まだまだ改善されない「ライティング」解答例公表と過去問対策

明日から、国公立大学の個別試験が始まります。「ライティング」を課す大学の受験生諸君は、これまでの教材の復習に余念がないことでしょう。
直前で出来ることは限られていますが、以下の項目はしっかりと確認して試験に臨んで欲しいと思います。

・ narrative (語り文) か、descriptive (描写・定義文) か、argumentative (論証文・説得文)か、など、どのようなテクストタイプの文章を書くことが求められているか、それぞれのテクストタイプに応じた、書き出すまでのストラテジー (アイデアジェネレーションの手法など)を確認する。
・ トピックセンテンスに懲りすぎずに、「つながり」と「まとまり」を丁寧に処理して、概要 (general) から個別 (specific) へ、という大きな流れを乱さずに書く。
・ 時系列に沿って書く場合には、時の目印となる副詞句、副詞節を用いて、主語の統一だけでなく、基準となる時制を統一すること。過去に遡ったり、また戻ってきたりという、カヌーのスラロームのような書き方を避ける。
・ その前に述べた内容を「こと・事柄」としてまとめる際は、一文が長くなりがちなので、大まかな目安としては、適宜thatでまとめて、その次からitで引っ張るよう心がける。
・ 余力があれば、fact, statement, indication, request などの事柄をまとめる「名詞」を活用して、先行文脈を引っ張っていく。
・ many, much, so, a lot of などの漠然とした程度・数量を表わす形容には必ず具体的なサポートをつける。
・ 「論証文」で意見を述べる際には、とかく形式主語構文で、it is important that SVなどと書きがちだが、主張を含む評価的・主観的要素の強い形容詞には、その程度や原因理由など、必ず具体的な説明を続ける。 significant, remarkable, drastic, vital, necessary, desirable, inevitably, hopefully など書き手の顔が前面に出るタイプの形容詞や副詞を整理しておく。
・ 論証文で自説・持論を述べる際に、助動詞のmay (might) は避ける。この助動詞は常にmay or may not という表裏一体の可能性を表わすので、「…であるかも知れないし、そうでないかもしれない」と自分の主張の説得力を自ら弱めることになる。
・ 主張を裏付ける理由付けの部分には、極力「データ」「有識者の証言」「誰もが共有するであろう普遍的な経験」などを用い、決して自分の意見を書かないこと。具体例の記述の際には「個別」の事例を列挙することがあるが、その際にも、also, too, as well など「何に何を追加したのか?」「どういう観点でそれらの具体例は、並列・列挙するに値するのか?」という部分を再確認する。

志望校の過去問を10年分とか20年分全て解いてしまった、という人は、教師による添削を踏まえて、書き直した英文を復習することが一番。
昨年度のセンター試験から出題されている、「不要文指摘問題」を今一度復習することも「当たり前」の確認には有効です。

所謂「自由英作文」(このいい方もそろそろ止めませんか?)に特化した参考書や問題集は、出題例を知るには役に立つのですが、解答例や解答に至るプロセスでは「?」なこともままあるので、志望校の出題例が明確なら、それを持っていって、自分が普段教わっている先生に相談・お願いするのが一番効果的でしょう。

最近読んだ学参で気になる部分があったので、以下批判的に取り上げます。

河村一誠 著『もっと減点されない英作文過去問演習編』(改訂版、2016年、学研)

より、所謂「自由英作文」のセクションから、解答例を一つ。(例題1、pp.126-129)

この英文を読んで、この解答が生まれる元となる「お題」が何か分かるでしょうか?

Smartphones have a lot of apps and have caused a lot of mobile phone addictions.
Some of them cannot live without them.
Drivers using mobile phones cannot pay enough attention to the traffic and it is not unusual that they cause car accidents.
In addition, elementary school children can accidentally access harmful sites.
Furthermore, the popularization of mobile phones has reduced the opportunities for face-to-face communication.
But the advantage of mobile phones overweighs their disadvantage.
We cannot deny the fact that we can get in touch with others whenever we like.
What enriches our life always has some disadvantages and dangers.
We should use it wisely.
It is how to use mobile phones that counts.

10文からなる115 wordsの英文です。

元のお題は、

次の英文を読んで、あなたの答えを10行程度の英語で書きなさい。(岡山大、2012年)

Mobile phones are used by many people for all kinds of purposes such as talking, sending email, and surfing the Internet. There is no doubt that they are convenient machines which have changed modern life. However, some people feel that there are some disadvantages or dangers to using mobile phones. Describe some negative aspects of mobile phones and give your overall personal opinion about these devices.

です。オリジナルでは、10行という指示でしたが、この学参では10文という指示に変わっています。
お題を確認したところで、解答例を精査していきましょう。

  • Smartphones have a lot of apps and have caused a lot of mobile phone addictions.

