♪いつまでも途中のままで♪

金曜日で体育祭も終わり、土曜日は本業。
電車に乗り遅れた戯け者は置き去りにして、湖まで移動。シングルスカルの乗艇を指導。
途中、国体の成年チームの選手にアドバイスを与え、午前中で揚艇、撤収。
いつもの「ネギラーメン」を食べ、床屋に寄って帰宅。
溜まった疲れがネギの硫化アリルで浮き出てきたのか、床屋では爆睡してしまった。御免なさい。
帰宅後は、職場や自宅に届いた書籍や雑誌の整理。
夏の研修会やワークショップで資料作成に使った書籍も、まだ床に平積みなので、大変。

  • Evelyn Waugh. 2003. Waugh Abroad: Collected travel writing, Everyman’s Library

ウォーの紀行文を編んだもの。イントロを除いても1000頁を越える分厚い一冊。佐伯泰英のエッセイと共に、少しずつ読もうと思います。愉しみ。

  • 西山千『英語のでこぼこ道 私のアドバイス』 (サイマル出版会、1977年)

浦島先生のブログで見かけて、買い直しの読み直し。これも、「今ならわかる」本の一つだと実感。

  • 中森誉之 『学びのための英語学習理論 つまづきの克服と指導への提案』 (ひつじ書房、2009年)

これは、中高現場の指導者というよりは、『トンデモ本』を書いているような人たちに読んで欲しいものだと思いました。

このところ受験対策の学参・問題集、予備校のテキストを取り上げ、その「英語そのものの不備」や「解説の問題点」を指摘してきました。カスタマーレビューにもボチボチ書いています。中でも、「自由英作文」といわれることの多い大学入試問題に対する解答例の英文の「論理性」にスポットライトを当ててきたのですが、相変わらず理解されていないことも多いようです。
例えば、

  • 瓜生 豊、早崎 由洋 『頻出英作文完全対策 (大学受験スーパーゼミ) 』 (桐原書店、2007年)

を4年以上前に過去ログでも取り上げ (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20071226)、その後、アマゾンのカスタマーレビューでも問題点を指摘していました。私の中では既に決着はついていたのですが、最近、その私のレビューと、私のレビューが納得できない方のレビューを照らし合わせて読んだ方のコメント (今年の6月になされたもののようです) を目にする機会があり、やはり本質が理解されていないと思い、ここに、私のカスタマーレビューを再録することにした次第です。

「自由英作文」の部分は要らなかったのでは?
通読して、前半の短文での和文英訳編は良くできていると思われる。ただ、前半で確認してきた、語彙・構文・表現を、後半の自由英作文で活かそうというような下心が裏目に出たのではないか?
解答として与えられている英文をみて首を傾げた。高校でも「英作文」を扱う際には、主張・意見表明の裏付けとなる理由付けのところには極力、自らの新たな意見を書かないよう指導するものなのではないだろうか?
ここで著者が力説する「自由英作文の本質」が、次に示す解答例の英文のどこに現れているか、よく眺めて欲しい。
I agree that it is not necessary to teach English in elementary school. This is because I do not think that it is necessary for Japanese students to learn English. Most people living in Japan will never need to use English in their daily lives, so it is much more important to focus on essential subjects like Japanese and math. (以下略、p. 204より抜粋)
この第2文が出てきた時点で英文として "?" だろう。「なぜなら私はそうは思わないから」という理由付けが説得力を持つのはどういう状況だろう?さらにこのあと、ダラダラと主題に絡まない英文の羅列である。
<主題の表明(=賛否の明示による「自分の意見」の表明)+「自分の意見」ではなく事実・データ・専門家のお墨付きなどでの支持・論証+表現の言い換えによる 「自分の意見」の再主張・再強調>というpersuasive writing/ argumentationの型にも収まっていない。入試問題に明るい方にはおわかりのように、これは今春の神戸大の出題に対する解答例である。確かに一つ一つの英文には文法的な誤り、語法上の誤りはない。しかしながら、これは英語の意見文にもなりきれていないだけでなく、課題として与えられた筆者の意見 (「国際人になるためには、外国語よりもまずは母語での論理性をしっかりと身につけることであるから、小学校での英語教育には反対」というもの)に対する賛否の表明にもなりきれていない。ここで要求されているのは「あなたは小学校からの英語教育に賛成ですか、反対ですか」ということではなく、筆者の意見への賛否なのである。この本の著者はどこを取り上げて「全く心配ない」と喝破しているのだろう?英文の校閲にネイティブスピーカが携わっているようなのだ が、この英文をどのように評価しているのかをじっくりと聞いてみたい。この本の著者が言うように、「和文英訳ができる生徒が自由英作文も書きこなし」ている実例が、ここにあげられた解答例だというのであれば、監修・校閲も含めた著者チームは、その自由英作文で解答として求めている英文をその程度のものだとしか認識していないということである。

私は、「カスタマーレビュー」は、パブリックな場でのプライベートなレビューということで、自分が買った商品の評価を書くことに徹しているので、他のレビューへの反論や、コメントへの返信はしないことにしています。その分、「自分の庭」である、こちらのブログで、補足をば。
私のレビューに憤るカスタマーの方に「横やり」と称して、コメントを入れている方の言っていることを良く読むと、

