”What’s wrong with this picture?”

高2の「模試解説」の後、「センター試験を覗いてみる」という授業が続いています。

読解素材として提供される「ディスカッションもどき」には、以前からずっと注文をつけていました。前々回のエントリーでも書いたことですが、大事なことなので再度。
2007年の出題に関して

31番からのディスカッションの問題。これを何故読ませるのかがわからない。これこそ、リスニングテストで出せば済むことだ。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20070122

昨年の出題では、

C. 恒例の<ディスカッションもどき>出題。
ずーっと指摘しているのですが、この<もどき>の特徴は、
・議論の参加者(=発言者)が少ない。
・一人のターンが異様に長い。
・司会者は必ず一発で要約・言い換えに成功する。
・その司会者がまとめた内容に対してオリジナルの発言者は訂正も異議申し立てもしない。
・発言者Aに対して、発言者Bのツッコミがない。
という理想的な参加者による理想的な話の展開で進むことです。
「卓袱台返し」になりますが、なぜこの議論・話し合いを「読んで」いるのか、が不思議。この問題こそ、リスニングテストで課すべきでしょう。「難しすぎ」ますか?
だったら、そもそも試験で課すべき設問じゃないということでは?
Summary やparaphrase, restatementの能力を見るなら、主題の設定からもう一工夫必要でしょう。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150118

そんなことを言っていたら、今年のリスニングテストの出題では、大問4で続いていた「モノローグ」最終設問のBが、「ディスカッションもどき」のリスニング素材文になったのでした。

2016_center_listening_4B.pdf 直

ちょっとびっくり。長文のモノローグ素材が姿を消しことにも驚きましたが、合計で約300語の対話を聞き取る訳です。今年の第4問の設問Aが200語弱のモノローグですから、それよりも更に100語ほど長い計算です。

設問Bの「ディスカッションもどき」では、登場人物が3人。場面設定である「英語の授業で」という但し書きを考え合わせると、とっても興味深いです。
普通に考えても、45分から65分くらいはある1コマの授業で、生徒も30名はいるであろう教室の中での集団討論ではなく、3人による小グループを同時並行でいくつも作って行われる活動で、恐らく5分くらいの制限時間の中で合意形成を図りましょう、とでもいうような指導手順に基づいているのでしょう。

設問での登場人物はReinaと IchiroとMayuko。Ichiroが3ターン、Reinaが2ターン、Mayukoは最後の1ターンのみ。
最長の発話はIchiroの振りを受けた Reinaの最初のターンで、 “Hmm” も含めてカウントすると87語です。隣接ペアなどなく、司会者気取りのIchiroが80語以上のReinaの発言を的確に要約するでもなく進むだけではなく、自分の意見も挟みます。その意見にReinaは同意しているようですが、内容には言及しません。最後にIchiroの提案に対する意見を求められたMayukoもIchiro提案の根拠を崩すような事実は指摘しますが、そもそものIchiro案の内容はくり返しも、要約もしていません。
「もどき」の要件を満たすに十分ですかね。

「読み上げられる前に印刷された設問だけに目を通して1回目を聴き、2回目を聴く前に選択肢を読み比べて当たりをつけておき、2回目を聴いてから正答を選ぶ」というストラテジーが使えますから、正答に至るのはそれほど難しくはないでしょう。
しかしながら、「対話」形式で、しかも「議論」「合意形成」の過程をきちんと追わせたいのであれば、対話の特徴である、質問やくり返しによる確認や強調、がもう少しあっても良かったのではないかと思います。80語もまくし立てられて、それを一回聴いただけで的確に理解しつつ、自分の意見を返す、というのはなかなかに難しいものです。
これ、追試でもこの形式で出たんですかね?
これだったら、まだ、筆記で出題される読解の中での「もどき」の方がまだ「議論・合意形成」に至れそうな気がするよなぁ、と思いつつ、今年の筆記の出題を見てみると、先ほど私が指摘していた、

・司会者は必ず一発で要約・言い換えに成功する。
・その司会者がまとめた内容に対してオリジナルの発言者は訂正も異議申し立てもしない。
・発言者Aに対して、発言者Bのツッコミがない。
という理想的な参加者による理想的な話の展開で進む

という部分に大きな変化がありましたね。いやぁ、拙ブログをお読みいただき誠に恐縮です。

今週末にかけての後半の授業では「長文読解」などといわれる出題形式を取り上げています。
今年のセンター試験では、読解系の出題のうち、第5問が「物語文(ナラティブ)」への回帰で話題になりましたが、その第5問の方が、最終の第6問よりも英文が長かったですね。

第5問の「ナラティブ」に関しては、高2生にも2015年の追試を既に解説済みでしたので、第6問を授業で扱いました。
まず読んでもらったのは、2014年の第6問。近年、稀に見る読み難い「エイブン」でした。

過去ログでも取り上げています。
2014年第6問
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140206
昨年 (2015年) の第6問もつながりとまとまりの崩れた部分が気になる「エイブン」でした。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150120

そして、今年の第6問。

2016-6.pdf 直

過去2年の本試験に比べれば、遥かに読みやすい英文となっていてホッとしました。
気になるところは幾つもありますが、第1段落の若干の拙さと第6段落のまとめ切れなさ加減を除けば、許容範囲ではないでしょうか。あくまでも前年、前々年との比較の話です。
もっとも、第5問の変化に慌ててしまった受験生は、冷静に読むことができず、不本意な出来に終わってしまったかもしれません。

例によって、私の手書きノートの写しを貼っておきます。

第1段落

2016-6-1.jpg 直

第2段落

2016-6-2.jpg 直

第3段落

2016-6-3.jpg 直

第4段落

2016-6-4.jpg 直

第5段落

2016-6-5.jpg 直

第6段落

2016-6-6.jpg 直

過年度比で「許容範囲」とは言え、第1段落と第2段落の移行&接続をスムーズに、第6段落にもう少し分量を割いて締めくくることが望ましかったでしょうか。

読むに堪える良質な英文を書くライターに支払う対価としての十分な予算と作問チームのモーティべーションとがセンター試験が廃止されるまでの後数年間持続することを心から願って止みません。


本日のBGM: learning the game (Andrew Gold)