年内最後の講座は、総仕上げ。
イカソーメンで使った素材文をどのように復習で活用するか。お膳立てされた、難易取り混ぜてある教材をどのように活かすか。音源付きの教材を使って、どのように自分の音読を呪文にせず、英語の音とリズムを身につけるか。テストや問題集に依存するのではなく、自分のことばを作っていく作業にどれだけ時間とエネルギーを注げるか。2学期までの普段の授業を振り返り、そこで行ってきたことを今一度確認すること。これまでの自分の足跡をしっかり整理することです。
・ 「名詞は四角化で視覚化」の確認が出来たということは、名詞の三分類、「人・もの・こと」の区別が付いたということ、「数と性別」の確認が済んだということ、限定詞など名詞の目印の確認が済んだということ。
・ 「前置詞は名詞の前に置くことば」の確認が出来たということは、<前置詞+名詞>が「どどいつ」として使われる副詞句なのか、それとも、<名詞+前置詞+名詞>でその前の名詞と切り離せないひとかたまりなのか、それとも、<動詞+前置詞+名詞>という文法的コロケーションとなっているのかの区別が付くということ。また、前置詞が左についた名詞は、文の主語にはならないことが確認できているということ。それはつまり、日本語の名詞と著しく用法の異なる英語の名詞を日本語に引きずられずに理解し、表せるということ。
・ 四角化の肝、「ワニの口は、うんことゲロを漏らさない」の確認が出来たということは不定詞、動名詞など準動詞による名詞句、that, wh-, ifなどに導かれる名詞節がどこまででひとかたまりなのかの確認ができ、文と、文を作るパーツとの区別が付いたということ。
・ 「助動詞の番付表」の確認が出来たということは、基本時制と態の確認が出来たということ、ということは、頭の中に「動きの点と線」と「時の流れ」がイメージできるということ。横綱だけでなく、助動詞による話し手の心的態度・心的距離、可能性の査定、現実世界の見方・切り取り方の確認ができたということ。
・ 「時制が決まればとじカッコ」の確認が出来たということは、助動詞の番付表の組み合わせの確認が済んだということ、準動詞と本動詞の区別が付いたということ、ということは、<主語+動詞>が見抜けたということであり、段落内・文章内の基本時制とその変化の確認が済んだということ。
・ 「接続詞は○で囲んで、まとまりとつながり」の確認が出来たということは、and, but, orなどの等位接続詞によるペア、対比、選択肢そしてその列挙が確認できたということ。また、従属接続詞で始まった文を見聞きして、切れ目を予想し、メインの<四角+とじカッコ>つまり、主節を待っていられるということ。ここまできて、振り出しに戻って、その接続詞が文の中で、「どどいつ」なのか「ワニの口」なのか、それとも「四角」の説明で使われる形容詞の働きなのか、を自力で確認できるようになる。
3学期、これらが本当に「使える知識」となっているか、スキットづくりや、精読で、また並行して行う、ディクトグロスなどで確かなものにしていく予定です。
昨日のエントリーで、「誤文訂正」に関して思うところを書いたが、一部、大きな反響があったので、続編。
教材で使われている誤文訂正の例。英文には誤りが含まれていますので注意されたし。
1. 父はいっしょにつれていってやると私に言った。
Father told me that he would take you with me.
2. 日本政府はその飛行機をアメリカに注文した。
The Japanese government ordered the airplane to America.
3. 窓をあけてくれませんか?
Would you mind to open the window?
(中略)
98. 私は1日でその本を読むのはむずかしい。
It is difficult to read the book in a day.
99. 彼は決して二度とそんなことはしませんと僕に約束した。
He promised me to never do such a thing again.
100. 彼女をびっくりさせると思ったなら、僕は言わなかったのに。
I should not have said it, if I had thought it would have shocked her.
あくまでも「誤用」ですから気をつけて。
これは、
- 荒井富矢 『演習本位 英作文の解き方』 (美誠社、1972年)
の巻末の付録にある、「英作文のための誤文訂正100題」からの抜粋。一冊を通して演習し、学び、英作文力を身につけた後で、誤文訂正へ、という頷ける流れである。
上級者向けの誤文訂正では、
In the following exercises some of the tense usages are WRONG. Correct the ones that are.
1) “When I was a boy I was very much enjoying tennis.”
“But that has been a long time ago, surely?”
“Oh, I’m not so old as you think. I’m talking about twenty years ago.”
“Twenty years ago! I was already going to work for five years then.”
2) “I used to be liking that man, but now I don’t.”
“But he has been a good friend to you, hasn’t he?”
“He has been a good friend five years ago, but last year he had disappointed me.”
“ What had he done?”
“Everyday he was enjoying tennis with my wife.”
3) は省略。
これは、このブログでも再三言及、引用している
- デニス・キーン、松浪有 『英文法の問題点』 (研究社、1969年)
からの抜粋。省略した 3) の問題となっている対話文は、一人のターンが、2文、3文あったりして、分量としては3倍くらいあるものである。 (pp. 72-73)
英語ネイティブのレベルではどうかというと、
Correct or revise the following sentence fragments in such a way as to make complete sentences.
Example: Even as I was speaking to the police officer about my missing roommate.
Even as I was speaking to the police officer about my missing roommate, she appeared in the doorway.1. American movies of the 1930’s and 1940’s, following the Motion Picture Production Code of 1930.
2. This Code, which decreed that movies should not arouse the sympathy of the audience on the side of wrongdoing or show wrongdoing in any detail.
