Unplug your ears.

遅い朝食を済ませ、某局でピアニスト辻井伸行氏のドキュメンタリーを見る。
「聴くこと」によって成立するコミュニケーションの上に成り立つコミュニケーション能力は、当然のことながら、「聴くこと」の力を伸ばすことでしか向上しない、という厳しい現実と、その現実を越えていく大いなる才能とを見せてもらった。それにしても20日にわたるコンテストって凄まじいなぁ。

O先生から、国公立の個別試験対策でどんなことをやりますか、という質問を受けたので、昔作った読解の自主教材を添付し送ってみた。作成から今ではもう10年以上たち、素材文のテーマは少々古くなっているが、10年やそこらで英語の文法や修辞法、さらには英語が出来る人の読み方が変わるわけでもなし。結局、読めていないのに問題を解こうとするから、問題の形式が変わるたびに新たな読み方を志向するのだと思う。英文の難易度も含めて、読んでみて気づいたことは何なりと。
今日の学び直しは、
・青木眞喜子・鈴木三千代 『英語で読む/英語で書く 階段式英文読解法 & 階段式和文英訳法』 (ナカニシヤ出版、1998年)
から開始。「和文英訳」へのアプローチをどう整理したものか、と思って読み進めた。大阪女子大の南出康世氏が、序文を書いていて、次のような一節がこの書をよく表しているのではないかと思う。

  • これらの教授法は青木氏自身の長年の教授経験から生まれたものである。しかし経験から生まれたものは独善に陥りやすいし、体系を欠きやすい。理論的裏付けが必要である。この点で貢献したのが本学の大学院で英語学を研究中の鈴木三千代氏である。控えめながら青木メソッドをよく側面から支えて共著者としての仕事を十分果たしている。(中略) さて本書で紹介されている2つの教授法は完璧なものではない。方法論として確立するにはもっと精度を高める必要があろう。特にこれは第2部の階段式和文英訳法にあてはまる。しかし、2つの教授法は机上で組み立てられた理論ではない。臨床例から生まれた教授法である。ぜひ一読をお勧めしたい。

一応、受験も視野に入れ、次の本も読み直し。
吉田一彦 『国公立大を目指す受験生のための発展的英作文演習』 (研究社、1989年)

  • こちらは、今はなき月刊誌 『高校英語研究』の連載から生まれた一冊。3年間の連載をまとめ直したものなのだが、80年代の高校生として、この雑誌や『受験の英語』 (聖文社) や『イングリッシュコンパニオン』 (吾妻書房) をリアルタイムで読んでいた私としては、今の平均的な (というのが実は一番難しいのだが) 高校生にとっては語彙にしても、表現や構文の選択にかかわる判断基準にしてもレベルが高すぎるように思う。ただ、「テクニック篇」と題された第3部の40頁ほどの項目立ては充分に活かすことの出来る視点だと思う。ここでは短文が中心で、解答例も2,3用意されている。
  • 句でいくか節でいくかの選択 / 現在分詞か過去分詞かの選択 / 直接話法か間接話法かの選択 / 時制についての問題点 / thatを上手に使う / 相関語句のスマートな使い方 / 修飾語句をいかに盛り込むか / 主語と動詞の決定
  • 後半の「本格的」和文英訳では、解答として合格圏に入るレベルの中級の英文と、それよりも洗練された上級者向けといえる英文との二種類があげられており、教師が学ぶのに適しているだろう。受験対策の英作文の教材で、解答の英語を安心して読める、ということがいかに稀であり、有り難いことか、この本を読み通して改めて感じた。私がいうようなことではないのだが、吉田一彦氏は、『英語表現辞典・語彙編』の執筆者でもある。

お昼も遅めで、妻と善哉を食べ、一息ついてから教材研究。
かるかん食べて (食べてばっかりだな) 、語研の講習会の受講者メッセージを読み返し、自分自身の振り返り。一部を紹介。

