innocent man

原稿書きがなかなか進まず、画面に向かい波乗りへ。
FBで淡路先生が私と同じことを指摘していたので少し考えてみた。
“award” の日本語表記である。

  • 「アウォード」ではなく「アワード」しかも、第一音節に強勢、というのはまずいでしょう。

というような話し。
World Englishes、とりわけ音声学に詳しい方に教えていただけると助かるのですが、私の理解では、同じ –wa-の綴り字を持つ語でも、

(1) wash / watch では、北米では「ァ」に聞こえる、円唇とならずに、顎の開きが大きい母音が優勢。
(2 ) walk / wall / water などでは、元来「ォ」に近い母音だったものが、北米では円唇のない「ァ」が優勢になりつつある。thoughtやcaughtなどと同じ母音で発音する人が多い。
(3) war / ward / warm / warn / warp // sward など –war-と綴り字で rが後続するものでは、「ォ」であって「ァ」とはならない。
(4) award / reward など弱強の強勢パタンを持つ語でも、(3) と同じ原則で発音。
(5) 固有名詞のWarwick などは例外的に「ァ」の音でも読まれる。

という感じを受けています。
最近気になるのは、(3) の語の音が変わってきて、(2) のようになっている人が増えているのではないか、という点です。あくまでも印象ですが。

TVで『何でも鑑定団』を見ていたら、出張鑑定で中島先生が久々に熱く語っていました。目利きは、良い仕事を前にすると熱くなるものなのでしょう。
昨日の授業参観後の情報交換で、「入試問題 (レベル) での文法演習」の話題も出ました。私の今の授業では、高2まではほとんど問題演習をしないので、進学校の状況などを伺い流れをイメージ。県内に限らず、多くの進学校では、『ネクステージ』や『アップグレード』の類の問題集をぐるぐると何周も回っているのではないでしょうか。この二つしか選択肢がないのであれば、私は『アップグレード』の方が良いと思いますが、予習で各自で解答し、答え合わせをして、その後、類題を授業中に課し、さらに答え合わせ…。生徒は結局、試験前に、赤いフィルターで刷り込み刷り込み…。このような力業に訴えることで文法が身につく生徒は、もともと地頭が良く、認知学力の高いケースが多いように思います。
私が、高3まで、この手の演習をしないのは、多くの教材で見られる「4択」という問題形式で、ダミーの錯乱肢に英語ということばの仕組みに明らかに反した「形」や「語順」が含まれているからです。そこまでの流れから、単文でも文脈があるわけですから、その空所に生起する可能性のある語・語形・語順というものには複数の可能性があることでしょう。でも、それを無理に4つにする必要は全くないのです。むしろ、学習の段階によっては、選択肢はない方が良いとさえ思います。英検やTOEIC、センター試験などでは多肢選択での英文完成問題がありますが、この手の試験の英文完成問題では、解答はマークしなければならないという物理的な制約がまずありますから、選択肢を設けるのは仕方がないと思います。しかしながら、解答の根拠・英文完成の根拠となる「意味」つまり、「和文」を排除したことによって、初級から中級レベルの学習者にとっては、英語の仕組みを身につける王道からどんどん外れていってしまったように思います。このような、多肢選択の形式で無理に作られた錯乱肢の存在が、かえって正しい学習を阻害している、ということを出題者、教材作成者は自覚し、自戒すべきでしょう。そんなことをしなくても、バリエーションは作れるわけですから。
入試でも問われることの多い「誤文訂正」は、問題作成者の英語の力量だけでなく、教育者としての配慮、良心も問われるところだと思っています。最近の学習英和辞典、学習和英辞典では、非文情報がかなり丁寧に示されるようになってきました。このようなコモンエラーのデータベースを作り、それに基づいて示される「誤文」であればまだいいのです。「アウトプット」の際に、こうした間違いをしやすいけど、こういう頭の働かせ方で、既習事項との摺り合わせ、棲み分けをすることが「使える」英語のためには必要なんですよ、というメッセージも伝えられるから。しかしながら、文法問題集や入試問題演習で、そのレベル、そのクオリティをクリアーしているものは少ないのです。

  • 複数の文を示し、前後のつながりから、ここには必ず、このような意味を伝える文しか来られない。

という環境を整えておいて、特定の文でのみ、誤文訂正を求める、という形式は中級から上級の学習者にとって意味のあるものだと思います。
そうでなければ、問題文で示す「誤文」は、一定の見識を持って作成しておくべきです。
コモンエラーを扱った古典に、

