2017年本試験に続いて、2017年追試験の第4問にも触れておこうと思います。
例によって、解法講義ではありませんので、誤解無きようお願いしておきます。
問題文は、DNCの過去問アーカイブか、私のノートの写しをお読みいただければと思います。
2017年の本試験でも、原典となる雑誌掲載論文の「英文」に比べて、書き換えられたセンター試験の「英文」が、やさしくなった、わかりやすくなった訳ではないことを指摘しましたが、この追試験でも同様のことが言えます。
今回は、論文も、webで無料でダウンロードできますので、問題文を読む前でも後でもいいですから、比較されることを強くオススメします。
第1段落
私は授業の準備で、毎度のように手書きしていくのですが、この文章は、第1段落の第1文を書いていて違和感がアリアリ。第2文でも解消されずに第2段落に進んでしまうところで「???」の三連符。
- Much research has shown that lack of sleep causes problems for young people’s health and behavior, including poor concentration and academic performance.
- Researchers have been interested in what young people do before bedtime, known as pre-sleep activities, and the different effects they have on the times at which young people go to sleep.
一読で、第1文の二つのandのペアの処理が気になりました。
“problems for young people's health and behavior” での、healthとbehaviorの並列、同列、横並び感、そして、 “including poor concentration and academic performance” の補足でのandのペアの支持している内容に「?」を感じるのではないかと思うのです。
えっ、感じませんか?そうですか。
「健康と行動の問題」とひと括りにして平気ですか?「健康」と「行動」ですよ。
「健康」で何をイメージしますか?私なら例えばこれ。
World Book Dictionaryから引いておきます。
health
1. the condition of being well or not sick; freedom from illness of any kind. Ex. Rest, sleep, exercise, and cleanliness are important to your health. Health alone is victory (Thomas Carlyle).2. the general condition of body or mind. Ex. She is in poor health. He is in excellent health.
3. sound condition; well-being; welfare.
behavior
1. manner of behaving; way of acting; conduct; actions; acts. Ex. His sullen behavior showed that he was angry. The boat's behavior was perfect on the trial trip.
2. manners; deportment. Ex. behavior that is forced and artificial. (SYN) demeanor, bearing.
3a. the manner in which a living organism or a physical substance acts under specified circumstances, or in relation to other things.
b. the observable responses of persons or animals considered as subject matter for psychological study.
ここでのhealthが well-beingの意味で用いられているなら、まだその違和感は少しは薄れているかも知れないし、確かに「すもももももももものうち」ですから、mental healthもhealthだといえばそれまでですけど。
behaviorの「行動」に関しても、COBUILDにあるように、
- You can refer to a typical and repeated way of behaving as a behavior.
という定義の、“typical and repeated” というところに、「症候群」的な意味を見いだせば、かなりhealthへは接近しますよ。でも…、というのが私の感想でした。
構文や表現でいえば、カマに続く、includingでの補足が、どこを受けるのか?言い換えれば、andの並列を超えて、problemsまで(problemsから)届くのか、ということが気になって仕方ありません。普通に(どこからどこまでが「普通」なのかを共有理解とするのは難しいですが)読めば、
- health系の問題点と、behavior系の問題点が、この順番で具体化され、その一部が示される。
箇所ではないかと思うのです。
確かに、"poor academic performance" が、one of the problems for young people's behavior caused by lack of sleep の具体的記述になるだろうことは、高校生でも分かって欲しいところではあります。
しかしながら、受験生や高校生が、この部分を読んで、poor concentrationをone of the problems for young people's healthの具体例と実感することは容易でしょうか?今どきの高校生に「不定愁訴」って馴染みあるのかな?poor concentration であって、poorerではないので、ここを「変化」と読むのは「?」というのが、私の初読での感想でした。ここには、もっと端的な「健康被害」「健康障害」の例が示されてしかるべきで、ここに挙げられている「(結果としての)低い集中力」「(結果としての)学業不振」は、behaviorの側にしか対応しないのではないか、というのが私の読みでした。
ということで、ここまで読んできて、 poorよりは、lowerの方がいいような気もするし、healthの問題まで引き起こすのであれば、単なる「寝不足」ではなく、 “chronic lack of sleep” とかのことばを選択した方が良いような気もしてきます。
という具合に、いったん「比較」の頭になってしまうと、ここは、それなりに「研究成果」「調査報告」なので、「相関」と「因果」の話しになるのだろうから、比例関係で、比較級 and/but 比較級とか、the 比較級, the 比較級とかの出番で、「仮説」を提示し、例証するというところなのでは?という気もするのだけれど、このセンター試験の文章はあくまでもグラフ・図表のレポの体裁ですから。
因に、出典・原典である元論文の第1段落を見ると驚きますよ。
そこでは次のような表現を使っています。lack of ではなくinadequate 。形容詞(扱い)のandのペアの順序がセンターの英文とは逆。behavioral が先に来ていて、しかも problemsではなく、disturbances の具体例が豊富に列挙されているではないですか!
