山高きが故に尊からず、あるいはお山より裸の大将

掃除、始業式、LHRに続いて3学期授業開始。
高2は、『少年探偵百科事典ブラウン』課題の提出に先立ち、

  • 自分がレビューを書いた4話分に関しては、疑問点をなくすよう、再度読み込み、調べる必要のあるところは調べて、その上でレビューを修正するところは修正せよ。

という50分間。
提出されたレビューからいくつか抜粋。

Book Title: Encyclopedia Brown Finds the Clues
Episode: The Case of the Rubber Pillow
Reviewer: XXX
事件解決の難易度: 楽勝★★★★☆激ムズ
英語の難易度: 楽勝★☆☆☆☆激ムズ
心に残った or 覚えておきたい表現: Your plan to trap him didn’t work.
お勧めポイント: バグズ (ティガー) が登場します。そして例のごとく事件を起こします。会話が多いので、会話の流れにうまく乗っていけばよい。

Book Title: Encyclopedia Brown Takes the Case
Episode: The Case of the Broken Globe
Reviewer: ○○○
事件解決の難易度: 楽勝★★★★★激ムズ
英語の難易度: 楽勝★★☆☆☆激ムズ
心に残った or 覚えておきたい表現: I hate to bother you. / What is this all about?
お勧めポイント: お人好しな友人に対して熱くなる警察署長のEncyclopediaの父親と、それを静めようとすかさず話題を切り替える母親の絶妙な関係。

Book Title: Encyclopedia Brown and the Case of the Midnight Visitor
Episode: The Case of the Tennis Racket
Reviewer: △△△
事件解決の難易度: 楽勝★★★★☆激ムズ
英語の難易度: 楽勝★★★★☆激ムズ
心に残った or 覚えておきたい表現: I want to hire you to keep an eye on things, John said.
お勧めポイント: Bugsは顔が広いヤツであるということがわかって面白い。Bugs自体は出てこなくても、この話では名前だけ出てくる。

などというように、自分が面白いと思ったエピソードのみ、レビューを書きます。
難易度は、黒い★の数が多ければ多いほど難しいという意味です。
英語フレーズを1話で最低ひとつは覚えて欲しいということで、抜き出させています。
お勧めポイントにはこのほかに、英語でのコメントを書くのですが、例えば、次のように、文法語法のミスもあれば、いいたいことがうまく英語にならずに、意味不明のものもあります。

  1. (*) Encyclopedia’s father has strong sense of justice. (?) That’s just like police.
  2. Bugs is familiar to many young boys. Although he doesn’t show up in this story, (?) his name is found.

1. の第一文は、不定冠詞の抜け→ a strong sense of justice とすべきもの。第2文は、「いかにも警察らしい」とか「警察の鑑」 とでもいいたかったのでしょうから、He is a very good policeman.などで終わらせずに、He is a perfect police officer. / He is a role model for every police officer. / He is a policeman among policemen. / He is what a policeman should be. あたりまで、よじ登らせて、より高い英語の世界を覗かせてあげましょう、というのが私のスタンスです。
2. の生徒は、高2で、英検2級と準1級の間くらいの英語力ですが、第2文のバランスが悪いのが気になります。主節は、 …, his name is found here and there [frequently]. あたりから、 …, everybody is talking about him. あたりまで、揺すぶりをかけられるところでしょう。

週末で私がレビューを全て読み、このようなフィードバックを返し、清書してファイリング。その後、全ての本をオープンにして、レビューを頼りに、自分の読みたいお話を読んで、レビューにコメントを付け加えていく、という企画です。

高3は、センター直前なので、出題分野・形式の一覧を配布し、過去問や模試での自分の得点状況の最終確認。
発行された調査書をLHRで配布して、また発行の依頼を受け、昼休みに事務室に発行申請、運良く帰りのHRまでに発行されたものを配布という繰り返し。

放課後は、学年会議。卒業へ向けた様々な取り組みがスタートしますが、その前に、進学クラスは受験という大きな山が聳えています。いろいろな局面で、他のクラスとは独自路線で卒業式まで進んでいくことになるので、既に進路が確定した生徒がどれだけ率先して取り組めるかが鍵となるでしょう。