  • T. J. フィチキデス『ロングマン英語コモンミステイクス500』(北星堂、1989年)

があります。原書もありますが、圧倒的に翻訳の方が良いので、私の手元にもこの古びた翻訳版しか残っていません。訳者は倉谷直臣氏。
「まえがき」にはこうあります。

原著で取り上げられている600例の中には、日本人の学習者なら絶対にしない誤用の例などもありますし、またアメリカ英語では誤用例としてあげられている方がむしろ普通に使われる、といったケースもあり、この訳編をするにあたっては、そういったものは省いて500例を選びました。
本来この種の書物は、翻訳ではなく原書で読むべきものではありますが、並べられた英文例より解説文のほうがむずかしいこと、日本人学習者としてはつらいことになりそうなので、このような訳書として提供しようということになりました。

ことばに携わる者としての良識がここにあると思います。せっかく、このような「実例」が20年以上も前に世にでているのですから、このレベルはクリアーして欲しいと思うのです。
こういったことばを前にしてもなお、「大学入試レベルの英語では、そうはいっても…」という方は、

  • 昭和女子大 学習者コーパス研究グループ 編『エラーから学ぶ英作文ハンドブック』 (青山社、2007年)
  • Rhodric Davies、福田 哲哉『英作文やっていいことわるいこと』 (河合出版、2008年)

という良書が最近出版されていますので、そちらを是非参考にして下さい。

私が高3で演習教材を使う場合も、そこでやることは英語Iの活動からの延長線にあると言っていいでしょう。現任校にきてからの5年間でも試行錯誤がありました。(過去ログ参照→http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090413http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090722)
問題演習自体は単調であっても、そこで使う例文が既習事項との対比を示すような「良い」ものであれば、そのまま活かし、そうでなければ、こちらがパラレルな既習例文を用意。ターゲットとなる文法事項・語彙項目に焦点が当たるように準備。演習でも、和文を与え選択肢無しで答える問題にしておき、答えを書く前に音読してから筆写、または、裏面に正しい英文をFlip & Writeで。4択での選択完成などの場合は、英語という言葉の仕組みから言ってあり得ないダミーの錯乱肢があったりするので、そういう英語は抹消。文法上はあり得るけれど、それを当てはめると異なる意味、しかもかなりエキセントリックな意味になるものの指摘。その上で、Read & look up、対面リピートなどを交えて、徐々に負荷を上げる。類例を教室後ろにある十数冊の辞書から横断的に拾い集め、シャトルランでノートに書き出す。「L版」を使って、語順の通りに意味と構造の処理をしながら次に来る意味と形を予測して左から右へと進めていく。4択穴埋めや整序完成、誤文訂正の結果得られた英文に対応する和訳を与えておいて、和文英訳の形式で英文に直すチェックをし、それと並行してディクテーションを課す。その段階が済めば、ターゲットとなる項目を含まざるを得ない単文・短文での和文英訳を先にやらせておいて、各自が英語を書き出した後で、ディクテーションをして各自で添削させ、正しい英語を斉唱、Read & Look up、対面リピート、Flip & Writeまで。
まあ、これくらいが定番メニューですかね。英語I や英語II、「オーラル」での基本的な活動で全て経験済みのものを使い回しているだけですけれど。これらは、全て「完成形の英文」が既に存在する活動ですから、結局は、入力のバリエーションを変えているに過ぎません。最後は英文が完成するからといって、この手の活動を「アウトプット」と呼ぶのはいささか憚られます。
入試の文法語法問題で、単文または短文での演習を行う際には、形式はどうあれ、ターゲットとなる文法項目を含む英文が用意されているのですから、明示的指導だろうと、暗示的指導だろうと、その英文を完成することをナイーブに「アウトプット」していると思ってはいけないと思います。
問題演習の前後に、私が上で示したことを全部やろうとすると、果てしなく時間がかかります。だからこそ、高2から高3で「ライティング」をきちんとやるべきなんですよ。「ライティング」には必要な要素がほぼ全て含まれてくるのですから。
結局、良い仕込みが、良い仕事に繋がるわけです。

明日は、年内最後の1コマ。
7割で全力を尽くします。

本日のBGM: 無垢なままで (ムーンライダーズ)