると、

70年代の記事が14本
80年代の記事が14本
90年代の記事が15本
00年代の記事が3本

となっています。

個人的には、70年代の東京学芸大学所属、またはそれ以前の記事や発言をもっと読んでみたいと思いました。

というのも、本書でも多く引かれている雑誌、『現代英語教育』(研究社)の1995年5月号の特集、「戦後50年:リストで読む英語教育」には、次のようなリストが載っているからです。

「リスト」.pdf 直

学芸大時代に充実した記事を発表し、今私たちがよく形容する「若林節」とでも言えるスタイルが形成されていったのだろうと推察します。

また、

Teacher’s Manual to The Junior Crown English Course
『中学英語事典---語法から指導法まで』
主幹 中島文雄 (三省堂、1966年)

には、同事典の執筆者の一人として若林氏も紹介されています。

若林俊輔
東京工業高等専門学校講師.1962〜63年ミシガン大学留学.中学校での経験が長く, また, もとELEC指導主事だったせいか, 英語教育を身をもって体得している.音声面にはことに非常な関心を持っている.三省堂の「英語教授法辞典」の実質的編集者.本書では, 発音ならびに指導法に関する項を担当.

とあります。
ミシガン大留学の頃のお話は直接聞いたことはなかったのですが、今回の『英語は…』を読んで、若林氏のC.C. Friesの引用は極めて的確であると、あらためて強く感じました。この60年代の「英語教育の最先端」での経験を得て、「若林節」がどのように作られていったのか、その源流に思いを馳せています。


今回の編者は、それぞれの担当部分で、「解説」「解題・注記」を施しています。

小菅敦子(「本書の出版にあたって---いま、なぜ、若林俊輔なのか」)
小菅和也(第1章「いっとう りょうだん」)
手島良(第3章「英語授業学の視点」・第4章「ことばの教科書を求めて」)
河村和也(第5章「英語教育の歩み」・第6章「英語教育にロマンを」)
若有保彦(第2章「つまずく生徒とともに」・付章「英語の素朴な疑問に答える」)

適材適所、と私が言うのもおこがましいですが、唸ること頻りです。

それぞれの章の解説を読み、巻末の「出典情報」に施された「注」を読んだ後で、再度、本編の記事・論考に戻ることをお薦めします。

編者の中では、若有氏だけ、お目にかかったことがないのですが、資料の収集整理など、若有氏なくては完成しなかったとも言えるご尽力に、感謝のことばしかありません。

pp.294-295 での、

  • 「付章 英語の素朴な疑問に答える」 解説

での最終段落からの引用をお許しいただきたく思います。

本書においてもそうだが、氏の残した「名言」は様々なところでいくつか取り上げられてきた。しかし、「英語教師はことばの教師である。ことばの教師はことばに興味を持たなくてはならない」という授業で何度も登場した氏のことばは、なぜか忘れられてきた。よって遅まきながらではあるが、これも氏の名言であることをここに記して解説の結びとしたい。

  • 「ことばの教師たれ」

正に、私が、教壇に立って30年、大事にしてきたことです。

これから英語教師になろうという、学生・院生や、若い世代だけでなく、私と同世代か、それ以上の英語教育関係者、そして「ことば」の教育に関わる方たちに、是非読んで欲しいと思っています。


過去ログでもいくつか「W氏」や「恩師」、「私の師匠」といった匿名で若林氏に触れたエントリーがあります。

私の師匠は「大学で学ぶことは須く机上の空論で良い」と喝破した。「その論が何故、現場で窒息するのかを身をもって体験する」ことを私(たち弟子)に求めていたのだと思う。

Anniversary (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20071220)

  • 戦後のこれまでの日本の英語教育はことごとく上手くいっていない。根本的にダメである。そのダメな英語教育のもの差しで、「優秀だ」とみなされてきた君たちは本当に英語ができると言えるのか、疑ってかかった方が良い。

英語科教育法の授業第一回での恩師の言葉。大教室で概ねこのようなものだったと記憶している。私の周りでも何人か、この言葉で嫌気がさし、教職の履修を止めた者もいた。私はといえば、入学以前の高校生の頃、すでに『英語教育ジャーナル』(三省堂)でこの教授のことは知っていたので、これがあのW氏か、という感慨があった。そして、この「感慨」が本気で英語教師を志す契機となったとも言える。

「能ある豚は星を見ない」(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20081208)