携帯電話のNegative aspects を述べるのだから、どのようなappsがnegativeな行動様式を生むのかが述べられるべきところですね。ここではa lot of apps (たくさんのアプリ) と漠然とした多数でしか述べていないのが気になります。つなぎの接続詞が and ですから「因果関係」なのでしょうか?「たくさんの中毒者」を生む原因は「アプリの数」ですか?論理の飛躍がありそうです。「利便性の高いアプリがたくさんあり、それを使うことにあまりにも慣れてしまうと、そのアプリなしではいられなくなる」というような依存性をこそ述べるところでしょう。

  • Some of them cannot live without them.

最初のthem は those who are addicted to smartphones ふたつ目のthem は smartphones ? apps?具体的に、 some of those addicts とか these appsなどと書いた方が分かりやすいでしょう。

  • Drivers using mobile phones cannot pay enough attention to the traffic and it is not unusual that they cause car accidents.

この主語では前文との関連、対比が不明となりはしないでしょうか?
その前が、「スマホ中毒者」というnegative な側面を提示する、よりgeneral な記述でしたから、後続のここでの情報は、それをspecific に述べるものが予想されると思うのです。とすれば、「運転中に携帯電話を持った通話をすること」は既に道路交通法などの違反項目なのだから、drivers という一般的な記述ではなく、「携帯電話を持ったままの通話ではなくとも、スマートフォンのアプリを運転中に操作することが、事故につながる」というような記述が求められるでしょう。少なくとも、「中毒者が運転すると」というような条件設定や、後置修飾による絞込が必要だと思います。その部分が不十分なので、and の因果関係の効き目が薄いように感じます。文体的には、not unusual という二重否定は、その次に肯定的なサポートが続かないのであれば感心しないし、もし二重否定でそのように言える内容・命題なら、最初から肯定的に言い切るべきでしょう。

  • In addition, elementary school children can accidentally access harmful sites.

このin addition は何に何を添加したものなのかで悩みました。「ネガティブな話題」つながりですか?でも、この文は明らかに、中毒性や依存性を述べてはいません。では、何が付け加えられたのか?運転できる年齢層に対して、弱年齢層での問題点?だったら、その情報を導く目印が必要だと思うのです。職業柄、こういう「エイブン」を書く人は、「添加」の表現が使われている英文読解の時にいい加減に処理しすぎていないかと、心配になってしまいます。

  • Furthermore, the popularization of mobile phones has reduced the opportunities for face-to-face communication.

そして、このfurthermoreでは何の程度・レベルが一段階上がったのかでまた悩みます?その前文での整理が不十分だったのですからムリもありません。popularization「普及;大衆化」というのですが、一般論に戻ったのでしょうか?
そもそも「対面コミュニケーションの機会の減少」が携帯電話使用のマイナス要因、ネガティブな側面であるというからには、誰と誰の間での対面コミュニケーションの機会が減少したのか、が述べられなければならないだろうと思います。

  • But the advantage of mobile phones overweighs their disadvantage.

唐突な文頭のButには目をつぶるとしても、自分の文章では初めて「利点・長所」を導入する部分での、the advantage の the と "overweigh" というよく分からない動詞を用い、さらに現在時制で断定しているところと、their disadvantage の単数形には頭がクラクラします。
優劣の価値判断であれば、"outweigh" でしょう。以下、定義を引いておきます。

  • be heavier, greater, or more significant than (Oxford Dictionary of English)
  • to be more important or valuable than something else (Longman Advanced American Disctionary)
  • to be greater than (someone or something) in weight, value, or importance (Merriam-Webster's essential Learner's English)
  • to be more important, useful, or valuable than something else (MacMillan English Dictionary)
  • to be likely to be more important than or have an effect on something else (Cambridge Academic Content Dictionary)
  • If one thing outweighs another, the first thing is of greater importance, benefit, or significance than the second thing (COBUILD Advanced Dictionary of American English)

もともとは、out- と書いたのに印刷では over-と誤植になったのでしょうか?そう願いたいものです。
それをおいても、ここから持論(自説)の展開が始まるところなのだから、情報提示の原理原則に見合った書き方があろうというものです。

  • We cannot deny the fact that we can get in touch with others whenever we like.

We は誰か?お題にあるように、ここでは、あなたのpersonal opinionが求められているのだから、アカデミックライティングの流儀に則るかのように、無理に「客観化」をする必要はないように思います。さらに気になるのは、whenever we like (to do so) の論理。メールやメッセージでの一方向のtexting は「いつでも」可能だと思うのですが、skypeなどの「擬似的な対面対話」やチャットでの「リアルタイムでのやりとり」は「いつでも」というわけにはいかないでしょう。お題にわざわざ書いてくれていた “all kinds of purposes such as …” をきちんと踏まえて立論するべきだったのではないでしょうか。

このブログ過去ログ
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140202
「電子辞書」での「いつでもどこでも」への言及を参照されたし。

  • What enriches our life always has some disadvantages and dangers.

