(この)記事の名(=タイトル)は?

前回のエントリーに続いて、

2017年「大学入試センター試験」外国語 英語・筆記(第4問〜第6問)

の寸評をば。

第4問
A 所謂「グラフ・図表」問題。グラフが一つになって拍子抜け?
本来は非連続テキスト(グラフ・表など)と連続テキスト(文章)との行ったり来たりができる読解力を見るための問題だったと思います。PISA型読解力とかが騒がれた頃には注目されていたのだろうとは思いますが、今年の英文は「比例・増減」「割合とその変化」など、英語の数量表現として気をつけなければいけないものがそれほど含まれておらず、「易しくなった」というだけでなく、グラフと融合させてまで読む問題なのかな、という印象です。

問1は According to the passage とあるので、グラフではなく文章のテクストから読み取る。第2段落の定義と具体例を読むだけ。

問2はグラフと文章の対応。第3段落の中盤から、それぞれのAreaの説明が始まるけれど、この第3段落のAll, Children, Adolescentsの説明をきちんと確認しておくことが大事。

グレーっぽい網掛けがAll。説明部分のspent most of the timeを読めば、一番バー(=棒)の長い(=活動が長時間)エリアがSolid Surfaceで、それに続く(= followed by)のが、Multi-court で、その次(=then)がGrass、とあるので、A&Bは決定。残り二つのうち、”with the average for All students in Playground being just over two minutes” と付帯状況を述べているので、左のバーが2分を僅かに超えている D がPlayground 、最後に残るCがNaturalとなるはず。

問3 はこの文章そのものの目的・狙い。
「読者層」を答えさせる設問が来るかな、と予想していたけど、見事にハズレ。
第2段落の冒頭の研究の目的を述べる部分で、”in order to investigate how much different types of schoolyard areas were used and whether students were active or passive in those areas” の意味をきちんとつかんでいれば大丈夫でしょう。

問4
文を超えたつながりとまとまりの設問(のはず)。
でも鳥の目で全体を眺めて「論理的展開」や「構成」を読み取らずとも、最終文の “Let us now take a look at these relationships.” のthese が何を指すかが虫の目でわかれば解決なんですけどね。

B 省略。

第5問
今年も物語文。
今年は「朝起きたら猫になっていた」という文章。SNSでは、「『君の名は。』の影響」などという声がチラホラありましたが、登場人物(猫物?)同士が入れ替わっているわけではありません。『とりかへばや物語』、『転校生』や『君の名は?』というよりは、 カフカの『変身』に近い、ナラティブ耐性の弱い受験生には過負荷か?という意表をついた設定でした。

本文に書かれている、心情とその原因(または感情の発露とその結果)を表す表現を丁寧に押さえて読めば解答は容易なのですが、それができずに「自分の思い」を重ねて読んでしまう高校生が多いわけです。

私の「ライティング」の授業では、古いタイプのStory Grammarを用いて、ナラティブな文章を読み、自分でも書くことを指導していますが、単純な5W1Hでは、物語の「ダイナミズム」が反映されませんので、工夫が必要だと思います。
私の使っている物語文法は1980年代までの知見に基づいています。最近の研究までを知る方たちは、もっと有効な「物語文法」の枠組みを用いているでしょうが、私にはこれが一番馴染んでいるので、参考までに。

(1) setting(場面設定):登場人物、場所、社会的時代背景、役割設定
(2) initiating event(出来事の始まり):主人公の反応を促す出来事、相手の言動、周囲の状況変化
(3) internal response(内的反応):主人公の思い・考え・ねらい・目標
(4) attempt(試み):主人公が目標達成のためにとる言動
(5) consequence(結果):目標の達成または不成功を示す出来事・言動・状況の(不)変化
(6) reaction(反応):目標達成(または不達成)に関しての主人公の感情の表現、言動)

で、今回の出題へ。
『とりかへばや物語』であれ、『転校生』や『君の名は。』であれ、「主人公」が入れ替わり、重なるとすると、「読者」からすれば、丁寧な読みが必要となるだけでなく、「感情移入」の幅や奥行きも広がることになります。そういう多層的、多重的な物語はエンターテイメントには向いていても、テストでの「読解力」の測定に向くのかどうか…。

文章で気になったのは、序盤で、2行目の、”With a big yawn I woke up.” と、4行目の、”I noticed the smell of coffee coming up from downstairs.”