今回、自分の作った定期試験問題を希望者に配布しているのだが、「自らの退路を断つ」、という恩師の言葉の影響というよりは、自分自身のため、という側面が強い。今の自分の取り組みを恥ずかしく思う気持ちは全くないが、過去の自分に指された後ろ指とはきちんと対応したい、とでも言えばいいだろうか。過去ログ (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20061204 ) で以前の自分の持っていた典型的な定期試験に対する考え方が記してある。では、どの学校に行ってもそれで通していますか?どんな生徒に対してもそれでやっていけますか?という問いへの回答、または回答しようという試みである。

In a double bind (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090308)

私の恩師である、W先生は『学校英語を批判する前に読む本』というものを生前企画していたらしい。自前の考察、地に足の着いた論考というDNAを受け継ぎたいと切実に思う。

  • 現状での、中高の英語教員が使い物にならないと思うのであれば、自分が中高現場に飛び込んでいってその世界を根底から変えてみればよいではないか。自分が主となって新たな組織を作らずとも、既にある学会や研究会のスタッフとして志を等しくする人と手を結べばいいではないか。大学や大学院の教員養成課程を自ら担当して、優秀な卒業生を教育現場に送り出せばいいではないか。英語の教科書が世界水準で評価した時にあまりにお粗末というのであれば、教科書の著者になればよい、または教科書会社の編集担当となり、全国にいる例外的に優秀な教員を集めて、自分の理想とする教科書を作ればよいではないか。英語の辞書も批判するだけでなく、自分で辞書を作って、全国の学校で使ってもらえばいいではないか。英語力の測定が適切に行われていないというのであれば、毎回のようにTOEICを受験して、TOEIC対策本を書いて売りさばくのではなく、TOEICのアイテムライターになればいいではないか。

私自身のことを振り返ると、東京にいる時分はそういう思いで一貫して現場で生きながら、全英連でテストを作り、英和・和英の辞書を作り、検定も非検定も教科書を書き、教材を世に問い、業界内でも糺すべきは糺し、学会・研究会の末端として働き、一方で山口の地に来てからは新たに研究会を立ち上げ、地元でのイベントを開催すると共に、時折中央に赴き、現場の先生方対象の研究会や講習会の講師を引き受けてきました。

浜省で内省 (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20100909)

anfieldroadさんの企画に乗って、英語教師になるあたりまでの英語学習歴のまとめを書きましたが、その後のことも少しだけ書いておきましょう。学習歴というよりは、職歴を振り返るようなものになるかもしれません。
大学の恩師のW先生に、

• 君はね、自分で英語が出来ると思っているでしょ。そういう人には入門期の指導なんて出来やしないんだよ!

と怒られるたびに、
• わかりました、だったら (中学じゃなく) 高校へ行きます。

と答えていたから、というのは本当に多分にあって、高校で教壇に立とうと決めていました。

”easy said but less often done” (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110306)

そして、昨年度の「第8回山口県英語教育フォーラム」では、若林氏の「正四面体モデル」を紹介し、技能統合についての先見性に言及していました。今回の『英語は…』では、第3章で扱われています(この章は手島良氏による解説)。

Expressly, exclusively or excessively
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20151117

こんなにも影響を受けている私が、『英語は「教わったように教えるな」』を評する、ということはとても難しいのです。
若林氏に出会い、教えを受け、心酔し、その一方で反発もし、それでも自分の身に就いて「剥がれない」かのような、「英語教育」、「英語授業」、そして「ことば」というものを捉える視座が形成されているから。

今回の収録から洩れた、ある雑誌記事について、11年ほど前の過去ログで取り上げていました。

「スピーチ&レシテーション」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050518

今日のエントリーの冒頭で、

読み始める前に決めていたことが一つ。

  • 決して、センチメンタルにならないこと。

と言っていたのは、この特集での「師匠」のことばを今も生きているからでした。

「小若林」にならずに、私自身になれているか、独り立ちできているのか、自問自答は続きます。

本日のBGM: Here, there, and everywhere (告井延隆:サージェント・ツゲイズ・オンリーワン・クラブ・バンド)

「不確かな日々の希望」

tmrowing2016-06-16

教科書の検定や採択に関わる教科書会社の不祥事(白表紙と金銭等見返りの授受の問題)が引き金になっているのか、採用を決めるための見本本供給が1校1冊で、取り扱いが厳重になっている模様。
英語科の専任教諭だけでも複数人いるというのに、この状況では、まともに「英文」を読んでいる 時間的余裕 はないだろうと思う。不幸な現実だ。
教科書検定が機能していないのだろうか?という思いは、前回の「学習指導要領」改訂に伴う現行の教科書を見た時にもあったのだが、今回、「英語表現」の改訂版や新刊を見て、その思いを一層強くした。

30年前の『英文法の準教科書』とどこが違うのか?
20年前の「英語II C」の教科書と比べて、何が優れているのか?
10年前の「ライティング」の教科書の何を、どのように超えたのか?