学び直し書籍から、時制でのポイントで筋の良い記述があったので抜き出しておく。

<現在完了形>は、行動の<結果>や<成果>に注目して行動を表現するのに用いられる。
<現在完了進行形>は、<行動そのもの>を表現する。
I have written ten letters this morning. (けさ10通手紙を書いた) [成果= 10通の手紙]
I have been writing letters this morning. (けさはずっと手紙を書いていた) [「ずっと何をしていたのか」 (What have you been doing? = What has your action been?) の問いに対する答え]
“I have been gardening. [行動] And I’ve cleared away that pile of rotten wood.” (「庭仕事をずっとしていました。そして朽ちた木の山を片づけました」) [結果 = 木の山がいまはすっかり片づいている]
現在完了進行形は現在もなお継続している行動を表現するものとよく教えられるが、そうではない。完了形とその進行形との違いは、時間とは関係がない。
次の例文はこの点をきわめて明確にしている。
He has been working for some thirty years in this particular field of biochemistry, and has made---and is still making---invaluable contributions to this branch of science. (彼は生化学の分野で30年間研究して来ており、科学のこの部門に計り知れない貢献をしたし、いまもなお貢献をし続けている)
この例文の初めの動詞が、”has been working” となっているのは、彼の過去30年にわたる活動を表したいからである。次に、動作がいまなお継続しているという事実にかかわりなく、動詞を has madeと完了形にしなければならないのは、結果 (invaluable contributions) を表現しているためである。 (『生きた英語の上達法』、pp. 12-13、研究社、1974年)

邦訳は35年前、オリジナルは1967年だから、42年前の本だが、文法・語法に関して、極めて真っ当な記述があちらこちらに見られる教材である。多くの若い英語教師に目を通して欲しいと切に願う。

以前から昔の英語の本をよく読む方ではあったが、最近、その傾向が強くなったかもしれない。というのも、私が英語を教わった先生方は皆、私より遙かに英語が出来たのである。当たり前と笑うことなかれ。

  • 私が学んだよりも古い時代の英語の教材で学んでいながら、何故、先生は桁違いの英語力なのか?

最近、その問いが頻繁に頭に浮かぶのである。
単純に考えても直ぐにいくつかの答えがあげられよう。

  • 実は先生は帰国子女だった。
  • 日本の教材は古くて役立たなかったかも知れないが、英語圏での生活や研究が長かった。
  • 教材は古かったが、英語ネイティブの先生について英語を学んでいた。
  • 古い教材でも、今よりも遙かに多くの教材をこなし、大量の英語を学んだ。

あたりは多くの人の思いつく答えだろうが、次はどうだろうか?

  • 実は、昔の教材の方が優れていた。

これが答えである、という可能性を今一度問い直すべきだろうと思うのである。

  • 最新のもの、必ずしも最良ならず。

昨日の記事でとりあげた『英語リーディングの科学』では効果的な活動としての再話にスポットライトを当てている (第8章「アクティビティとしての再話」、pp. 118-133)。海外の研究者、実践者の引用が沢山なされている。しかしながら、国内での優れた実践、しかも早くに書籍化され、指導手順として示された物が世に出ているにもかかわらず完全に見落とされているあたり、「若さ」と笑って済ましていていいのであろうか、という疑問が残るのである。

  • 加藤恭子 『英語を学ぶなら、こんなふうに 考え方と対話の技法』 (NHKブックス、1997年)
  • 加藤恭子 『こんなふうにやればどんどん読める 直読英語の技術』 (阪急コミュニケーションズ、2005年)

では、「再話」の活用ともいえる教師と生徒との一対一のインタラクションが丁寧に記されていて、私の読みを中心とした授業での、教材研究の視点はとりわけ前者から強い影響をうけている (前者に関しては、過去ログの→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050408 でも取り上げているので参照されたし)。

エベレストやマッキンリーほど高くなくとも、国内の実践で「『…なんです』山脈」を連ねることの意義は大きいのである。

本日のBGM: Man on a mountain (Ian Gomm)