  • ブログ同様、一度に咀嚼するのは私には少々難しいので、帰ってから資料を読み返してまた勉強させて頂きたいと思います。講演会にくると、先生ご自身の学習歴、職歴の話が聞けるのが、個人的にはとても楽しみです。
  • 先生の中学高校時代の勉強法などとても貴重な体験談をうかがうことができました。ラジオ講座、復習、教科書の写しなど地道な勉強が語学の発達で大切なことだと身にしみて感じました。
  • 表層の実践の根底にある哲学・志向をお聞かせいただけたのが良かったです。教員同士が共有できるもののうち、具体的な実践の手順や結果ではなく、理念・哲学を考えさせていただきました。
  • 予想通り、先生のこれまでの生き様が伝わってくるものでした。時に暖かく、時に厳しく生徒たちを、そして日本の英語教育を見つめる、その視点、思いがとても勉強になりました。またブログも楽しみにしています。
  • まずは自分の英語力の向上が必要だと感じました。生徒に気づかせること、生徒のレベルに合わせて、自由自在に教材を作りかえられる力を身につけることの大切さを学びました。
  • 「日本語で書くこと」と「英語で書くこと」のギャップで立ち止まっています。まさに「言いたかったけど、言えなかったこととどう向き合うか」です。
  • 先生の成功の秘訣のいくつかを知ることができて良かったです。過去の経験を通し、わかりやすく説明して頂き、自分に足りないものをまたひとつ発見できました。今、新しいことばかりに目がいきがちでしたが、過去の歴史もきちんと学んでいきたいです。そのためにもたくさん本を読もうと思います。
  • 先生ご自身のwritingに対するポリシーを感じました。生徒に書かせることは多いのですが、どこまで添削するのかを迷います。間違いを指摘することで、生徒の気力が失われてしまうのが不安です。まだまだ未熟ですね。これからも試行錯誤の毎日です。
  • writingの添削はいつも中途半端になりがちでした。先生ご自身の経験談から、その生徒の将来の英語の興味を広げるかは私たちにもかかっている!ということを痛感いたしました。参考図書、引用、どれも心に響きました。もう一度、自己のライティング指導の参考にさせていただきます。
  • 先生のたくさんの御経験と思索について、一番難しいと思われるライティング指導のお話がお聞きできました。まだまだたくさんお話をお聞きしたいと思いました。ライティングの添削指導に頭を悩ませていましたが、本日の御講演で、読み手の設定という視点が大変有益だと思いました。たとえば、2クラス教えていたら、そこを読み手にすれば簡単に設定できます。高校から大学1年で口語が弱いと思い、口語辞典を何度も音読したということ、素晴らしいと思いました。
  • 「自己表現」「発信力」について自分の考えがよくまとまっていないことに気づきました。先生の資料を読み返し自分なりの考えをまとめたいと思います。
  • 「ことば」の力をつける、というしっかりとした柱が一本通った指導であると感じました。生徒の「ことば」の力が弱っているので、それだけ教師に力が求められるということなのでしょう。
  • 書くことが様々な下位技能・他技能に支えられており、それを地道に鍛えていくことが大切である。流行に惑わされずに、すべきことをきちんとしていく。ということを学びました。
  • 英語を教えることはつくづく大変だと考えさせられました。表舞台ばかりをみてはそれをマネしようとばかりしますが、そのひとつひとつの裏側に何があるのか深く考えさせられました。自分のやり方を見つけ出すべく、今後もマネと失敗を繰り返しながら、自分自身勉強を重ねていきたいと思います。
  • 先生のお話にもあったように、添削して返した英文をさらに見直す時間を授業で確保してやる必要があるのだと感じました。随分荒っぽいことをしてライティング指導だと勘違いしていました。
  • 思えば、日本語で文章の書き方を教えてもらったことなどあるだろうか。書くために読まされたことが、小中高大でどれだけあったろうか。(中略) 私の思いは「だって教わったことないもん!」だった。覚えているのは『理科系の作文技術』、そして大学の英語のwritingの授業で、それを日本語に当てはめてやっていた。でも、教えてくれない!と口をとんがらしてばかりいないで、いろんなものを読めばよかったなぁ…、と今日思いました。今の学校にうつってきて、初めて今年度、生徒に書かせた作文の傑作集プリントを作って配る (←先生のマネ) というのをやりました。互いの作品を「むさぼり読む」彼らの姿を見て、やっと呼吸できたような気がしました。


タニス・ベルビン選手のtwitterから彼女のtweetを引いて本日は終わりにします。張りつめていると、切れたり、折れたり、割れたりしますから気をつけてね。

  • Permanence, perseverance and persistence in spite of all obstacles, discouragements, and impossibilities: It is this that in all things distinguishes the strong soul from the weak.

本日のBGM: Listen to what she says (Jules Shear)