現行本の英語表現での採択が異様に多かったVision Quest (啓林館)が、文法シラバスへの回帰の先鞭をつけたということなのだろうが、それを「英語表現」の教科書として現場が歓迎しているとすれば、そこに英語教育の明日はないだろう。

以下、オンラインでもオフラインでも再三再四言っていることだが、繰り返しておく。

学習指導要領の法的拘束力を無くすこと。
「ライティング」「リーディング」「オーラルコミュニケーション」を廃止し、技能統合を謳いながら、「英語会話」と「英語表現」という羊頭狗肉な科目を設定している現行の学習指導要領は改悪である。
学習指導要領の内容と逆行するかのような文法シラバス回帰の教科書が教科書検定を通っているのは、よくて茶番、普通に考えれば矛盾。
高校現場は、学習指導要領の改訂内容には異議を唱えず、その趣旨に逆行するかのような教科書を歓迎しているという為体を猛省すべき。

このブログでも、以前「『教科書』はどこへ行った?」というエントリーで教科書についてあれこれ書いていた。

『教科書』はどこへ行った?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20051218

『教科書』はどこへ行った?(その2)
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080126

『教科書』はどこへ行った?(その3)
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080627

私の理想の教科書
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150306


新しい時代を拓く教科書は本当にそれに見合った資質を兼ね備えているのだろうか?
その拓かれた新たな地平には夢(ファンタジー)の片鱗くらいはあるのだろうか?

研究社の教科書 "New Age" は随分と前に、高校の教科書から撤退した。
「グローバル」を叫ぶ声が大きくなるのとは対照的に、旺文社の教科書は "Planet Blue" で幕を閉じた。
中学校では依然として意気軒高だが、高校の教科書では、もはや「地平線」も「水平線」も姿を消している。
詩や文学の香りを残していた数少ない教科書、文英堂の "Unicorn" も、その名を残すのみである。

市販教材のトンデモ本が市場で淘汰されないのだから、現場で教員が採択する教科書でも同じことなのか?
時間との戦いではあるが、「良書」を見つけて、その良さを知らしめたい。心ある、志しある教師の目に届き、心に響くことを願うのみ。

ということで、いつものように、古い本からその一部を紹介しておく。
良いものが目の前にあっても、その良さに気づかない「後の祭り」の典型、見本と言えるかもしれない。

  • Enjoy English Writing Teacher’s Manual (教育出版)

「ライティング」ではなく、「英語II C」 の時代の教科書指導書の写しである。
著者代表は金子稔氏。

※以下 [↓] のアイコンをクリックすると画像のDLが始まります。

本日のエントリー冒頭の写真が表紙です。
金子稔Writing表紙.jpg 直

この課のねらい。「副詞節」の知識と運用力。

金子稔Writing_政治_目標.jpg 直

モデルパラグラフ。メッセージも感じられます。

金子稔Writing_政治1.jpg 直

文法解説のための例文。

金子稔Writing_政治2.jpg 直

ドリル1では「マッチング」も多用されています。

金子稔Writing_政治3.jpg 直

ドリル2は「整序」「空所補充」による文完成。

金子稔Writing_政治4.jpg 直

エクササイズは「和文英訳」の形式。

金子稔Writing_政治5.jpg 直

それら全てを経ての「暗誦用例文」の提示。
例文の一つ一つが響いてきます。

金子稔Writing_政治6.jpg 直

この「はしがき」の金子氏のことばはずっと私の胸に刻んであります。

金子稔Writingはしがき.jpg 直

本日のBGM: 一角獣と新しいホライズン (山田稔明)

「僕は誰が素敵な奴かを知っている」

tmrowing2016-06-15

先週末、関西英語教育学会 (KELES) の大会で大阪に行っていました。
お目当てのプログラムが幾つかあり、ほぼ目的は達したのですが、その中から少しだけ備忘録として。

初日の最初が、奥住桂先生の「ワークショップ」。

  • 「中学英語教科書のアクティビティーを考えるー教科書の役割、教師の役割―」

中学校の教科書の「活動」に何を求めるのか? という根源的な問い。
奥住先生ご自身が、『英語ラボ』などの教材開発に関わったことで得た知見も話されていました。

本文はなぜ対話ばかり(しかも読ませてばかり)なのか?
リスニングは「絵」「写真」に基づくものばかり?簡単すぎないか?
活動だけで成立する「課」があってもいいではないか?(「音だけが提示される課があってもいいのでは?」というのは昔から奥住先生が言っていたことでした)
本文と活動とのつながりが希薄ではないか?
「活動の場面設定のもっともらしさ」が逆に足かせになっていないか?
潔く「パタンプラクティス」に徹した活動があってもいいのでは?
TBLT的な教科書は可能なのか?
今後、教科書が変わっていくとするとそのゴールは?