3. That if a product is good, it doesn’t need to be advertised.
4. Although advertisements are usually necessary so that people will know about the existence of the product.
(以下、10. まで省略)
Rewrite in correct form all sentences containing dangling modifiers. Write C if a sentence is correct.
Example: By shopping early in the morning, it is not difficult to find fresh tomatoes.
By shopping early in the morning, Gwen has no difficulty finding fresh tomatoes.
1. When discovered in the back of the toy store, I didn’t know whether the mother or the child was more relieved.
2. Stripped of several layers of green paint, I was delighted with my mother’s old kitchen table.
3. Having just missed the shuttle bus to the hotel, an hour’s wait was a real possibility.
(以下、20. まで省略)
The following sentences contain illogical or ambiguous comparisons or mixed constructions. Rewrite each sentence in a correct form. (Notice that some sentences permit more than one correct interpretation.)
Example: After I hurt my leg was when I decided to drop out of our softball team.
After I hurt my leg, I decided to drop out of my softball team.
1. Margaret Ann is much the most sympathetic of my two cousins.
2. Anxiety is when one is uneasy or distressed about future uncertainties.
3. Mr. Edwards says that his homegrown tomatoes are better than Mr. Austin.
4. The reason that I am happy is because I have won a scholarship to Georgetown University.
5. I cannot believe that Ted thinks Harry is the strongest of any other boy on the wrestling team.
(以下、25.まで省略)
これは、450頁を越えるもので、豊富なエクササイズを擁した演習書、
- Eugenia Butler et al. (1995). Correct Writing, D. C. Heath & Company
からの抜粋。私がライティングの教科書を書くようになって、自分の英語のトレーニングで使っていたものである。日本の学習者であれば、一番最後に引いたものが、一番易しく感じたのではないかと思う。
さらに、英語ネイティブ向けに書かれたものから、
Correct, improve, or justify the following sentences: ---
1. The rightful position and influence of laymen in our Church is the vital question on which hangs the issues of its pending disputes. --- Church Gazette, p. 43, April 29, 1899.
2. The intelligent and generally peaceable character of the tribes visited by Livingstone in Central Africa are a guarantee that with the introduction of agricultural implements, etc., such a desirable state of matters may speedily follow the opening up of the country. ---Life and Explorations of David Livingstone, p. 113, chap. vi.
3. Not till then does the old woman seek again the shelter of the workhouse, there to wait for the oblivion and rest that has come to her daughter. ---Review of Reviews, p. 260, March 1900.
4. To write, to speak, or to act seem uncommonly easy to a number of over-confident persons. ---Fortnightly Review, p. 749, May 1900.
(以下、170まで略)
出典を見て古いと思われるかも知れない。そうでしょうとも。私の持っているのは、1958年のリプリントだが、初版は1906年だから、100年以上前のものである。ただ、語法の新旧を不問として、英語としての適否が直ぐに判断できるだろうか?これは、
- J. C. Nesfield. (1958). Errors in English Composition, St. Martin’s Press
の第1章からの抜粋。ほんのさわりの部分である。
このような、英語ネイティブ向けの「誤文訂正」までを視野に入れてみると、初学者にとって、高校レベルの英語や大学入試レベルの英語素材での「誤文訂正」に取り組むことのデメリット、弊害が理解できようというものである。
「誤文訂正」は、中級くらいまでは問題演習で無理をして課さなくても、他の方法で充分に代替可能である。敢えて、その形式で習熟度を高めたいというのであれば、
- 田邉祐司、ティモシー・ライト 『1日3分 脱「日本人英語」レッスン』 (朝日新書、2009年)
- 小池直己、佐藤誠司 『英語ネイティブ度判定テスト』 (大修館書店、2009年)
- T. D. ミントン 『日本人の英文法完全治療クリニック』 (アルク、2007年)
- 竹下昌男 『自然な英語を書く技術』 (はまの出版、2002年)
などを読めば、日本人学習者の犯す典型的な誤りと、その訂正、または、文法的にはおかしくないが、英語として不自然すぎるものが正されているので、そのような、
- 日本人学習者が辿ってしまいやすい下り坂、嵌ってしまいやすい落とし穴としての誤用
を提示するように切に望むものである。
古くは、
- 松本亨『英作全集』 (英宝社)
のシリーズがこのような趣旨で一貫して、日本人が産出しがちな英語を出発点として、よりシンプルで、より自然な、それでいて日本人学習者にも手に届く英語に置き換え、進むべき道を示していた。
誤文、誤用ということで遡って見ると、
- 石山宏一 『日本的英語の誤典』 (自由国民社、1982年)
- W. W. スミス 『アメリカ口語表現法教本---日本人に多い誤りとその対策---』(英宝社、1976年)
- ハロルド・プライス 『英作文の盲点』 (金星堂、1964年)
など、既に、日本人学習者をよく知っている指導者の手による良書が出ていることがわかる。絶版が惜しまれる。
大学入試レベルの英作文の参考書で見ても、
- 倉谷直臣 『ハイベーシック英作文』 (研究社、1993年)
が英語ネイティブとの綱引きを経た、英語の添削の実例、さらに代替可能な英語表現例を複数提示してくれている。
先日入手した、
- 『ラフカディオ・ハーンの英作文教育』 (弦書房)
では、ガラス乾板に残された90枚にも及ぶ、ハーン直筆の添削例が示されている。このガラス乾板は木下順二氏を介して熊本に送られ熊本県立図書館に長らく保管されていたとのこと。作文の教師は必読であると信ずる。
本日のBGM: うしろの正面 (ハンバート ハンバート)