なぜここで話をよりgeneralな方向へと広げるのかが疑問でした。しかも、この書き方では、「どんなプラスのものにも、マイナスの側面がある」ということになり、マイナスの側面にスポットライトを当ててしまいますから、直前で自分が述べた <携帯の長所overweighs携帯の短所>の卓袱台返しとなってしまうのではないか心配になります。もし、この文の意味を本当に述べたいのなら、携帯電話が something that enriches our life であることを前後でしっかりと提示しておく必要があるでしょう。
お題にあるのは、”convenient machines which have changed modern life” であって、利便性以外の「豊かさ」への言及はないことを今一度確かめましょう。

  • We should use it wisely.

ここに来て、新たな意見を述べてしまっているのがなんとも…。wisely は所謂「主観的形容」の一つですね。人それぞれ、それなりの物差しで「賢さ」の度合いを測り始めますよ。

  • It is how to use mobile phones that counts.

主観的形容に説明責任を果たさずに、読み手に返してしまうという荒技で締めくくりです。前文を活かしたいのなら、強調構文で強調するべき情報を、our wisdomとか how wise we are とでもしておく、くらいが精一杯の対応策でしょうか。

この著者は「自由英作文の構成」として、

理由[1]を First(ly)、 理由[2]をSecond(ly) で始めてもかまいませんが、とくに必要ありません。理由[1]と[2]の間に、Moreover やIn additionを置くほうが自然です。「理由を2つ述べなさい」という設問に対して、I have two reasons why や There are two reasons for と書く受験生はけっこういますが、まったく必要ないのでやめましょう。(上掲書、p. 125)

という助言をしているのですが、この解答例で用いられている、in addition や furthermore は情報提示の原理原則である、general → specific に適っていないばかりか、添加の際の概念・論理のレベルも揃っていません。

「センテンスを整える」ためのつなぎ語の使用には、勘所があるのです。
このようなtransitionsやdiscourse markers を使っていれば、つながりができるという勘違いは、受験生だけではなく、受験の指導者の中にもまだまだあるのでしょうか?
受験生が個人で自学自習するにはちょっと負荷が高いのですが、指導する立場の人であれば、

  • 日向清人 『即戦力がつく英文ライティング』(DHC、2013年)

即戦力がつく英文ライティング

即戦力がつく英文ライティング

をお読みになることを強くお薦めします。

今回は、偶々私の目に付いた一冊の、しかも一つの解答例だけを取り上げました。
私が論じているのは、あくまでも、この解答例一つに関してのみですのでお間違えの無きよう。私のこのエントリーだけで、早計にこの学参全体の善し悪しを判断することのないようにお願いいたします。

さて、
これからの英語教育では、「4技能をバランスよく」とか「技能統合」とか、好き放題の改革が打ち出されていますが、「ライティング」一つとってみても、学校現場の指導方法と、予備校などの受験に特化した指導方法とに差があるのです。

入試改革の前に、まず出題する大学側が公式&正式に「解答例」を示すこと。解答例でないのであれば、rubricの様な形で評価基準、解答となる「英文」に求められる要素を詳述することが望まれます。

ここまで書いてきて、あることに気づきました。
同じことをおおよそ10年前に私は書いていました。

『英語青年』(2006年4月号、研究社)
特集:大学入試英語問題を批評する
これでいいのか、ライティング問題  高校の立場から
英語青年200604松井.pdf 直

今は無き雑誌の極めて意義のある特集だったと思います。
ただ、あれから10年経っても、大学入試の「ライティング」を取り巻く状況に殆ど改善がなされていないとするなら残念なことですね。

本日のBGM: 10 years (渡辺美里 supported by 大江千里&佐橋佳幸)

※2月27日追記:
このブログをお読みの英語教師の方からメッセージをいただきました。私がその英語力を信頼し、「診断テスト100」作成の際にも英文のチェックをお願いしていた方です。
許可を得て匿名にて転載します。

ブログでご提示の学参の英文は、本当にどうしてこうなるのかという例ですね。英文を書く場合、一文のレベル、文全体のまとまり、と一つずつ力をつけてこなかった場合は、こういうことになるのでしょうか。ですが、英検準1級レベルのインタビューで意見を述べる問題が2問ありますが、ちょっと指導すると高校生でもある程度論理的にすっきりした答えを言えます。この筆者はいったいどうしたのだろうかと思いました。大きく減点されるような例ですね。

元の題は全く見当が付きませんでした(笑)。このクイズ形式は面白かったです。

それにしても、高い実力を持った英文エディターを持たないで英語関連の本を出版するのは大胆すぎます。雇用関係が脆弱な英語ネイティブでは強く言えないとか、または一文ずつしか見ないからこういう構成にするのか。どちらにしてもバッサリと書き直した英文を提言出来て、しかも日本人筆者がそれと自分の書いた英文を対照させながらネイティブと話し合ってよいものを作ってくれないと、勉強する生徒のためにならないどころか、マイナスですね。

教材を作る者の一人として肝に銘じます。