というような問いが投げ掛けられ、フロアでも意見交換しながら進みました。英米など海外の出版社から出ている『コースブック』との比較もあり。

「まずは学習指導要領をCan-do で示す方向で変わらないと」というメッセージもありましたが、教科書検定制度と広域採択制度の存在も忘れてはならないでしょう。中学校教科書の点数の少なさと、一つの教科書に関わる著作者の人数の多さは、高等学校の検定教科書と比べた場合に「異様」な感じがします。

私が終始考えていたのは、

本文と活動の連動以上に、そこまで学んできた言語材料や言語技術のうちで何が自分に使えるのかの選択判断が問われる活動をどのように取り込んでいくのか?

その際の言語材料は、現行のようなその課で導入・練習した言語材料だけでは(足り)なくなると思うので、「お題」を与えてから活動に移るまでに「何にアクセスしておくと生徒が自分の力量に応じて取捨選択できるのか?」という、リソースの提示と、活動中、または活動後での「成功例と思しき発話」「模範例」の提示をどうするのか?

という部分でした。
前者は以前、浦野研先生のお話を聞いた時に痛感した「品質保証」に関連することでもありましたし、後者は1990年代の終わり頃にLeni Dam の実践を知って、自分の授業に取り入れようと模索してきた部分でもありました。


講演は、卯城祐司先生の「クリティカル・リーディングで迫る、深い英文の理解」。
たまたま、自分のいる列で足りない配布資料があったために、途中の課題を時間通りにこなせず残念でした。

数年前に、全国の発表で卯城先生からご指名を受けながら、当日がインターハイと重なるかもしれないということで、お断りしていた経緯があったので、アフタヌーンティーの場で、その詫びも兼ねてご挨拶に伺いました。「お手柔らかに頼むよ〜」と道産子のイントネーションで、私が『卯城本』に関連して、このブログで書いた記事や密林レビューのことにも触れられていました。


初日の最後には山岡大基先生のイブニングセミナー。

  • 「汎用的教材研究術」

会長の担当する講座の裏番組ということで、随分気にされていましたが、国語教育、さらには「教育学」そのものの視座を取り入れて、「教材研究」のありようを揺すぶる良い企画だったと思います。

ワークショップでの意見交換に先立って、「自分で発問・指示を作る」というお題が課されたのですが、これは面白かったです。「形式発問」というのは、以前、山岡先生にお願いして冊子を送ってもらっていましたが、あらためて考え、見えてきたことも多々ありました。

とりわけ、旧版の One World のBook 3 に収録されていた、Audrey Hepburn の伝記に基づく「発問づくり」は考えさせられました。
私が考えた発問は、

1. Have you ever seen her movies?
2. How successful was she as an actress?
3. How did her childhood experiences influence her later career?

などの他、

4. What did she mean by the words, “Giving is like living?”
5. What did she give to those around her?
6. What did she think was the most important thing in life?
7. What did she live by?
8. Looking back on your life so far, what do you think is your biggest “giving” to others?

というもの。この中では、4. が「形式」に着目した発問になるでしょうか。
引用符で囲まれた、Audrey Hepburn 自身のことばは、この文章ではここだけなので。
ここが上手く処理できると、冒頭での something more than these movies や、第6段落での her mission、そして最終段落の her devotionといったキーワードの読みを深められるかと。

最後の「表現の置換不能性」という件では、私自身が講師を務めた津田塾大でのセミナーを思いだしました。
その後、語学教育研究所の講座で私が発表した時にも同じことを話したのですが、その時には「置き換えられないことば」がピンと来ていなかったという山岡先生の中で、何かが芽生え、花開き、実を結んでいるのを見られたのは嬉しかったことの一つ。

津田塾セミナーの様子は、過去ログ参照。

ダンスはすんだ?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080806

語研の講習会の振り返りは山岡先生のブログで。

語研講習会の備忘録(後半)
http://angel.ap.teacup.com/amtrs/35.html

懇親会は設定されていなかったので、旧交を温める中堅&若手の会に一人年長者も混ぜてもらい、美味しい沖縄料理を堪能しました。お互いをSNSでは知っていても直接会うのは初めて、という方同士もいたりして、あれやこれや話に花が咲きました。私としてはとても実りのある楽しい夕餉、宴でした。ありがとうございます。

生憎の雨予報となった二日目の振り返りはまた日を改めて。

本日のBGM: 大阪へやってきた (友部正人 『ぼくの展覧会』より)