この原典の英文を読めば、確かに、behavior系から具体例が示され始め、最後は「肥満」といった健康面での問題点だな、と実感できるような例で終わっていることがわかりますから、includingの「効き目」があるといえるでしょう。
こちらが、原典の該当箇所です。
Inadequate sleep has been associated with a range of behavioral and health disturbances in young people, including poor concentration and academic performance, lack of coordination, increased aggression, hyperactivity, metabolic dysfunction, and obesity.
分かるように書いてありますよね?
でも、センター試験の英文では、このペアの導入の部分をhealthを先にbehaviorを後に、と逆にしたにもかかわらず、includingに続く、具体的問題事例の列挙の順序は原典の通りとしたために、その前の問題点の「支持」が出来ていない、つまり「つながり」が大きく損なわれているわけです。にもかかわらず、このincluding以下の部分を、「何かを受けた」ものとして意味を整合させて読むのは「ごまかし」以外の何ものでもないでしょう。
第1段落第1文のincludingが読めていない、読んでも違和感を覚えなかった高校生は、まだこれから学ぶチャンスがあるから良いのですけれど、市販されている「センター過去問解説」の執筆者で、ここが読めていないのはマズイのではないかと思います。もし,ここをスルーしているとすれば、結局一つ目のandのペア、並列で違和感を感じず、さらに二つ目のandのペアが何を支持しているかも読めていないということなのでは?という更なる疑問が浮かびます。
駿台さんとか、河合塾さんとか、教学社の赤本さんとかの市販本ではどう扱われているのでしょうか?
和訳だけ引用します。
『2019大学入試センター試験過去問題集 英語』(駿台文庫)、解答・解説 p.114
- 睡眠不足は、集中力や学業成績の低下など、若者の健康と行動に対する問題を起すことを、多くの研究が示してきた。
『2019 大学入試センター試験 過去問レビュー 英語』(河合出版)、p.177
- 睡眠不足が若者の健康と振る舞いに問題を引き起こしていることを多くの調査が示している。それには集中力不足と学業成績の不振が含まれている。
『2019年版 センター試験 過去問研究 英語』(教学社)、p.49
- 睡眠不足は、集中力や学業成績の低下をはじめとして、若者の健康や行動に関する問題の原因となることが多くの研究で明らかになっている。
当然のことながら、私が授業で使っている教材にもこの部分に対応する和訳が載っています。
『2019年度用 大学入試センター 過去問題集 英語・筆記』(いいずな書店)、解答・解説、p.43
- 睡眠不足が、集中力や学業成績の低下を含む若者の健康や素行の問題を引き起こすということを、多くの研究は明らかにしてきた。
溜息。
悩ましいと思いませんか?
原典では読めば分かるように書いてあるものを,設問を作らんと書き換えたがために「???」のオンパレードとなってしまったセンター試験の英文で,英語の出来不出来を評価され「入試選抜」が行われているわけです。そしてその後、その英文を「過去問演習」と称して授業や講義や学習で扱い、そこでは「わかったつもり」で通り過ぎていくのですよ。凄いところだと、生徒や受験生は、「復習では『音読せよ!』」とか言われているのではないかと不安は募ります。
この部分は「英文」でいえば、第1段落の冒頭部分。「書き手」の側から言わせてもらえば、話題から主題への切り口を作り、読者との共通基盤を確立する一番大事なところなのです。読解問題では「読み手」から、さらに「解き手」になりますから、その都合が優先されるとはいえ、設問に関係しないところには、時間もエネルギーも割かずに読み飛ばすような乱暴な作業を続けているのでは、「パラグラフライティング」どころか、「つながり」と「まとまり」のある英文を書くところまで、永遠に辿り着けないのではないかと危惧します。
前回のエントリーの最後で私はこう書きました。
ないものねだりでしょうか?
グラフや図表があって、その説明を分かりやすい英文で書いてしまうと、受験生を悩ませるような問題が出来ないんでしょうか?
ということで、生徒や受験生には無理でも、指導する側の人は原典がわかるものは、原典を読んでおくことも大事かな、と思いました。
繰り返すまでもないでしょう。
原典の英語ではthe declining sleep duration などの漸増漸減を表す現在分詞や、increased aggression; reduced total sleep timeなど、結果としての変化を先取りする過去分詞などが要所で使われていることがわかりますので、英語力のアップには有益かと思います。
ただ、表のpre-sleep 活動の上位から、なぜか活動が一つ抜かれていることに気付きますので、「試験」での英文の利用・流用はいろいろと問題を孕むなぁ、と実感します。
関係諸氏におかれましては、
- より良い英語で、より良い英文
- より良い英文で、より良い教材
- より良い英文で、より良いテスト
を切にお願いします。
ということで、この後は、私の手書きノートの写しでもご覧下さい。
第2段落
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第3段落
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第4段落
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第5段落
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第6段落
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私の読み落とし、読み誤りがあれば、指摘していただければ幸いです。
本日のBGM: 99 Blues (7inch Version) / 佐野元春