  • 私 (= tmrowing) の指摘する解答例の不備は、「設問要求を無視している事に対して」であり、解答例を英文として読んだ場合には「筋道の通った正しい英文」であって、それは私も一定程度認めている。

ということらしいのです。申し訳ありません。その前半の理解は正しく、後半の理解は正しくありません。
この解答例の英文は「設問要求を無視している」のももちろんなのですが、「英語の論理として筋道が通っていない」からこそ、わざわざレビューを書き、警鐘を鳴らしているのです。
冷静に、主題と題述、主張と支持、意見と理由が、きちんと書かれているかを読んで下さい。この本の解答例では、

  • 第1文での賛否の表明→小学校で英語を教える必要はないことに賛成である。
  • 第2文での理由付け→私は、日本の学生は英語を学ぶ必要がないと思っているから。

となっていて、第2文で「意見に対する理由付けが来るべき所に、自分のさらなる意見を書いているところが大問題だ」と言っているわけです。
「ロジック」というものを何か大仰なものと思っているのか、ときどき、

  • 恐ろしいほどの論理性など、入試の自由英作文では求められていない。
  • 教師が「それでは理由になっていない」と、異常なまでに厳格な理由付けを求めると、受験生は病気になってしまう。

などという批判も見受けられますが、「理由マニア」とか「ロジック神経症」とか揶揄するような低次元での揚げ足取りではなく、この本の解答例でのミスは論理性が高いか低いかを云々する前の、論理の入り口付近での致命的な躓きだという認識を持つところから、自由英作文の指導をやり直して欲しいと思います。
どうしてもこの内容・意見で押したいのであれば、「そもそも、私は日本の学生が英語を学ぶ必要はないと思っているので、当然、小学生から英語学習を始める必要は全くないと考える。」というトピックセンテンスを設定し、次の文で、「なぜ、不必要と言えるのか、その根拠となる、事実・統計や研究成果のデータ・専門家のお墨付き・万人が納得する普遍性を備えた、あるいは一般化が可能な個人の体験談」で支持するのがライティングの手順だろうと思います。
もっとも、そのような論を立ててしまえば、「設問には全く答えていない」ことになるのですけれど。
この本で取り上げられる解答例の英語には他にも不備が見られますが、それに関しては、過去ログ、

の一例をお読み下さい。私の言っていることが少しは分かって頂けると思います。

形式だけ、パラグラフ・ライティングを整えているように見えて、文と文の繋がりでは全く理由付けになっていない「英語もどき」を垂れ流すのは止めさせましょう。おしめやおむつが必要な段階では、2文、3文を適切に繋ぐ、もっと基礎的なトレーニングが必要と言うことです。
そして、高校入試のモノローグのリスニング問題レベルや、高校1年の教科書レベルの語彙・表現という「ヨコ糸」を用いても、英語としての論理の「タテ糸」をきちんと紡げば、内容の豊かな英文となるのですよ、ということを示すのが語学教師、とりわけ高校段階で指導に関わる英語教師の役割だと考えます。

学習者として、もし英作文やライティングの力に繋がるような『英語本』を読むのであれば、まずは、

  • 田地野彰 『意味順英作文のすすめ』 (岩波ジュニア新書)

で、文を作る際の「語」の並べ方を押さえ、英語が出てくる回路をつくっておき、

  • 阿部一・浦島久 『コーパス口頭英作文』 (DHC)

で中学レベルの文法項目に限って、単文、一文レベルでの反応速度を上げ、

  • 金子稔 『英作文の解法』 (洛陽社)

で、高校レベルの文法・語法を確かなものにすることですね。
必殺技や近道があると思わないことが大切です。
指導者であれば、

  • 不二鷹司 『じゃぱにいず・イングリッシュ 日本人のための英作文ガイド』 (牧歌舎)

は、一度目を通しておいても良いと思います。「日本語を母語とする者が、英語で語る際の頭の働かせ方」をOSと捉えた意欲作です。
以下は、絶版ですので、まずは、地元の公立図書館、または大学図書館へ。入手したい方は、懐の暖かい時期に機会に恵まれましたら。最後の村上氏のものは、古書でも入手が難しいと思いますが、大きな図書館であれば所蔵しているかもしれません。私もコピーしか持っておりません。

  • 大井恭子 『英語モードでライティング』 (講談社インターナショナル)
  • パトリック・フォス、酒巻バレット有里 『英会話ほんとは論理力』 (講談社インターナショナル)
  • 上田明子 『英語の発想 明快な英文を書く』 (岩波同時代ライブラリー)
  • 村上英二 『英語の文章の仕組み―しっかりした英語を書くために』 (鷹書房弓プレス)

本日のBGM: Decorate (トクマルシューゴ)

※2012年10月26日 追記:
ネットのA書店で新品の『英語の文章の仕組み』を入手することができました。
※2013年6月5日 追記:
『大矢本』の英語に関する精緻な考察は、『英語教育再生プロジェクト』のこちらの記事が参考になろうかと思います。
http://eigokyoikusaisei.seesaa.net/article/355912599.html