この部分の記述は、「主として命令文で、北米のくだけた話し言葉で使われることがある」と言われる、

Wake up and smell the coffee.

という表現を踏まえているのだろうか、ということ。

  • = become aware of the realities of a situation, however unpleasant (ODE)
  • = used to tell someone to recognize the truth or reality of a situation (LDOCE)
  • = used for telling someone that they need to pay attention to what is happening in a situation they are in, usually a situation that is not good (MED)

という意味に何か掛けて、上手いこと描写した、という感じなのかな?
確かにこの慣用表現がわかっていると「主題」の把握は一層容易になりますからね。

後半の “There’s a cat in the dining room!” という「人間の私」のセリフには少し驚きました。「飼い猫」であれば、名前で呼ぶでしょうから、この猫は「飼い猫」じゃないのに、どこから紛れ込んだ設定なのか?というところ。でも、「紛れ込む」とか、そもそも想定していない、荒唐無稽なフィクションなのでしょうね。そもそも「飼い猫」との入れ替わりなら、「猫」にもキャラクターが割り振られているのでしょうから、『君の名は』と比較して面白がる気持ちもわかりますが、この場合だと、やっぱりカフカ的と言った方がいいでしょう?

一つ不満なのは、最後の「夢オチ」で、文字通り「窓の外にジャンプした」行為の落下点、落とし所の描写が弱いところ。”The human I” とか、前半は凝った描き方&書き方をしていたんだから、”Bump!” だけでなく、「あれ、全然痛くないぞ…」「オモテに出たと思ったのに…」とか、「自分の手が毛むくじゃらじゃなくてホッとした」の前に「生きててよかった」とか、もうちょっとちゃんと設定や伏線を活かして書きましょうよ。

ということで、今年の追試ではどんな英文が出題されるのか、楽しみではあります。追試も物語文になるのかね?

第6問
論説文とか評論文などと分類される文章が用いられることの多い、この大問。今年はどうだったでしょう?

この問題は例によって、私の読解系の授業と同じく、手書きコピーのアップをするつもりでしたが、現在、この「はてなダイアリー」のブログのファイル容量が一杯で画像をダウンロードできるファイルとして貼り付けられない状況なので、中くらいの大きさでベタで貼りますので、スマホやタッチパネルの方は拡大して、そうでない方は目を凝らしてご覧下さい。の写しをアップしておきます。
※2017年1月18日追記:何とか空き容量を作って画像ファイルとしてダウンロードできるようにしました。画像の下にあるリンクの[↓]を押して下さい。

第1段落

2017_6_1.jpg 直

第2段落

2017_6_2.jpg 直

第3段落

2017_6_3.jpg 直

第4段落

2017_6_4.jpg 直

第5段落

2017_6_5.jpg 直

第6段落

2017_6_6.jpg 直

English Vocabulary Profile の分析もReadingとWritingの両方でしてみたのですが、その画像ファイルは貼れませんので、日を改めて何かでお伝えできればと思います。

今晩にでも、「データリサーチ」などで、平均点などの情報が公表されることでしょう。
平均点の上下に右往左往するのではなく、英語のテストとして、英文としてどうだったか、それを踏まえて「きちんと読めましたか?」という部分を問うて欲しいと思っています。

昨年も高1、高2の授業で行っていた、「リスニング問題のスクリプトを読む」という作業は、今年もやっていますので、その様子も後日お伝えできればいいな、と思います。
では、この辺で。


本日のBGM: Don't know what it means (Tedeschi Trucks Band)